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デッドヒートの末に

「はぁ……はぁ……鳥類(ちょうるい)の分際で、はぁ……南バミューダの夜の支配者、はひ……スフィンクスのタキシードさまから……逃げ切れると思うたか……っ! はぁ……」


 ここはバミューダ海。南バミューダ寄りの、とある小島の上。その島に立つ大きな木の上でようやくツバメを追い詰めることに成功したタキシード。もう空は暗くなっていた。


 当のタキシードの肉球は汗だくで、口は開きっぱなし。舌を出してはぁはぁ(あえ)いでいた。


 ――知っていただろうか。猫も思いっきり長時間走り込むと犬のようにはぁはぁ舌を出して喘ぐ。文明の利器(りき)を用いて過度に猫を遊ばせるとそうなる。もしそうなったら遊ばせすぎだ。限界だから休憩を取らせてあげよう。


「はぁ……ふぅぅ。んん?」


 息を整えていたタキシードは、エイジャのパンツ(?)を咥えたツバメがぐったりとしている場所が、お椀のようになっていることに気が付いた。その時、その奥からゴソゴソともう一匹のツバメが出てきて、へばったツバメの前に出た。妙にふくよかなツバメだった。


 ――鳥の巣だ。


 しかし、その素材が妙だ。枝ではなくて布やちょっとした建材など、人工的な素材を主に使っている。そこでタキシードはぴんと来た。


「自分ら、まさか盗んだパンツとかで巣を作っとったん?」


 前に出たふくよかなツバメがコトリと首を倒した。


 ――なにが言いたいのか分からん。


「ワシの言ってることは分かるよな? 今から自分のこと触るで。そっちの言い分を聞くためや。(つつ)いたら怒るからな。ええな?」


 タキシードは身体を触れ合わせることで、動物達と気持ちや考えを伝え合える。ところが、不思議なことに身体を触れなくても、タキシードの声だけは向こうに伝えることができた。理由は不明だ。


 タキシードがゆっくりと枝の上を歩み寄り、肉球をツバメの足先にポンッと乗せた。


 これでようやく事情が理解できた。


 彼らは最近まで東バミューダで暮らしていた大ツバメで、先日、組織から足抜けして来たらしい。どの市街地にも獣のシマ争いがあるので逃げ込むことも出来ず、こうして離れ小島の上で暮らしているということだ。


 そして、このふくよかなツバメが妻で、お腹に卵を抱えている。彼らは子供が出来たのを切っ掛けに、極道から足を洗って真っ当な鳥生を歩もうとしていたのだ。


 なぜに枝ではなくて人間の道具を使って巣を作るかと聞くと、そちらの方が枝とかよりも暖かいからだと答えた。それに、東バミューダではこれが普通なのだそうだ。


(あそこ、あんま木とかないもんな)


 東バミューダは首都ガーデンキープへの砦として要塞化されていて、露地が少ない。それゆえに争いも絶えず、あそこの獣たちは毎日が大変らしいと聞いたことがある。


「はぁ、野良の野鳥か……」


 タキシードは困った風に嘆息をついた。野良の野鳥というのも変な話だが、そういう(くく)りになる。


「あっちは修羅の国らしいからな。まぁ事情は分かったわ。そしたら、ポジャックっていう(はと)を紹介するから、そいつを頼ったらええ……ただの鳩だと思って舐めてかかるなよ。奴は南バミューダの(シマ)を仕切っとる……悪い奴ではないで。さっきの話をすれば助けてくれるはずや」


 タキシードがそう言うと、呼吸が戻ってきた夫ツバメが起き上がってきた。


「――このバミューダで生きていこうと思ったら、どの組織にも所属せんのは無理や。その点、南バミューダなら東よりはましやろ」


 東は修羅。北は無法。南は組織が多くて面倒だが、まぁバランスが良い。それがタキシードの認識だ。


「あと、もう人間のもんは盗ったらあかん。そのうち本気でとっ捕まるで。そんでな……肝心の、その自分が咥えてるパンツ返して? ワシの妹のもんやねん」



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