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20/21

<20> ホットケーキは幸せです

 2人で並んで、本日が初使用となる台所に立った。


「今日は、俺が作るから。器具の使い方なんかを見て覚えること。良いかな?」


「はいです! 出来るだけお手伝いもさせて頂きます!」


「うん。よろしくね」


 冷蔵庫にしまってあった卵とハチミツ、バター、ホットケーキミックスを作業台の上へと引っ張っていく。


 そんな食材たちを眺めてたモモが、ふわりとしたピンク色の髪を揺らして、首をかしげていた。


「何を作るのですか?」


「ホットケーキだよ」


「ほっと、けーき、ですか……?」


 んー……? なんて声を漏らすモモが、最高に可愛い。


 小さく微笑んで、ホットケーキミックスの箱に描かれた写真を指さすと、モモの顔が華やいだ。


「すっごく美味しそうです!」


「女の子たちに大人気って話だからね。モモも気に入ると思うよ」


「わっ、楽しみです」


 開いた両手を唇の前で合わせて、モモがふわりと微笑んでくれる。


 フライパンを使った調理なんて小学校の授業以来なんだけど、まぁ、ホットケーキくらいなら大丈夫だろ。


 ホットケーキミックスもあるし、混ぜて焼くだけだろうし。


 最悪、薄く焼けば火の通りも大丈夫じゃないか?


 なんて思いで、ホットケーキミックスの箱に書いてあった作り方を見たんだけど、


「あー……、牛乳も必要だったのか……」


 ネットで調べた限りじゃ必要無いって噂もあったが、必要な物に含まれてんじゃん……。


「牛乳……?」


「あぁ、どうも買い忘れたみたいだな」


 さて、どうしようか。


 現在の時刻は、7時26分。


 牛乳くらいなら最寄りのコンビニにでもあるだろうし、買ってこようか。


 気分は完全にホットケーキだからな。


 目を輝かせてワクワクしているモモに対して「やっぱ別の物にしようか」なんて言えるはずもないし。


「なぁ、モモ――」


「こっ、ご主人様は、牛乳が欲しいのですね?」


「ん??」


 作業を中断してお留守番を頼もうと思ったんだけど、なぜかモモが、ほんのりと顔を赤らめながら見上げてくる。


 大きな胸の前で、彼女の両手がギュッと握られていた。


「どのくらい、必要、ですか?」


「んー……、100ミリリットル、らしいぞ?」


 箱にそう書いてある。


「100??」


「あー……、この容器の、この線まで、だな」


 それがどうかしたか?


 そう問いかけようとした俺の手から、計量カップが勢い良く奪われてしまった。

 もちろん、その犯人はモモだ。


「わっ、わかりました。任せてください」


 頬が真っ赤に染まっていて、耳の先まで赤く見える。


「えっと、でも、恥ずかしいから、向こうを向いてくれると……、嬉しいです……」


「えっ? ……??」


 何がどうしたのかもわからないが、モモがそう言うなら、と素直に彼女から背を向ける。


 いきなりどうしたのだろうか? 


 彼女が何かをするつもりなのは、なんとなく分かるが、一体何を??


 それに、牛乳と言った瞬間から、なんだかモモの様子が違ったような気が――


 …………牛乳??


「こっち向いちゃ、ダメですよ?」 


「おっ、おう」


 不意にヒヤリとした物が、全身を駆け抜けた。


 この上なく、やばい予感が脳内を駆けめぐる。


――そして背後から聞こえてきたのは、服が擦れる音。


 モモの小さな息遣い。


 何かしらの液体が、容器に注がれる音。


「モ、モモ……?」


「…………」


 背後に気配は感じるが、返事がない。


 不思議な水音だけが聞こえてくる。

 何の音なのか分からない音だけが聞こえてくる。


 そしてまた、服がすれる音。


「おっ、終わりました……」


 いったい何が終わったと言うのだろうか……。


 ゆっくりと振り向いた俺の視界に見えてきたのは、顔を真っ赤に染めて視線をそらしたモモの姿。


 彼女の大きな胸の前には、真っ白な液体が入った計量カップがあった。


「……これは」


「牛乳、です……」


 そうだね、牛乳だね。


 ゴクリと唾を飲んで、恥ずかしそうに差し出した容器を受け取ってみる。


 えっと、あの、モモさん?


 ほんのりと温かいんですが?


 なんというか、人肌くらいの温度ですよ?


「高級品なので、美味しいと、思います」


「そっ、そうですか……」


 モモからもらった牛乳を眺めて、思わずゴクリと喉をならしてしまった。


 そうなのか、高級品なのか……。


「かっ、貸してください!」


 耳まで真っ赤になったモモが、もう一度容器を奪っていく。


「どうすれば良いんですか?」


 もぞもぞと身をよじって、牛乳を背中に隠してしまった。


 ボールの中に粉が入り、卵と一緒にモモが手にした牛乳が注がれていく。


 モモがギュッと握りしめた泡立て器の動きに併せて、牛乳がその姿を変えていった。


 なんだかホッとしたような、残念なような……。


「このあとはどうするのですか?」


 おっとそうだった。


「えーっと、なになに……、熱したフライパンにバターをひいて、両面を焼いたら完成、だってさ」


「んー? 薄焼きパンのようなものでしょうか? この絵みたいに焼くんですよね? 私が焼いても良いですか?」


「うん、よろしくね」


 自分の料理技術にそれなりに不安があったけど、モモが焼いてくれるなら一安心だな。


 あとは上にバターを乗せて、蜂蜜をかければ良いだけだ。


 でもって、ホットケーキには、やっぱり牛乳が1番……。


 ぎゅうにゅうが、いちばん……。


「なっ、なぁ、モモ……」


「はい。どうしましたか?」


 突然の問いかけに、フライパンに手をかざして温度を確かめていたモモが小さく振り返る。

 昨日買ってきた2つのコップが、彼女の手に渡った。


「ホットケーキには、な……」


 ドキドキと心臓が大きく高鳴っていく。


「牛乳が、合う、らしいんだ……」


「う、うしろを、向いててください……」


 クルリと背を向けたモモが、恥ずかしそうに声を絞り出してくれた。


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