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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第三章 新たな縁 フォルセール攻防編

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第92話 勝敗の天秤!

「バアル=ゼブル!?」


 ロザリーが近くの建物の屋根を見上げ、そう叫ぶ姿を見たリュファスは、剣を振り上げたまま動かなくなった右手に更なる力を籠める。


「逃がしちまったか」


 しかし彼の右手が再び動くようになった時には、すでにアンドラスは遠いところまで移動しており、それを見たリュファスは残念そうに呟くと、一層輝きを増したアダマス剣を軽く振りおろして呼吸を整え、ロザリーの視線を追った。


「風で俺の右手が止められた瞬間にそうじゃないかと思ったよ。久しぶりだなバアル兄ちゃん」


[おう、随分とでっかくなったじゃねえかリュファス。元気そうでなによりだ]


 軽い挨拶を不敵な笑みで交わした後に二人が睨み合った瞬間、再び爆発が離れた民家の一軒で起きる。


 リュファスたちがアンドラスと戦っている間にも周囲では次々と爆発が起き、とうとうそれは誘導が目的ではないものもいくつか含まれ始めていた。


[どうしたリュファス。久しぶりの再会だってのに、妙にあせった顔をしてるじゃねえか。どこか行きたい所でもあるのか?]


 バアル=ゼブルの軽口を聞いたリュファスの顔が歪む。


 予定ではジョーカーをアテーナーの攻撃に巻き込んで無力化した後、アンドラスをロザリーと倒して他の隊の救援に向かう予定だったのだが、そこに予定外の戦力、それも予想される範囲で最悪の一人が訪れるとは思っていなかったのだ。


[そんな顔すんなよ。周りの様子を見れば一目瞭然って奴だぜ? ま、状況は徐々にこちらに優勢になってるみてえだけどな。すぐにでも救援に行きたいだろうが、わりぃがお前さんたちはしばらくここで俺と昔話でもしようじゃねえか]


 バアル=ゼブルは自分を睨み付けてくるリュファスの視線を受け流すように高笑いをし、面白そうに周囲を見渡す。


「相変わらず軽いですねバアル=ゼブル。アルバ兄様の結界があるのに飛んでこれるとは、どうやったのです?」


 そこにロザリーが割り込み、底の見えぬ旧神との間合いを計るべく何気ない世間話を持ちかけたのだが。


[ほう……随分とでっかくなったじゃねえかロザリー]


「良血ですから」



 どうやら今日のバアル=ゼブルの底は思ったより浅いらしい。



 鼻をスピスピと鳴らし、口をニヤニヤと歪ませたバアル=ゼブルの顔を見て、ロザリーは瞬時に判断する。


 と言っても静から動への変化をいつの間にか成し、面と向かって対峙した相手に一方的な一撃を加えてみせるのが旧神バアル=ゼブルと言う相手だった。


[ま、少々手こずったがこの程度なら飛んでこれないこともねえよ。この俺を誰だと思ってやがる]


「……なのですか」


 ジョーカーとアンドラスを含めた魔族の集団すら対抗できなかった結界。


 それをねじ伏せたという驚愕の事実を軽く言ってのけたバアル=ゼブルに、リュファスとロザリーの二人は顔に焦燥感を露わにするが、実情は少し違った。


(ふーやれやれ、何とか誤魔化せたみてえだな。なるほどこのクソッタレな結界はアルバトールのヤロウが張ったモンかよ)


 こんなことを考えているバアル=ゼブルは、フォルセールまで飛んできたと言うより浮かんできたと言うか漂ってきたと言う方が正解であり、ここまで到着が遅れたのも結界で力が削がれたのに意地を張って宙に浮いたまま来たのが原因である。


 さすがにふわふわとタンポポの綿毛のように飛ぶ、つまり自主性に欠けるその状態で見つかってしまうのはプライドが許さないのか、フォルセール城のかなり手前で地面に降りた彼は開いたままの城門からこっそり入り、こそこそと裏道を通って建物の死角から屋根の上に登ってようやくこの場に来れたのだった。


[さてジョーカーのヤロウに伝言を……何だアレ。あいつフグの毒にでもあたったのか?]


 クレーターの底で、ちょこんと頭の一部だけを出して埋まっているジョーカーを見て、バアル=ゼブルは呆れたように言う。


[それがポセイドーンとアテーナーのいざこざに巻き込まれまして]


[なるほど把握したじゃあ帰る]


[何ですと!? 先ほどジョーカー殿に伝言といっていたのは何だったのですか! それに周囲の味方が優勢になっているとは言え、それが優勢のまま終わるとは限らないのですぞ!]


[帰る!]


 しかしアテーナーの名前を聞いた途端、バアル=ゼブルはそれまでの飄々とした態度を豹変させ、いきなり帰ると喚きだしたのだが。



「おや……久しいですねバアル=ゼブル」



 彼が逃げ出す前に、そのいきさつを知る人物はすぐそこまで来ていた。


 生存本能すら消し去るような冷たい声を、いつの間にか背後に立っていたその女神から聞いた途端にバアル=ゼブルは背筋をピンと伸ばし、愛想笑いを浮かべてヘコヘコと腰を低くする。


[違います。俺はヘルメースと言う貴方たちの仲間です]


「髪の毛の色が違いますね。それにヘルメースはもっと姑息な性格をしています」


[チッ、こんなに早くバレるとはさすが智の女神アテーナーだ]


 しかしアテーナーの表情がまったく変化しないのを見たバアル=ゼブルは、まったく悪びれない態度でそう言うと、右手に一本の矛を顕現させて油断なく構えた。


 類稀なる風の力を宿す矛、その名をマイムール。

 

 雷撃の術ヤグルシと並び、バアル=ゼブルが本気で戦う時には常にその右手にある恐るべき武器である。


「何したんだよバアル兄ちゃん」


「こんなに怒っちょるアテーナーは久しぶりに見るのう。おんし何をしたんじゃ」


「まぁ母様……じゃなかったアテーナーは処女神だから大体察しはつくですが、一体何をしでかしたのです?」


 しかし魔族に身を置く旧神の中でも一、二を争う実力者が本気で戦おうとしている状況であるのに、周りの雰囲気は実に締まりがない。



「この男は以前ヘプルクロシアで女に変化してまで湯船に一緒に入ろうとし、尚且つ背中を流すと言って私の胸を揉んだのです」


[ちょっ!]



 バアル=ゼブルの沽券にかかわる一大事を暴露するアテーナー。


 その暴露により、場は一気に緊張感には包まれなかった。


「マジかよバアル兄ちゃん。女装しないと乳を揉むことも出来ないほど切羽詰まってんのか?」


「そこまで落ちぶれたなんて可哀想に……ちょっとだけなら揉ませてあげてもいいですよ? 指一本分の面積につき金貨一枚もらうですが」


[敵に情けをかけられるとは何とまぁみっともない。大体アナト殿が日頃からどれだけ貴方に尽くしているか知っているでしょうに。セファールがいなくなってから事あるごとに愚痴を聞かされる私の身にもなっていただけませぬか]


[何でお前敵に回ってんの?]


 ジト目で見つめてくるアンドラスをすかさず真顔で脅すバアル=ゼブル。


 その間にも分散した他の魔族たちは人間たちと戦っており、一進一退の攻防を繰り広げているのだが、連絡のとれない状態でそれを把握することは難しかった。


「ほうほう、その時の感触を詳しゅう教えてくれんかいのバアル=ゼブル」


[お、おう。まぁいいけどよ……そんなの知ってどうすんだよポセイドーン]


[バアル=ゼブル殿! アテーナーの殺気がどんどん膨れ上がっておりますぞ!]


 加えてバアル=ゼブルとアンドラスの二人はオリュンポス十二神に手一杯であり、ジョーカーは未だクレーターの底で埋まっている。


「姪の成長が気になるのは叔父として当然のこと……む、こりゃいかん本気になっちょるほいじゃの」


[おい逃げんな!]


 人間たちと魔族の双方が行き詰っている戦況を打開しようとする中、ついに勝敗の天秤はアテーナーの手によって大きく揺り動かされた。



「エザフォ=シーモス」



 アテーナーの右手に赤い光を放つ塊が宿る。


 そしてゆっくりと一歩を踏み出したかと思ったその瞬間、彼女はバアル=ゼブルの眼前へと迫っていた。


[おわっ!? ちょっと待てアテーナー!]


 バアル=ゼブルは即座に身を翻し、再び屋根の上に飛び上がって逃げようとするが、それが成し遂げられることは無かった。


[チィ! 何とかしやがれマイムール!]


 飛び上がる途中でその動きは止まり、まるでアテーナーの右手に宿った赤い塊に吸い寄せられるように大地へ落ちていったのだ。


 即座にバアル=ゼブルはその右手に宿るマイムールに命じ、風の魔術を起動させて落下速度を鈍らせるが、さしもの彼にもそれが限界のようだった。


「見敵必殺! 今度転生する時は私の目の届かない場所にするのですね!」


[そうさせてもらうぜヤグルシ!]


 とうとう覚悟を決めてアテーナーと真っ向勝負をする気になったのか、バアル=ゼブルはヤグルシをアテーナーに向けて発動し、マイムールを構えて突き出す。


「往生際の悪いこと」


[クッソ! そういやアイギスの使い手だったな!]


 アテーナーの左手に渦巻く数限りない光の層。


 だが反動で距離を取ることができたバアル=ゼブルは再びマイムールを構え、中腰になっていつでも動ける態勢を作り出していた。


「ま、アレがアテーナーが自分だけの武器を持たんわけじゃの。右手に勝利の女神ニーケーの加護を顕現させ、アイギスで敵の攻撃を防ぎながら前進し、相手が防げない距離まで近づいてから叩きこむ。武器を持つ必要がないんじゃあいつは」


「なのですか」


「でも見た目がすごく地味なんだが……むしろ無駄を極限まで削ぎ落した美しさを感じて凄いぜさすがかーちゃん!」


 ポセイドーンの説明に余計なことを言わずに答えるロザリーと、余計なことを言ってアテーナーの怒りをかうリュファス。


 自らが宿る女性が産んだ双子の対照的な反応を見たアテーナーは、敵と対峙する最中にあって美しく微笑んだように見えた。


「この結界の中では、ヘプルクロシアの時のように逃げることもできないでしょう。覚悟を決めなさい闇の風バアル=ゼブル」


[やなこった。戦いの女神だのなんだのと持ち上げられて調子に乗ってんじゃねえのか? テメエらが今まで戦ってきた巨神や巨人たちと、この俺を一緒にするんじゃねえぞ]


「一緒になどしていませんよ」


 アテーナーは再び右手を構え、静かに笑う。


「貴方は彼らより遥かに格下です」


[にゃにおう!?]


 バアル=ゼブルが叫ぶと同時に、注視している者たちですら気付かないほどに極わずかな力の溜めを両者は作り、接近する。



 するはずだった。



「かはっ……」


[ここで何をしているのだバアル=ゼブル]


[ルシフェルのヤロウからの伝言を持ってきたんだが……背中から不意打ちとはお前ひどい奴だなジョーカー]


 アテーナーの腹部から突き出た何者かの鋭い右腕。


「ほうほう、まさかこのような結果になるとはのう」


 そのひっ迫した事態をまるで把握していないかのようなのんびりとした声が、ポセイドーンの口から発せられる。


「かーちゃん!」「母様!」


 アテーナーの背後には、先ほどまでクレーターの底で埋まっていたはずのジョーカーがおり、そしてその右腕は渾身の力でアテーナーの体を貫いていた。

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