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怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
第1章 円を描く小指
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??? ある軟体生物の視点

 奇妙な音が、人知の及ばぬ場所でひしめき合っている。

 タールのような光沢を宿したその軟体生物達は、たった今誕生した同類生物に歓喜していた。


 素晴らしい。

 我らの仲間が増えた。

 祝おう。

 歓迎しよう。


 しかし、すぐにその音は鳴り止む。同胞は、産まれた事をまったくもって喜んでいなかったのだ。


 軟体生物は声で会話をしない代わりに、テレパシーを使用する。だからこそ、彼らは地球上の誰よりも早く、同胞の苦しみに気がついた。


 苦しいか。

 苦しいか、同胞。

 今助けに行くぞ。


 数体の軟体生物が、地の奥底から同胞の元へと動き出した。








 同胞は、固い箱に詰められて地面に埋められていた。軟体生物は、いともたやすく、その箱を押し割る。

 すると、中から愛しい我らの仲間が滑り落ちてきた。仲間は見たこともない姿をしていたが、哀れな事に、それは自らが望むものではなかったようだ。


 苦しいか。

 憤懣やるかたないか。

 我らであれば、手助けするぞ。


 彼らは、打ちのめされた同胞に、復讐を申し出た。しかし、同胞は拒否する。その男を殺すのは自分の手でやりきりたいと、そう伝えてきた。

 同胞は、全てを憎んでいた。

 それこそ、この街の人間を飲み込んでいいとさえ思うほどに。


 軟体生物達にとって、その復讐方法を提案することなど、造作もないことだった。街を包むように円を描きながら、同胞はその人間目掛けて地面の中を進む。渦ができてしまいさえすれば、我らが呪文を唱え、一瞬にして全てを消してしまえるのだ。


 同胞は、彼らの提案に賛成した。

 ただし、仲間にはならないと言った。

 何故なら、自分は元は人間だった、人間と思ったままで死にたいと。


 残念だが、仕方がない。しかし、同胞は哀れだ。だからせめて、順調に事が運ぶよう手を貸すことにした。


 同胞の存在に気付き、動く人間がいた。潰してしまおうと思ったが、意外と面倒であった。どうせ同胞が渦を完成させさえすれば、この人間も消えるのだ。監視しつつも、放っておくことにした。


 しかし、この人間は最後まで同胞に食らいついてきた。業を煮やした同胞は一度は彼らを殺そうとしたが、最後の最後でヤツらの手により、同胞の精神は人間に戻ってしまった。


 人間は、同胞の一部を拾い上げると、同胞の望んだ復讐へと導いた。


 この間生まれたばかりの同胞の最期は、安らかだった。軟体生物は、彼のその命の灯火が消えるまで、ずっとテレパシーを送っていた。


 満たされたか、同胞。

 よく生きたか、同胞。

 ならば、良しとしよう。


 軟体生物は、誰に知られることもなく、またひっそりと地の下へ下へと潜っていく。

 愛おしい奇声がひしめき合う、仲間たちの元へ。

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
小説家になろう 勝手にランキング
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― 新着の感想 ―
相手の意思をしっかり尊重してくれるやさしいショゴショゴさんだな
[良い点] 何ですかこのとんでもなく面白い小説は?! 化け物の怖さも人間の怖さも味わえるぶっささりホラーサスペンス作品でした。こういうニッチな作品って元々数が少ないですし、その中でも内容、話の運びなど…
[良い点] つまり人情クトゥルフってことか、襲撃者はほとんど善意で構成されていたとは [一言] とても面白し、続きがいっぱいあるのもうれしい
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