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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第80話 コンラとコンラッド

(……何なんだこの人たち)



 自分の内面世界に突如として現れ、いきなり全身がむず痒くなるような自己紹介をした二人組、コンラーズを見たクレイはとりあえず無視を決め込む。



(いやーとうとう始まってしまいましたねコンラッドさん)


(始まってしまいましたねコンラさん)



((クー・フーリン救出大作戦!))



 だが二人が同時に言ったその内容に驚いたクレイは思わず顔を上げてしまい。


(あ、ヤバい目が合っちゃった……あ?)



 ニヤ ニヤ


 ムカッ



 直後に二人が得意気に口の端を上げるのを見たクレイは、思わず怒鳴り声を上げてしまいそうになる。


(コンラッドだと? 君はガビーに浄化されたはずではなかったか?)


 だがそれを止めるようにメタトロンが発した意志に、クレイは口を閉じて自分の記憶をたどった。


(あ……コンラってもしかして、クー・フーリンさんの息子さん……?)


(うん。よく知ってるね)


(コンラッドさんってモリガンさんの神官だったのに、裏切ってベル兄の槍を勝手に持ち出して、堕天使の攻撃に巻き込まれて死んだ挙句にリビングデッドにされた人だっけ)


(おお、私のことまでそんなに詳しく知っていてくださるとは光栄ですな)


(あまり知りたくはない生き方をした人だったけど、教えられちゃったものは仕方がないよね……でもその二人がどうして俺の内面世界に? どうやって来たの?)


 首をかしげるクレイに、コンラが人懐こい笑みを向ける。


(さっき君に言ったでしょ?)


(我々はクー・フーリン殿を助けに参ったのです)


(え、あのふざけた……じゃなかった変わった挨拶ってそんな意味だったんだ)


 失礼極まることを言うクレイに、コンラとコンラッドは変わらずニコニコと笑みを浮かべ、クー・フーリンを助ける儀式を始めたい、と申し出る。


(どうやって助けるの?)


(それはですな、我々がクー・フーリン殿の想いの核に……ええと、力を注ぐのでしたかなコンラさん)


(そうですねコンラッドさん。僕たちはお互いにクー・フーリンの人生に深く関わり、そしてその記憶に刻み付けられた貴重な存在ですから)


(あ、そうなんだ……なんか釈然としないけど、じゃあお願いしてもいい?)


 コンラーズの説明を聞いたクレイはふんふんと頷き、頭を下げて二人にクー・フーリンの救出を依頼する。


(お任せください天使クレイ殿)


(父さんの復活がうまくいったら、僕たちの分まで助けてあげてね!)


(分かった! ……あれ? うまくいかなかったらどうなるの?)


 コンラの頼みを聞いたクレイは、ふと頭に思い浮かんだ質問を口にする。


(さぁ?)


(何しろ我々もやるのは初めてですから)


(それもそっか……ってエエェェェェェエエエエ!?)


 だが二人から返ってきた予想もしない返答にクレイは動揺し、思わず叫び声をあげてしまう。


(待って!? なんかおかしくない!? そうだクー・フーリンさんの想いの核に力を注いだ後、二人はどうなるの!?)


 そして次々と頭の中に浮かんできた疑問の一つを口にするが。


(ああそれね。消えちゃうみたい)


(正確には消えるのではなく、我々がクー・フーリン殿の想いの核の一部になってしまう、ですな)


(うわああああ!?)


 軽く言ってのける二人の、あまりに重い発言の内容に、クレイは頭をかきむしってコンラッドに人差し指を突きつけた。


(さっきは力を注ぐって言ったじゃん!)


(ハハハ申し訳ない、あれは嘘です)


(だって正直に言ったら反対されそうだしねー。父さんを助ける方法を教えてくれたあの女の人もそう言ってたし)


(そんな……)


 クレイはへたり込み、笑顔を絶やさないままの二人を見上げた。


(そんなに思い悩まないでほしいな。これは僕たち二人の夢を叶えるために必要なことなんだから)


(夢……?)


 茫然とコンラの発言を繰り返すクレイに、コンラッドは優しく微笑んだ。


(コンラ殿の言う通りです。私の夢はモリガン様とクー・フーリン殿が、長年の誤解を乗り越えてともに並びたつ姿を見ることでした。ベルトラム殿の槍を奪い取ったのも、その夢を叶えるためにモリガン様へお届けするためです)


(僕を知ってるってことは、僕の夢ももう知ってるよね。武芸を磨き、父さんの下に馳せ参じ、その助力をすること。まぁちょっとした行き違いで戦うことになっちゃったんだけどねアハハ)


 二人は笑い、そして光の粒子に包まれたクレイへ近づいて膝をつく。


(偉大なる天使の王メタトロンを内包する天使クレイ様)


(どうか僕たちの夢を叶えていただけないだろうか。すでに物質界における肉体を失ってしまった僕たちの代わりに)


(モリガン様とクー・フーリン殿がともに並び立てるように)


(我が父クー・フーリンが、再び現世で英雄としての働きができるように)


 頭を下げたまま願い出るコンラとコンラッドの二人。



――それを見たクレイは――



(約束する。二人の夢は俺がきっと叶えるよ。だから……だから二人……は)


 快諾したかに見えたクレイの喉が、一瞬だけ詰まる。


(やりますかコンラさん)


(やられますかコンラッドさん)


 そしてコンラとコンラッドは、その先を言わせないために即座に立ち上がり、クレイを包む光の粒子の中で一際大きなものに手を差し伸べた。


 だが名残惜しいのか、それともどうしても聞きたいことがあるのか、クレイはコンラーズの二人に思わず声をかけていた。


(最後に一つだけ聞いていいかな?)


(何だい? これ以上はあまり時間は伸ばさない方がいいと思うけど)


(さっき言ってた女の人って?)


(うーん、残念だけど名前は知らないんだよ)


(え、大丈夫なのそれって?)


 またしても不安要素をあっけらかんと口にするコンラを見たクレイは、二人を止めるべきかどうかを悩み始める。


(大丈夫だと思うよ? だって凄く神々しい姿をしてて、殆ど聖霊と一体化してた僕たちの魂と記憶をかき集めてくれたんだから)


(確かに。全身は金色の淡い光に包まれており、その豪奢な長い巻き毛と言ったら、噂に名高い聖テイレシア王国の聖女にしてフォルセール教会の司祭、エルザ様かと思うほどでした)


(へ? フォルセール教会の司祭はラファエラ司祭……)


 呆気にとられるクレイ。


(……なるほど、そう言うことだったか。道理でいつまで経っても素体に宿る気配すら無いわけだ)


(あれなんか一人だけ納得してる奴がいる)


(二人とも後のことは任せてくれ。このメタトロンの名において、万事つつがなくこなしてみせよう)


 その言葉を聞いたコンラーズの二人は微笑み、クレイへ軽く頭を下げる。


(お別れは言いませんぞ)


(僕たちは父さんの魂の中に移動する。言ってみれば、これからずっと君と一緒にいることになるんだからね)


 そして懐からそれぞれに小剣を取りだし、それを交差した瞬間に二人の体は巨大な光球と化し、クレイを包んでいる光の粒子へ飛び込んでいく。



(今だ少年!)



 目を閉じてさえ遮ることが不可能と思われるほどの閃光が周囲を圧し、同時にメタトロンが合図を出す。


(我が眼は世界の奈辺を見通し、我が身の内は世界を包む。汝我と手を組み、我が身を満たす助けと成らん……)


 本来であれば術の行使に詠唱は不要なはず。


 だが唯一無二たる存在である主、その奇跡の御業に準拠した術と言う特殊性ゆえか、曼荼羅が発動される直前にクレイの脳裏には彼の現在の立ち位置と術の対象の立場が詠唱として羅列され、程なくクレイの後背に拡がる無数の目が開き、物質界に生まれ落ちてからのクー・フーリンの因果を瞬時に読み取って行く。


(検索、決定、収集、解析……)


 先ほどまでぼんやりとしていたクー・フーリンの想いの核が巨大化し、そして存在しないはずの質量に引っ張られるように周囲の光の粒子が吸い寄せられ。


(保存……圧縮!)


 そして巨大化した想いの核が急速に小さくなり、代わりにその輝きを一気に増した後にクレイの胸の中へ吸い込まれていく。



(曼荼羅)



 クー・フーリンを迎え入れる術、曼荼羅はここに完成した。


(……いらっしゃいクー・フーリンさん。歓迎するよ)


 返事はない。


 あまりに酷使された魂は安息を求め、深い魂の眠りについているのであろう。


(そしてコンラーズの二人も)


 クレイは拳を握り、胸に拡がるじわりとした痛みを消し去るかのように胸の中央をドンと叩く。


 そして誰も居なくなった後に残された、まるで墓標のような二本の小剣を拾い上げると、彼は再び表層意識へと向かったのだった。



「成功したよモリガンさん! エメルさん!」


「本当ですかクレイ!」


「うん! コンラとコンラッドさんの思念体が助けに来てくれたんだ!」


「コンラ……とコンラッド、ですか」


 二人の名を聞いたモリガンが目をしばたかせるのを見たクレイは、それを不思議に思いつつエメルへ視線を移す。


「主人を助けて下さってありがとうございますクレイ様」


「うん、無事助けることができて良かったよ」


「そのコンラ……とコンラッドさん、ですか? そのお二人はクレイ様のお仲間でしょうか。その方たちにもお礼を言いたいのですが」


「ごめん、それは無理なんだ。二人ともクー・フーリンさんの一部に……」


「そ、そうですか。申し訳ありません余計なことを言ってしまって」


 頭を下げるエメルを見たクレイは慌てて慰めの言葉をかけ、そして首をかしげているモリガンへと視線を戻す。


「そうなってしまうのであれば、事が終わる前にお礼を言いたかったですね。どんな方だったのですか? そのコンラとコンラッドと言う人たちは」


「え?」


「どうしたのですクレイ。貴方のお仲間では無いのですか? その二人は」


「いや……その……」



 モリガンとエメルの様子がおかしい。



 クレイがそう思った瞬間、ある一つの考えが彼の頭の中に閃き、そしてそれを肯定する一つの意思が彼の頭に発せられた。


(曼荼羅の影響だ)


(ウソだろ……じゃああの二人は……メタトロン! お前知ってたのか!? こうなることを!)


(クー・フーリンと一つになった、だからそれまでの彼らのすべてがこの世から抹消された。おそらく彼らも知っていたはずだ。だから君の重荷にならないようにあのような態度をとっていたのだ)


 メタトロンから告げられた事実に、クレイは茫然と立ち尽くす。


(……だが君が受け継いだのだ。彼らの想い、彼らの夢を。だから君は立ち止まってはならない。彼らの想いと夢は君が未来へ運んでいき、叶えるのだから)


(……うん)


(分かったのなら早くテイレシアに戻るのだ少年。今フォルセールは魔族に攻められている最中かも知れないのだぞ)


(うん……うん。分かってる……けど……なんだか……なんだかさ……)


 クレイは一人、天を見上げる。



(目の前がぼやけて……何も見えないんだ……)



 動かないクレイを不思議に思った周囲の者たちがざわめきはじめる。


 クレイは何でもないと言い残すと、少しの時間だけ一人になりたいと言い残し、近くにある草むらの中に身を隠したのだった。

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