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その3

 ライシュとミーナとも合流して、とりあえず山の周りを視察することに。

 あまり大人数での移動は面倒なので、カイシュについてきていた護衛の兵士さん方には近くの小屋に待機してもらう。


「いやぁ、こうしているとお二人について旅をしていた頃を思い出します」


 ミーナの手を引きながら歩くライシュは、ワクワクした様子を隠すことなく辺りをキョロキョロしている。

 自分の領土だったのだから、来たことある場所だろうに。


「いいなぁ、父上と母上は。私もユルクさん達と冒険がしたいです」


 そんな両親を羨ましそうな目で眺めているカイシュ。

 さすがにカイシュまでは連れて行ってやれないからなぁ。そこはカイシュも良く分かっているから、ライシュのように無謀に飛び出したりはしない。

 ライシュが辺境伯の地位を維持できたのは、単に彼のご両親、先先代当主が有能であったことと屋敷の使用人達の協力あってこそ。

 カイシュが屋敷を出てしまえば、もう屋敷で指揮する人間がいなくなってしまう。

 そうなれば、辺境伯としての仕事を全うできず家はお取り潰しになるかもしれない。

 まぁ、いざとなったら僕からジオに掛け合うことも出来はするんだけど。カイシュは辺境伯に誇りを持っているし、その必要はなさそうだ。


「お主ら家族は本当に珍しいのぉ。普通、貴族は危ない場所なんかに行きたがらないもんじゃが」


 先頭を進む師匠が首だけ振り向き呆れ顔を見せる。

 僕もこれまで何人かの貴族に会ってきたけど、確かに「危険は他所で」って感じだった。

 でも、3人の気持ちは分かる。冒険は楽しいからね。


「ふふ、ユルクさんとシャルダンさんがいらっしゃるのに、危ないことなんてないですから」

「カイシュ、君もB級冒険者になったんでしょう? しかもミーナもC級になったとか」

「えぇ! ライシュに手伝ってもらってですけれど」


 そう微笑むミーナの背中には、かなり使いこまれている弓矢がある。

 一緒に旅をしている時に、女性でも使いこなせそうな武器ということで教えたのだけど、今では冒険者の中でも有数の使い手だ。

 剣の使い手と弓矢の使い手として、レイグス夫婦は冒険者ギルドで有名だったりする。


「ユルクさんが創ったダンジョン、是非とも最初の挑戦者は俺達に!」

「そうですねぇ……テスターとしても、こちらから頼もうかと思っていました」


 まだ現地の視察の段階で、気が早いライシュに苦笑が漏れる。

 グルッと山の周りを歩き、ある場所で立ち止まった。そこには、地下に続くちょっとした洞窟がある。

 この洞窟自体は、元々モンスターの巣穴として使われていたもの。そのモンスターはすでに討伐されている。

 『ライト』の魔法で近くに光の玉を出現させた。洞窟の中は真っ暗だからね。


「特に気配は感じ取れないけど、一応各自で注意してくださいね」


 そう声をかけてから、僕は洞窟を(くだ)っていった。その後からライシュ、ミーナ、カイシュ、そして師匠を最後尾として続く。

 住んでいたのがC級モンスターだったから、穴の幅は大人が横並びに3人は同時に通れそうなくらいある。

 凸凹(でこぼこ)と足場は悪いが、慣れれば気にはならない。むしろ、ダンジョンならこれくらいのハンデはあった方が面白くなるだろう。

 洞窟は基本的に一本道、ひたすら下へと向かっていくだけ。なので、そう時間もかからず行き止まりに辿り着いた。

 道が開け、20メートル程の空間に出る。ここがモンスターの生活場だった部分だ。

 その生活の名残で、寝床なのか草が溜められている箇所があったり、餌となった何かの動物の骨が散らばっていたり。

 風の魔法を操って、それをとりあえず広場の端へと一箇所に集めた。


「さて、じゃあこれを中心として創っていきますか」


 広場の真ん中に簡易のテーブルとイス5つを生み出す。

 全員が席についてから、テーブルに白紙を広げた。その中心に小さく丸を描く。


「これが、この空間として。僕としては……そうですね、大体300層くらいにしようかと思っています」

「300⁉︎ 確か最多層のアルカナでも250層じゃありませんでした?」

「正確にいえば、アルカナは243層ですね。あそこはC級ダンジョンにしては広いですが、そこまで深刻なトラップはありませんでしたねぇ」

「危険度はないが、休みなく連発されるのは堪えたぞ……」


 アルカナを思い出しているのか師匠がゲッソリとした表情を浮かべているけど、僕は首を傾げる。

 僕にとっては色んな種類のトラップを堪能できて、凄く満足したダンジョンだったんだけど。


「何を考えているのかは大体分かるが、君はどんなダンジョンじゃろうと楽しめるじゃないか」

「ユルクさんですもんね」


 カイシュの言葉に3人もうんうんと頷いている。僕のことを何だと思っているのだろう。

 どんなダンジョンでも楽しめるのは否定しないけど。


「僕が考えているのは、一つのダンジョン内にE級からS級まで、全てのランクの特色を取り入れた構造にしたいな、と」


 僕は紙に三角形を描き、先端にE、底辺にSと書き込む。

 この空間は、ランク的に難易度が跳ね上がるとされるCとBの境目にしたいと考えている。


「それは面白いと思うが……S級もかの?」


 S級ダンジョンは世界に3つ。カラディン、パルテナート、グレイスエンドしか、今のところ確認されていない。

 それぞれ「霊峰」「海底都市」「魔王城」という別名が存在し、何となくどういった場所なのか想像できると思う。

 何故S級ダンジョンがこの3つしかないかというと、そのランク特色が「強力なボスが存在する」という条件があるから。

 A級やB級でも最下層までいけば()()()()()強いボスはいるが、それとは桁違いのレベルだ。分かりやすいのだと、魔王城(グレイスエンド)のボスは魔王本人。

 そんなレベルのモンスターが、そうも大量にいても困るよね。

 そういった特色があるから、これまで人工ダンジョンはA級までしか作られていない。


「ボスモンスターはどうするんですか?」

「それは僕が」


 それが一番、手っ取り早い。

 他所から連れてこようにも、S級相当のモンスターなんてそう簡単に捕獲できないし。

 『モンスター召喚』の魔法も、A級までしか召喚できないという制約がある。


「…………え?」

「ん? ですから、僕がボス代わりを。不老不死ですし、モンスターと変わらないかなぁ、と思うんです」

「攻略させる気ないじゃないですか……」


 良い案だと思ったんだけど、4人に溜息をつかれた。

 駄目かな? 管理する為にもほぼ常駐する予定だし、不測の事態にも行動できて便利だと思うんだけど。

 まぁ、確かにS級ダンジョンを名乗るのはボスが弱過ぎるよね……。攻略する気が湧かないよね……。


「違うからの? ボスが弱いからじゃないぞ、強過ぎるからじゃぞ?」

「《魔導師》ユルクに勝てるのなんて、それこそ勇者とか魔王とかじゃないか?」

「あぁ、でも《魔導師》に挑戦できるというのは、冒険者にとっては光栄なんじゃありませんか?」

「私もそう思います、母上。特に魔法師は(こぞ)って挑戦するのではないかと」


 みんなに好き勝手言われたけど、僕がボス代わりとなる案は受理された。

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