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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第66話 女王メイヴ!

「ふ~ん……このチャリオット? で移動するの? モリガンさん」


「ええ、これならすぐにチェレスタへ着きますから」


 屋根が無い馬車と言った外見のチャリオットを、クレイはしげしげと見つめる。


「でもこれ二人乗りじゃないの?」


「……鋭いですねクレイ。そこまで成長していたとは……どうやら私が教えることはもう無さそうですね」


「エー……」



 こうしてチェレスタへは馬車で移動することとなった。



「しょうがないんじゃない? エメルも探さなきゃいけないし、空を飛んで見逃しちゃったら困るでしょ?」


「ま、まぁ……そうですね仕方がありません」


「それにバロールの手下もまだチェレスタで情報収集してるのよね? 急いで行っても仕方がないわ」


「んーと……そうみたいだ。なんかドラゴンが一般市民を追い出し始めたらしい」


「それじゃ決まりね。じゃあ旅支度の準備をするわ」


 その場をまるく収めたのは、珍しくテキパキと動くガビーだった。


「荷馬車と御者の手配はどうなってるのエンツォ。今回は招かれざる客だし手に持てるだけの分じゃ水も食料も不安だわ」


「既に手配済み、荷物も積み終わっておりますぞ」


「さすがね。フィーナ、そろそろディルドレッドの目隠しは外していいわ」


「私たちが乗る荷馬車があるけどそっちはいいの?」


「チャリオットに突撃して神罰を受けちゃったら困るだけだったし大丈夫よ」


「随分と周到ねー。はいもう大丈夫よディルドレッド」


「あ、はい……おおあれに見えるは何かが乗ってそうな荷馬車グェ」


「それじゃ出発しようか。ガビー色々とありがと」


「アタシここまでやったんだからクレイはきちんと精霊魔術の練習しとくのよ。アイギス以外の術はてんでダメなんだから」


「ハイ」


 後ろからディルドレッドの首に縄をつけたクレイの号令により、一行はレクサールを後にした。



≪……なるほどな、と言うことは今のお前の中にはメタトロンとバロールが存在しているわけか≫


≪うん、実際には存在はしてなくて存在の設計図みたいな感じの魂……えーと空だっけ、それが内包されてるみたい≫


≪曼荼羅の術……アルバトールに話だけは聞いていましたが、まさか実際に使う天使が現れるとは思っていませんでした。しかもその使用者が、天使に転生して日も浅い貴方とは≫


≪実際に使ってるのはメタトロンだし、バロールさんに使えたのは数々の偶然が重なっただけ、まさに奇跡といった感じだから次からどうなるか分からないんだけどね≫


 ジョゼが誘拐された経緯、そしてレクサールにクレイたちが着くまでの出来事を説明したクレイは、クー・フーリンとモリガンの自分を見る目が変わったことに気付いて肩をすくめ、下の方へ眼を逸らす。


 チェレスタへの道中、クレイとモリガン、クー・フーリンのみはチャリオットに乗り、馬車の警戒を兼ねて上空を飛んでいた。


 一応この時ガビーも飛行術で飛んでいるのだが、なぜか彼女は荷馬車と並走するように下の方を飛んでいる。


 なぜ高い場所を飛ばないのかというと、それは荷馬車に乗っているフィーナと話すためであり、決してエンツォを一緒に飛ばしているからではないだろう。


「申し訳ありませんなガビー侍祭。ワシは重すぎるゆえに、馬や馬車に乗るには専用の馬が数頭ほど必要となるのです」


「まぁ別にいいんだけど……あーあ、こんな時にバヤールがいてくれたらいいのに」


「残念ながらバヤールは主君であるアルバ候の愛馬。それに馬とは言え女人でございますからな。下に敷くのはベッドの中だけで十分」


「……そうね」


 ガビーはバヤールが人間の姿になっている時のことを脳裏に浮かべ、微妙な返事をエンツォに返すだけに留めた。


 神馬バヤール。


 アルバトールを主人とする牝馬である。


 現在は物資の運搬、在庫管理などの任務の一部を引き受けており、テイレシアの各地を忙しく動き回る毎日を送っていた。


≪バヤールも久しく会っていませんね。彼女は元気にしているのですか?≫


≪うん、というかそもそも元気じゃない時を見たことがないかも≫


 苦笑いを浮かべるモリガンに笑顔を向けた後、クレイは周辺へ視線を配り、見つかる気配のないエメルのことを思って空を見上げた。


(メタトロンの眼があればなぁ……アイツいつまで寝てるつもりなんだ?)


 無数の眼を持つと称されるメタトロン。


 様々な異名を持ち、その力は天使の王と称される程に特別、そして類を見ない特殊な物である。


(らしいけど、今は疲れて眠ってる……その理由は前回の天魔大戦でアルバ候を手助けするために力を使い果たしたからで、でもその前からほとんど力が残ってなかったみたいなことを言ってたな)


 クレイはそのことについてメタトロンに聞いたことがある。


 だがメタトロンは、時が来れば分かるだろうし時が来なければ教える必要も無い、君まで我やアルバトールと同じ重荷を背負う必要は無いのだと繰り返すのみで、その詳細は結局聞けなかったのだ。


(これが子供の限界なのかな。俺も早く大人になりたいや)


 クレイは小さい頃からベルトラムに教えてもらっている精神魔術、つまり人なら誰でも持っている精神の力を行使する魔術の一つ、魔力探知の術を使ってエメルを探すが、吸血鬼と見られる気配はまるで感じられなかった。


(エメルさんの気配は吸血鬼の中でも特別だから、近くに居ればすぐに分かるはずなんだけど……別の道からチェレスタに行ったのかな)


 クレイは下の荷馬車に乗っているサリムに声をかけ、ガビーに頼んで上に飛ばしてもらうが彼の目でもエメルは見つけられない。



 そうこうしている内に日は暮れ、宿場町についたクレイたちは宿を取り、特に事件も起きずに夜が明ける。


 そして出発してから時を置かず、クレイは道の先にある変化を見ていた。



「あれ? 向こうから大勢の人が荷馬車に乗ってこっちに……あれがバロールさんが言ってたチェレスタの避難民なのかな」


「の、ようですね。家財道具のような物が多いですし、おそらくクレイ様の推察通りでしょう」


 サリムの相槌から程なくして、クレイたちは近づいてきた荷馬車軍団に道を譲ることとなる。


 街道は避難してきた荷馬車で埋まり、無理に押しとおろうとすれば事故を引き起こして逆に遅くなると判断したからである。


 だが脇で待っていたクレイたちの前で一台の荷馬車が止まり。


「おやクレイ殿。ガビー殿もいらっしゃるとはもしや今からチェレスタに?」


「あれ? その牛頭……ひょっとしてウィッチエント村の門番の?」


「はい、それにしても一度しか会っていないのによくお判りになりましたな」


「そりゃまぁ……」


 荷馬車を引いていた牛と馬……もとい牛頭馬頭の男たちが声をかけてきていた。


「ゴズーさんとメズーさん久しぶりだね。チェレスタで偵察をしてるってバロールさんに聞いてたんだけど、ここに居るってことは主だった情報は集め終わったの?」


「いや、それがですな……」


 馬頭のメズーと言われた男が困ったように尻尾を振って牛頭のゴズーを見る。


「バロール様にお伝えしたように、いきなりドラゴンがチェレスタの住民に去るように通達しまして、それで恥ずかしながら我らも一緒に避難してきたと言うわけです」


 ゴズーの説明にメズーが頷き、補足を始める。


「なにせ一般市民に紛れて情報収集をしていた手前、住民がいなくなっては我らの素性がバレるのも時間の問題でしたからな」


「……そうだね」


 あえて多くは問うまい。


 子供には分からない事情と言うものが大人にはあるのだ。


 クレイがヘプルクロシアで過ごした時間は一月にも満たないが、そう言うものがあるのだとすでに彼は悟っていた。


「それじゃ二人に聞きたいこと……あ、ちょっと待って。うんうん、分かったよバロールさん。ええと、二人がチェレスタを出るまでのことは聞いてるから、出た後に何か変わったことはなかったかってバロールさんが言ってる」


「そうですな……変わったことと言えば、女王メイヴが直々に町から出ていく民の持ち物検査をしていたくらいでしょうか?」


「えー? その割には避難してくる人たちが多くない?」


 荷馬車に積んである荷物はかなりの量であり、布で覆われているものが殆ど。


 これを一人で見定めるのは、いくら人外のメイヴでも一苦労のはずである。


「それが妙なことに、ある農具のみをチェックしておりましてな」


「ある農具?」


 ゴズーの説明に、クレイは首をかしげる。


「ピッチフォーク、つまり刈った草や作物などを掬い上げるアレです」


「ああ、アレか……え、なんでそんなものを」


 クレイの目の前でゴズーとメズーが首を傾げ、それに釣られるようにクレイも頭を捻って思案する。


 しかしその答えは、意外というか当然と言うか、一つの巨大な槍から返ってきていた。


≪女王メイヴがなぜ今さら俺を狙うのか分からなかったが、それを聞いて合点がいった。まったく昔から変わっておらんなあの女は。つまりゲイボルグになった今の俺か、あるいはより巨大なピッチフォークが欲しいのだろう≫


≪エェー……そんな子供みたいな理由? なんか急に会いたくなくなっちゃったよ≫


 クー・フーリンが発した思念を受け取ったクレイは頭を抱える。


 しかし確かに女王メイヴが昔クー・フーリンと戦った理由は、彼女の夫が持つ雄牛にメイヴの持っていた雄牛では敵わなかったから、クー・フーリンが住む国に居る精強な雄牛を奪いに来た、と言うものだった。


≪……でもジョゼがチェレスタに居るんだよなぁ……エメルさんも向かってるはずだし……うう、やだなぁ、嫌な予感しかしないよ……≫


≪頑張りなさいクレイ。人が嫌がることを進んでやるのも天使の仕事よ≫


≪ガビーが言うとなんか違った意味に聞こえるな≫


≪どう言う意味よ!≫


 結局のところ、クレイに選択肢は無いのである。


 彼は沈む気持ちを奮い立たせ、クー・フーリンの仇を討つのだと言う硬い目標を自身の中に立て、しかし底なし沼のようにズブズブにぬかるんでしまった気持ちの中に即座に沈んでいく目標を死んだ目で見つめながらチェレスタへ進んだ。



「あれがチェレスタか……はぁ」


 城郭都市チェレスタ。


 かつてヘプルクロシア王国を真っ二つに割る内戦が起きた時、現王のリチャードが身を寄せた都市である。


 フォルセールほどではないものの周囲は堅牢な城壁に守られ、守るに易く攻めるに難い堅城として名高い。


「はぁ……」


 だがクレイは何度目かになるか分からない溜息をついており、そしてそれを止める者もいない、それどころかいなくなって久しい。


 何故ならそれは彼自身が乗り越えるべき問題だからであり、他の誰かが手助けをするという性質のものでは無いからである。


 しかし。


「と言ってもこっちの気持ちまで沈んじゃうから困ったもんよねーホント女々しいったらありゃしない」


「ウチ、侍祭様がその張本人だと思うんですけど」


「ティナ、これはクレイが一人前になるために主が与えて下さった大切な試練なの。よってアタシが手を貸すわけにはいかないの」


「クレイ様の心を引っ掻き回してはいますよね」


「サリム、先代の司祭様がアルバに課した試練より、今クレイに課された試練の方がよほど優しいわ。つまりこれすら乗り越えられないようなら、クレイはアルバに追いつくことも難しいってことよ」


 と言ったようなやりとりをここまで周囲の者たちに何度も繰り返されるほど、今のクレイは追い詰められてもいた。


 今のチェレスタや女王メイヴはクレイにとって絶対に見たくないものであり、同時に彼の気持ちに区切りをつけるための到着点にもなっていた。



「仕方ない、覚悟を決めるか」



 しかしクレイは気力を振り絞って決断をする。


「ジョゼとクー・フーリンさんのため……俺は今から鬼となるぞ! よし心を鬼にして女王メイヴをけちょんけちょんにしてやる! やってやる! やってやるぞ!」


≪……無理をしなくてもいいぞクレイ≫


≪行ってきます!≫


 クレイはクー・フーリンへ元気よく返事をすると肩をいからせ、威勢よく足を上げながら歩き、前方から近づいてくる荷馬車を避けながら城門へと近づいていく。


 そこでは箱っぽい何かに乗った一人の少女が、荷馬車の一台一台を検査しており。



「ちょっとちょっと、そこのピッチフォーク出してくれますこと? そーそれよそれ! えっと……あーら、私のものより随分と小さいですわね。気に入ったわ通してあげる!」


 何やら予想通りの光景がそこにはあった。



 クレイは有無を言わさずその少女を殴りたい気分に駆られたが、人違いであった場合は事件である。


 彼は身体を左右にゆすり、大きく見せながらその少女へと近づいていった。


「女王メイヴか?」


「あら、この私をメイヴと知ってその態度をとるとは……不遜ですわね」


「敬意を表するに値しない、ただそれだけの話だろ」

 


 女王メイヴ。


 クレイより長身で、クレイより明るめの赤毛を鮮やかな黄色の布で束ねた、気の強そうな青い瞳の少女。


 かつてクー・フーリンを死に追いやった張本人に、クレイは明確な殺意を向けた。

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