<8>隅々まで洗いたい
購入のための準備があるからと、モモと別れて1階へと戻る。
その途中で、俺はふと足を止めた。
「あっ、そうそう。1つ訪ねたいたいんだけど」
「はい、お聞き致します。彼女について何かありましたでしょうか?」
「いやいや、不満とかそう言うんじゃなくて確認ですよ」
不思議そうな顔をする店員の目をまっすぐに見詰めて、俺は思いきって問いかけることにした。
モモと話しながらも、ずっと心の端に引っかかっていた言葉を紡いでみる。
奴隷が法律で禁止された国から来たからかも知れないけど。
もしかしたら奴隷という商売をしている彼らには怒られるかもしれないけど。
――それでも聞いてみたい。
感じてしまった気持ちを確かめて見たい。そう思う。
「彼女たちは……。
パンツって、 はいているんですか?」
それだけが、ずっと引っかかっていたんだ!!
もうね、まじで、気になって気になって!!!!!
こんな気持ちを抱えたままじゃ、帰るに帰れねぇよ!!
一瞬だけキョトンとした店員が、ふふっ、と肩をふるわせて、唇に弧を描く。
「守秘義務がありますので。お客様のご想像におまかせしますよ」
俺の目を見返しながら、店員はニンマリとわらっていた。
しゅひぎむ……。ご想像にって、それって……。
正しいときに……。
まじっすか……!!!!!!!!
「良い店ですね。また来ます」
「お待ちしております」
階段を降りている途中で、店員が深々と頭を下げてくれた。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「ご主人様。何からはじめましょうか?」
「んー? どうしよっか?」
「んん??」
奴隷商の前で、んー……、とのびをする。
温かい日差しを全身に浴びながら、隣にいるモモに視線を向ける。
「服変わったんだね? 似合ってるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
両手を大きく開いた彼女が、俺に見せ付けるようにクルリと回って微笑んでくれた。
彼女の髪に合わせたような淡いピンク色のワンピース。
あの洗礼された布は店の中だけの物で、この服は店からのプレゼントだそうだ。
『お客様は独占欲が強く見えましたので』
店員はそう言って笑っていた。
モモの素晴らしい横乳や下乳が見えなくなったのは寂しいが、確かにこれなら、ほかの奴らに見られる心配は無くなった。
店員の言葉通り、すごく安心した自分がいる。
あっ、でも、大丈夫だ。
谷間はしっかり見える。
常識的な範囲までだけど、アイデンティティ程度に残っている。
たしかに他人に見られる不安はあるが、これ以上隠すと、寂しくなりすぎる。
あの店、わかってるな。素晴らしい店だ。
でもって、あの横乳を見て良いのは俺だけだ!
神のごときフワフワなおっぱいを見て良いのはおれだけなんだ!!
それにこの服も彼女によく似合っている。
強調しすぎてはいない大きなおっぱいのシルエットに、膝丈でふんわりとしぼむ腰のライン。
こんな可愛い子が、俺の奴隷だなんて。異世界ってマジで最高だな。
「すっごく可愛いよ。手をつないでも良いかな?」
「はい。ご主人様……」
おずおずと伸びてきた手を優しく握る。
恥ずかしそうに顔をそらした彼女の手が、温かくて気持ちが良い。
彼女が動くたびに髪がふわりと広がって、甘い花のような香りが漂ってくる。
「着替えただけじゃなくて、お風呂にも入ってきたのかな?」
「はい……。おめでとう、って言って、隅々まで洗ってくれました」
「そっか」
出荷を担当する女性スタッフがいるそうだ。
頬を上気させながら、彼女がとろけるような笑みを浮かべてくれた。
この世界のお風呂がどんな物かはわからないが、きっと楽しかったのだろう。
それにしても、隅々までか……。
この子の体をすみずみ、まで……。
それってあれだろ?
たわわな膨らみとか、幸せなふわふわとかを念入りに洗ったってことだろ?
くはぁーーーーーー!!!!
俺にも洗わせてもらえないだろうか?
隅々まで、洗わせてもらえないだろうか!?
命令しちゃう!? 俺にも洗わせろって、はじめての命令しちゃう!?
でもあれか? 出会って初日でそれはさすがにまずいか?
いや、しかし――
「ご主人様? どうかされましたか?」
「っぁっ!! いや、何でもない。そっ、そうだ、店での対応は良かったのか? 嫌なことってされなかったか?」
「大丈夫ですよ。最初は怖かったんですが、みんな優しいですし、私は大事な商品だったので。ごはんはちょっとだけ少ないかな、って思いましたけど、前よりは良かったから……」
「……そっか」
みんな、優しかった、か……。
お金が貯まって2人目を買う時は、もう一度ここだな。
その時は最初に『食べ物に困って自分を売りに来た、可愛い子が欲しい』そう伝えよう。
そう決めた。
「さてと。約束通り、ごはんにしようか。5分ほど歩くけど良いかな?」
「はい! ご主人様と一緒なら、どこへでもついて行きます」
「ありがとう」
桜の花びらのような髪をなでると、ふふっ、と幸せそうに笑ってくれた。