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12/21

<12>右手を伸ばした、その一瞬

 山になっていた肉をモモのフォークが崩していく。


 ひとかけらがゆっくりと持ち上げられて、ふっくらとした唇の奥にパクンと吸い込まれた。


「んふっ、んふっ♪」


 ゴックンと動いた喉から、楽しげな声が漏れている。

 なめなめしたくなる足がパタパタと動いていた。


 頬に手を当てながら浮かべる幸せそうな表情に、むにむに揺れる胸の膨らみ。


 肉を食べる彼女を見ているだけで、俺の大身槍(おおみやり)が準備を始める。


「ダイヤモンドウルフって、こんなに美味しいんですね!」


「そうだね。俺も驚いているよ」


 まぁ確かに、目の前にあるぷるぷるとした膨らみと比較するとかなり見劣りするが、山盛りの肉も多少は魅力的だった。


 味付けは塩とコショウに、臭み消しのワインくらい。


 それでも肉本来の味が強くて、十分においしかった。


 だけどそんな物よりも、俺は今のこの瞬間を記憶し続けなければ成らない!!


「んん?? ご主人様はもう食べないんですか?」


「あぁ、もうお腹いっぱいだよ。あとは食べていいからね」


「わっ! ありがとうございます!」


 フォークを突き刺して、口に運んで、もちゃもちゃと食べる。


 そこにはマナーらしきものなんてなかったけど、楽しそうな笑みを見ているだけで幸せにしてくれる。



――特に素晴らしいのは、彼女が肉を取るために右手を大きく伸ばしたその一瞬だろう。



 前傾姿勢になった時に見えるプルプルとした谷間。


 伸ばされた手に引っ張られて形を変える右の膨らみ。


 服が引っ張られたことで見えて来る、左胸のまるい輪郭。


 右胸、谷間、左胸。


 そこに出来た高低差を指でなぞりたくなる。


 つー……、と、左肩から左胸、谷間を経由して右胸へと、指を動かしたくなる。


 やはり、彼女は素晴らしい。

 この世界って素晴らしい。


 あらためてそう思う。


「……えへへ、ちょっと食べ過ぎちゃいました」


「美味しかったか?」


「はい! すっごく幸せです! ありがとうございます!!」


「うん。それは良かった」


 最初は泣いてたくらいだもんな。


 本当に幸せって言葉に嘘はないと思う。


 次は何を食べさせてあげようかな?



「さてと。モモ、こっちにおいで」


「んゅ? はい、今行きます!」


 ぴょこん、と椅子を降りたモモが駆けて来てくれる。


 その大きな胸を俺の方に向けて、すぐそばで立ち止まってくれた。


 小さく首をかしげながらも、彼女の目尻はトロンと下がり、幸せそうな表情が見えている。


 さすがは、みんな大好きステーキ様だ。


 たったの1枚だけで、彼女がこんなに開いてくれるなんて……。


 ちょっとだけ嫉妬するよね。


 生まれ変わったら、ステーキになろうか、テーブルになろうか。

 究極の選択だな。


「次はちょっと遠くに行くんだけど良いかな?」


「遠く、ですか?」


「あぁ、俺の生まれ故郷に行くんだ。時間はかからないけど、遠いところだよ」


「んん……??」


 伝わる自信なんてなかったけど、案の定、モモはコテリと首を傾げていた。


 今から日本に行きますよー。

 多分、異世界ですよー。


 ……無理だな。


「説明が難しくてさ、見た方が早いんだ。俺と一緒に来てくれるか?」


「はい、もちろんです。私はご主人様の奴隷ですから」


「うん。ありがとう」


「あっ、お手伝いします」


 立ち上がろうとした俺に、モモが手を差し伸べてくれる。


 これも奴隷の仕事なのかな?


 そんな事を思いながら、彼女の手に導かれるようにゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう」


「いっ、いえ……」


 軽く膝を折って視線を合わせて、モモの髪を優しくなでる。


 彼女は恥ずかしそうに視線をそらしながらも、嬉しそうに微笑んでくれた。


 モモの柔らかな髪に手を置きながら、くるりと振り返る。


「ってことでマスター、発泡酒の追加分をとって来るよ。冷えてるヤツが良いんだよな?」


「おん? おうよ。早めに頼むぜ?」


「了解。スキル次第だけど、長くても3日だと思うよ」


 ここに来ようと思っていろいろと試していた時間がそのくらいだからな。


 さすがにそれ以上ってことはないと思う。


「モモ、準備は良いか? なにか持って行きたいものは?」


「んん?? 旅の支度、ですか?」


「いや、そういうのじゃないんだけど……。まぁ、いいか」


 どうせ、すぐにでも戻って来れるもんな。


「モモ、手を出して」


「?? わかりました」


 不思議そうに首を傾げながらも、モモが手を伸ばしてくれる。


 細くてやわらかい彼女の指に、自分の指を絡ませていく。


 吸い付くようなしっとりとしたモモの手は、やはりほんのりと温かかった。


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