第51話 作戦を立てよう!
「予想してた通りになっちゃったわねー。どうすんのクレイ」
「もう少しマジメに考えろよガビー。どうするもこうするも、やることは一つだろ」
ルーが迎賓館を去った後、後に残されたクレイたちは深刻な面持ちでこれからの予定を立てようとしていた。
「王妃殿下が軍を率いてバロールの目を引き付けている間に、少数精鋭の俺たちが救出に行ってくれ、か」
「少数精鋭って言うなら、トゥアハ・デ・ダナーンの神族が助けに行けばいいのに、何であたしたちが行かなきゃいけないのよ。ジョゼってルーの孫にあたるんだから、ダグザとかケルヌンノスとか駆り出せばいいんじゃないの?」
ダナーン神族の中でも屈指の力を持つ二人の名を口にするガビー。
しかし彼女の意見はあっさりと否定される。
「本来であればそうしたい所でしょうね。そうしないのはできない事情があるからですよガビー」
「なーによベルトラム、奥歯に物が挟まったような言い方しちゃってさ。言いたいことがあるならズバっと言いなさいよズバっと」
「ガビーってホント空気読めないよな」
ベルトラムの忠告を聞いたガビーが不満げに口を曲げ、それを見たクレイが呆れた顔となると、クレイの肩に止まっていたティナがふわりと浮き上がり、ガビーのところへ飛んで行って慌てて説明を始めた。
「ええと、ウチも良く分からないのですが、ケルヌンノス様はヘプルクロシア内乱時の転生を終えたばかりで力が戻っておらず、そしてダグザ様は一族を束ねる立場と言うこともあって、気軽に前線に出られなくなってしまったそうです」
「じゃあディアン=ケヒトでもモリガンでもいいじゃない……あ、そう言えばこんな時に持って来いの英雄クー・フーリンがいるじゃないのよ! なんでアイツに頼まないの!?」
「……ガビー、お前知らないのか?」
「な、何がよ……」
リチャードの所に一人で行っていた為か、仲間の持っている情報に着いていけず感情のままに喚き散らすガビー。
対してクレイは彼にしては珍しく言いにくそうな顔で、ガビーにボソリと呟いた。
「クー・フーリンさん、今あまり容態が良くないんだよ。もう力があまり残ってないらしくて、モリガンさんでもうまく念話ができないって」
ガビーの表情が固まる。
そして慌てて部屋に集まった一同の顔が、沈痛な面持ちに変わっているのを確認した直後、ガビーはヒステリックな叫びをあげた。
「何よそれ! ゲッシュを誓ったんじゃなかったの!? モリガンが笑顔でいる限り、ずっと傍に居続けるって!」
「そのゲッシュで得た力が……尽きかけてるらしいんだ」
自らの行動に制約をかけ、その代償として力を得るゲッシュ。
ある種の呪いとも言えるその誓約をクー・フーリンは誓い、一度死んだはずの彼は現世に魂を留めていた。
「何よそれ……何よそれ! 何よそれ! 何だって言うの!? だって前にアイツに会った時はいつも傲岸不遜で、自分だけが正義みたいな顔してて、どんな厳しい戦場からでも平気で帰って来るような、そんなムカつく奴だったのに!」
「お、おいガビー?」
豹変したガビーを心配し、クレイが声をかける。
「あたしがいない間! アルバもクー・フーリンも何してたのよ!」
しかしクレイの声は、そのガビーの一言で霞と消えた。
ヘプルクロシア内乱時、ガビーは裏切った――いや周囲にそう思わせていた――クー・フーリンに殺されかけたと言う。
だが今のガビーの顔は、その時の怨みを微塵も感じさせない、命の灯が再び消えようとしているクー・フーリンを何とかして助けたい、そう感じさせるものだった。
「落ち着きなさいガビー」
「これが落ち着いてられる訳無いじゃない! だって一度死んだはずのクー・フーリンが生き返ったのは……」
「ベル兄の言う通りだ、落ち着けガビー。ゲイボルグに憑着してるクー・フーリンさんはまだ消えた訳じゃ無い。助ける手段が見つかった訳じゃ無いけど、このままずっと見つからないって決まってる訳でも無いんだ」
クレイは先ほどガビーへ差し伸べようとした手を再び伸ばし、肩にポンと置いた後、まるでエンツォのような小気味いい笑顔を浮かべた。
「まずはジョゼの救出。そしてその後にクー・フーリンさんがいるチェレスタに行って、俺たちにできることがあればそれをやる。それだけだ」
「……わかったわよ。ちょっとシャクだけど、ここはアンタの意見に従ってあげるわ」
「ずっと従ってくれると助かるんだけどな」
「それはイヤ」
そう言って舌を出すガビーへ、クレイは苦笑を返す。
「それじゃ知っているバロールの情報をお願いベル兄」
そしてジョゼ救出作戦の会議は始まった。
「と言うわけで、バロールってただの戦闘バカなわけよ」
「なんでガビーが偉そうにまとめてるんだよ」
「当たり前じゃない、この中で一番直近のバロールと戦ったのがアタシなんだから。思い出すわー、魔眼が無いから負けたとかバロールが負け惜しみ言っちゃってさ、それじゃ今度は万全のアンタと戦うことを楽しみにしてるって言ったら歯ぎしりしちゃってねー」
「すごく頭悪そうな説明……冗談冗談、叩くなよガビー」
馬鹿にされたことが悔しいのか、歯ぎしりしながらポコポコとクレイの肩を殴るガビーを押しのけクレイは今までの情報をまとめる。
「ええとベル兄とガビーの説明を総合すると、バロールは見た者をすべて殺す魔眼の持ち主で、それのみならず屈強な肉体と強力な魔術を持つ、ヘプルクロシア王国でも屈指の実力の持ち主ってこと?」
「さようですクレイ様」
「それ勝てそうにないんだけど……あ、でもルーさんは以前バロールと戦って勝ってるんだっけ? じゃあルーさんにどう戦ったか聞きに行こうよ」
明るい顔でそう提案するクレイを見たベルトラムは、暗い表情で左右に首を振る。
「それがすでにバロールを倒す情報はそちらの手中にある、と繰り返すだけでそれ以上のことは何も言おうとしないのです」
「じゃあ俺は知らないから聞きに行ってくるね」
「え」
数分後。
「すんごい怒られた。持てる力と知識に創意工夫を凝らし、更なる高みを望む手立てとせぬものに未来はないとか言われたから、もうちょっと簡単に説明してって言ったら千手の術でいきなり後ろ頭をぶん殴られちゃってさ」
「さようでございますか。あのルーにしては随分と優しい教え方でしたな」
「そだね」
殴られたところがまだ痛むのか、クレイは口を尖らせながらベルトラムへそう報告すると、後頭部を手の平でさすりつつ全員へ説明を始めた。
「要は後ろから不意打ちをしろってこと? ルーって太陽神の割には後ろ暗い戦い方しかしないわよねー」
「ルーさん自身は正正堂堂バロールの真正面から戦いを挑んだらしいけどな。その直後にだまし討ちでバッサリやったみたいだけど」
「それだまし討ち前提でわざと真正面から行ったってことじゃない」
ルーを擁護するクレイをジト目で見つめるガビー。
「まあそう言うなガビー。バロールの魔眼は発動までに時間がかかるとは言っても、真正面から挑む愚者は……勇者は数えるほどしかいなかった。つまりバロールに真正面から立ち向かったと言うだけで、ルーのとった戦術は賞讃に値すると言っていいだろう」
「まぁ王妃様がそう言うなら……」
だがやや険悪な空気となった話し合いの場は、クレメンスの苦笑い一つで収められ、これからのクレイたちの方針も決まる。
「それじゃ行こうか。お姫様を助けにウィッチエント村へ」
こうしてクレイは、かつて義父アルバトールが辿った道をなぞり、赤と白の竜の伝説が息づくウィッチエント村へと旅立って行った。




