その4
各階層の細かいレベル分けは創りながら決めるとして、まずはクラス境となるフリースペースをマークしていくことになった。
「とりあえず、この空間から変えましょうか」
テーブルとイスを撤去、師匠達にも1度広場から通路へと移動してもらう。
僕1人、広場中央に立ち辺りを見渡してながらイメージを固めていった。
そうだなぁ……まずは、もっと開けた空間にしよう。全体で100メートルは欲しいよね。休憩所としても利用するわけだし。
魔法『土津波』を使って、土壁を後退させる。師匠達のいる通路が土砂崩れで塞がらないよう注意しないと。
何かあっても師匠が3人を守るから身の安全はともかく、帰り道はないと困る。
力加減を微調整しつつ、壁を押し広げた。それと同時に天井が崩れ落ちないよう『硬化』を発動。
酷い地響きが耳に障るので、ついでに『指定消音』で地響きだけシャットアウト。
5分程その状態を維持して、フリースペース拡張が終わった。
「相変わらず、ユルクさんの魔法は凄いですねぇ」
「こんな緻密な制御を、並行しながら発動って……宮廷魔法師でも出来る人がいるのやら」
ライシュ親子が言うほど、難しくはないと思う。宮廷魔法師なら問題なく出来るはずだし。
過剰に感心されるのはもう慣れているので、2人の言葉はスルーすることにした。
「内装とかは師匠に任せて良いですか?」
「任された」
休憩所も兼ねるのなら、家具とかも色々と必要になるだろう。費用はダンジョン攻略で得た賞金やらギルド報酬やらが、お互い腐る程あるし。
そういった事は女性がいた方が捗るからと、ミーナは師匠についてもらってレイグス父子を連れて僕は階層分けに移った。
「まずはダンジョンの管理室を作りたいところですね」
「管理室……確か、ダンジョン全体を動かす装置、でしたか。アレは人工ダンジョンには存在しない、自然ダンジョンの象徴なのではなかったのですか?」
「そうです。なので、それをモデルにしたオリジナルを作ろうかと」
その為には、まず最下層まで行かないといけない。
自然ダンジョンの管理室は、最下層のボスを倒し尚且つ厳重に隠された場所にある。
基本的に管理室はボスしか操作することができず、新しくマスター登録を更新することで使えるようになる仕組みだ。
世界中のダンジョンを周り、多くの管理室を見てきた。今なら、それに近いものは作れると思う。
むしろ、自分の使い易いように作れるのだから、既存のものより良い。
「あぁ、でも誰でも使えるようなシステムにはしておかないと。マスターが代わるかもしれませんし」
『それはない』
**********
ライシュ達にも手伝ってもらい、最下層まで距離を大まかに計算する。
このフリースペースはB級のC級の境、150層目になる予定。なので、あと150層分。
そしてF~CとB~Sだと必要となる空間が違ってくる。高クラスになると、敵も強く大きく、罠も大掛かりになるからね。
3人であーだこーだ議論して、大凡の数字を出した。
「そういえば、どうやって最下層まで? ここの魔物のように穴を掘って行くんですかね」
「まぁ、そうです」
ただ、穴を掘るというよりはーー。
「ぶち抜きます」
『はい?』
ライシュ親子が不思議そうに首を傾げる。
しかし、ライシュは昔に一度見たことがあったからか、すぐにハッとして顔を青褪めた。
そしてカイシュの腕をガシッと掴むと、僕からズリズリ距離を取る。
「父上?」
まだ理解できていないカイシュが父の行動に更に首を傾げる中、魔法を発動させる。
言わずとも距離を取ってくれたので、遠慮なく魔法『突貫』を纏わせた右手を地面へと叩きつけた。魔法の気配で察したのか、慌てて師匠が障壁をみんなに張っている。
地面に掌が触れた途端、凄まじい音をたてて穴が穿たれた。その衝撃波で、フリースペースの天井からパラパラと土が零れ落ちる。
山全体も軽く震え、少しの間足下が不安定に感じた。
それも10秒ほどで落ち着き、静けさが戻る。
「さて、じゃあ僕が先に降りますので、呼んだら降りてきて良いですよ」
「さて、って……」
「そんな何事もなかったかのように……」
「ふふ、ユルクさんは変わりませんね」
「少しは変わってほしいところなのじゃがなあ」
穴へと飛び降りる際に4人の言い草が聞こえたけど、言い返す間も無く身体は下へと落下した。
『重力操作』の準備をしつつ、『ライト』を先に落下先へと飛ばす。自然に任せて落下しているから、到着は割と早かった。
地面から100メートル程から『重力操作』で身体を軽くして、静かに着地。
次は先程のフリースペースより、広めの空間を作らなくては。管理室を兼ねるからね。ダンジョン挑戦者との戦闘も考慮しなくちゃ。
そうなると……。
「えっと……『空間圧縮』は使うよね、『時間操作』も基本だし……一応洞窟内だし、『流星群』は使わないほうが良いかな。となると『大煉獄』も駄目……? いやドラゴンブレスが大丈夫なんだし……確かアルカナに空調管理システムがあったから、それを応用して……」
冒険者との戦闘を想定して、必要となるであろうスペースを割り出していく。懸念項目は、主に魔法の効果範囲。
まぁ、創った後でも必要になれば拡げることは出来る。そういうわけで、とりあえず半径1キロの半球体をイメージして『土津波』と『硬化』を発動。
広いので先程よりも出力を上げて、ガリガリ壁を掘り広げていった。
15分くらい掘り進め、納得いく空間になったところで師匠に念話を送る。
〔師匠、そっちに『ゲート』開くので降りてきてください〕
〔はいよ〕
広場の中央あたりで『ゲート』を繋げると、最初にカイシュが顔を出した。
「凄いですね! この短時間でこれほどの空間を」
「さっきやったものが、広範囲に変わっただけですよ。そんなに難しいことじゃありませんから」
キラキラした瞳でこちらを見るカイシュには申し訳ないが、そこまで大層なことではない。穴を掘るだけなら兎にだって出来ることだ。
続いて出てきたライシュも息子と同じく、ミーナは興味津々といった様子で、師匠は呆れた表情を浮かべ周囲を見渡している。
「これはまた……」
「ユルクさんを見ていると、魔法がとても簡単なもののように思えてきます」
ミーナのいうように魔法は存外簡単なものが多い。危険性をちゃんと理解して、自分の力を過信しなければ問題も少ない。
ただ生まれつき魔力をどれだけ持っているのか、それで魔法を使えるのか変わる為に誰でもというわけにはいかないけど。
うーん……そのうち、誰でも魔法が簡単に使える魔導具でも作ってみようかな。ソロでダンジョンに潜る剣士も、魔法しか効かないモンスターを相手できるようになるし。