久しぶりの営業活動
場所は変わってホエールス。
二人が開店準備中の店を訪れると、ミシェルが迎え入れてくれた。もう随分と板に付いて落ち着いた感じだった。
「――やい、海坊主。仕事しに来てやったで。なんか美味しい仕事をよこせ。ついでに晩ご飯もよろしく」
コトリ。タキシードがカウンターに飛び乗るや否や、ミルクが彼の前に置かれた。
こうやってタキシードから押しかける際は、バワーズはちょっとしかミルクを出さないのが恒例だったのだが、今日は違った。お皿にはたっぷりのミルクが。
「――お? 今日は殊勝な感じやん? そうやってな、お互いが気持ちよく仕事ができるように気配りするのも仲介人の仕事――」
ぺろり。ミルクをひと舐めしたタキシードが愕然と仰け反った。
「――うっすーい! ……こいつ、前にミルクの量に文句言ったら、今度はミルクをうっすーく水増してきよったで⁉」
「いらっしゃい、エイジャちゃん」
「こんばんは、バワーズさん。ミシェルちゃん、最近どう?」
タキシードを無視したバワーズ。彼はエイジャにもコトリ、ワイングラスが三角形になったような変わった水晶グラスを置いた。中身は空だったのだが、すぐにバワーズがそこに薄い琥珀色の液体をなみなみ注いでいく。
「――新作なんだ。強い酒でな、ミシェルに味見させるのはまだ早いから、エイジャちゃんに感想を聞かせてもらおうと思ってな」
「いっただっきまーす!」
「おいおい、そんな空きっ腹に強い酒なんぞ……」
タキシードの静止の声を余所に、エイジャは躊躇なくグラスに口を付けた。
「――くぅー! 効っくぅ~」
はぁーっとエイジャが熱っぽい息を吐いた。
「マールっていう酒をベースに果実酒で風味を付けたんだ。どうだ?」
「うーん……このままでも美味しいんですけど、私にはちょっと甘すぎるかなぁ……あと、冷やした方が美味しいと思いますよ」
「ふーむ……氷を入れてみるか……」
放置されてしょんぼり。うっすーいミルクをペロペロしていたタキシード。ミシェルがそんな寂しそうな黒猫を後ろから抱えて撫で撫で、後頭部に頬ずりし始める。それを見たバワーズがひと言。
「――おい、ミシェル。タキシードを触ったらちゃんと手を洗うんだぞ」
「ひ、酷いっ! ワシ、ばい菌ちゃうねんけど⁉」
ちょっと涙目になって言い返したタキシード。
「い、いや……単なる衛生面の話だ。ミシェルは近頃料理も手伝ってくれてるからな。……それで、仕事だったか? あるぞ」
バワーズの意外なひと言に、エイジャが「え、あるんですか?」と驚いた。
これは珍しい流れだった。大体、都合よくバワーズのところで止まってる依頼など滅多にない。それでもそれを分かった上で、タキシード達があえてここに来るのは、八割がた食事をたかりに来るためだった。
「ああ。断ろうと思ってたやつなんだが、金に困ってるならお前達で受けたらいい。ちと面倒そうな感じなんだが――」
そう言ってバワーズが話し始めた依頼とは、漁師からの遺失物捜索の依頼だった。
とある漁師が大切にしていた、代々伝わる家宝が先日の嵐で海に落下してしまった。漁に出る時は必ず持って船に乗る験担ぎの品で、ぜひ探して欲しいという話だ。
「うーん、それは……」
「無理やろ」
エイジャとタキシードが一緒になって渋い顔になった。
バミューダ海で落としたとなると捜索範囲が海岸線全域になる上、三角湖に点在する島もすべて探さなければならない。バミューダ海は歩いて一周すると十日はかかるほどに大きい。回収は絶望的だった。
「ああ……だから断るつもりだったやつだ。ただな、その落とした物ってのが灰色琥珀らしいんだ」




