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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第77話 積み上げてきた努力!

(ガビー、ちょっと頼みがあるんだけどいいか?)


(ドラゴンと戦ってる最中にしてはなんか余裕あるわねー。言ってみなさいよ)


 次々とクレイに襲い掛かるギュイベルの激しい攻撃。


 それらをクレイは素早い動きでかわしつつ、ガビーに一つの頼みごとをする。


(はいやったわよ。本当にこんなことでいいの?)


(早いなオイ)


(当たり前でしょ、このアタシを誰だと思ってんのよ)


 直後にガビーから返答があり、もう少し時間がかかると思っていたクレイは驚きつつも感謝の意思を発した。


(天軍の副官様だよね。サンキュ、国に帰ったらお礼にベル兄のスィーツを一皿ガビーにやるよ)


(とっても魅力的な申し出だけど今回は遠慮しておくわ。その代わりと言ってはなんだけど、アタシ今すごく飲みたいものがあるのよ)


(飲みたいもの?)


 そして絶品であるベルトラムのスィーツ(ガビーと食事をするといつも奪い合いになるほどに)をお礼にしようと思っていたクレイは、意外なガビーの返答に目を丸くしつつその内容を聞く。


(キャンブリックティー。蜂蜜と白いミルクをたっぷり入れた紅茶が飲みたいわ)


(へ? そんなものでいいのか?)


 だがガビーの説明を聞いたクレイは、ますますその真意が分からなくなっていた。



(泣きっ面に蜂って知ってる?)


(知ってる)



 しかし茶目っ気たっぷりに伝わってきたガビーの念話を聞いた途端、クレイは思わず吹き出してしまい、真っ白なギュイベルを憐みの目で見つめる。


(それじゃ頼んだわよクレイ)


(任せてくれ、新鮮なやつをたっぷり取って来てやるよ)


 そしてクレイはガビーとの念話を打ち切ると、ゆっくりとギュイベルへ歩き出していった。


「無防備に俺に近づいてくるたぁ、とうとう死ぬ覚悟を決めたかぁ? ま、このお嬢ちゃんを苦しめたいってんならいいぜ? ちょっとくらい俺に反撃してもよ」


 クレイは無言でギュイベルへ近づく。


(他人の不幸は蜜の味、か。フィーナの受け売りなだけかも知れないけど、ガビーも結構キツイ性格してるよなぁ)


 そして光る右手を軽く振りかぶると、ギュイベルの左足へと叩きつける。


 だがギュイベルは少しも苦しむ様子はない。


「お前の未熟な精霊魔術なんざ、効果を俺の思うように操れるんだよ。このお嬢ちゃんが苦しむのもそのオマケだ。だからお前が何をしようとも無駄……お?」


 見た目に大きな異変が生じたのは、ギュイベルの背後だった。


「っとっと……」


 地面に大きくうがたれた穴、クレーターに足を取られたギュイベルは不意を突かれたこともあり、その中に転がり込んでしまう。


「やるじゃねえか。俺に力を逸らされたとは言え、攻撃の余波だけでこれだけの威力を出すなんざ……ん?」


 クレーターの底で立ち上がろうとしたギュイベルは、ぐらりと体を崩したことを不思議に思って口を閉じ、眼をパチパチとしながら先ほどクレイに殴られた左足を見る。


「なっ!? なんだこりゃあ!?」


 左足にまるで力が入らない原因を突き止めようとした彼の眼に入った光景は、ぐしゃぐしゃに折れた左足だった。


「立て」


「お、おい待て……すぐにそっちに行ってやるから……うおッ!?」


 クレイの額にある黒い輝きが揺らめき、その瞬間にクレイの姿が消える。


「ど、どこにい……ったワガッ!?」


 今度はクレーターのなだらかな斜面を上へと転げ上がったギュイベルは、それでも一向に痛みの無い体をあちこちと見回し、そして右の翼がズタズタに引き裂かれていたことに恐怖した。


「立て」


「ま、待て! お前このお嬢ちゃんがどうなっても……あぇッ!?」


 再びクレイの姿が音もなく消える。


 つい先ほどまで力任せに風乙女たちを押しのけ、彼女たちの怒りすらかうほどに稚拙だった彼の移動は、いつの間にか風乙女の協力のもとに成り立つ、目にも止まらぬ高速なものとなっていた。


「こ、このクソガキがッ! どこに消えやがった!」


 ギュイベルの体に痛みはない。


 よってどこが負傷したかすぐには分からない。


 つまり、どこから攻撃されているかすら分からないのだ。


「俺が……ドラゴンであるこの俺の目でも捉えきれないだと……そんなわけがあるかあああああッギャアアアア!?」


 頭頂部を強打されたギュイベルはとうとう地面に這いつくばってしまい、無様な醜態をさらした。


 大空の覇者、天空を思うがままに駆け抜ける偉大なドラゴンの一頭である彼が。


「立て」


 何度目になるか分からないその声を聞いたギュイベルは、地面に這いつくばった彼の目の前にクレイが立っていることに気付き、驚喜する。


「ふ……ふへへへへ! 俺の目の前に立つたぁ油断したな! 死ね!」


「ヤタノカガミ」


 世界の法則を塗りつぶすドラゴンブレス。


 だがそれすら今のクレイには通用しなかった。


「消え……た……グェ」


「我ら天使は聖霊と常時接続されているがゆえ、類稀なる自己治癒能力を有する」


 白い輝きとクレイの姿が視界から消えた後、首の後ろに冷たい手が添えられたことを感じ取ったギュイベルは、今まで生きていた中でほとんど感じ取ったことがない感覚、その二回目の予兆を感じ取っていた。


「だが痛覚までは消さぬ。どこを負傷したか分からぬようでは、急を要する治癒を行わぬままになってしまう可能性があるためにな」


「その気配……まさ……か……」


「つまり逆を言えば、痛覚そのものを消してしまうこともできるわけだ。これがどう言うことか分かるな? 未熟な幼竜よ」


 その予兆とは死。


 その昔、彼とドライグの二頭を子ども扱いし、まとめて封印した天使の王メタトロン。


 ドラゴンである彼にすら死を与えかねない恐るべき相手が、今まさに彼の命を握っていた。


「道理でさっきからまるでお嬢ちゃんが苦しむ様子がないわけだ……へへ、へへへへへ……」


 とうとう観念したのか、ギュイベルは急に大人しくなる。


「お、お嬢ちゃんを返すからよ……今までのことも謝る! 許してくれねえか! いえ許してくださいお願いします!」


「牙が刺さったあの吸血鬼はどうするつもりだ」


「も、もちろん解呪するとも!」


 余程追い詰められているのか、ギュイベルは自分で竜人を差し向けたことも思いつかず、慌てて何度も頷く。


「……仕方あるまい、我の宿り主がお前の申し出を受理したいと言っている」


「あ、ありがてえ……感謝する……いたしますぅ」


「先に言っておこう。妙な気は起こさない方が身のためだ」


 クレイはギュイベルの首の上から飛び降り、再び立ち上がったギュイベルを見つめる。


「バァ~ッカ」


 そしてギュイベルが自らの首に向けてかぎ爪を向けている姿を、茫洋とした表情で見守った。


「あの冷酷なメタトロンなら俺の提案に絶対に承諾しなかったぜ! お礼にこのお嬢ちゃんをた~っぷりと……たっぷりと? あで?」


「人であるジョゼの体をドラゴンであるお前の体に移植したなら、お前が力を失えば異物として排出するだろ? それだけの話だ」


 だがすでにその時にはギュイベルの体からジョゼがするりと抜け落ちており、触覚を奪われてそれに気付かなかったギュイベルは、クレイの指摘を聞いた後に慌てて辺りを見回す。


「クレイ兄様……」


「ちょっと遅くなっちゃったな。でも悪い所は無さそうで何よりだ」


 そしてギュイベルが気付いた時には、ジョゼはすでにクレイに抱き留められ、離れた場所に二人で立っていたのだ。


「お、おのれ……おのれ! おのれ!」


 ギュイベルは怒りに任せてドラゴンブレスを放つ。


「オノ……グェェェェエエエエエエ!?」


「……さっき、ジョゼの夢を笑ったな?」


「そ、それがどうし……ゥォボェェエ……」


「人が生を歩んだ証、人の生きる拠り所。万人に与えられた権利である夢を馬鹿にする奴を、俺は許しはしない」


 しかしそれすらクレイに掻き消され、反撃の拳を喰らったギュイベルは、慌てて飛行術を発動して逃げ始める。


「……お前だけは逃がさない。どうやらお前は、この世に放ってはいけない存在みたいだからな」


 その後ろ姿を首を振りながら見送ったクレイは、空を見上げるとぼそりと呟いて小さく腰を落とし、右手を軽く握りしめた。


 強くなると心に決めたあの日から、ついに数えることを止めてしまうほどに振り抜いたこぶしを。



――そんなに頑張らなくてもいいのですよ、クレイ――


 努力に気付かれてはならなかった。


――まだ小さい貴方が苦労する必要はありません。それより礼儀作法を――


 前回の天魔大戦において一人で戦い続け、一人で悩み続けた義父アルバトール。


――天使となったアルバとお前は違うのだ。無理をするな――


 そして王都が黒の結界に包まれた日。


 重荷に耐え続けたアルバトールの心が、とうとう折れてしまったあの日。


 すべてをアルバトール一人に背負わせていたのだと気づいた人たちは、結界に身を変えたアデライードが大切にし、後を頼むと遺言を残したクレイだけは、そうさせてはならないと心に決めた。


 それが間違った優しさなのだと、最初から気づいていながらも。



――拳闘を? それは構わないが、剣術のほうがいいんじゃないかい? それに親しい間柄とは言え、どうして外部の者であるオリュンポス十二神の私に?――


 努力を見られるたびに止められたクレイは、止められるたびにアルバトールの歩んだ道は間違っていたのだと言われているような気がしたクレイは、周囲の人間に自分の努力が気付かれないように、身一つで修練できる拳闘を選んだ。


 その技を知っているのがテイレシアの人間ではない、オリュンポス十二神の一人アポローンである拳闘を。


 勉強や剣術などの修練が苦手なふりをしてこっそりと城を抜け出し、昼夜を問わず、季節を問わずにこぶしを握り、振り続けた。


 肌が切れそうな寒風に泣き、視界が歪む暑さには天へ怒りをぶつけ、教えてもらった新しい技術に喜び、ずっとかなわなかった仮想の敵を倒した時は人知れず笑い。


 周囲の者たちに気付かれないように少しずつ、少しずつ積み上げてきた努力。


 その努力はバロールの助力を得たことにより、一気に開花する。



「シタデル……」



 クレイの右腕に宿った光が増幅する。


 光は全身に回り、そして彼の背中から白い羽根のような閃光が後方へと伸びた。


 至高たる天空ではなく、彼が今立っている世界に接続するように。



「バースト!!」



 数十万を超え、数千万を超え。


 クレイが長年をかけて積み上げてきた努力は、気付けば遥かなる天空を翔けるドラゴンの高みすら超えていた。


 クレイから放たれた光がギュイベルへと伸び、太陽と見まがわんばかりの巨大な光球と化す。


 光が消えた時、家を数軒合わせてもなお収まり切れぬほど巨大だったギュイベルは、クレイにその体を極小なものへと変化させられ、ギュイベルだったものとして地上へと落ちていった。

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