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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第三章 新たな縁 フォルセール攻防編

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第93話 アテーナーの加護!

[おお、ご無事でしたかジョーカー殿!]


 嬉しそうに言うアンドラスにジョーカーは軽く左腕を上げ、その傍らにいる青い髪の旧神に目をやる。


[助かったぞバアル=ゼブル。お前がアテーナーの注意を引き付けてくれていたおかげで、うまく背後から攻撃をすることができた]


[あん?]


 ジョーカーはバアル=ゼブルにそう言うと、不思議そうな顔をしたバアル=ゼブルを横目に、鮮血に染まった右腕をずるりとアテーナーの身体から引き抜く。


 しかし抜かれた後からは血が噴き出すことは無く、その代わりに黄金の光が集い、それらはまるで失われた身体の一部を補おうとするかのようであった。


「母様!」


 それでもすぐに立つことはできないと見え、治療のためにアテーナーへと駆け寄るロザリーをジョーカーはあえて見逃し、そして脇に立つバアル=ゼブルへと顔を向ける。


[しかしあの時に私が送った合図に気付くとはさすがだな。もしかすると気付かないままに終わってしまうかとも思ったのだが]


[何のことだ?]


 だが話しかけた相手は興味が無いとばかりにとぼけた態度をとり、そんなバアル=ゼブルを見たジョーカーは肩をすくめ、地に伏したままのアテーナーを見た。


「くっ……このような無様な姿を晒すことになろうとは……何たる屈辱」


「動いてはダメなのです! すぐに治療するのです!」


 ロザリーは先ほどから法術による解析を行っていたが、その行程は先ほどから遅々として進んでおらず、それを見たジョーカーは仮面の下で面白そうに笑みを浮かべ、殊更に憐んだ優しい声を口にする。


[いかにエルフとは言え、神のような超常的存在の解析はその力の範疇に入ってはいない。諦めることだ]


「うるさいのです!」


 ロザリーはキッとジョーカーを睨み付け、少し離れたところでこちらを見ているポセイドーンへ助けを求めた。


「母様を治してほしいのですポセイドーン! 私じゃダメでも、ポセイドーンなら治癒できるですよね!?」


 しかしその声を聞いたポセイドーンの顔は浮かないものだった。


「む? むう……まあやってやれんことはないが、本人から頼まれたのならともかく、宿り主の血縁者から頼まれた程度ではちくと厳しいのう」


「そんな!?」


 ジョーカーはその二人のやりとりを見た後、未だ大地から自らの身を引きはがすことができぬアテーナーへと視線を移し、そして段々と激しくなっていく周囲の爆発、そして爆発以外の魔術に必要な精霊力の発動が増えているのを見た。


(ポセイドーンは動かずか。どうやらアテーナーに対する攻撃は自衛のための不可抗力と認めてもらえたようだ)


[仲間の救援に向かう。行くぞバアル=ゼブル、アンドラス……む]


 だが一歩を踏み出そうとしたジョーカーは、一つの風切り音の後にその歩みを止める。


[……大木に育ちきる前にこのジョーカーに挑むか? リュファスよ]


 彼の足元の地面には風切り音の残した爪痕、つまり恐ろしいほど滑らかな一筋の切り口が刻まれており、それを横目で見たジョーカーは行く手に立ち塞がる黒い影へ警告を飛ばした。


「別に討伐隊の任務に市民の命と財産を守るってのが入ってるわけじゃないが、ここは俺が生まれ、育った街なんでね。当然世話になった人たちも多いし、思い出が詰まった場所もそこかしこにある」


 しかしその警告は、された側の方には挑発にしか受け取れないものであり、だがその挑発を逆上の原因ではなく、今の自分の感情を推し量る材料としたリュファスは、目の前の道化師じみた格好の堕天使へ油断なくアダマス剣を向けた。


[では死ぬがいい]


「なにっ!?」


 ジョーカーが忽然と姿を消し、リュファスが驚愕の表情で自分の周囲を見渡す。


「クソ! アルバ候の結界はまだ有効だってのにどうなってんだ!」


 結界が有効であるにも関わらず、姿を消したと錯覚させるほどの身体能力を発揮、あるいは身を隠す術をジョーカーが発動したと見るや、リュファスは即座に気合の声と共に飛び上がる。


 その目的地は、彼の目の前に建っている五階建ての建物の最上階。


「残念だったなジョーカー!」


 そしてリュファスは先ほどまで自分のいたあたりにジョーカーが姿を現しているのを確認すると、勝ち誇ってすぐさま飛び掛かっていく。


 しかしジョーカーはまるで慌てる様子を見せない。


[愚かな。宙で姿勢を変えられぬお前に何ができるというのだ]


 ジョーカーはそう言うと、落ち着きはらった態度のまま左手をリュファスに向け、火球を産み出す。


 その瞬間にそれは起こった。


[む……精霊が!?] 


 自分の呼びかけに応じて物質界と精霊界を繋げる門の向こうに集まり、その制御下にあったはずの無数の精霊たちが急に騒ぎ出し、そして次々と遠ざかっていくのを感じたジョーカーは、先ほどまでの冷静さが嘘のように焦りを口にする。


「心配してくれてありがとうよジョーカー! こいつはそのお礼だ!」


[思い上がるな! そう簡単にこのジョーカーが……むぐぉ!?]


 そこにリュファスがアダマス剣を振り下ろし、咄嗟にジョーカーはそれを受け止めるべく左手に無形の力場を産む。


 だがアダマス剣はそれを物ともせず、力場ごとジョーカーの左腕を真っ二つに切り裂いていた。


「オリュンポス十二神の主神たるゼウスを守るものは、主に盾の役割を果たすアイギスの他に二つある。こいつはその一つを真似たものらしい。デーオス(畏怖)って名前だったかな」


[なるほど……ゼウスを守る鎧、光輝と恐怖の二つの内の一つをも作り出すか……ドワーフどもめ]


 リュファスによって二つに分かたれたジョーカーの左腕。


 だがすぐにそれは衣擦れのような音と共に一つに戻り、地面に噴き出ていた赤い鮮血すら消え失せていた。


「ホントに不死身なんだなお前」


「アルバトールから聞いたか」


「いいや、エルザ司祭様だ……よ!」


 リュファスは左手に隠し持っていた石つぶてを、ジョーカーの足元目がけて親指で弾き出し、再び姿を消そうとしたジョーカーの動きを止める。


 機先を制されたジョーカーはバランスを崩し、その好機を逃すまいとするリュファスのアダマス剣が迫る。


 ジョーカーの胴の辺りを一閃するアダマス剣。


 勝負は決したかに見えた。


「ごぼ……」


[残念だったな。お前たちエルフや人間どもと我々堕天使は、見た目には同じでもその体の構造はまるで違うことを知らなかったのか?]


 だが信じられないことに、ジョーカーは真っ二つになるどころか、腰のあたりから背後へ二つ折りの状態になってリュファスの剣を避け、そこから強烈な回し蹴りをリュファスの腹部へと叩きこんでいた。


[残念だがこの戦いは我々の負けのようだ。お前たち人間だけならともかく、まさかオリュンポス十二神になにも説明しないことで、無理やりこの戦いに巻き込ませるとは思っていなかった]


 悶絶するリュファスを見下ろし、ジョーカーは残念そうに呟く。


[だが退却する前に手土産の一つくらいは持ち帰っても良かろう]


[いやその前に体を元に戻せすげぇ気持ち悪いんだがお前]


 バアル=ゼブルの苦情を、股間の間から顔をのぞかせたままジョーカーは聞き流し、その状態のままゆっくりとリュファスに近づいていく。


「そうは……いくかよ!」


[愚かな]


 アテーナーと同じように地に伏していたリュファスは、ジョーカーが近づいてきたその好機を狙ってアダマス剣を振り抜く。


 だがその一撃もあっさり交わされ、逆に剣を振り抜いた隙をつかれてあっさりと右腕を取られたリュファスは、肘と肩の関節を折られてしまっていた。


「うゥ……くッ……!」


[叫び声を上げないとは見上げたものだ]


 右腕を破壊された激痛にリュファスは顔を歪め、だがその状態でも何らかの抵抗手段を持っているのか、彼はジョーカーの一挙手一投足から目を離さずに隙ができるのを待つ。


[戦士だな。だが私がお前の望みを叶えてやることはない]


 しかしそんなリュファスの努力をあざ笑うかのように、ジョーカーは再びその頭上に巨大な火球を作り出した。


[いいのかジョーカー。あっちでアテーナーがお前のことを睨み付けてるぜ]


[ここは戦場であり、目の前に倒れているのはひとかどの戦士だ。見逃すことは逆に失礼に値しよう]


 バアル=ゼブルの忠告にジョーカーは答え、程なく火球は完成する。


[そのまがい物のトリアイナで私に何かできると思っているのかロザリー]


 だがジョーカーはそれをすぐに放つことなく、背後に回った一人の人影に向かって警告を放った。


「今の私に何かできるかではなく、今の私に何ができるかを探した結果なのです。気づかいは無用なのです」


[そうか。ではリュファスより先に逝くがいい]


 ジョーカーはそう言うと、頭上の火球をロザリーに向けて放つ。


「トリアイナ! ウンディーネ! 私に加護を!」


 ロザリーは火球を防ぐべく水の精霊ウンディーネを呼び出し、それに加えてレプリカと言え、ポセイドーンの槍トリアイナの加護を発動させる。


「きゃあ!?」


 だがその二つをもってしても、ジョーカーの放った火球を完全に防ぐことはできなかった。


 体のあちこちにひどい火傷を負い、それでもロザリーはトリアイナにすがってジョーカーに立ち向かう。


 だがその穂先はあっさりとジョーカーにかわされ、逆にジョーカーに首をおさえられたロザリーは、無力な状態で宙に吊り上げられてしまっていた。


「ふうむ……こりゃ困ったのう」


[困ったじゃねえだろ。一応ロザリーもリュファスもお前さんの身内にあたるんじゃねえのかポセイドーン]


「ワシの身内はあそこで無様に倒れておる女神だけじゃが……うーむ」


 それを離れたところで他人事のように見守るポセイドーンとバアル=ゼブル。


 彼らはそれぞれの立場からそれぞれに手を出せない事情があり、だが追い詰められている二人のクォーターエルフを助けたい気持ちがそれぞれにあった。


「おんしもそうじゃが、まさか畏怖が効かぬほどの高位の堕天使が来るとは思っとらんかったんじゃ。いくら肉弾戦でダメージを負ったとは言え、それくらいであの巨神族の末裔の精神力が畏怖を扱えなくなるほど無くなるとは思えんからの」


[あー、なんかダークマターが聖霊に混在するようになってから妙にパワーアップしたからなアイツ。下手すりゃ俺より強いんじゃね]


「なるほどのう……それを聞いては……むむ?」


 ポセイドーンはリュファスが左手でアダマス剣をジョーカーへ投げつけ、利き腕では無いゆえに見当違いの方向に飛んでいくそれに慟哭をあげる姿を見る。


「ふむ。こりゃマズい」


[さっきからマズいことばかりじゃねえかオイ]


「いや、ワシがマズいといったのは……おっと、まず結界と障壁が必要じゃな」


 リュファスとロザリーが追い詰められた姿を見ても動こうとしなかったポセイドーンが、やや慌てたように追加の結界を張ってさらに周囲に障壁を展開する。


 大海を統べるポセイドーンをして、そこまで警戒する相手。


「最後まで諦めない執念。我が身の危険を顧みず、窮地に追い込まれた仲間を見捨てぬ義心。確かにこのアテーナー見届けました」


 柔和にして剛毅。


 警戒心をあらわにしたポセイドーンの視線の先には、先ほどまで地に伏していたはずのアテーナーが威厳に満ちた姿で立っていた。


「相変わらず回りくどい女じゃ。後始末くらいは手伝ってやるからさっさとアテーナーの加護を二人に与えい」


「父上がお決めになった相互不可侵の掟に従ったまでのことですわ叔父上」


「減らず口を叩きおって。相変わらず気の強い女じゃ」


 ばつが悪そうに苦笑いを浮かべるポセイドーンに、アテーナーは柔らかい微笑みを向け、そして呆気にとられたリュファスとロザリーを真っ直ぐに見据える。


「いきなさい英雄の資格を持つ者たちよ。アテーナーは汝らに加護を与えん」


 そう言うと光に包まれていたアテーナーから光の一部が立ち昇り。


「分かった。女神のお告げに従わせてもらうぜ」


 輝かしい光輝がリュファス、そしてジョーカーに首を掴まれて宙に浮いていたロザリーの身体を包んでいく。


[なるほど、戦女神どのに置かれては、自らが手を下さないのなら不可侵は守られたとお考えか……だが手遅れだったな]


 しかしジョーカーは慌てず、ロザリーの首を掴む右手に力を籠める。


「震えよトリアイナ」


 その瞬間、ジョーカーの右手は弾け飛んでいた。


[むうっ!?]


 手首から先が無くなった右手をジョーカーは左手で抑えつけ、逆にすべての怪我が癒えたリュファスとロザリーの姿を交互に見つめる。


[……人の皮を剥きおったか]


 苦々しくつぶやくジョーカーの視線の先では、アテーナーの加護を得た二人が余裕の表情で相談をしていた。


「フィナーレってところか。どっちにとってのものか分かりゃしねえけどな」


「私はアンドラスをやるですから、リュファスはジョーカーをお願いするのです」


「あいよ」


 リュファスとロザリーは、それぞれに決めた相手にゆっくりと歩み寄る。


「それじゃ行くですよアンドラス」


[良かろう。加護をもらった人間の力、このアンドラスがとくと見極めてくれる]


[二人でかかってこなくて良いのか?]


「後でかかるさ。それじゃさっきの続きと行こうぜジョーカー」



 そのやり取りの後、ポセイドーンが張った結界の中は激しい光で包まれた。

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