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藁人形のゆくえ

 翌日の朝。ライチと街の調査(遊び)に行くエイジャを見送ってから、タキシードは事務所の屋根の上でうとうとしていた。彼の隣では風見鶏がキコキコ暇そうに鳴っている。


 タキシードは、黒猫の宿命か、昼間何も考えずに動くと目立つ。しかし、こうした定点観測業務ならお手の物。風に吹かれながら王様気取りで南バミューダに散った獣たちの報告を待っていた。


 まず報告を持ってきたのは窮鼠猫咬(きゅうそねこがみ)一家だった。彼らはベリーヒル一帯を捜索していたのだが、お腹が減ったからそろそろ帰ると言う話だ。


 やはりベリーヒルにはラベンダー藁人形(ストローベイブ)はなかったらしい。あと、最近南バミューダの下水で仲間が急にいなくなるという事件が頻発しているという、割とどうでもいい噂をチュー五郎が耳打ちしてきた――耳打ちされてもチューチューとしか聞こえないのだが……。極牙会の手のものだろうか、しかし猫は下水には入らない。はて?


 次に報告を上げたのは二代目清漁會(せいりょうかい)のポジャック二世だ。空から捜索していた彼らだったが、街中に藁人形(ストローベイブ)らしきものは落ちていなかったそうだ。


 ついでに、最近夜に街をブンブン音を立てて飛ぶ見知らぬ奴がいるらしいということで、鳥たちが迷惑がっているらしい。タキシードじゃないかと疑われたのだが、タキシードはそんな音を立てて飛ばないと説明したら分かってもらえた。


 三番目はウェルシュだった。極牙(ごくが)会は裕福だからか、あまり捜索にやる気が無かった。


 タキシードの屋根の上のライバルを自称するウェルシュが言うには、最近港で()がる魚が、水揚げされた瞬間から腐っているという事があるらしく、お腹を壊す仲間がいるらしい。まぁお前も気をつけろという話しをして帰って行った。拾い食いを良しとしないタキシードには関係のない話だった――あいつ、お貴族さまの猫なのにそんなことをしてたのか……。


 本命のカジノが事務所を訪れたのは昼下がりだった。恐らく見つけたということだ。


 実際のところ、今回のミッションはカジノたち隻仁(せきじん)組がいれば(こと)足りたわけなのだが、こういうときは全体行動の演習を兼ねて全ての組に依頼を出すのが習わしだった。北や東の連合会が攻めてきた時にバラバラだとまずいのだ。


 タキシードがカジノにその場所を教えて貰い、代わりに報酬の琥珀(アンバー)を渡すと、彼は琥珀(アンバー)を噛み砕きながらいくつか噂話を教えてくれた。


 最近、バミューダ全域で〈虚骸(コーマ)〉が増えているということと、先日東バミューダで〈グロテスク〉騒ぎがあったということ。あと、北バミューダで〈馬鹿の実〉が増えているらしく、たまにラリった犬が南バミューダにふらふらやって来て臭くてかなわないと言うことだった。


 カジノが帰った後、タキシードは風見鶏の様子を見た。風は()いで、飛翔には問題のない天候だった。


 タキシードは木の上で羽を休めていたヤマバトの一群にお願いして連帯飛行してもらい、昼の南バミューダの空を(かけ)た。こうして一緒に飛んでもらうと、昼間飛んでる時の見た目の怪しさが(やわ)らぐからだ。


 そうしてタキシードが降り立ったのは、とある住宅街の屋上。彼は親切なヤマバト達に猫の手を振ってバイバイすると、向かいの住宅の窓を覗んだ。


 流石はカジノ。情報が正確だ。悔しいが、やはり追跡において犬の右に出る獣はいないだろう。


 見れば一人の男の子が机の上に藁人形(ストローベイブ)を乗せ、じっとそれを見ていた。部屋の窓は開いていた――さっさと仕事を終わらせてしまおう。


 タキシードが音もなくその部屋に飛び込んで、したりと着地すると、(かす)かなラベンダーの香りが鼻をついた。男の子はタキシードの侵入に気付いていなかった。何やら難しそうな顔をしている。


「なぁ」と、タキシードが鳴き声とも呼びかけともつかぬ声を上げれば、その男の子はびっくりして振り返った。


 眼鏡(めがね)をかけた気の弱そうな子供だった。しかしその目の奥には知性の光りが見える。


「――自分、おとといの祭りに来とった子供やな」


「えっ! ……あ」


 タキシードが声をかけると、男の子の方も思い出したようだ。お祭りの日の夕暮れに木に隠れてラフランを見ていた、あの子供だ。


「……その藁人形(ストローベイブ)、ラフランのちゃう?」


「えっ、ラフランちゃんを知っているんですか?」


 男の子の目が眼鏡の奥で大きく開かれた。


「おお、知っとるよ。実はな、その子に頼まれてその人形を探しとったんや」


「……」


 男の子は黙って(うつむ)いてしまった。引っ込み思案な性格をしているようだ。


「ワシはタキシード、ぼうずは?」


「……シド、です」


 怖々(こわごわ)と名乗った子供――シドに向かってタキシードは告げる。


「そしたらな、シド。ワシはぼうずを糾弾(きゅうだん)しに来たわけでもないし――あ、怒るって意味な。なんでシドが人形を持っとるのかも聞かん。あの子にそれを返せばそれでよし。ラフランの家、この近くやろ? 今から行くで」


「え、でも……どうして僕が持っているとか、盗ったんじゃないかとか……」


「聞かんし、言わんし、思ってもないし……まぁでも、聞いて欲しいなら聞くで」


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