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その8

 とりあえず、C級ランクのボスまでは特に異議はないようだ。

 運営してみて、冒険者の反応を見てから変えるのもありだろう。今のところは、これで問題なさそうだ。


「次はB級ですね。僕としてはオーガあたりが良いかと思ってるんですが、ディアが『それでは甘い』と言うんです」

【僭越ながら……マスターのダンジョンとして、B級ダンジョンからは甘えを許さない姿勢でありたいと。】

「……と、いうと?」

【ケルベロスくらいはご用意させて頂きたいと思っております。】

「ケ、ケルベロスっ⁉︎ S級ランクの、しかも幻獣ではないですか!」


 驚くライシュの言う通り、ケルベロスとはモンスターランクでS級に分類され、滅多に人前に姿を現さない幻獣とされている。

 3つの頭を持つ巨大な犬の姿をしており、上級魔法をこなすほどの知性も持っている為にかなり厄介なモンスターだ。

 見つけるのも難しいモンスターなので、ケルベロスの被害に会ったという話はあまり聞かない。


 唯一、世界的に有名な事件でいえばーー『モンスター召喚』でケルベロスを喚び出し戦力にしようとした愚王の策略により、一晩でその制御を失ったケルベロスに滅ぼされた国があったか。

 以来、召喚魔法で喚び出せるのはA級まで、という制約が魔法に組み込まれている。

 S級は元来、そこらの人間よりも遥か昔から生きている為に知性が高く、また誇り高い存在だ。たかが人間が制御できるなど、到底無理な話だったのだ。


 幻獣の中で珍しくその凶暴さが知られているケルベロスは、実は今とあるダンジョンにいる。

 召喚が困難なS級モンスターだが、居場所が分かっていれば他に方法はある。


「……まさか、奴に頼むのかの?」


 僕の考えを察した様子の師匠が、珍しく顔色を悪くしていた。不老不死である僕らは、体調不良とも無縁である。

 師匠のいう「奴」というのが誰なのか、分かっていない3人は師匠の様子に首を傾げているが、僕は笑って頷いてみせる。


「はい。頼めば貸してくれるかと」

「奴にそんな頼みごとをするのは、お前さんくらいのもんじゃろうなぁ……」


 まぁ、何故かみんな()()を嫌っているからなぁ。話せば面白い方なんだけど。

 師匠も以前に僕と一緒に彼女に会った時は、今のように顔色を悪くして無言だった。彼女も、そんな様子を気にすることなく、むしろ「珍しい奴よ」と僕に笑いかけていたし。


「はぁ……まぁ、君が頼むのなら貸してくれる可能性は高いか。それは良いが、B級ダンジョンのボスとして、ケルベロスはちとやり過ぎではないかの?」

【《魔導師》であるマスターのダンジョンとして、生半可な対応は承認できません。】

「とは言ってものぉ……」


 渋る師匠の横では、ライシュが何やら難しい顔をしている。チラリ、と僕の手元の紙を見やると、恐る恐るといった様子で手を挙げた。


「あの……B級でケルベロスとなると、A級のボスはどうなるのでしょう……?」


 その言葉に、ピタリと固まる師匠。

 聞きたくなさそうな表情になるのに苦笑するも、ディアはどこか誇らしげな雰囲気で告げる。


【もちろん、最後にはマスターへ挑もうというのですーーレッドドラゴンを、提案いたします。】

「…………」


 レッドドラゴンはSS級に分類されるモンスターであり、この世に5体いる古竜種の1体である。

 その名の通り古来より生きる竜であり、最古体のホワイトドラゴンは1万年以上を生きているらしい。最年少のブラックドラゴンでさえ、3000年は超える。

 その中でレッドドラゴンはホワイトドラゴンに次ぐ8000年以上を生きる個体で、古竜種で最も過激な気性をしている。戦闘狂、とまでは言わないが、強い者との闘いを楽しむ傾向にあった。

 火山地帯に住む彼女(レッドドラゴン)と遭遇した時は、急に襲いかかってくるものだから、加減を間違えて()()()()()()ところだった。

 いきなりドラゴンブレスを放つのは危ないと後に叱っておいたので、今では少しくらい落ち着いていると思いたい。

 レッドドラゴンと聞いて、師匠は彼女を思い出しているのか遠い目をして、レイグス親子は驚きに目を見開いていた。


「レッドドラゴン……古竜種、ですか。幻獣よりも、その存在自体が眉唾だと思われていますが」

「おかしな話ですよねぇ。ホワイトドラゴンは霊峰(カラディン)の守護者なのに。長く生きているだけあって、随分と穏やかな方でしたよ」

「……会ったことがあるんですね、ユルクさん。さすがというか、なんというか」


 カラディンを攻略しようとすると、自然と(ホワイトドラゴン)に会う必要がある。

 その時に少し話したが、レッドドラゴンとは違い物腰の柔らかい、思慮深い御仁だった。彼の興味は戦闘ではなく、知識にあったようだし。


【レッドドラゴンはとても闘いを好むお方とのこと。マスターに挑もうなどという愚か者……もとい挑戦者なら、それなりに強者もいることでしょう。彼の方も満足いただけるのではないかと。】

「そうなんですよね。彼女も火山地帯での生活に飽きていたようですし、僕もこれには賛成しているんです」


 A級ダンジョンのボスとしては、少しばかりレベルが高いかもしれないが……まぁ、そこは彼女に加減することを覚えてもらう良い機会かもしれないとも思う。

 S級のケルベロスの次はSS級のレッドドラゴンと続き、師匠は疲れた顔で溜息をついていた。


「まぁ、まだ本人達の了承を得ておらんからの。ほぼ決まってるようなもんじゃが……」

「ユルクさんへの布石だと思えば、適任のような気もいたしますけどねぇ」


 カップを持ちながらクスクス笑うミーナ。師匠も諦めたようにカップに手を伸ばした。

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