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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第三章 新たな縁 フォルセール攻防編

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第84話 何でそこに国民が!

「バカな! 城壁の建築にあたっていた職人たちはすべて避難済み! 自警団からも城内に住んでいる全員が城の中にいると報告を受けている! なのになぜ人が城外にいるのだ!」


 太陽が頂点に昇り詰める前、執務室で急報を受けたシルヴェールはそう叫ぶと、城外に人がいるとの知らせを持ってきた兵士に血相を変えて詰め寄る。


「落ち着いてくださいまし陛下! そのように怒りを露わにしては話すものも話せませぬ! どうか冷静に!」


 ただちに横で執務を手伝っていたクレメンスがシルヴェールを落ち着かせようとするが、それでも尚シルヴェールの怒りは収まらなかった。


「これが冷静でいられるか! 目前に魔族が迫っている今、このフォルセール城以外に逃げ場所は無い! 各種方策を講じ、他領との連携を必死にとっている最中でこちらが手一杯な今、なぜ城外に出たものがいるのだ!」


「民には民の考えが、守っていかねばならぬ暮らしがございましょう! それは陛下も分かっておいでのはずです!」


「ぐ……」


「民が無数の人によって成る限り無秩序な行いは止むことは無く、それでも国を治める王はそのような無数の国民を守る責務がございます! 私にそれを教えてくれたのは他ならぬ陛下御自身ではありませぬか!」


 疲労の色が濃いシルヴェールを、いつもよりやや髪のおさまりが悪く見えるクレメンスが必死に押しとどめる。


「……残念ながら、それは私自身の考えから発した言葉ではないがな」


 シルヴェールの独白めいた言葉を聞いたクレメンスの目は少しの間だけ大きさを増し、それを見たシルヴェールは自嘲の溜息をついて先王の姿を思い浮かべた。


(……もう大丈夫です父上)


 そこに短くノックの音が響き、シルヴェールの簡単な入室許可の後に一人の初老の男性が姿を現す。


「休めと言ったはずだぞベルナール」


「さすがに休んでいられる事態ではないと判断いたしました陛下」


 肩まで伸ばした白髪をもつベルナールは入室早々に短めの深呼吸をし、それを見たシルヴェールはただちにカウチの方を指し示した。


「……失礼いたします」


「まだこき使ってやらねばならんからな」


 日頃の激務がたたったのか、それとも別の理由があるのか、昨日ベルナールは執務の最中に倒れてしまっていた。


 即座にシルヴェールはベルナールに静養を命じたのだが、それでも郊外に領民がいると聞いては黙って自宅にいるわけにはいかないようだった。


「平和に慣れ過ぎましたな。アルバ候の結界によって魔族の進軍が鈍ったのが、このような思いがけない結果をもたらすとは」


「そうだな……それも原因の一つではあるだろう。しかし城内に閉じこもっていては畑も荒れるし……うむ、何より窮屈だ」


 そこでシルヴェールは思い出したように笑い出し、報告を持ってきた兵士に名前を聞く。


「アロイスか。よく報せを持ってきてくれたアロイス。これからもお前たちには苦労をかけるだろうが、よろしく頼むぞ」


 そして兵士個人の名を呼びつつねぎらいの言葉をかけ、下がらせた。


「個人の名に礼を言うのはうまいやり方ですな。あれで自分は特別扱いしてもらったのだと思うでしょう」


「怒鳴って人を委縮させてしまったままでは、言ってもらわねばならん時にも言ってもらえなくなる可能性があるからな。それでどうするベルナール」


「城内に敵を入れず、領民を迎え入れるのが最善」


「次善は?」


「城内に敵を入れず、城外にでた領民には自己解決を図ってもらうこと」


「見殺しは好かんな」


「城内の兵士や領民を見殺しにするよりはいいでしょう」


 シルヴェールは肩をすくめ、外で待っている一人のクォーターエルフを呼ぶ。


「と言うわけだ。城外に出た領民の人数、魔族との位置関係を把握して城内に戻れるなら良し、それができぬ時は他の集落に逃がしてくれリュファス」


「仰せのままに、にー……陛下」


 色黒、つまりエルフの森を出て陽の光を浴び、逞しく育ち上がったクォーターのダークエルフであり、また討伐隊と呼ばれるフォルセールの機密部隊を率いている隊長リュファスは、ニカッと笑って快諾すると準備のために自宅へ戻っていった。



「あら~、せっかく~帰ってきたと思ったら~また出張なのですかリュファス~」


 つややかな黒髪を腰まで伸ばした小麦色の肌を持つ美しい女性が、やや間延びした喋り方でリュファスを非難する。


「すぐ戻ってくるから心配しなくていいってかーちゃん……あー母上」


 エレーヌと似ているこの女性は、どうやらリュファスの母親のようである。


 だがリュファスたちとは明確に違う部分があり、リュファスに口を尖らせているその女性の髪の一房だけは紫色に染まっていた。


「ちょっと前~まで~、ママと呼んでくれたのに~母上なんてよそよそしい~」


「呼んだ覚えは無い。おいロザリー、他領に出るならともかく、フォルセールの郊外にでるだけなんだから魔術に使う触媒は必要ないだろ。ちょっと路銀があればどうとでもなるから早くしろ」


「精霊魔術はともかく、召喚魔術はそうもいかないですよ」


「今回の任務は時間との戦いなんだから早くしろよ。せっかくすぐに動けるように俺とお前だけの編成にしたのに、まったく意味がなくなるじゃねえか」


 シルヴェールからの勅命を受けたリュファスは自宅に戻ると、城に出仕する時だけしか着ない金属鎧を脱ぎ、討伐隊の任務の時に着ている動きやすい皮と布を組み合わせた鎧に着替え、任務を遂行するための準備をロザリーと共に進めていた。


 その見た目は、魔物と戦うこともある討伐隊の隊長にはとても見えないもの。


 だが実際には彼の母であり、フォルセール自警団の団長であり、更にはオリュンポス十二神のアテーナーの半魂をその身に宿すエステルが、一年に一度だけ訪れるワルプルギスの夜にのみ制作できるレア中のレア装備であり、その性能は持ち主の感情の高まりに比例して防御力が上がると言うものであった。


「急がば回れ、ですよリュファス」


「ぐるりと回ってスタート地点に戻るようなことだけはしてくれるなよロザリー」


「陛下じゃあるまいし、そんなことするわけないのです。触媒ヨシ、依代ヨシ!」


 少しだけ舌を出してリュファスに答えたロザリーが、小さいリュックサック――だが厳重な結界が幾重にも施されたもの――を背負って立ち上がる。


「まったく女の身支度は無駄に長すぎて困るぜ。そんじゃ行ってくるぜ母上」


「帰ったら覚えておくのですよリュファス。それでは行ってくるのです母様」


 リュファスの頬に伝う冷や汗は待ち受ける任務の困難さゆえか、はたまた別の試練に対する予感を感じてのものか。


 とにもかくにも彼はロザリーが発動させた飛行術によって宙に浮き、背後でニコニコと手を振る母親のほうもしくはロザリーの顔をチラリと見もせず、城外へと繰り出していったのだった。



「郊外と言っても広いですが、その人たちはどこにいるのです?」


「歩いて半日ほどの距離らしい。魔族が目と鼻の先に迫ってるこんな状況なのに、慌てず騒がずのんびり歩いてフォルセールに向かってきてるんだとさ」


「……見殺しにしていいのではないです?」


「本心からそれを言えるようになれば、お前も今すぐ貴族になれるって陛下に言われたよ。もちろんおとぎ話に出てくるような悪い貴族のほうだが」


 両手を少し上げ、うんざりした表情となるリュファスを見たロザリーは不思議そうに首を傾げる。


「でも何で王様や貴族は悪いことをするのが定番なのです? 陛下やアルバ兄様を見ている限り、良いことしかしてないように見えるですよ?」


「陛下やアルバ候が良いことをしてるからってその先祖まで良いとは限らないだろ。アルストリア領なんて前の領主だったガスパール伯はもちろん、今の領主のジルベール伯なんてどんどん新しい悪評が産まれてる最中じゃないか」


「その言い方だと悪評を産んでる人がいるってことになるですが」


「え? あ……うーん」


 リュファスは頭をかくと、やや苦い顔つきになってロザリーに反論する。


「でも悪評を産んで何の得になるって言うんだよ。陛下はそう言った噂は権力者に付き物だと言って笑い飛ばすけど、ジルベール伯までそんな寛容な対応をとるとは限らないぞ」


「犯罪が起きた時は被害者に一番近い人物、一番得をする人を疑えってベルナール団長が言ってたですよ」


「中央教会か」


 リュファスは苦い顔つきとなり、ここ数年で幾度か偵察に向かった聖ヴァティーナス教皇領での日々を思い出す。


「なんか気に入らねえんだよなアイツら。先代のエルザ司祭は確かにロクでもない性格だったけど、それでも根底には一貫して王家に対する敬意と民に対する誠意があった。アイツらはその真逆だ」


「表向きは他国の支配者に対する敬意を持ち、民に対する誠意を見せていても実際には自分たちのことしか考えていない、ですか」


「ああ、まったく気に入らねえぜ。それにロザリーも聞いただろ、あの噂……おおいいいい!? 手を離すなよロザリー!?」


 リュファスはロザリーに背後から抱きかかえられて飛んでいたため、考え事を始めたロザリーが口に右手を当てた瞬間にバランスを崩し、その時点での地面との距離を確認したリュファスは思わず悲鳴を上げてしまっていた。


「ごめんなさいなのですよ。ええと? 魔族が聖テイレシア王国のみに攻め込むのは、かの王国が魔族の怨みをかうようなことをしているから、でしたっけ? ……でも討伐した魔族の身体を売買するのは、他の国でもやってるはずなのです」


「その噂が流れ始めた時期は、天魔大戦の最中にテイレシアに攻め込んだヴェイラーグを教会が名指しで非難した頃と前後するらしい」


「なのです。もしもヴェイラーグと魔族が手を組んだ話が本当なら……」


「教会とヴェイラーグが裏で手を結んでいる可能性もあるってこと……か?」



 そこで二人の会話はしばらく止まる。



「落ち着いたらラファエラ司祭に相談するか」


「ですです」



 人が持つ心の闇。


 クォーターとは言え、エルフの血を引くリュファスとロザリーにとって耐えがたい腐臭を放つそれから目を逸らすと、二人は人が目撃された方角へ飛んでいった。

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