<3>男の戦いが始まる!
「おまえさんには、この世界の知識はない。身を守る武力もない。違うか?」
「……そうだな」
思酒場のマスターが声をかけてくれるまでは、右も左もわからずに立ち尽くしていたんだ。
もしそのときに、スリや暴漢に襲われでもしていたら、手も足も出なかったと思う。
警察署の場所どころか、そんな組織があるのかすら知らないしな。
「奴隷ならおまえさんを守りながら、この街の常識も教えてくれる。戦闘を行える奴隷は高いが、普通の奴隷を買っても今のおまえさんよりははるかに強い」
「なるほどな。だから奴隷か……」
素直に驚いた。
まさか常識がないからと、奴隷の購入を勧められるとは思わなかった。
奴隷に良いイメージなんて無いが、マスターの話を聞く限りじゃ、今の俺には必要不可欠に思えてくる。
だが、そんな事よりもだ……。
「なっ、なぁ、マスター。この国には奴隷がいるんだな!? 女の子! 女の子の奴隷って、いるのか!?」
「ぉん? なんだ、突然目を輝かせやがって。いるぜ? 可愛いのも綺麗なのも」
「まじか!! 命令は? 命令は絶対か!?」
「おうよ。死ぬまで解放されない奴隷ならな」
……まじか。
可愛い子が買えて、俺の命令は絶対!
命令は、絶対!!!! くぅ――――!!!!!!!!!!
「何人でも買えるのか!?」
「何百人でも大丈夫だ」
まじか!!!!
『おはよう、お兄ちゃん』から『今日は私の膝でお休みに成られますか?』まで、可愛い奴隷に囲まれた生活も可能じゃねぇか!!!!
もしかしてここは天国なのか!?
寝るときはむにむにの太ももに顔を挟んでもらうだろ?
プルプルでふかふかな抱き枕として、右側に1人、左側に1人は必要だよな!?
でもって、上から覆い被さってくれる子が最低限1人、いや2人は必須だ!!
裸エプロンで朝食を作ってくれる子が1人いて、とてとてと優しく起こしに来てくれる子が――
「金さえあれば、だがな」
…………。
「ぐふっ!!!!」
そう、だよな……。世の中、金だよな……。
やっぱ金だよなぁ……。
ニートの俺に、奴隷を買う資格なんて無かったんや……。
この世は、やっぱり、地獄や……。
もう無理、生きてられない…………。
「くははは。そんな顔をすんなや。ところでだが、おまえさんはこの街に何をしに来たんだ?」
「何をって、そりゃもちろん、可愛くてエロい奴隷を買いに――」
じゃないな。金儲けだったか……。
……金!!!!!!!!
「なっ、なぁマスター!! この前みたいに発泡酒を買ってくれねぇか? 1本で金色コイン1枚でどうだ? 今日はいっぱい持ってるから欲しいだけ言ってくれ!! 次に来るときは両手に段ボールを積み上げて持ってきてやるよ!!」
「くはははは。おうよ。俺はその言葉を待ってたんだぜ?」
人好きのする顔で、マスターがニヤリと笑って見せた。
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それからすぐに、俺は奴隷商に向かった。
金は、もちろんある。
この世界はモンスターや隣国との戦争に明け暮れているため、戦闘に耐えれる奴隷の方が価値は高い。
それ故に、可愛い奴隷は安い設定らしいのだが、それでも金色コイン100枚からが相場らしい。
人間ひとりの価値が100万円から。
高いのか安いのかも不明だが、今は己の欲望に従って目をつむる所存である。
持ち込んだ本数なんて全然足りなかったが、他の店には売らないという契約で、先払いにしてもらった。
魔法の小切手とやらなので、スリへの対策バッチリだ。
エロくて可愛い、俺の命令には逆らえない奴隷がそこにいて、ポケットには買えるだけの金がある。
「いっ、行くぜ……?」
俺はゴクリと息を飲んで、店のドアに触れた。
下半身のゲイボルグが、これまでにないほど荒ぶっている。
激しい熱量が、腹の下に渦巻いている。
ここからは、男の戦いだ!!
「おぉ、ようこそおいでくださいました。どのような奴隷をお探しでしょう?」
「はっ、はひっ! 小金貨200ま、まいで、かわっ、可愛い子を……」
「おや? 戦闘奴隷ではないのですね。これは珍しいお客さまです。どうぞ、こちらへ」
「ふひ!!」
俺は張り裂けそうな心臓をおさえて、店主の後に続いた。