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お祭り騒ぎ

「こうして、こうよ――これもんよ!」


 どよめきが起こる。タキシードが台に乗って探偵ストーリーを披露していた。


 二本足で立ち、前足をわーっと持ち上げてちょいちょいとエア猫パンチを見せ、身振り手振りを交えながら臨場感を演出すると、周囲はもう出来上がっていることも手伝って、これがなかなか受けがいい。


 もうすっかり暗くなったベリーヒルの山頂では、ちょっとした(うたげ)が行われていた。お祭りの打ち上げだ。


 ベリーヒルなんとか会の偉い人が挨拶し、今年は豊作で祭りの盛り上がりは例年以上云々(うんぬん)。能書きをたれた後はすぐに乾杯となって今に至る。


 タキシードが演目を終え、拍手の中から飛び立ってエイジャの元に向かうと、既に彼女のテーブルを囲んで人だかりが出来上がっていた。そこはエイジャにお近づきになりたい男衆(おとこしゅう)を弾き出すように近所の奥様方で埋まっていた。


 周囲がお酒で盛り上がる中、タキシードもキャットニップでご相伴(しょうばん)。ゴロゴロゴロゴロ。彼のことをよく知るご近所の奥様方が気を利かせ差し入れてくれたようだ。気持ちよくなったタキシードは事務所まで飛んで一往復し、余ったワインを数本差し入れた。エイジャもワインを飲んでいる。彼女はこと、お酒に関しては強い。


 ところでこのキャットニップ、実はエイジャにも若干効果がある事は、ここバミューダでは二人だけの秘密だ。悪用されかねない――のだが、いつのまにかエイジャがタキシードのキャットニップを一本、おつまみのように噛み始めていた。


「お、おい。エイジャ」


「ちょっとくらいへーきへーき。兄ぃは心配性なんだから」


 そう言って快活に笑ったエイジャ。


 いつの間にか彼女の前に小さな男の子――味噌っ()アベリーが立っていた。鉄壁の奥様バリアをすり抜けてこの席にたどり着けたのは子供であったが故か。アベリーは開口一番、


「――エイジャおねーちゃん、おっぱい揉ませて!」


「いいよー」


「よくないっ! あっちいけっ‼ シッシッ! ……エイジャもそんな簡単に身体許すなや! 見てみぃ、エイジャにお近づきになれなかったカシスが、あっちで仰天しとるやんけ‼」


 噛みかけのキャットニップを噴き出したタキシードが、シャーっと牙を剥いてアベリーを追い払った。突如話を振られたカシスが「俺関係ないだろー!」と遠くで声を上げていた。実際、仰天して見ていたのだが。


「あはははは! 子供だよー?」


「お前、嫁入り前やろ! もうちょっと恥じらいっちゅーものを持たんかい!」


 そんなタキシードの言い草に、なぜかむっとした様子のエイジャ。


「――兄ぃだって、子供に触らせてあげてるじゃんっ!」


「ワシは猫やろうがっ! ……いや、スフィンクスやった‼ ほれ見ぃ、びっくりしすぎて変なこと口走ったわ!」


「ずるいっ! 兄ぃが触らせるなら私も触らせる!」


「どんな理屈やっ!」


「しゃあ兄ぃが触ってよ!」


「なんでそうなんねんっ! ……はぁ、もー。とにかく、もっと気ぃつけや」


 むーと膨れたエイジャ。最近、変態どもの現場が多かったから影響されているのだろうか――しばらくは、浮気とかその(たぐい)の調査からは外すか。


 力なく嘆息をついたタキシードを、強めに引き寄せて抱きかかえたエイジャが、彼のふわふわのお腹を乱暴にわしゃわしゃする――ひょっとして酔ってる?


 ようやく宴もたけなわ。片付けを終えた二人の帰り(ぎわ)。探偵事務所前の坂道で女の子が泣いていた。打ち上げに向かう途中に見かけた、裕福そうな女の子だ。父親と母親らしき人物が困り顔でその女の子を慰めていた。


「なんやなんや」


「どうかしましたかー?」


 エイジャが声をかけると、女の子の名前はラフランだと両親が答えてくれた。聞くと、大事にしていた藁人形(ストローベイブ)をお祭りの最中に落としてしまったらしく、夕方からずっと探していたのだという。


「こんな時間まで大変やったなぁ」


 タキシードが満を期して慰めの声をかけると、女の子――ラフランは肩をビクリとさせて目を丸くした。ピタリと泣き止んだ。


「――おまけに、翼もあるで」


 エイジャの肩に乗ってバサァッっと黒い翼を広げて見せれば、ラフランは一歩後じさった。両親も後じさっていた。もう夜だ。夜道では怖かったかも知れない。ラフランはまた別の種類の涙を目に溜めていた。


 タキシードが慌てて「飴ちゃん食べる?」と琥珀(アンバー)の欠片をくわえて取り出してみせる。するとラフランは街灯の光に映えた琥珀色に誘われて、おずおずと手を差し出してきた。ポトリと手に落ちた琥珀(アンバー)を口に運ぶ様子を両親が何か言いたそうに見つめていたが、「あまーい!」とラフランが顔を(ほころ)ばせたのを見てホッとした様子になった。


 本当は飴ちゃんは渡したくはない。琥珀(アンバー)は欠片であっても高級品だ。できればエイジャに食べさせたい。だが、これも接待。


「ところでじょーちゃん、ゼニある?」


「! 兄ぃ、こんなちっちゃな子からも取るの⁉」


「プロやからな」


「……キライッ! 兄ぃ、嫌いだよ!」


 エイジャは目尻をつり上げて肩に乗ったタキシードの髭を引っ張った。


「いたたた……髭はやめて……。しかしな、プロっちゅーもんはな、タダで芸を売るもんちゃうねん」


「兄ぃ‼」


 その後、久しぶりのエイジャのお叱りに観念したタキシードが折れ、自分達が探偵であることを明かした上、藁人形(ストローベイブ)捜索を買って出た。ラフランの両親は初めは戸惑ったが、最終的にラフランとエイジャには聞こえないようにプラチナ貨十枚出すとタキシードに耳打ちしてきた。タキシードの、プロはただ働きしないという言葉に共感を示したのは意外にも妻の方だった。信用してもらえたようだ。これで契約成立。


 聞けばその藁人形(ストローベイブ)はラベンダーで()られた特別なもので、去年他界した祖母から送られた大切な品なのだという。


 ラフラン一家は帰った。最後の方に、ラフランがじっとタキシードを見つめていた。なにか言いたそうだった彼女の姿を見送りながら、タキシードは嘆息をつく。


「はぁ、手間の割にゼニにならん仕事を……」


「どうするの? 結構、捜索範囲広そうだけど」


「そうやなぁ」


 タキシードが一通り考えを巡らせると、面倒臭そうに言う。


「――ひさびさに会合、開くか」


「おぉ……」


 エイジャが目を丸くした。


「じゃあ、ついでに新世界もよろしくね」


「お、おう……」


 そんなことを話しながら、二人は事務所の中に入っていった。



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