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不思議な島

 グロテスクの体液と共に、ヘドロの中に取り込まれていた大量の品々もまた、小島に飛び散った。そこにはなんらかの生物の死骸、骨、宝石、金属硬貨などが含まれていた。


「――無事か、エイジャ」


「うん……兄ぃも大丈夫?」


「おお」と言ったタキシードを、エイジャが汚れるのにも構わず抱きかかえ、深呼吸した。タキシードも目を細めてエイジャにされるがままになった。


「――よく、楔石(スフェーン)なんてあったね」


「ああ……ここに前、ほら、お前のパンツを盗んだ不埒(ふらち)なツバメがおってな。そいつの家から、ちと拝借してきた」


(やぶ)った方の宝石はなんだったの?」


「さぁなぁ……たぶん、黒水晶(モーリオン)やと思うねんけど……」


 ここは以前タキシードとデッドヒートを繰り広げた大ツバメの巣がある小島だった。タキシードはその時、彼らの巣に楔石(スフェーン)があったのを思いだしたのだ。グロテスクの身体に埋まっていた宝石が何かは分からなかったが、黒色はおしなべて強い力を持つ宝石であり、星彩(シャトヤンシー)も二条入っていたことから十分イケると判断した。


 〈シャッターストーン〉――宝石を、ある種の宝石とぶつけて割ることで、その内部に秘められた力を一気に放出させる現象だ。“宝石を破る”とも表現される。


 宝石をシャッターストーンできる条件は三つ。その宝石が有色(カラード)であることと、星彩(シャトヤンシー)を帯びていること、そして楔石(スフェーン)をぶつけて砕くこと。


 タキシードは、視界が明転(めいてん)する直前に、グロテスクが雷光の網に飲まれたのを見た。あの黒い宝石が作り出した現象は激しい(いかづち)だった。今も雷で焼けた空気特有の臭気が小島に漂っている。タキシードも詳しくはないが、あれは噂に聞く黒水晶(モーリオン)とかいう宝石だったのだろう。見たことはないが、その知識だけはあった。


 グロテスクの体内から散った物品の回収はチュー五郎にお願いした。グロテスクの体液に触れることを、チュー五郎たちは嫌がったが、タキシードが猫の目でガンを飛ばしたら(こころよ)く引き受けてくれた。


「――んん? おおっ⁉」


 薄暗くなり始めた中、蛍光する石が付いた指環が一匹のネズミによってもたらされた。エイジャがそれを拾ってみると、それは確かにチタン指環で、恐らくはジョーのものだろう。あのグロテスクに取り込まれていたようだ。


「らっきーだね!」


「ついとったな……」


 しかしタキシードは心中で唸った。グロテスクが、またしても宝石を持っていたからだ。見境無く何もかもを体内に取り込んでいただけかも知れない。現にあれがネズミを捕獲した場面を目撃した。しかし彼の喉の奥には、何かが引っかかっていた。


「兄ぃ、チュー五郎が何か(くわ)えてるよ?」


 見ると、チュー五郎は小さな骨を咥えていた。チュー五郎曰く、それはなんと、先代チュー四郎の骨らしかった。彼はいつしか急にその姿を消したのだが、まさかグロテスクの餌食(えじき)になっていたとは。


「――そうか……まぁ、偶然とは言え(かたき)はとったな」


 チュー、とチュー五郎が鳴くと、周囲のネズミの群れからもチューの合唱が上がった――感謝の意を示しているのだろう。たぶん。


 出てきた物品は結構な量があったので、とりあえず、この小島にこっそり埋めていくことにした。()しくも隠し財産ゲットの瞬間だった。


 ――宝の地図でも作ろうかな。


 そんなことを考えていると、例のツバメがやって来た。楔石(スフェーン)はシャッターストーンに使うと砕け散って失われてしまう。タキシードが楔石(スフェーン)を使ってしまったことを詫びると、ツバメは二代目清漁會(せいりょうかい)のポジャックに紹介してもらえたので、それでいいと言ってくれた。ポジャックはこのツバメ夫婦に良くしてくれているようだ。


「エイジャ、行儀悪いけど海で身体洗ってくるわ」


 そう言ってタキシードは、とぼとぼと湖畔に向かった。


 バミューダ海はバミューダの生命線なので、海を汚す行為は結構な重罰に値する――まぁ、一匹の猫が身体を(すす)ぐ程度はいいだろう。


 タキシードが鳥の水浴びのように翼をバサバサしながら身体を洗っていると、この小島周辺の透き通った水の下に、なにか人工的な構造物が沈んでいることに気が付いた。


 それが墓とよばれる古代の風習の名残だということに、タキシードはすぐに気が付いた――これらは、恐らく墓石というやつだろう。譚詩(たんし)で読んだことがある。


「墓地……ってやつか?」


 前回来た時は暗くて気が付かなかったが、この島の藪の中にも似たようなモニュメントが幾つも隠れていた。墓は昔の風習であり、今は作らない。この小島はかなり昔からこうして残されているに違いなかった。


 改めてタキシードは先ほど逃げ出してきた下水の穴を見た。とても大きく、地下に向かって斜めに下っていく洞窟だった。明らかに通路として設計されており、自然に空いたとは考えられない。


 下水網は、意図的にバミューダ海とつながって設計されているのだ。だから一定以上の水流が常にあり、そしてナマズも捕れるというわけだ。下水路はそれ自体が古代の遺跡の可能性が高く、そしてバミューダ海もまた、なにか秘密があるのは間違いないと思われる――また今度、図書館に行ってみよう。


 これでなかなか歴史ロマン好きな探偵タキシードの、バミューダの秘密に迫る推理だ。


「――今日はエイジャに風呂に入れてもらお……」


 後日、指環が戻ってきたジョーは(むせ)び泣いて喜びを表現していたが、その後のエイジャによる圧迫追求を受けて口止め料を払わされる羽目になり、別の涙を流すことになった。


〈次回予告〉

タキシードはパトロールに勤しんでいる。

ベリーヒルは彼のシマだからだ。

タキシードは、この果樹園の猫大将なのだ。

そんな平和な一日のお話。


次回、オフの黒猫。

乞うご期待!

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