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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第61話 頼まれごと!

「初めましてガビー様、エメルと申します。そこにいるクー・フーリンとは所帯をもつ仲でございます」


「あ、はいこれはご丁寧にどうも……え? 所帯?」


「はい」


「フウフ?」


「はい」


 ガビーは目を真ん丸に見開き、エメルの顔をじっと見つめる。


 しっとりと濡れた羽根のように黒く輝く髪、大きめの目から放たれるしっかりとした意志の光。


 そしてクー・フーリンと夫婦であるという自己紹介をした割には、ゲイボルグを抱えているモリガンに対しても敬愛を以って接する、たおやかな仕草と表情。


 ガビーはあんぐりと口を開けたままゲイボルグとモリガンを見つめ、そして慌てたようにエメルへ振り返る。


「ええとえとえと、今アタシ、えーとその、ククク、クー……フーリンの容体が悪くないってベイキングダムで聞いたから、その治療でこちらに来たのよですわ! なのでちょっと治療に集中したいから席を外してもらってもよろしくて!?」


「あ、はい……それはもちろん」


 血相を変え、必死にエメルを追い払おうとするガビー。


 それを見たエメルは首を傾げ、おっとりとした声で答えるとその場を辞した。



≪……ちょっとそこに座んなさいクー・フーリン≫


≪無茶を言うなガビー、今の俺は人間では無いのだぞ。どうしてもと言うのであれば、向こうの壁に槍掛けがあるからそこに俺を持っていけ≫


 真面目に答えるクー・フーリンの説明に、当然ガビーは納得しない。


≪ウッキいいいい! 例えってモンを知らないのアンタは! アタシの話を聞くために姿勢を正せって意味で言ってるに決まってるでしょうが!≫


≪すまんなガビー、嫌味と言うものは知っているのだが≫


 その答えを聞くなりガビーは発狂した。


≪何なの分かってて言ってるとかそういうわけヘプルクロシアの男どもは女性に対する扱いってものがどいつもこいつも決定的に欠けてるんじゃないのバカアアア!≫


≪お、落ち着いてくださいガビー!≫


 手足をジタバタさせ、地団太を踏むガビーを慌ててなだめるモリガン。


≪これが落ち着いてられるわけないでしょ! アンタ二股かけられてたのよモリガンって言うか相手はもう結婚しててつまりは浮気じゃないの浮気! 絶対に許せない! もうこれは主に代わってアタシがお仕置きするしか……≫


≪あの、そのことなのですがガビー、実はエメルは……≫


≪分かってるわよ! 今まで何度も見て来たんだから!≫


≪え?≫


 初対面のはずであるエメルを今まで何度も見てきたと言い放ったガビーに、今度はモリガンがあんぐりと口を開ける。


≪あの子……エメルは……≫


 だがガビーは最後まで説明することはできなかった。


≪クー・フーリンさん、何だか不思議な人にさっき会ったんだけど≫


 何故なら先ほど外の教会に向かったはずのクレイが戻ってきてしまったのだ。



≪どうしたクレイ、教会に行かなくていいのか?≫


≪うん、ちょっと頼まれごとされちゃってさ。それでクー・フーリンさんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?≫


≪頼まれごと? お前がさっき言った不思議な人にか?≫


≪うん≫


 悪びれずに即答するクレイにクー・フーリンは苦笑する。


≪さっき会ったばかりの人間の頼まれごとを聞くとはこのお人よしめ。まぁいい、俺に何を聞きたいのだクレイ≫


≪えーとね……≫


 クレイは腕を組み、何かを思い出すように頭を傾ける。



≪まず、エメルって女の人について聞きたいんだけど≫


≪……何だと?≫



 そしてその後に発されたクレイの思念に、場は沈黙に包まれた。



≪……そうか、あいつに会ったか≫


≪うん≫


 クレイはいつものように、無邪気な笑顔でクー・フーリンに答える。


 そして不思議な女性、エメルに先ほど会った時のことを思い出していた。




「教会か……アレ? ガビーの奴、教会の場所も教えずにどうやって向かえって言うんだよ。あいついつも詰めが甘いよなー」


「んむ? ううむ……まぁ、仕方ありますまい。ガビー侍祭も何やら動揺なされておいでのようでしたからの。とりあえず一度お戻りになられますか若様」


 行く先の場所を聞かなかったクレイもクレイ。


 そう答えるわけにもいかず、苦笑しているエンツォをクレイは不思議そうに見上げると、一応ガビーが自分を追いかけて来ていないか神殿の入り口を見て確認する。


「そうだね……あれ? 誰か中から出てくる?」


 そしてエンツォの言葉に従ってクレイが戻ろうとした時、丁度中からガビーではない一人の女性が姿を現していた。


「ほう、これは美しい女人ですな」


 エンツォの感想にクレイが頷いた時、近づいてきた女性が会釈をし。


「……コンラ?」


 クレイの顔を見た女性エメルは、茫然とした表情でそう呟いたのだった。



「コンラ?」


 エメルの呟きを聞いたクレイは、人とも物とも判別のつかないその単語の意味を女性に聞く。


「あ、ごめんなさい。ちょっと私の知っている人に雰囲気が良く似ていた物ですから。よろしければ貴方のお名前を聞かせていただけませんか?」


「クレイ。クレイ=トール=フォルセールです」


「まぁ、貴方があのクレイ様でしたか。お初にお目にかかります、私の名前はエメル。かつてクー・フーリンの妻であった者です」


「かつて……ってことは、今は違うの違うんですか?」


「はい」


 クレイは平静を保ったままエメルに質問をする。


 だがその内心はやはり動揺しているのか、いつもの人懐こい口調で話そうとした彼は慌てて言葉を訂正していた。


「私は……あの人の生前の妻……ですから」


「そう言えば一度亡くなられてましたね、クー・フーリンさん」


「はい……」



 クー・フーリンの妻エメル。


 かつて彼が戦場で斃れた後、その復讐が成された後にクー・フーリンと同じ墓に入り、息を引き取ったと言う。


 だがその後クー・フーリンは現世に蘇るも、エメルは冥界の住人となったままのはずであった。


 その彼女がどうしてここに? 


 クレイはエメルを怪しみながらも、敬意をもって接し続ける。



「その件について貴方にお話があるのです。厳正なる裁きを下す天使メタトロンを内に宿す貴方に」


「……メタトロンを宿している俺に、ですか」


「ええ、貴方にしか頼めないことです」


「一体どんな頼みなんですか?」


 メタトロンと聞き、クレイの心には次々と嫌な予感が湧き出でる。


 しかし尊敬するクー・フーリンの妻であった女性の頼みとあれば、むげに断る訳にもいかなかった。


 もしもエメルの偽物がクー・フーリンやモリガンを惑わそうとしているなら、この女性を討たなければならないのだから。



「私を再び冥界の住人へと戻してほしいのです」


「冥界の住人に?」


「はい、要は蘇ってしまった私を殺してほしいのです。この世に在るべきではない存在として、この地に在ってしまっている私を」



――トクン――



 エメルの告白を聞いたクレイの胸に、一つの記憶……痛みが走る。



――私を殺して――



(どうしたんじゃいお前らボーっとして)


(あ、ああごめんバロールさん、心配させちゃった?)


(心配まではいかんわい、ただセタンタの坊主が関わっとるようじゃから気になったまでじゃい。そんじゃの)


 クー・フーリンの幼名セタンタを出したバロールは、胸毛の生えているあたりをボリボリとかくとまた横になる。


(お休み。さて、と……)



 クレイはエメルの口から発せられた意外な頼みごとに、さも困ったと言うように眉根を寄せてから口を開く。



「できないことはないと思うんだけど、高いよ? エメルさん」


「え……高い、んでしょうか?」


「うん。冥界から蘇ったってことは、エメルさんは不死者なんだよね? ターンアンデッドっていう高位の法術を使うには、凄くお高い免罪符って奴が必要なんだよ」


「あ、えーと……そうなんですか……」


 いきなり口調が変わったクレイにエメルは戸惑い、少し下を向いた後に思い切って顔を上げる。


「申し訳ありません、私があちらの立派な神殿の中から出てきたから、それなりにお金を持っていると思われたのかも知れませんが、実は中におわす高貴な方々の好意に甘えて住まわせてもらっているだけで、私自身はまるでお金を持っていないのです」


 そこまで言ったところで、エメルは少々顔を赤らめる。


「それに私も現世に復活したばかりで、恥ずかしながらお支払いできるほどのお金を稼ぐあてもまるで無いのです……」


「あ、そうなんだ……まぁ支払うお金が出来たとしても、クー・フーリンさんに聞いてからじゃないと無理。エメルさんにとって大事な人は、俺にとっても凄く大事な人なんだ。だから後で面倒なことにならないようにしておかないとね」


 必死に説明するエメルにクレイは思わず同情してしまうが、だからと言って簡単に頼みごとを引き受けるにはいかなかった。


 そしてクレイの予想通り、エメルは血相を変えて内緒にしてほしいと頼み込んできてくる。


「と言ってもなぁ……そもそも何でまた死にたいの? メタトロンの見通す力を借りて見る限り、魂と肉体の融合は上手くいってるよ。ちょっと変なものが間に入ってるけどそれが原因かな?」


「それは……」


 エメルはキョロキョロと何度も周囲を見渡し、人気が無いのを確認してからクレイにその理由を話す。


「そっか。じゃあますますクー・フーリンさんに話して許可を貰わないとね」


「そんな!」


「大丈夫、エメルさんには被害がいかないようにするから」


「でも……」


「俺が信用できない?」


「そ、そういうわけではありませんが」


 クレイはニコリと笑い、得意気な表情でエメルの顔を覗き込む。



「そもそもこれは、俺を全面的に信用することを大前提で進めるお話だよね。聞いてすぐに、じゃあやりましょうかで終わる話じゃない。人を殺すってことはそれだけ大変なことなんだから」



 エメルは目を見開いて驚き、微笑み。


「穢れによりて不死となりしこの私を……生者と同じように扱って下さるのですね」


 そしてそれまで漂わせていた緊張感を消した。


「吸血鬼エメル、天使クレイ=トール=フォルセールにすべてを託します。どうかこの身を……あのお二人の存在を危うくするモノとなってしまったこの身を、一刻も早くお二人の目に触れなくなるよう、ことごとく消し去ることをお願い申し上げます」


 静かに頭を下げるエメル。


 クレイは短く承諾の返事をすると、エンツォと共に足早に神殿の中へと戻っていったのだった。

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