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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第三章 新たな縁 フォルセール攻防編

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第99話 ぶっ殺すの連鎖!

 翌朝。


「ゆっくり休めと言ったではないか」


「家にいる方が激務になりそうでしたので」


 執務室に入ったシルヴェールは、なぜか出仕してすでに仕事をしているベルナールの姿を見つけていた。


「……そうか。だが今日のところは客間で休み、執務は控えるように」


 ここ数か月の間で、一番の疲労感を表に出したベルナールを見たシルヴェールは、やや申し訳なさそうな声でベルナールに命じる。


 ベルナールは素直にその命を拝領するも、休憩する前に話しておきたいことがあるようだった。


「感謝いたします。ですがその前に一つ報告したいことが」


「何だ? 今さら改まって」


 すぐに予想はついた。


 どのような困難を目の前にしても、顔色一つ変えずに冷静に対処してきたこの国随一の豪胆、かつ優秀な男の表情が、まるで初めて会う人を直視できぬ幼子のように惑っていたのだ。


「レナと結婚することにいたしました」


「分かった。良ければその理由も教えてもらえるか?」


「家を守る子を成し、主君を守る忠臣を残し、次代の助けとなる友を育てることもまた忠義の一つと諭されました」


「そうか」


 シルヴェールは短く、だが嬉しそうに答え、ベルナールに退室を命じる。


「この年になって結婚することになるとは思ってもみませんでした。しかし面と向かって、貴方は私より早く死ぬのですから、と言われてしまっては如何ともしがたく」


「男は強くなり、女はしたたかになっていく。これからも一筋縄ではいかぬ戦いが待っているぞベルナール」


「心しておきます。それでは」


 そして執務室のドアは閉められ。


「二人を呼んでいたことを私に黙っているとは、陛下もお人が悪い」


「申し訳ありません陛下。見つかってしまったのです」


「いてててて! 耳を引っ張るのは止めてくださいよ団長!」


 しかし数秒もせずに再び開かれた扉の向こうにリュファスとロザリーを連れたベルナールの姿を見て、シルヴェールはそっと溜息をついた。



 半時ほど後、かぐわしい匂いが漂う広間。



「その顔はどうしたリュファス」


「ジョーカーとの戦いで気を失った後、目覚めたらいきなりロザリーに殴られました」


「仕方ないのです。バアル兄様からの指示なのです」


 そこにシルヴェールたちは集まり、そろって食事をとっていた。


「バアル兄様とは懐かしいな。我々が王都に偵察に行った時以来か?」


「違うのです団長! ちょ、ちょっと間違っただけなのです!」


 食卓の上にずらりと並ぶ料理の数と同じように、食事は賑やかに進んでいく。


「気にすることは無い。ジョーカーもろとも自爆しようとしたリュファスを助けてもらったのが理由だろう」


「あ、ええと、その……」


「どうしてそれを知っているのかと言うことか? 昨日私より遅く帰宅したレナに聞いただけだ。何やら情報を集めていたらしく、それで遅くなったそうだが」


 そこでベルナールはちらりとシルヴェールを横目で見つめるも、その先にいるシルヴェールは素知らぬ顔でワイン水を口にする。


「どうしたベルナール? 食事をするのも仕事のうちだとベルトラムに怒られてしまうぞ」


「家ですでに食べてきましたので。それでリュファス、どうだったのだジョーカーとの戦いは」


 そして話題を逸らしたい人々が、次々と会話の主導権を渡していく中。


「……一言でいえば実りあるものでした。良いことも……悪いことも」


 最後に受け取ったリュファスの口調の重さに、戦いの直後にしてはどこか軽く和やかだった場の雰囲気は一気に引き締められた。



「つまり今のお前は巨神族ティーターンの一員ということか」


「そうなります陛下」


「と、なるとロザリーも?」


「私はアイシュレーなのです。厳密に言えば、私を神代として降りている状態ですが」


「俺の頭の中に響いてきた声ってお前かよ!」


 魔族との戦いの説明がリュファスの口からされ、細かい捕捉がロザリーから成される。


 どうやらリュファスに力の使い方を教えていたのは、ロザリーに降臨したアトラースの娘たちの一人だったようで、それを知らなかったリュファスはこの頭の上がらない双子の妹に何かを諦めたような叫びをあげた。


「でもリュファスも大したものなのですよ。なにせあのジョーカーの挑発に、我を失うことなく対処したのです」


「ほう、本当かねリュファス」


「そんな顔をしないで下さいよ団長。ジョーカーは戦う前、相手に満足な力を出させないように何かを仕掛けてくる。そう教えてくれた団長のおかげですから」


「なるほど」


 新しい知識を目の前にしたからか、すっかり元気を取り戻したベルナールにリュファスはたじろぎ、その横でリュファスの成長を喜ぶかのようにロザリーが微笑む。


「特にジョーカーがリュファスのことを愚鈍とか、自分の考察を推敲しないまま相手に押し付けるとか言った時はどうなるかと……」


「え、それ挑発だったのか?」


「え?」「え?」


 しかし次の瞬間、ロザリーは笑顔のまま硬直してしまう。


「リュファス」


「何でしょう団長」


「耳を塞ぐな。いいか愚鈍というのはだな……」


 そして説明を聞きたくないとばかりにぶんぶんと振るリュファスの顔を、ベルナールは両手で挟み込んで固定したのだった。



「あの野郎ブッ殺してやる! 地の果てまで追いかけてでも絶対にだ!」


 数分後、リュファスは殺意に燃えていた。


 館の中庭に踊り出で、アダマス剣を握りしめて天へと突き出している後ろ姿にベルナールとロザリーは冷ややかな視線を送り、リュファスの今後について話し合う。


「無知なるものは幸いかな。今回はリュファスの教養の無さがプラスに働いたということだが、次回からはどうなるかは分からん」


「ですです」


「知っていて尚それを乗り越えられる心、乗り越える術を編み出す知恵が必要なのだが……リュファスにそれを教える時間があるかどうか」


「最近は女遊びをポセイドーンに教え込まれたみたいで、夜にちょくちょく討伐隊の野営地を抜け出してるですから、夜間外出で治安を乱したとか言いがかりをつけて拘束すればいいと思うですよ」


「ふむ、気は進まんがそうするか」


「ですです」


 含み笑いを漏らしつつ邪悪な笑顔を浮かべる二人。


 シルヴェールはそんな二人を恐ろし気に見ると、庭で素振りを始めたリュファスに声をかける。


「良いことは分かった。では悪いこととは一体何なのだ?」


 シルヴェールの問いに、答えはなかなか返ってこなかった。


 リュファスもロザリーもお互いの顔を見やり、程なく庭に出ていたリュファスが両手を持ち上げたかと思うと、両の頬から甲高い音を立てて広間の中へと戻ってくる。



「フェルナン将軍閣下、十年前の王都攻防戦にて市民を守るため、討ち死にしたとのことでございます」



 硬く張り詰めた表情、すぐに崩壊する危険をはらんだ感情。


「……分かった」


 リュファスの短い説明を聞いたシルヴェールは、ごく僅かな動揺の後、短く了承の意を返した。



「では俺たちはこれで」


 あの後リュファスはフェルナンが死に至った詳しい経緯、そして自警団がどうなったか、副団長であった八雲がどうなったかの報告を終える。


 そして貴重な情報を聞き出したことにより、国王であるシルヴェールから直々に褒めの言葉をかけられるも、その顔はうかないものだった。


「あのジョーカーからよく情報を聞き出してくれた。褒賞は弾むぞ」


 しかし褒賞と聞いた直後、その顔は一変する。


「褒賞は王都奪還の先鋒役にて」


「確約はできぬが考慮しておこう」


 そう答えるシルヴェールにリュファスは一礼し、背中を向ける。


 その背中を心配そうに見つめたロザリーは後を追おうとし、だが何かを思い出したのかその足を止め、シルヴェールに問いかけた。


「あの、アルバ……候は、アルバ候の御容態は大丈夫なのですか? お食事の際にも姿を見せられなかったですが」


「どうしたいきなり。アルバトールは確かに朝食に姿を見せなかったが、それは戦いの疲れを癒すよう今日一日の休養を命じたからだ。姿が見えないのはそのためだ」


「そう……なのですか」


 ロザリーは俯き、やがて顔を上げると先ほどのリュファスよりやや深めの一礼を残してその後を追う。


 追いつき、会話を交わし始める双子をシルヴェールは愛し気に見つめると、後ろで待つベルナールへ厳しい視線を向けた。


「アルバの容体は?」


「戦いの間、そして戦いが終わってからもベルトラムが付きっきりで看ております。我々にできることはありませぬ故、見守るしかありますまい」


「そうか」


「それと陛下、先ほど動揺されたのか、アルバ候のことを家名までお呼びになられておりました。ロザリーに勘付かれたかもしれませぬぞ」


「気をつけよう」


 シルヴェールは疲れた表情でそう言うと、ベルナールへ休憩するように命じ、自分は執務室へと向かう。


(我々にできることは……無い……)


 その途中、そのようなことを思いながら。



 昨日、ジョーカーたちが撤退する少し前。


 アルバトールがいきなり謝罪の叫びを上げたかと思うと力を暴走させ、結界の気配が変わったのだ。



(クレメンスの顔を見る限りでは、あいつ一人ではアルバを抑えることはできそうになかった。ベルトラムがいてくれたから良かったようなものの……もし再び力を暴走させたとき、アルバはどうなるのだ)



 堕天。


 天使にとって絶望的な反転、魔神への転生とも言うべき現象。


 完全に堕天した状態から戻った天使は未だかつて存在しない。


 あの偉大なるルシフェルも、メタトロンとかつて並び立っていた天使、サンダルフォンでさえも。


(ベルトラムはすぐに治ると私に言った……だが今朝になってもアルバは……我々にできることは……本当に何も無いのか……)


 シルヴェールは重い足を引きずり、執務室へ向かった。


 国政を預かる国王として。


 どのような体調であろうとも、国を動かす自分が止まれば国の発展どころか国の再生も止まってしまうのだと承知しているゆえに。


(そうですね父上。そうだろうフェルナン! 我が愚考によって、我が愚策によって死んでいった民たちよ! 私は立ち止まらぬ! 何度でも立ち上がる! お前たちの死が、私をより成長させたのだと証明するために!)


 そしてシルヴェールは次の一歩を力強く床に叩きつけ、執務室の扉を勢いよく開けたのだった。



 その頃ヘプルクロシアでは。



「ええっ!? 魔族帰っちゃったの!?」


 そのような悲鳴が、赤茶色の髪を持つ一人の少年から発せられていた。

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