<17>もしかして、上も!?
「それじゃぁ、行こうか」
「はい!」
モモと手をつないで靴を履いて、玄関のドアに手を伸ばす。
彼女の小さな足に合うような靴など無かったので、とりあえずはサンダルを履いてもらうことにした。
「わっ……!」
焦らすようにゆっくりドアを開くと、背後から息を飲むようなモモの可愛らしい声が聞こえてくる。
ドアの向こうには、高いビルに囲まれた夕日が、俺たちを赤く照らしていた。
外に出た俺の横を通り過ぎたモモが、サンダルに苦戦しながら転落防止用の柵まで駆けてく。
「こんなに綺麗な夕日、はじめて見ました!! あんなに大きな物が、1つだけですよ!!」
柵に手を付いてクルリと振り向いた彼女が、無邪気に微笑んでいた。
夕日を背景に、モモが両手を大きく広げて見せる。
体全体で夕日の大きさを表現しているのだろうか?
その無邪気な姿が、なんとも可愛らしい。
「んゅ??」
そんな彼女が、キョトンと首をかしげた。
「ご主人様。ドアがいっぱいありますよ? あっちのお部屋のお掃除は良いんですか?」
「あー、うん。そっちは知らない人の家で、俺たちはこの部屋だけなんだ」
「んん?? んっと……? えーっと……??」
不思議そうにパチパチするモモの瞳が、正面のドアと左右のドアを見比べる。
もう一度首をかしげながらあごに人差し指を当てて、彼女は、んー……? と天井を見上げた。
「わかりました」
視線を戻した彼女が、華やいだ笑顔でうなずいてくれる。
秘密でもあると思ったのか、理解しない方が良いと思ったのか。
彼女は、とりあえずそう言うもの、と自分を納得させているように見えた。
沢山のドアにくるりと背を向けたモモが、楽しげに柵の縁へ手を伸ばす。
「本当に綺麗な夕日ですね。見たことのない形のお城もいっぱ、い……」
不意に彼女の視線が下を向き、その笑みが固まった。
「たか、い……。死んじゃぅ……」
口をもごもごと動かして、彼女が1歩2歩と後ずさる。
体を縮めながら両手を口に当てて、あわあわ、と声にならない声を漏らしていた。
「ひゅっ……!!」
彼女の体が、ビクン、と大きく跳ねる。
俺の手のひらが、彼女の背中に触れていた。
「っ……!?」
高いところが苦手って言うより、初めて見ました、って感じかな?
何というか、怖々としながらもチラリと下を見て、目を背ける姿がなんとも可愛い。
……可愛いんだけど、ちょっとした緊急事態が発生した。
俺は今、彼女の背中に手を当てている。
落ちそうで怖い、と言う彼女を支えるために伸ばした手だ。
その手に感じるのは、肌触りは良いが薄い布の感触と、暖かな彼女の体温だけ。
本来ならもう1枚あるはずの、手触りが、無い……。
「もしかすると、奴隷商と同じパターンか? ご想像にお任せしますなのか!?」
「な、なにがですか? 落ちるんですか? やっぱり落ちちゃうんですか?」
「あっ、うん。それは大丈夫だよ。落ちたりしないから。もし何かあっても俺が助けるからね」
俺がキミの魅力に落ちる可能性は十分にある。
いや、すでに手遅れだ。
しかし、この子、もしかすると、上も、下もなのか?
大きなお胸様を守る物は、なにも無いのか??
……いや、これ以上はやめておこう。
純粋に谷間を楽しんでいた視線の向け方が、今後変わってしまう恐れがある。
考えてはダメだ。
奴隷商の時とは違う。
今は確かめるすべがない。
それよりも今は、目の前にいるかわいい彼女だ。
「大丈夫。落ちそうなら支えるし、倒れたりもしないからさ」
「ご主人様……」
大きな瞳をうるませたモモが、少しだけ表情をやわらげて俺を見上げていた。
下がりそうになる自分の視線を必死に抑えて、彼女の瞳を見詰め続ける。
「ごめんね。驚かそうとは思ってたんだけど、そこまで怖がると思わなくて」
「ぃっ……、いぇ。だいじょうぶ、です。ちょっとだけびっくりしちゃって……」
「そっか。ちょっとだけか」
「はい……。ちょっとだけです」
もう大丈夫です、と言いたげな雰囲気で、彼女が微笑みながら手を握る。
すー……、ふー……、と胸を大きく上下させたモモが、小さく微笑んで見せた。
小山のてっぺんに、不思議な膨らみは、ない、よな……??
おっと、いけないけない。
チラリとだけ柵の方に視線を向けたモモが、その身をすくませている。
「えっと、えっと……。ご主人様の手に、甘えても、いい、ですか……?」
胸元に両手を当ててふかふかな胸をおさえながら、彼女が小さなお願いを口にする。
その姿がありにも可愛くて、ふふっ、と幸せな感情が口からもれた。
「もちろん。どれだけ甘えてくれても良いよ」
俺が死ぬまでずっと、俺の側で甘え続けて欲しい。
そんな気持ちも一緒に混ぜて、モモの前に手を差し出した。
ゴックン、と喉を動かして、彼女が俺の手のひらを見詰める。
「しつれい、します……」
ふわりとした暖かさがゆっくりと伸びてきて、俺の右手を優しく包み込んだ。
そしてなぜか、彼女が半歩だけ前に出る。
やわらかな膨らみが近付いてくる。
「んっ……」
ゆるく閉じられた唇から、俺を誘惑するような吐息がもれていた。
温かくてふわふわな左の膨らみが、俺の肘にそっと触れている。
彼女が息を吸い込むと、俺の腕をなぞるようにふれあう部分が上がっていく。
息を吐き出すと、ゆっくりと元の位置に戻ってくる。
腕全体が、温かくてやわらかい、もちもちとした感触に包まれていた。
「モモ……?」
「ごめんなさい……。ご主人様の手、温かいて安心します」
「……そっか。それじゃぁ、このまま行こうか。エレベーターはこっちだね」
「はい。ありがとうございます」
ふわりと微笑む彼女のやわらかさを感じながら、俺たちはゆっくりと夕日の前を後にした。




