ロズの過去(後半)
ロズ視点です。後編 途中から視点がアキト視点に戻ります。
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自分が活躍できていることに、まるで初めてモンスターに勝った時のように嬉しかった。
初心者を成長させるのも楽しいけれども、やっぱり同じぐらい、又はそれ以上の実力の人とパーティを組んでやるのはいい。
そう、浮かれていた。
彼が初心者だというのを忘れて。
10階層ごとにボスと呼ばれる部屋があり、ボスを倒すと次の階層に移るか地上に戻るかを選択して、目的地まで転移の湖に入る。
それ以外の階層では、湖に飛び込むと次の層にしかいけないようになっている。
しかし、特殊なシステム「中の間」と呼ばれる層がある。
ダンジョンのちょうど中間の層のあたりにくると、ボス部屋が湖の前に立ちはだかる。
そして、宝箱をゲットできる。
ただし、これは初めてクリアした冒険者の特権で次の人からはゲットできない。
だが、始まりのダンジョンだけは違う。
あれは、罠なのである。
一度入れば、無数のモンスターに囲まれて食い尽くされる。
そして、この情報を知らない中堅冒険者は嬉々として
宝箱を開けようとその部屋に入り次々と死んでいった。
その部屋は、〈欲望の部屋〉と呼ばれた。
一度、勇者が挑んだことがあった。
もしかしたら、その罠にかかって勝てば宝箱を得ることができるのではないかと。
当然、すぐに勝つことができた。
だが、宝箱は消えた。
そして、罠なのだとわかった。
今では、ほとんどの冒険者が知っていることである。
しかし、彼は初心者だった。
知らなかった。そこが、〈欲望の部屋〉だと。
当然だ。
私が教えなければならなかった。
ギルドの受付の職員も、まさか1回目でここまでたどり着くと思わなかったのだろう。
私のミスだ。
彼が、宝箱のある部屋に入る瞬間に私も、その部屋に飛び込むこんだ。
すぐに、入り口が閉ざされオークやトロールが出てくる。はっきり言って、この数の敵を倒すことは無理だ。でも、この子だけはこの部屋から出してあげたい。かつての仲間のように死んで欲しくない。
彼は、とっさにファイアウォールを全方向に展開する。
こんな方法じゃダメだ。
たしかに、トロールは火が苦手なので近づいてこないが逆にダメージを入られていないということだ。
本来なら、雑魚を先に倒してボスに集中するのも一つのやり方だがこの罠は違う次から次へとオークが湧き出してくるのだ。トロールを倒さない限り、永遠にオークがでつづげる。
こちらが、消耗してしまいじりじり倒されるのは目に見えている。
「私が惹きつけている間に、逃げて!」
と叫んだ。彼にはどうしても生きて欲しかった。
しかし、彼は自分だけ逃げるわけにはいかない。
という。
なら、ファイアウォールはいつまでもつのかと聞くと
ほぼ永遠らしい。
やっぱりすごい。MP回復できるそうだ。
今までも、どこにそんなMPがあるのかと思っていたけれど回復していたなら納得だ。
なにやら、彼は考え込んでいた。
そして、ファイアウォールを動かし始めた!?
そんなスキル聞いたことがない。
しかし、集中しているようなので聞くこともできない。
ファイアウォールをゆっくりと、端まで動かしていく。なんてことだ。敵が近づいてこないから、自分から近づけようそう考えたのだろう。
面白い。皮肉にも、こんな状況なのになぜか笑ってしまった。
ファイアウォールが端に辿りついた瞬間、走って攻撃しようとした。しかし、その時、無慈悲にもトロールがもう一匹出てきた。
仕方なく。ファイアウォールの中に戻る。
しかし、彼は余裕そうだ。それに楽しげに笑っている。なんか、彼の顔を見ていると不思議と不安がなくなってしまった。
何回もしていると、急にスピードが早くなりあっという間に倒してしまった。
ああ、終わったのか。彼はそういうと、倒れてしまった。
そして、宝箱は消えた。
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「ん?ここは?」
「25階層の宝箱の罠の部屋よ。あなたは倒したの。おめでとう。まさか、倒せるとは思わなかったわ。」
「宝箱は?」
「この部屋はね。欲望の部屋と呼ばれていて、罠なのよ。モンスターを倒すと、宝箱がすっと消えたわ。」
「誰かがもう、宝箱を開けてしまったということですか?」
「それはないはずよ。中の宝箱と開けると、最終階層のボス部屋に入る前の扉に埋め込まれた宝石が赤く光るのよ。それが、このダンジョンは光っていないの。だから、どこかに宝箱があるはずだって一時期話題になっていたこともあったけれど見つからなかったの。」
おかしい。絶対に、ダンジョン一つにつきこの部屋は確実にできるはずだ。
もし、あるとしたら。
この部屋の奥。
爆発
ドカンと轟音が鳴り響き、奥の部屋が見えてきた。
そこには、さっきと同じ宝箱があった。
どうやら、今回は罠がないようだ。
「えっ?嘘ーーーー!こんな簡単に開くなんて。」
ロズさんが驚いている。
キラキラと光り輝く宝箱を開けると、今にも飛び出してきそうな二頭の獅子の頭がついた魔法のスティックというか、杖があった。誰が見たとしても、これはすごいものだとわかる雰囲気を醸し出していた。
この杖には、スキルが付いていて魔法を2つ同時に出すことができるようだ。例えば、ファイアボールだと一個出すMPで2個出せるようだ。
これはすごい。単純だけれどだからこそとても強い。
そうして、そのあと、20階層まで戻り転移して地上にたどり着いた。
ギルドに報告に行くと、受付の人が
「昨日は帰ってこなかったので、心配しましたよ」
と言う。
「それで、その立派な杖はどうされたんですか?」
「実は、始まりのダンジョンの中間層で見つけた杖で《二獅子杖》と言う真の宝箱から出たものです。」
真の宝箱とは、一つのダンジョンに二つしかないと言われる宝箱で一度開けると復活しないと言われている。
アキトのダンジョンには、現在ないが三年つまりダンジョンバトルが解禁されると同時に最も深い層に宝箱が自動的に発生する。正確に言うと、宝箱がある部屋自体が出来上がる。その後に、新しい階層を作るとこの宝箱も自動的に下の層へと下がっていくことになる。
そして、ダンジョンが26階層以上になると中間層にも宝箱の部屋が出現するようになっている。
「な?? もしかして、25階層までいかれたんですか?」
「そうなんですよ。最初に宝箱の中身を報告しとこうと思ったんですけど、25回層までいけましたよ。」
受付のお姉さんはとても驚いていたけど、やがて落ち着き、
「それでしたら、こちらにどうぞ。」と、丁重にギルドの奥へとロズさんと一緒に案内された。