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怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
第1章 円を描く小指
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番外編 阿蘇さんの訪問

「兄さん、いるか?」


 とある平日の昼下がり。たまたま近くまで来ていた俺は、生活能力が皆無な兄の様子を見に事務所を訪れていた。

 しかし、ドアを開けるなり漂ってきた異様な空気に、思わず半歩後ずさる。


「何事?」


 事務所にいるのは、ソファーでぐったりしている景清君と、散らかった机に陣取る兄。一見で、この空気は景清君が作り出しているのだと理解できた。

 ようやく顔を上げた兄が、俺の疑問を察し、景清君を指差して言う。


「みりあちゃんにフラれたらしい」

「誰だ」

「彼女。今は元カノか」

「よくわからんが兄さんのせいだろ」

「なんでも決めつけるもんじゃないぞ」

「大方事件に巻き込んだ結果、プライベートに弊害が出たんじゃねぇか?」

「弟が鋭い」

「兄さんは一回ナイアガラレベルの滝に打たれた方がいいと思う」

「それ死ねって言ってるも同義だからな?」


 兄のことは無視し、景清君の元へ行く。涙も枯れ果てたのか、スマホを左手に持ってソファーでうつ伏せになっていた。

 その肩を叩き、声をかける。


「なんでフラれたんだ」


 その質問に、景清君はよろよろと顔を上げた。


「……お金持ってない人とは付き合いたくないって……」

「ンだそりゃ?」

「家に来させちゃダメだと思って、家賃払えなくて部屋引き払ったって嘘ついたら、そのまま……」


 わかったような、わからないような。だけど、別れた理由が金の切れ目なら、それフラれて良かったんじゃねぇか? ロクな女じゃなさそうだ。

 あー、でもそれまだわかんねぇかな。どう言ったもんか。


「……今回は相性が良くなかったんだろ。景清君なら、すぐにもっといい子が見つかるよ」


 実際、性格と容姿から考えて、この子はよくモテるだろう。嘘の励ましを言ったつもりはない。

 対する景清君は、淀んだ目でぼやいた。


「……一度好きだって言ってくれた子に拒否されるのって、精神的に来るんですよね……」


 おや、結構重症だ。この子は思ったよりも自尊心が無いな。

 こういう時、自尊心で登山ができそうな兄ならどう言うんだろう。気になって、兄を見ると……。


「よし、できた」


 プリンターで紙を打ち出していた。何してるんだ。

 それを人差し指と親指で挟み、景清君の目の前にチラつかせる。


「これ、今月のバイト代の明細書。出張だったり時間外だったり、その他諸々のボーナスをつけました」

「……」


 その紙を見た景清君の目の色が、みるみるうちに変わる。そして最後には勢いよくソファーに座り直し、紙をひったくって穴が空くほど見つめた。


「……ゼロが一つ多くないですか?」

「それぐらいの働きはしたよ」

「曽根崎さん!!」

「ハハハ、これからもよろしく頼む」

「こちらこそお願いします!!」


 一発で元気になった。なんだこいつら。


「阿蘇さん! 励ましてくださってありがとうございました!」

「お、おう……」

「よーし、今日も作りますよ! あ、良かったら阿蘇さんも食べてってください!」

「うん……」


 兄さんを見ると、満足気にうんうん頷いていた。これでいいのか、こいつら。滅茶苦茶相性いいな。

 ……景清君は、また事件に巻き込まれるんだろうな。それこそ、お人好しと守銭奴っぷりを兄に付け込まれて。その時のことを思うとため息がこぼれそうになったが、なんとか飲み込んだ。


 まあ、楽しそうだし、どうでもいいか。


 やたら青い窓の外を見ながら俺は、景清君の作る料理を楽しみに待つことにしたのだった。



 番外編 完

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
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