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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第三章 新たな縁 フォルセール攻防編

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第97話 アルテミスの猟犬!

 リュファスたちの前から消えたバアル=ゼブルは、さほど時を置かないうちにフォルセール城から数㎞ほど離れた街道に姿を現していた。


[なんだよ待ってたのかジョーカー]


[虜囚が出たとあっては、今回の威力偵察の意味が無くなる可能性があるからな]


 そこには見慣れた道化師姿の堕天使が待っており、抑揚のない出迎えをするジョーカーに対してバアル=ゼブルは軽く手を上げ、形だけの挨拶をする。


[案外簡単に逃がしてくれたぜ? お前らが退いたから城内に敵がいなくなったって勘違いしたのかもしれないけどな]


[あのアルバトールが、お前を見逃す無能になったとでも?]


 ジョーカーの指摘を、バアル=ゼブルは軽く肩をすくめただけで済ませる。


[多少の犠牲はあったみたいだが、こうして無事に王都に戻れることを喜ぼうぜ]


[多少なものか。上位魔神だけでも五体、下位魔神に至っては十数体を超えた犠牲が出たのだぞ。しかもせっかく戻ってきたハルファスは再び転生ときた。何をしているのだあの大馬鹿者は]


 だが続いてバアル=ゼブルが何気なく放った一言に、ジョーカーは即座に噛みついていた。


[あぁ? アルバトールが前線まで出張ってきたわけでもないのに何やってたんだよお前ら]


 軽口で返すバアル=ゼブルに対し、ジョーカーの口は重い。


[我々が攻め込んできているという情報を、奴らはオリュンポス十二神に隠していたようだ。アテーナーだけならまだしも、よりにもよってポセイドーンがいるとは思わなかった]


[だがそのお陰で逃げ出すこともできたってわけか。アイツがいなけりゃアルバトールの結界も反応しなかったんじゃねえか?]


[一定以上の力に反応する結界、そして他者が張った結界に干渉する魔術か。まさか奴が八雲の能力までコピーしているとは思ってもみなかった]


[ま、俺がアルバトールと最初に戦った時には、既に不完全ながらもヤタノカガミまで使ってのけてたがな]


[その時奴はまだ八雲と会っていないはず……ふむ、二人の関係が気になるな]


 ジョーカーは深刻な口調でそう言うと、顎に手を当てて考え込む。


[ルシフェルとメタトロンの関係だけ見ればいいだけじゃねえのか?]


[かも知れん。だがメタトロンがいつの時代から人の間に立ち入り、転生を繰り返してきたのか不明な点を考えるとな……]


[少なくとも人が産み出された後からってことかね]


[天魔大戦の原因ともなった人間……それらの中に潜む天使、メタトロンとサンダルフォン……]


[そこら辺は王都に帰ってからゆっくり考えようぜ。ほれ森の手前で律儀に待ってたアンドラスたちのお迎えだ]


 その言葉にジョーカーはやや落としていた視線を上げ、アンドラスたちに軽く手を上げて無事であることを告げる。


(しかしアルバトールの結界がポセイドーンの結界を食い破り始めたあの時、やや力の流れが乱れていたように感じられた。もしや奴は再び堕天へと向かっているのではないか?)


 そして内心でそう呟くと、無理に急ぐ必要も無い、つまり森の上空を飛んで帰る必要も無いと考え、率いてきた魔族を連れて歩いて森の中に入っていった。



 それが彼らにとっての不幸の始まりだった。



[ジョーカー殿。この道の先に、何やら無意味に空き地が広がっております]


[無意味……とは何だ? 最初からあったのではないのか? 最近まで我々が王都に封じ込まれていた以上、広場ができるような戦いはしばらく無かったはずだが]


[それが急ごしらえで作られたもののようで、木々や下草が切り取られた後がはっきりと残っているのです]


[ふむ]


 ジョーカーは報告してきた下位魔神の顔を見ると記憶の隅に留め、少しの間だけ考え込み、そして案内をしてもらう。


[……なんでお前もついてきているのだバアル=ゼブル]


[あ? 面白そうだからに決まってるじゃねえか]


[それにアンドラスお前もだ。部隊は後方に下げておけ]


[それが転生者が多く出た故か、撤退に対する不満が高まっておりまして。さらにここに我らを置いていくのは、我らを囮として自分たちだけ無事に戻るつもりであろうと言われては……]


[度しがたいな。仕方あるまい、好きにさせておけ]


[申し訳ありませぬ]


[お前のせいではない。さて、あの空間か……なるほど、精霊力の残滓は無いが、鋭利な切り口ばかりだな]


 ジョーカーの気が抜けていたのは否めなかった。


 何故ならフォルセールに攻め入るために最初に森の上空を飛んで越えた時、ここに常駐している狩猟の女神アルテミスが、魔族との相互不可侵の掟を守っていることは確認済みだったからである。



 だが攻め入る前と後では、決定的に条件が違っていることに彼は気づいていなかったのだ。


 行きにはいなかった、バアル=ゼブルという疫病神が傍に居ることに。



[ん? 急に水の精霊力が……]


 ジョーカーは周囲に起きた異変に気付き、即座に辺りを見渡す。


 程なく広場の奥まった所にぼんやりとした光が集まっていき、何が起こるのかとジョーカーが目を凝らした時。


「きゃー」


[キャー?]


「めがみのみずあびをみるとはふとどきものめー。死をもってつぐなえー」


[……]


 ジョーカーは水たまりの上に素っ裸で仁王立ちする一人の幼女、もとい狩猟の女神を見つけていた。


[バアル=ゼブル]


[何だ?]


[後は頼んだぞ]


 ジョーカーは即座に隣で呆れた顔をしてアルテミスを見つめるバアル=ゼブルに後事を託す。


[急ぎ退くぞアンドラス! 逆らうものはその場で滅ぼされると思え!]


 それからのジョーカーの行動は迅速を極めた。


 口ごたえをしようとした上位魔神を一瞬で滅ぼし、動揺する魔族をひと睨みした後は率先して王都へと逃亡したのだ。


[お、おいジョーカー……? うお危ねえッ!]


 そしてその後ろ姿にそっと手を伸ばそうとしたバアル=ゼブルの目の前を一本の矢が通り過ぎ、彼は慌てて矢が放たれた方向を睨み付ける。


[いきなり何しやがるアルテミス!]


 そしてその矢を射た本人に怒声を上げるも、その対象であるアルテミスはバアル=ゼブルとは比較にならないほどの怒気に満ちていた。


「お姉様の裸体を見たばかりかその乳を揉んで穢した罪。お前を殺してその首を墓前に供える」


[お、おう、墓前って誰のだよ……つか何でお前がそれを知って危ねええええ!]


 かつてこの森で二人が戦った、いやアルテミスが余興の劇をした時のように、バアル=ゼブルに向かって雨あられと矢が降り注ぎ、その全てをマイムールの刃が撃ち落とす。


「暴れんなよ! 安心しろ! すぐにお前の仲間も後を追わせてやるから!」


[何でそれで安心できると思ったんだこのヴァカ女神が!]


「今あたしのことを馬鹿と言ったか!? 馬鹿って言う奴が馬鹿なんだバーカ!」


 ついでに罵詈雑言も雨あられとばかりに降り注ぐ中、逃げていったジョーカーたちには別の追手が差し向けられていた。



[アルテミスの猟犬か]


「よく分かったものだ」


 その追手、ぼんやりと輝く青年姿の旧神にジョーカーたちは行く手を遮られ、足を止められていた。


[先ほど我々は獰猛な狩猟の女神に襲われたばかりでな。それから考えれば至極当然の成り行きと言わざるを得まい]


「なるほど、しかし猟犬と言う表現はやや節度に欠けるようだ。もう少し婉曲な言い回しはできないものかな堕天使殿」


[こちらも追い詰められていてな。そのような余裕は無い]


「ふむ、私に付き合う義理は無いと? 生憎だがアルテミスからは劇の出演者を逃がすのだけは勘弁してくれと頼まれていてね」


[……劇だと?]


 ジョーカーの背筋が凍る。


 何故なら彼は思い出してしまったのだ。


 その昔アルテミスの水浴びを見た者が辿った運命、アクタイオーンの伝承を。


「勧善懲悪の劇は万人が好む娯楽の王道。可哀想ではあるがいま少し我らの酒宴に付き合ってもらおう」


 アポローンの顔に柔らかな笑顔が浮かぶ。



 それはまるで、死にゆく者が安心して黄泉路へと旅立てるように、聖職者が浮かべる死出の旅を祝福する笑顔に見えた。



[ジョーカー様! 背後に無数の光の渦が!]


[アンドラス! 急いで障壁を張れ!]


 ジョーカーは焦りを隠そうともせずに指示を出し、自身は辺りを包む結界を作り出す。


 しかしその結界は、張られるとほぼ同時に掻き消される。


「カストルム・エクリクスィ」


 アポローンの右手に集まった光が天へ向けて振るわれ、それに引きずられるようにして吹き飛ばされてしまったのだ。


[バカな! 結界を消すとは気でも違ったかアポローン!]


「何、心配はいらない。節度ある振る舞いをすればいいだけの話さ」


 そもそも結界を消せるということ自体が異常なことなのだが、今のジョーカーにはその異常さすら大したことではなかった。


[結界が無ければ我らの戦いの余波でこのセテルニウスが消滅するぞ! そうなれば我々の力の源になる人間どもの滅びも免れ得ぬ! オリュンポス十二神の一人ともあろうものがそんなことも分からぬか!]


「ふむ」


 アポローンはニコリと笑い、ゆっくりと前方へ突き出した右手を握りしめる。


「では結界で抑え込まれていない力で、その戦いの余波とやらを抑え込めばいいだけの話ではないかな?」


[それは……その通りだが……]


「結界に守らせ、ぬるま湯につかった戦いばかりをさせる。どこまで天主は過保護なのやら」


 アポローンの指摘を聞いたジョーカーは思わず一歩を踏み出し、しかし口から出そうになった怒声をすんでのところで飲み込む。


 なぜなら背後の光の渦からはすでに、無数の獣が姿を現しつつあったのだ。


「アクタイオーンの猟犬たちよ。存分に飢えた腹を満たすといい」


 アポローンの宣告に応じたかのように巨大な猟犬たちが姿を現し、巨大な牙を剥き出しにすると、重々しい唸り声とともに次々と魔族へ踊りかかっていく。


[だから後方で待っておけと言ったものを!]


 ジョーカーは叫び、味方を守るために呼び寄せておいた精霊たちの助力のもと、魔術を発動させようとする。


[ぬっ……!?]


 しかし周囲に術の効果を抑えるための結界は無く、ジョーカーは慌てて威力の再調整に入った。


「児戯に等しい」


 しかし調整に失敗したのか、物質界に発動した無数の闇の輪はすぐに形を歪ませ、消失してしまい、それを見たジョーカーは呻きながらアポローンを睨んだ。


[……オリュンポス十二神は我々に敵対するつもりか? アポローン]


「自らの不利を知ってまだ意地を張るのかい? アルテミスの水浴びを覗いたのはそちら。アテーナーに欲情をして淫蕩を働いたのもそちら。我らを侮るのもいい加減にしてほしいものだ」


 アポローンは動かない。


 口を動かすことはしても、直接に自らの手をもって危害を加えてはこない。


 帰路を急ぐ相手を足留めし、戦うつもりの無い相手を挑発し、戦わざるを得ない状況に追い詰めることで相手に先に手を出させ、自己防衛のためにやむなく戦ったという既成事実を作り出そうとしているのだ。


[狡猾な]


「それについては私もまったくの同意見だ。だが恨むのであれば、そう育つように仕向けられた弟と、それへ助言を求めたアルテミスにしてほしい」



[では恨むとしよう]



 黙ってアポローンの説明を聞いていたジョーカーはそう言うと、訝しがるアポローンの見ている前で体中から忌むべき闇を発する。


 髪の毛よりも細く、針よりも鋭く研ぎ澄まされたそれはたちまちのうちに猟犬たちを撃ち抜き、更に驚くべきことには魔獣へと返還させていったのだ。


[食いあえ]


 黒く染まった体毛、黒く濁った眼、どす黒く変化した口腔から巨岩が転がるような重々しい音を発しながら、魔獣は共食いを始める。


 ジョーカーはそちらを一瞥すると帰路を塞ぐ旧神へ対峙し、対するアポローンは用心深くジョーカーの動きを注視した。


「ふむ、リビングデッドとも違うようだ。これは何の術だい?」


[そちらに話す必要は無い。それと手出しをするつもりが無いなら、そこを退いてもらいたいのだが]


「退く必要が無いほど君たちの数は減ってしまったようだが?」


[抑えきれぬ気持ちがそちらに触れぬようにしたいという私の心づかいだ]


「心づかい痛み入る。それでは退かぬわけにはいかないね」


 アポローンは手のひらを上にした両手を軽く上げ、道の端へと退く。


[帰るぞ。余計な騒ぎを起こした者は、即座に先ほどの上位魔神と同じ運命をたどると思え]


 疲れた声でジョーカーが指示を出し、無言で歩き出す。


 その後を体のあちこちが消えてしまった魔族たちが着いていき、そして森の向こうへと消えていった。


「さて、そろそろ節度の無い罵り合いを止めようか」


 その後ろ姿を見届けたアポローンは、道のあちこちに散らばった肉片を灰にすると、アルテミスとバアル=ゼブルが争う広場へと歩いていったのだった。

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