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第6話 最深部の部屋で光る箱!

「リュファス兄!?」


 リュファスに迫る無数の金属片を見たクレイは悲鳴を上げる。


 しかしかなりの速度で放たれた金属片にリュファスは何の抵抗も見せず、クレイが見ている前でリュファスの全身はサボテンのように細かい金属片を生やすものとなっていた。


「リュファス兄……こんな変わり果てた姿に……」


「慌てんなよクレイ。よっと」


 だがそれほど深い傷ではなかったのか、リュファスが軽く気合の声を出しただけですべての金属片は彼の身体から剥がれ落ち、カチャカチャと甲高い音を立てながら床に落ちていった。


「チェッ、クマみたいな剛毛だねって言おうとしたのに」


「お前、少しは人の心配をしろよ! いくらティーターン神族の一部特徴が顕在化した俺でも死ぬときは死ぬんだぞイテッ!?」


 大昔に封印された伝説の巨人種族ティーターン。


 その種族の名を口にしたリュファスが、先ほど全身に鉄片が突き刺さったばかりだというのに平気な顔でクレイに迫ると、その頭をロザリーが叩いて黙らせる。


「うん、毒も無いようなのです。自分のつばでもつけとけと言いたい所ですが、さすがに迷宮の中だと傷口から悪い風が入るかもしれないから治しとくですよ」


「体中がヒリヒリするぜ……本当に毒は無いんだろうなロザリー」


 赤くなった腕に息を吹きかけるリュファスは、診断にケチをつけられそれ以上に赤くなったロザリーの顔を見て即座に黙り込む。


「でもリュファス兄。最初の説明だと、迷宮の罠は命に別状は無いものばかりって言ってたよね?」


「あー、それなんだがなクレイ」


「うん」


「罠の制作者にとっては、という限定条件がつくんだ」


「へ?」


 訳が分からないと言ったように首をかしげるクレイに、リュファスは苦笑いを浮かべて説明をする。


「迷宮の罠ってのは、細工物を作るのが得意なドワーフが作った物が多い。つまり罠を作ったドワーフたちにとってのお遊び、仕事の間の暇つぶしなんだよ。迷宮の罠は」


「あー、納得……要はドワーフにとってはお遊び、暇つぶし程度の技術だけど、人間には十分に怖い物になるってことだね」


「いや、ちがブッ!?」


 リュファスの頭をいきなり壁から伸びてきた鉄の棒がブッ飛ばし、続けざまに天井からゴツい棘が満遍なく生えた鉄球が次から次へと落ちてくる。


 呆気にとられる三人をよそに、その光景はしばらく続いたのだった。



 そして。



「……まぁ、さっきのを見れば判るだろ? ドワーフはめちゃくちゃ頑丈ってことだ」


「あれが仕事の合間のお遊びなドワーフも凄いけど、リュファス兄も大概だよね……まだ子供だった頃に王都で魔神の攻撃にも耐えたって話、今なら信じられるよ」


「つっても最初からこの身体だったわけじゃないけどな」


 あの後、さすがに少し流血をしたリュファスに少し早足でロザリーが近づくと、すぐに体に手を当てて解析し、法術で傷を癒していく。


「王都の時は本当にリュファスが死ぬかと心配したですよ……もうあんな無茶はしないでほしいのです」


「もうしない。約束したろロザリー、だから心配すんな」



(うんうん、なんだかんだ言っても仲がいいよね、あの二人)



 少ししんみりした雰囲気となったリュファスとロザリーを見たクレイは、フォルセール教会で小言を言ってきたジョゼのことを何となく思い出す。


「迷宮の罠も、最初の内は小さな落とし穴とか咳込む煙が出る程度の子供だましだったのに、深く潜るとさすがに危ないものが増えてきたなぁ。今回の迷宮調査が終わったら、久しぶりに館に戻って皆にお別れの挨拶でもしておこうかなおっと」


 考え事をしながら歩いていたクレイは、壁からいきなり突き出てきた槍を剣で叩き落とし、即座に素早く後ろに飛び退ると続けて飛んできた無数の矢を避け、交わしきれなかった数本の矢を左手で捌く。


 罠の発動が止んだのを確認した彼は、体のあちこちを見下ろして無傷なのを確認すると、嬉しそうな顔で左手をグッと握りしめた。


「おー、なんか前より体が動くし向かってくる矢の軌道も予測できるよ。これが天使の力なのかなラファエラ司祭」


「元々そのくらいはできたでしょう。このフォルセールや領主様の知り合いには、非常識な強さを持つ人たちがゴロゴロしていて、貴方はずっとその教えを受けたのですから」


 ラファエラは柔らかな笑顔を浮かべて答えると、リュファスへその笑顔を向ける。


「その師匠の一人であり、迷宮の罠から貴方を守ってくれたリュファスに礼を言いなさいクレイ」


「前からこんなに動けたかな? でもリュファス兄のお陰で俺がかなり強くなったのは事実か。ありがとうリュファス兄!」


「俺が怪我してるのにお前が無傷ってのがなんか納得いかないが、どういたしましてだクレイ」


 少々不機嫌そうな顔となったリュファスにクレイは愛想笑いを浮かべ、そして彼らは再び迷宮の探索へと戻っていった。



 その後、太陽が無いゆえに正確な時間は分からないが一時間ほどが経過した時。


「トイレってどうしてんの?」


「魔術が使えて、なおかつバレたくない人は障壁で個室を作った後、こっそり出して魔術で高速分解。魔術が使えなくても放っておけば何故かその内に無くなる」


「水は?」


「迷宮は地下だから水は大抵どこかから染み出してる。それを魔術で浄化だな。魔術で出した水は凄く汚いらしくて飲めないそうだ」


 罠にも慣れたクレイたちは、それらを解除、あるいは対処しつつ迷宮でどうやって生理現象を処理しているかの話をしていた。


「魔術で出した水を浄化したらいいじゃん」


「大抵の人は同時に二種類以上の魔術は使えないし、同時行使の素養があるロザリーにしてもまだ一つの術しか行使はできないんだよ」


「早く同時行使できるようになってよロザリー姉」


「一応やってはいるですけど、何年も前から召喚魔術の修行も母様から叩き込まれるようになって、なかなか進まないですよ」


 溜息をつくロザリー。


 思ったより落ち込んだ彼女を見て慌ててクレイが慰めようとした時、曲がり角の向こうから一枚の重々しい、刻まれた装飾すら荒々しい扉が見えてくる。


「他は見て回ったし、どうやらここが最深部のお宝部屋ってところか。出来たばかりだからお宝は置かれてないだろうが、それでも調べないとな」


 ニヤリと笑みを浮かべたリュファスが言い放つと、彼はすぐに表情を引き締めて扉を調べ始める。


 その後ろめたい後姿を見たクレイは、ふと気づいたことをそのまま口にした。


「……今気づいたんだけど、迷宮の探索ってやってることは泥棒だよね」


「言うなよ……国策で季節ごとにローテーションで教育を受けるようになって、地味に子供たちの知識が増えてるから、時たま集団で俺の目を純真な目で見上げてきて、討伐隊って悪いことしてるの? って聞いてくるんだぞ。本気で胸が痛むぜ」


 スネたように答えるリュファスを見て、クレイはふと思い浮かんだ疑問を口にする。


「俺はいいの?」


「意外にお前は打算……あーいや、ずるがしこいからな」


「ちぇっ。傷つくなぁ」


「他人から欠点を言われて傷つく前に、自分で気づくようにしとけよ。よし、罠は解除したから開けるぞ、って思ったより重たいな! クレイ手伝ってくれ!」


 必死な形相で扉のノブを押したり引こうとしたが叶わず、救援を頼んできたリュファスに慌てて近づこうとするクレイ。


 しかし。


「では行きますよ皆」


「何だよこの扉! 設計ミスかよ!」


 苦労の結晶、汗をだらだらと流しているリュファスを尻目に、あっさりと扉を横に開いたラファエラはすたすたと部屋の中に入って行ったのだった。



「色々とあったけど、この瞬間だけはいつ味わっても格別だな……」


 何本かの松明が照らすだけの薄暗い部屋の中で、感慨深げに呟くリュファス。


 それもそうだろう。


「罠にぶちのめされるわロザリーにぶちのめされるわクレイは師匠の俺よりかっこよく迷宮の罠をクリアしてるしラファエラ司祭は見たことも無い扉の様式をあっさり理解して開けるしよ! 何なんだよ討伐隊の団長は障害を受け止める魔よけのお守りかよ!」



 今まで一番苦労したのが彼だったのだから。



「まぁ祭壇ぽいところに箱があるから開けるか。おいクレイちょっと待て罠があるかどうか俺が調べるからおい!」


「またまたそんなこと言って、また最初の箱を開けるのは団長の特権とか言うんじゃないの?」


「そそそ、そんなことあるわけないよ? ないからよ? ……ん? おい! 様子がおかしいこっちに戻ってこいクレイ!」


「え?」


 箱に近づいたクレイが周りからじろじろと見ていると、蓋の隙間から白い煙がしゅわしゅわと漏れはじめる。


「なんだこれ!?」


 クレイが慌てて箱から遠ざかると、自然に煙が漏れていた隙間が徐々に開き始め、その中から今度はかすかな光が漏れ始め――



「うわ酒くさっ!?」



 煙も収まり、完全に蓋が開いた箱の中を見てみれば、そこには背中から翅が生えた、小さな小さな手のひらサイズの少女。


 そして完全にカラになった何本ものワイン瓶が入っていたのだった。

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