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<16>俺たちの出会いに乾杯

 口元をゆるめるモモは、かつてないほどに可愛かった。


 触れているのは膝だけなのに、全身が彼女の暖かさを感じているようにも思う。


 ふわりと良い香りがするし、なんかもう、幸せです!!


「私が触れても嫌じゃないんですか……?」


「いやなわけないだろ? ご褒美、欲しいか?」


「はい……」


 モモの大きな瞳が、ゆっくりと閉じられていく。


 ぽってりとした唇が小さく開く。


 好きにして良いですよ?

 そう言っているように見える。


 何度目になるかもわからないツバを飲み込んで、俺は飴を持った指先を彼女の唇に近付けていく。


「ほら、ご褒美だ」


 くすぐったい吐息を漏らす唇に、あめ玉をはわせた。


「んっ……」


 小さな声がもれて、あめ玉の半分が彼女の唇にとらわれる。


 指先に唇が触れるか触れないか、そんな距離。


 それでも俺は手を離さなかった。


「っ…………」


 不意に、不思議な感触が全身を駆け抜ける。


 もしかすると、彼女の舌があめ玉に触れたのだろうか?


 支えていた指先に、押し返すような感触がある。


 絡み合わせたくなる彼女の舌が、じゃれつくようにあめ玉をなめているんだと思う。


 ねっとりとした舌のやわらかさが、あめ玉を通して伝わってくる。


「あま、い……?」


 モモの瞳がぱっちりと開かれて、もれた吐息が俺の手をくすぐった。


 様々な感情をグッとこらえて手を離す。


 抱きしめたくなる感情を必死に押さえ込んで手を離す。


 離したくないけど、離すしかなかった。


「飲み込まずに、無くなるまでなめるんだよ?」


 口移しでもせがむようにくわえられていたあめ玉を俺の指先が軽く押し込んだ。


 口移し、して欲しかった。


 あぁ……、彼女の体温が離れていく……。

 離れて行ってしまう……。


 無防備な彼女に何もしなかった俺を誰でも良いから褒めてくれないか?


「甘いです……。すっごく、おいしい……」


「そっか。それは良かった」


 モモの口の中で、あめ玉がもごもごと転がっている。


 あのあめ玉はきっと、最高の幸せを全身に感じているのだろう。


 天使のような少女の口の中に収まって、柔らかな舌に転がされて、ふっくらとしたほっぺたを内側から押し上げる。


 きっと全身が、言葉に出来ない幸せに包まれているに違いない。


 俺、生まれ変われるなら、あめ玉になろうと思う。


 ステーキじゃ、あめ玉には勝てないと今知った。


 だが、テーブルになって彼女を支えるのか、それともあめ玉になって転がされるのか。


 その二択に関しては、答えが出そうにない。


「頑張ってたら、また食べさせてあげるからね?」


 モモの髪に手を伸ばして優しくなでる。


 彼女はあめ玉がこぼれ落ちないように頬を手でおさえて、幸せそうにもだえていた。


 異世界ってなんて素晴らしいんだろう。


 やはり彼女は、最高にかわいくて、素敵な少女だ。


 モモと一緒にいることが出来て、俺は最高に幸せだと思う。




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★




「部屋の片づけも終わりました」


「うん。おつかれさま」


 俺のもとにテコテコと駆けてきたモモの髪を優しくなでる。


 手の下ではにかむモモが可愛いから、何かご褒美を……。


 なんて思ったが、気が付けば夕暮れ時。


 やはり、モモの掃除姿を眺めるという至福の時間は、時が経つのが早いらしい。


「そろそろ晩飯を食いに行こうか。何か食べたいものは?」


「ぇ……? 2食続けて、ですか? 私も……?」


「そう。冷蔵庫に食材もないしさ。俺が食べさせてあげたいんだよ。というより、モモの食べる姿を見たいんだ」


「私の姿を……?」


 コテリと首をかしげたモモが、唇の前で両手を重ね合わせる。


 ん、やっぱりご主人様ってやさしいですね……。


 彼女の口から、そんな声が漏れ聞こえた。


 ふふっ、と微笑んだモモの頬は少しだけ上がっていて、何だか楽しそうに見える。


「わかりました。ご主人様のお好きなものが食べたいです」


「俺の好きな物か……」


 なんだろ? 比較的、なんでも食うしな。


 好きな()ならモモなんだけどな。

 食べたい()もモモなんだけどな……。


 んー……、そうだなぁ。


「こっちではじめての記念だもんな。ここは豪華にすき焼き――」


 いや、ちょっと待て。

 すき焼きはまずいんじゃないか??


 あまりにも可愛いから忘れそうになるけど、この子、ミノタウロスだよな?


 ミノタウロスって、牛の怪物だよな??


 でもって、すき焼きって牛、だよな?


 考えすぎかもだけど、牛のお肉はやめておいた方が無難かもしれねぇ……。


「ごめん間違い。お寿司にしよっか」


「おすし、ですか……??」


「そう。こっちじゃお祝いの時によく食べるんだ。だから今日はお寿司。俺たちの出会いに乾杯、ってやつ」


「わたしたちの、出会い……」


 目を見開いたモモが、ほんのりと頬を赤らめて視線をうつむかせる。


「わたし、お寿司が食べたいです」


 重ね合わせた手の隙間にのぞくふっくらとした唇が、うれしそうにゆるんで見えた。


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