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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第57話 異質な結界!

[順調ですな]


[気味が悪いほどにな]


 領境の森を越えてからも、人間や天使たちからのさしたる攻撃も無し。


 あまりにも無防備なフォルセールへの道のりに、ジョーカーやアンドラスはうっすらとした疑念を覚える。


 しかしその疑念は、彼らの身体の異変を以って払しょくされることとなった。



[ジョーカー殿!]


[ぐッ!? ぬ……ぅ!?]


 重くなる身体、抜けていく力。


[これ……は……結界か!? 馬鹿な! フォルセールまではまだ距離があるはずだぞ!]


 悠久の時を生きる堕天使ジョーカー。


 その彼ですら今までに味わったことの無いほどに異質な力を持つ結界。


 本来であれば、個々が持つ力を外に出さないための枷であるのが結界であるはずなのに、それと比べて今の彼を襲っている異変は、自身がもつ力をじわじわと外に流出させる物に感じられた。


(この……虚無感……これ……は……まるで……結界に触れた力を吸収する、八雲の術にそっくりではないか!)


 とうとう飛行術を維持できなくなったジョーカーは、率いていた魔族を大地へと降ろす。


 どうやら彼以外の魔族にその結界の効力は働いていないのか、不可解な表情で顔を見合わせる魔神たちにジョーカーは待機を命じると、フォルセール城がある方角を憎々し気に睨み付けた。


(だが八雲は迦具土と統合され、ルシフェル様へと昇華したはず……では誰だ、この術を発動させているのは!)


 そして顔を軽く左右に振ると、ジョーカーはフォルセールへと歩き始めた。


(などと愚かなことは考えるまい。こんなことができる天使は奴しかおらぬ)


 先の天魔大戦で魔族の前に立ちはだかり、その野望をことごとく潰してきた男。


 主に愛され、主人公としての立場を約束され、だが最後に自らの手で犯した罪に耐えきれず堕天寸前となり、それでも未だ天使として在る者。


(天使アルバトール……自らだけでは支えきれぬ罪を背負いながらも幾多の人間、数多の至高と結んだ絆で堕点に堕ちず、この世に天使としての存在を維持しているものよ。そのような身の上に成り果てようとも、自ら感情を封じて生きる人形のような状態になりながらも、なおもまだ我らの前に立ちはだかるか!)


 発する殺気に何かを感じ取ったのか。


 アンドラスや魔神たちはジョーカーに何を問うことも無く、そして何を答えることも無いジョーカーの背中に黙々とついていった。 



 数日後。


 天魔大戦の初戦が始まろうとしていた時、ヘプルクロシアにいるクレイは。



「よし! それじゃジョゼを助けるためにチェレスタへ出発!」


 クレイは新しく身体に宿った力に興奮しつつ、威勢よく出発の号令を出す。


 身体を駆け巡る脈動、芯から沸き立つ力。


 これほどの力を感じたのは、領境の森で上級魔神を滅ぼした時以来だった。


 名前を持つ上位魔神、それに加えて爵位を持つ最上位魔神。


 滅多に出会うことの無いそれら二種類の魔神を別とすれば、魔族の中でも上位に位置する上級魔神をあっさりと倒したあの時の力と。


「でもあのバアル=ゼブルって魔族にはまだ全然勝てる気がしないや……今度会ったらどうやって逃げよう」


「アンタ……」


「何だよガビー」


 クレイは冷たい視線で見上げてくるガビーから目を逸らし、チェレスタがある西方を見つめながら投げやりに答える。


「アンタが告解したいことがあるってラファエラに言っておくわね」


「やめろおおおおおおおおお!!」


 幼い頃より数限りなく経験してきたラファエラの説法。


 数時間を通して投げつけられるラファエラの言葉は、冗談ではなくクレイの精神を押し潰し、王侯貴族の理想の姿とされるノブレス・オブリージュ――人はその地位に応じた責任を負う――を擦り込んできたのだ。


「だって死んだらそこでおしまいじゃん! 今の俺じゃ絶対に勝てないって!」


「だから死なないようにアタシが着いてきてるんじゃないの!」


「肝心な時にはいつもいないのに?」


「肝心な時が今まで何度あったのよ」


「ティアちゃんに襲われた時とかディルドレッドさんに地面を引きずり回された時とかディアン=ケヒト様の診察室にさらわれた時とか」


「……あ、ジョゼ助けに行こ?」


 ガビーのポカンと開けた口が、クレイの説明を聞くたびにどんどん広がっていき、ついにはすっと西を向いてそちらをビシッと指差した瞬間。


「あんたたち、ちょーーーーっと待ったあ‼」


 ローレ・ライで待っているはずの戦女神ヴァハ、天使イオフィエル。


 輝くチャリオットに乗った彼女が空から舞いおり、クレイたちにテイレシアの急報を告げた。



「私はテイレシアに戻りますが、貴方はどうするのですかクレイ」


「どうなされますか、クレイ様」


「急に言われても……ラファエラ司祭やベル兄はどうしたらいいと思うの?」


 ヴァハの口から語られたのは、魔族がフォルセールへ攻め入ったと言うもの。


 領主アルバトールが張った結界によって進軍速度は弱まった物の、今頃魔族はフォルセール城を攻めている頃だろうとのものだった。


「私は先代とは違い、フォルセール領主様の相談役とはなっておりません。よって貴方の方針に影響を与えかねない助言はできません」


「執事は主の命に従うのが役割でございます」


「……わかったよ二人とも」


 素直にあっさりと頷くクレイに、ラファエラとベルトラムは顔を見合わせる。


 何故なら少し前までのクレイであれば、ああだこうだと理由を並べ立て、何とか自分に協力させようとするのが常だったからである。


「自分で考えた答えを出す。人生の先輩である二人には、その意見についての助言をお願いするよ。まだ俺は子供だし、間違った答えを出すかもしれないからね」


「分かりましたクレイ」「承知いたしましたクレイ様」


 ほぼ同時に、ほぼ同じ内容の同意を返す二人。


「しょうがないなーじゃあアタシも協力してあげ……」


「いらない」


 それに続こうとしたガビーの賛同を封殺すると、クレイは喚き散らすガビーを余所に、今自分が置かれた状況について考えようとし、しかしあまりにガビーがうるさいので再び帽子をかぶせて黙らせる。


(俺が命じられたのはヘプルクロシアとの話し合いだ)


「キョーリョク、キョーリョク」


(そこに成り行きでジョゼの救出が加わり、でも実際にはバロールさんが玄孫に会うために連れ去っただけ)


「キョキョキョキョーリョク、ウキョキョキョキョキョーリョク」


(うるさいな……そのバロールさんは曼荼羅の中に入ってる訳であって、今のところジョゼに危険は無いよな……よし!)


「決めた! 俺テイレシアに……」


「はっ……アタシ今まで一体何を?」


 そして決断したクレイがガビーの帽子を取り、宣言しようとした瞬間。



(あー、そのことなんじゃがのうクレイ)


「やっぱりちょっとタンマ」 (どしたのバロールさん)



 メタトロンよりもやや気さくで、だが同じく底意地の悪そうな声がいきなりクレイの中に拡がり、それを聞いたクレイは口を閉じてその意志に耳を傾ける。


(ジョゼを任せたのはドライグとギュイベルと言う、元々はここウィッチエントにいた二頭の龍なんじゃい。しばらく姿を消しておったんじゃがここ最近になってまた姿を現して威を振るいおっての。まあ儂が一発喰らわせて大人しくさせたんじゃが)


(ふーん……)(ドライグとギュイベル……)


(ん? なんかあったのかメタトロン)


(いや、何でもない。話を続けてくれバロール)


 そして何かを思い出したようにメタトロンが呟くのを聞いたクレイは、何か言いたいことがあるのかと思って声をかけるが、メタトロンは答えようとしなかった。


(で、儂がさっきこの曼荼羅に移ったじゃろ? それで儂の気配を感じなくなった二頭がどうも制御が効かなくなったらしくての、ザマアとか言ってジョゼを人質にチェレスタを攻めとるようじゃいのう)


(ちょっと待って)


(待っとる暇は無いと思うんじゃい)


(ちょっと待って! じゃあジョゼが危ないじゃん! イヤうむじゃないって!)


 鷹揚に頷くバロールの気配を感じ取ったクレイは、事態が自分が思っていたより悪化していたことに絶望する。


(思い出したぞクレイ)


(思い出すな)


 続けて思念を発するメタトロン。


(それが先ほど我に何かあったのかと問うた者が言う言葉か)


(どうせロクでもないことだろ聞きたくない)


 計り知れないほど嫌な予感を覚えたクレイは即座に止めるが無駄だった。


(ドライグとギュイベルなのだが、どうもその二頭は我が随分と昔に討伐して曼荼羅に封じ込めた龍のようだ。我が前回の天魔大戦の時、ここヘプルクロシアで転生した拍子に外界に出てしまったのだろう)


(お前……)


 そしてクレイは、自分が思っていたより追い詰められていたことに絶望した。


(どうするどうするどうする! フォルセールに戻りたい! 戻ってアルバ候や陛下をお助けしたい! でもジョゼを放っておくわけにもいかない! どうすりゃいいんだ!)


 クレイは苦悩する。


 降って湧いたような大問題、魔族のフォルセール侵攻とジョゼの誘拐。


 その二つの問題を短時間で解決するには、あまりにも彼は未成熟だったのだ。


「あ、クレイ君、ルーから君に伝言があるんだけど」


「え?」


 そんな時にヴァハに声をかけられたクレイは、まるで助けを求めるように、その温和ながらも凛々しさを持つ戦女神の顔を見つめた。


「実績無き者の大言壮語は信じるに値せぬ。まず君がやるべきことは実績を残すこと、そして現在の自分の役割を理解すること。君にその役割を託した人の想いを、託すしかできない人たちの無念を無駄にするな、だってさ」


「……なにそれ……相変わらず手厳しいなぁルーさんは……」


 ヴァハの伝言を聞いたクレイは、その内容に思わず愚痴をこぼす。


(だけど……言葉の奥底にはいつも優しさがある。ジョゼに対する陛下のように)


 そしてルーの伝言を正しく理解したクレイは、誘拐されたジョゼを遠く離れた地で心配しているであろう、一人の男性を思い出していた。


 シルヴェール=デスティン=テイレシア。


 聖テイレシア王国の国王にしてジョゼの父親。


 クレイは幼い頃から、シルヴェールのジョゼに対する溺愛ぶりを見てきた。


 その愛する娘、ジョゼが誘拐されたことは既にシルヴェールの耳にも届いているだろう。


 今一番ジョゼの救出に向かいたいのは、間違いなくシルヴェールなのだ。


 それをクレイに任せることしかできない無念。


 国を治める王であり、何もかもが意のままにできるように見え、だが自分のことに関しては何もかもを諦めなければならないシルヴェールの無念。



(その想いを……受け取らせて頂きます陛下)


 クレイは決断する。


 はっきりとした決意を、はっきりとした口調で、揺るがぬ決定として口にする。



「俺はフィーナとディルドレッドさんと一緒にジョゼを助けにチェレスタへ。ラファエラ司祭とベル兄とガビーは、フォルセールに戻って陛下とアルバ候の手助けをして欲しい」


 頷くラファエラとベルトラム。


 だがガビーだけは、きょとんとした表情でクレイに着いていくと宣言する。


「アタシは無理よアンタのお目付け役なんだから」


「うん、邪魔だから帰れ」


「アンタ……」



 数分後。



「ゼー、ゼー……わかった、着いてきてもいいぞガビー」


「ゲッホゲホ! フ……分かればいいのよ分かれば……」


 ガビーはクレイと共に行くことが決まり、ラファエラとベルトラムはヴァハのチャリオットに同乗する。


「そんじゃクレイ君、フィーナのことよろしくね」


「頑張ってみる」


「……何を頑張るのか知らないけどよろしくね」


 なぜか冷や汗をかくヴァハ。


 その隣でラファエラがチャリオットの手綱をとり、一つの決意を口にする。


「行きますよヴァハ……いえ天使イオフィエル。テイレシアの危機を救うために」


 出発の時、出陣の刻。


「ラファエラ司祭! ベル兄! ヴァハさん! フォルセールをお願い!」


 高まる緊張の中、クレイが激励の言葉をかけ。


「任せてちょうだい! パパっと……うおっと……? いやあああああああああ!?」


 それに返答したヴァハの声は、なぜか絶叫となって遠ざかっていった。


「あー、ラファエラかなりあせってるわねー」


 どうやらヴァハではなく、ラファエラが飛行術を発動させたらしい。


 先ほどまで銀色に輝いていたチャリオットの光は薄い緑色へと変化し、そして閃光と化してその姿を消した。



「じゃあ出発しよっか」


「そうね」


「クレイ様、何かの部品が落ちてますが」


「焦げてるしもう使い物にならないだろうから放っておいていいよサリム」



 こうしてクレイは新たな力、バロールと共にチェレスタへ向かったのだった。

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