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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第59話 神殿を歩こう!

 神殿を包む森、その中を貫く細い参道。


 道の端はうっそうとした草に覆われ、その向こうには元々この道の端を示していたであろう石柱がある。


 その広さはかなりのものであり、この神殿の主モリガンのかつての隆盛を忍ばせたが、今となっては寂れゆくこの地の神たちの、消えゆく旧い神々の身の上を感じさせるものでしかなかった。



「止まれ!」「何者か!」


「聖テイレシア王国フォルセール領を治めるトール家のクレイ! 祭神モリガン殿と英雄クー・フーリン殿にお目通り願いたい!」


 ようやく森を抜けたクレイは、神殿の入り口を守る門衛たちに呼び止められる。


 だが王都ベイキングダムの時とは違い、今度は名乗りを上げた途端に門衛の二人は安心で顔を緩ませていた。


「おお、貴方があの処け……ゴホン。すまぬがテイレシアの紋章を見せてもらえぬだろうか。街の惨状を見れば分かる通り、チェレスタが陥落した今このレクサールも混乱の極みにあるのでな」


 門衛たちのもっともな言い分にクレイは懐に手を入れ、カフスボタンほどの大きさの金属片を出す。


 小さいながらもそれには彫金細工でテイレシアの紋章が浮き上がっており、その見事さに門衛たちは唸りを上げた。


「この作り込みよう、間違いなくテイレシアのものですな」


「お進みください。モリガン様とクー・フーリン様は正面を進んですぐの祭壇にいらっしゃるはずです」


「ありがとう!」


 クレイは笑顔で頭を下げると、神殿の中を走って行く。


「神殿の中は……」


 その後ろ姿を見た門衛たちは、顔を曇らせてクレイを叱責するかどうかを迷うが、相手が相手だけに彼らは肩をすくめ、苦笑いを浮かべただけに留まった。


「若様にはワシの方から言っておくゆえに、ここはお許し願いたい」


「お願いいたしますエンツォ様。しかし子供とは成長するものですね……ちょっと見ない間にあれほど大きくなられるとは。私が半年前にテイレシアに赴いた時にはまだまだ小さかったのに」


 エンツォの取り成しに、先ほど紋章を確認した門衛が感慨深げに呟く。


「まぁ色々あるのよ天使にはね」


 エンツォの後ろから現れたガビーはそう言うと、クレイの後を速足で追いかけた。


 少し前に天使から権天使に位階を上げたばかりのクレイの後を。



「おかしいな、こんなに神殿の中が広いだなんて」


 その頃クレイはすぐに行きつくはずの祭壇を探し、神殿の中をうろついていた。


「うーん……まぁ単純に考えると何かの術が使われてるってことだろうな。二~三分くらい走ってるのに着かないなんておかしすぎる。何か知らないかメタトロン」


 だが祭壇が見える気配すら無いことに気付いたクレイは、突然発生した問題の解決方法を内なる存在メタトロンに聞こうとする。


(おうクレイ、どうもメタトロンはグースカ寝こけとるようじゃい。よって儂が代わりに答えてやろう)


(あ、うん。ありがとうバロールさん)


 が、どうやらメタトロンは寝ているようであり、返事をしたのはウィッチエント村で仲間となったバロールであった。


 精神体であるメタトロンが寝ると言うのもおかしい、そうクレイは感じるもそれはひとまず置いておき、バロールの説明に耳を傾ける。


(この感触は昔ルーとの戦いで儂が負けた時に味わった幻術にそっくりなんじゃい。じゃが感じる術の属性は光ではなく水じゃいの)


(つまり?)


(おそらくクー・フーリンが外敵から身を守るために幻術をかけたんじゃわい)


(えー、じゃあ二人に会えないじゃん! どうしたらいいのさ!)


(まぁここで待っとれば助けが来るんじゃないかいのう。そんじゃ儂も寝るわい)


(子供を一人置いて寝るだなんてそんな無責任な! おいメタトロン! ホントは起きてるんじゃないか!? おい!)


 だがバロールの説明はあまり役に立たなかったようである。


 よってクレイはメタトロンを再び呼ぶが、返事はまるで返ってこない。


「どうしようかな……確かシルヴェール陛下は判断に迷った時には誰かに相談しろって言ってたけど……道に迷った時はどうすればいいんだろ」



 ちなみにシルヴェールは方向音痴であるが、その事実をクレイはまだ知らない。 



「とりあえずどこかに目印をつけて、俺がどんな感じで動いてるかを調べるか……あれ何かイヤな感じが」


 腰に下げたミスリル剣を抜き、そばにある柱に切りつけようとした途端にクレイは神殿の中がざわついたような感じがし、身震いをする。


「やっぱりやめた! やめたからね!」


 不思議なことに、クレイがそう叫ぶと同時に神殿のざわつきは静まり、再び元の静寂を取り戻す。


「何なんだ一体……」


 気味が悪そうに呟くクレイ。


「バカねー、アンタが神殿に切りつけようとしたからこの神殿の形を形成する大元、空がやめてくれって頼んできたのよ」


「ガビーか、遅かったな」


 その疑問に答えたのは、いつの間にかそばに姿を現したガビーだった。


「アンタが何も聞かずに先に行くから見つけるのに手間がかかっちゃったわよモー。エンツォに感謝しなさいよね、アンタの居場所を感じとって、幻術を切り裂いてくれたんだから」


「ありがとうエンツォさん」


「ハッハハ! まぁ若様が無事で何より! このエンツォの見たところ、何やら先ほどまで元気がないご様子でしたからな!」


 そしてガビーの後ろに立つエンツォにクレイが神妙な顔で礼を言うと、それを聞いたエンツォはいつものように豪快な笑い声でそれに応えた。


「あ、そうだエンツォさん、俺の居場所を見つけたみたいにクー・フーリンさんやモリガンさんの居場所を調べたりできる?」


「うんむ、主家の命に従うは臣下の務め。早速やらせていただきますぞ」


 そしてクレイの願いを即座に聞き入れると、エンツォはだらりと下げていたカラドボルグを頭上まで持ち上げ、両手で握りしめるとその切っ先を何も無い空間に目がけて振り下ろす。


 その一連の動作が無音で為されたにも関わらず、クレイたちの周囲を包む景色の変化は劇的なものだった。


「神殿が……遠ざかっていく」


 むろん実際に遠ざかっていたのではない。


 遠ざかって行ったのは先ほどクレイが感じた神殿の気配であり、実際に床や壁、柱などの建築物はそのままの位置にある。


 ただひとつ違いがあるとすれば通路の行く手、クレイが進もうとしていた場所に扉が現れていたことだった。


 すぐさまクレイは扉へ駆け寄り、ノックをしたのちに名乗りを上げる。


「クレイです! 町でチェレスタ陥落の報を聞き、詳細を聞くために参りました! 入室の許可を!」


「入りなさい」


 直後に短く許可の返答があり、クレイは慎重に扉を開く。


「お久しぶりですねクレイ。それにガビーとエンツォ殿」


 部屋の中には少し疲れた様子のモリガンが、呪槍ゲイボルグと共にソファーに身を横たえていた。


「少し見ない間に大きくなりましたねクレイ」


「お久しぶりですモリガンさん、それに……クー・フーリンさん」


 クレイはモリガンに頭を下げ、やや緊張した声で挨拶をする。


 クレイは何度かこの戦女神に会ったことはあるが、やはり自分の本拠地である神殿の中枢にいるからだろうか、今までに無い威厳を彼女は持っていたのだ。


「他人行儀な挨拶はやめなさい。貴方の義父であるアルバトールに受けた恩を考えれば……うきゃん!?」


 だがその威厳は彼女がソファから足をおろし、クレイたちに向かって歩み出そうとした瞬間に崩れ落ちる。


「ちょ、ちょっと大丈夫モリガン!?」


「だだだだ、大丈夫ですよガビー私これでも神ですから!」


 真っ赤で長いドレスを着ていたモリガンは、歩き出そうとした瞬間にその裾を踏んづけて受け身も取れずに床に顔を強打したのだ。


「ほほうこれはこれは……」


「エンツォさん、鼻の下が伸びてる」


 そしてめくれあがったドレスの裾から見える太ももを、エンツォが凝視する。


「……クー・フーリンさん?」


 いつもならそれを呆れたように制止する声があるはずだった。


 だが今は。


「モリガンさん、クー・フーリンさんは……」


「ああ、ごめんなさいクレイ。今クー・フーリンは魂の眠りについていますから返事はできません」


「魂の眠り?」


 聞いたことのあるような無いような単語を聞いたクレイは、首を捻ってどこで聞いたかを必死に思い出そうとする。


「精神を完全に精神界へと飛ばして、色々と補充したり作り直したりすることで通常より回復する速度を速める術のこと。アンタの中のメタトロンも今使ってるはずよ」


「あー、だからメタトロンが起きないってバロールさんが言ってたのか」


 ガビーの指摘に思い当たることがあったのか、クレイはうんうんと頷く。


「じゃあクー・フーリンさんは無事……では無いけど大丈夫なんですね!」


「そう……ですね」


 そして明るい顔でモリガンに問いかけるが、返ってきた返事は暗いものだった。


「あ、えっと……すいませんモリガンさん」


「いいのですよクレイ。それよりも王都に居るはずの貴方たちがなぜレクサールに? チェレスタが陥落した報せが王都に届くにはまだまだ時間がかかるはず」


「それは……」


 ジョゼフィーヌに関する情報を話すかどうか、クレイが迷った時。



≪落ち着けモリガン。クレイが困っているではないか≫



 モリガンが抱え込んでいたゲイボルグから、一つの念が発されたのだった。

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