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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第65話 純粋な想い!

「遺書……なんで今さら遺書なんて書く必要があるんだ? 確かにエメルさんは俺に自分を殺してくれって言ってきたけど……」


「知らないわよ! とにかくアタシが神殿に戻ったら、モリガンとクー・フーリンが青ざめた顔でこれを見てくれって言ってきて、それで封書の中を見たらエメルの遺書だったのよ!」


「見せてくれガビー」


 それはありきたりな遺書だった。


 クー・フーリンとモリガンに対してのこれまでの礼、これからの謝意。



――だが、それに籠められた想いは――



「想いを詰めたもの……か」


「クレイ様?」


 クレイの肩に戻ったティナが、その寂し気な言葉に反応する。


「その想いは自分だけでは持ち切れず、その想いを受け取った人たちも不安を覚えて身を案じる。だから何か心配なことがあったら、そうなる前に相談しなさいって昔アリア義母様に言われたな」


「……アタシ、それラファエラに言われたことがあるわ。貴女がそこまで思い詰めることはないのですよ、って」


「そっか」


 クレイは義父アルバトールの寂し気な顔を思い出し、その回復にガビーが奔走していたと聞いた時のことを思い出す。


「あまり思い詰めると体に毒だ。エメルさんもチェレスタに向かったのなら、そこですべてを解決させよう」


 クレイはそう言うと綺麗に遺書を折り畳み、法術で再び封をする。


 その時だった。



≪お前らしくもない決断だとは思っていたが、なるほどそう言うことだったか≫



 クレイの頭の中に、か細い中にも硬い芯が――心が通った意志が響き渡る。


≪仕方がありません、クレイは頭のいい子ですからね≫


 そして一本の柱の影から、一振りの槍と一人の戦女神が姿を現していた。


≪うん、騙しちゃってごめんよクー・フーリンさん、モリガンさん≫


≪構いませんよクレイ。遺書を見せた時のガビーの反応が妙だったので、ちょっと問い詰めたらすぐに白状したのです≫


 クレイは一言の言い訳もせずにあっさりと謝罪をすると、隣にいるガビーを軽く睨み付け、すぐにそっぽを向いた彼女に向けて軽く溜息をついた。


≪お前が気にすることではない。それにお前が気にかけてもならない問題だ≫


 そこへクー・フーリンが慰めの言葉をかけるも、それはクレイの気持ちを余計に落ち込ませるものだった。


≪クー・フーリン……貴方はまだそんなことを言っているのですか≫


 悲しげに呟くモリガン。


(……後回しにはできない、か)


 そのモリガンの悲しみを感じとったクレイは、思わず一つの質問をクー・フーリンにぶつけていた。


≪クー・フーリンさんはエメルさんと一緒にいたくないの?≫


≪言ったはずだぞクレイ、お前が気にすることではないし、気にかけてもならない問題だと≫


≪じゃあ何で俺に遺書を見せたのさ≫


≪……お前にエメルのことを告白させるためだ≫


 クー・フーリンが垣間見せた迷い。


 クレイはそれを見逃さなかった。


≪俺に告白させたいなら遺書の中身まで見せる必要は無いよね。本当は迷ってるんじゃないの? エメルさんのこと。もし俺が本気でエメルさんを殺そうと考えていた時は、遺書の内容を見せたら考え直すんじゃないかって≫


≪……≫


 黙り込むクー・フーリン。


 彼の心情を何よりも雄弁に語るその沈黙はクレイの心を激しく締め付け、だがクレイはその苦しみを乗り越えてクー・フーリンを問い詰めた。


≪クー・フーリンさんが何も言わないなら、俺はドラゴンを下手に刺激したくないし動かないよ。今からエメルさんを助けに行く? それともレクサールに留まって傷つき披露した兵士たちを回復させ、三日後に来るドラゴンを迎え撃つ? やることは山積みなのに、このまま自分の気持ちに嘘をついて迷い続けるの?≫


≪……間違いなく親子だな……いや、フォルセールという地を治める領主に連綿と受け継がれていく、優しさと厳しさゆえの発言か≫


 クー・フーリンは溜息をつき、再び口を閉ざす。


 それを感じ取ったクレイは、呻くように言葉を絞り出していた。



 無垢なる思いから発する、純粋な言葉を。



≪俺は……クー・フーリンさんとずっと一緒にいたいよ。衰弱するに任せたままクー・フーリンさんが消えるなんて絶対に我慢できない。それはクー・フーリンさんも、モリガンさんも、そしてエメルさんも一緒じゃないの?≫


≪……!≫


 短い沈黙。


 だが今度のそれは、クー・フーリンが一つの決断をした瞬間でもあった。


≪三人で一緒に生きていくために、チェレスタに行こうクー・フーリンさん≫


≪分かった≫


 その言葉は無用の遠慮と配慮で凝り固まったクー・フーリンの心を溶かし、中に埋もれていた一つの純粋な思いを露わにする。


 それはかつて最愛の妻だった、エメルへの愛だった。


≪やれやれ、ホーント素直じゃないわよねヘプルクロシアの連中は≫


≪お前が言うなよガビー≫


 そして話がまとまったのを受けてガビーが発した感想にクレイが突っ込みを入れ。


≪それじゃジョゼの救出もあるし、さっさとチェレスタに行っちゃうわよクレイ≫


≪そうだな!≫



 しかしそのガビーの発言により、場の雰囲気は一変した。



≪……待てクレイ。ジョゼの救出とは何のことだ≫


≪え≫


≪クレイ、確かジョゼはテイレシアに嫁いだクレメンス王妃と共に、王都ベイキングダムにいるのではありませんでしたか?≫


≪え、えー……と……≫


≪クレイ、事と次第によっては国際問題になる話だ。包み隠さず素直に話せ≫


≪貴方も聞いたことがあるでしょう、ルーがアデライード王女を誘拐した時にどんなことが起こったかを≫


 クー・フーリンとモリガンが静かに、だが反論を許さぬ迫力と共にクレイへと迫っていく。


 クレイが最も苦手とするうちの一つ、怒った時のラファエラのように。


 と言うわけで。


≪ごめんね、もうガビーが話してると思ったんだ。実は……≫


≪ちょっと! アタシは何度もアンタに話せって言ったでしょ!≫


 クレイはただちに言い訳をするも、それはあっさりガビーに訂正されてしまう。


≪ふむ≫≪そうですか≫


≪……えーとね、ちょっと事情があって……あー、うー……≫


 どうやら逃げ場は無さそうである。


 クレイは打つ手なしとばかりに下を向き、もじもじしながら上目遣いでクー・フーリンとモリガンの様子を伺って誤魔化そうとするが、その浅はかな目論見はモリガンの溜息によってもろくも吹き飛ばされる。


≪ふー……まったく、仕方のない子ですね貴方は≫


≪説明はチェレスタに行く道中でもできよう。旅支度も少人数であればすぐにできるし、今すぐにチェレスタに行くぞクレイ。もしも宿をとっているならすぐに引き払って準備をしろ。宿の主人がつべこべと言ってきたら俺の名を出せ≫


≪ハイ≫


≪やーい怒られた……イタイッ!?≫


≪行くぞガビー≫


 クレイは拳を握りしめたまま隣で涙目になっているガビーに声をかけ、急いで外へ向かう。


 と思ったがすぐにクレイは足を止めて振り返り、未だ本心を表そうとしないモリガンを見つめた。


「モリガンさん。エメルさんにきちんと言ってあげたら? 今クー・フーリンさんの傍に居るのは自分だって」


「え……」


「その上で、今の私からクー・フーリンさんを取れるものなら取ってみろ。って勝負を挑めばいいんだよ、正々堂々とね。モリガンさんが変に遠慮してるから、エメルさんも遠慮してこんがらがっちゃったんじゃないかな」


「貴方が気にする問題じゃありません! 早く準備をしてきなさい!」


「ハーイ。あ、そうそう、モリガンさんも綺麗なんだから、もうちょっと自分に自信を持ってくれると俺も一緒に居て楽しいかもじゃあ行ってくる!」


 血相を変えたモリガンの顔を見たクレイは、慌てて神殿の外へ逃げ出していく。


 それを見送るように掲げた右手をモリガンは静かに降ろすと、持っていた一本の槍と共に再びソファへと腰を下ろした。


「やはりまだまだ子供ですね……人が気にしていることを遠慮なく指摘する、本当に生意気な子供です……」


≪惚れたか?≫


≪貴方の次くらいには≫


 そしてモリガンは何かを吹っ切ったような顔をすると、膝の上に横たわっている一本の槍に声をかけた。


≪愛していますよクー・フーリン≫


≪……お前も遠慮と言うものを知るべきだな≫


≪はいはい≫


 そして静かに立ち上がると、祭壇の裏に置いてある一台のチャリオットへ向かったのだった。

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