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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第50話 魔眼の王バロール!

 始まりはなんのたわいもない一言だった。


「今度の天魔大戦が終わるまで何年かかるか分かりませんが、ジョゼフィーヌのことをよろしくお願いしますわリチャード陛下」


 それがこんな重大事件を引き起こすことになろうとは。



「まったく思っていなかった、と言うわけさ」


「なんでそんなに落ち着いてるんですか王妃殿下」



 うんざりとしたように両手をあげる、なぜかワイシャツにズボン姿のクレメンス。


 クレイはそれを見て冷や汗を垂らすと、理解できないと言うように肩を落とした。


 ヘプルクロシア王国を訪れた客人たちが泊まる館の一室、テイレシアから来たクレイたちを歓迎する晩餐会が開かれた次の日の一幕である。



 ガビーを除いた全員(素早い連係を取るためにリチャードの所に行っている)が、クレイの言葉に同調して晩餐会で誘拐されたジョゼフィーヌの母親、クレメンスの顔をやや不満げに見つめる。


 クレイは運命のいたずらによってその会を欠席することとなっていたが、その時に聖テイレシア王国を揺るがす大事件が起こったことは、彼にとって不幸なことだったのか、それとも幸福なことだったのか。



「それで? ジョゼが何も聞いてないって怒りだして? それでも陛下とともに天魔大戦を戦いたいであろうお母様も我慢するなら仕方がないって言ったら? 王妃様が一人で戻るって言っちゃった……仰られたから怒って宴を退席した勢いで誘拐されたと」


「うむ、理解が早くて助かるよクレイ」


「全然理解したくないんですが」


 ジト目で言い放つクレイ。


 それを誤魔化すようにベルトラムが口を開くが、それもまた場を軽くするものとは成りえなかった。


「それでどうなされるのですかクレメンス様。あの魔眼の王バロールが相手となると、一筋縄ではいかないと思われますが」


 重々しい……いや、苦々しい表情で忠告をするベルトラム。


 見るだけで対象を絶命させる魔眼の持ち主バロール。


 そんな恐ろしい相手に、やすやすとジョゼを誘拐される原因となったクレメンスに対する複雑な感情が、ベルトラムの顔には表れていた。


「今のところ何もしない。やった先から無駄に終わる可能性が高いからな」


 しかしクレメンスと言えば、その忠告に対してどこ吹く風と言った感じであり、まるで取り合う様子を見せない。


「相手の出方を待つしかないってことですか?」


「その通りさクレイ。我々とまんざら知らない仲でもないバロールが、堂々と自らの姿を現したうえでジョゼを誘拐したってことは、必ずこちらに何らかの要求をするための接触を図るはずだ」


「問題はその接触方法と要求ですが……どうしましたガビー」


 クレメンスが冷静である理由を聞かされたクレイが溜息をつき、腕を組んだベルトラムが渋面で考え込み始めると、珍しく真面目な顔をしたガビーが部屋に現れ、リチャードからの伝言を告げた。


「バロールからの書状が来たから、陛下の執務室に全員集まるように。だそうよ」


 その言葉が発せられると同時に、部屋の中に緊張感が走る。


「わかった、今すぐに向かうと陛下に先触れしてくれガビー」


 そしてクレイたちはリチャードに会うのに失礼がない程度に服装を整え、やや早足でもって執務室に向かったのだった。



「陛下!」


「ほう、王族たるもの、常に優雅たれといつもジョゼに口酸っぱく言っているお前にしては珍しく早かったなクレメンス王妃」


「今はズボンでございますゆえ。これがスカートであればと残念に思う所でございますわリチャード陛下」


 ジョゼフィーヌが誘拐されたというのに、なぜかギスギスした雰囲気の二人。


「……陛下、そのような些事は捨て置いてバロールより届いた書状をクレメンスへ」


「うむ……そうだな。ルーのいう通りだ」


 そして睨み合いを始めた二人の横に立つ男性、白いローブ姿の太陽神ルーが呆れた顔を隠そうともせずにリチャードに苦言を呈した。


 淡い光に包まれ、どことなくアポローンに雰囲気が似ている彼は、二人のにらみ合いがしばらく時間がかかりそうだと判断したのか、まずバロールからの書状の内容を確認するべくリチャードの許可を求め、リチャードもそれにすぐに応じる。


「これなのだが……宛先が私ではなくクレメンスになっていてな」


「ジョゼの母親なのだから当然ではないかね」 


「父上の言う通りですわね。それとも何か不満でもあるのですか兄上」


「他国に嫁に行ったのだから陛下と呼べクレメンス」


 たちまちむすっとした顔になったリチャードを見たクレメンスは、即座にご機嫌な顔となり、淑女らしく優雅な立ち居振る舞いで勝ち誇ると、リチャードに一礼をしてから書状を受け取る。


(おっかしいな、確かに前回の天魔大戦で魔族が起こした内乱で、二人ともこの国を二分する戦いの当事者になって相争ったとは聞いてたけど、その後に仲直りしたはずだよなぁ……)


 クレイは内心で首を傾げると、豪奢な彫金が施された真鍮製のペーパーナイフを使って蜜蝋を切り分けるクレメンスの顔を見る。


(あ……)


 それは間違いなく誘拐された我が子を案じる、思いつめた顔つきであった。


「ほう……これはこれは……」


 しかしクレメンスの顔は、中にあった書状を見た直後に激しい怒りへと変わる。


「王妃殿下、書状には何が書い……て……」



『儂と戦いたければ、ジョゼを助けに来るべし。ウィッチエント村にて選りすぐりの強者どもを待つ。バロール』



「どうしたのだ二人とも! クレメンス! 中には一体何が書かれて……」



 ボッ



 クレメンスのただならぬ形相を見たリチャードが慌てて身を乗り出した途端、クレメンスが持っていた手紙は青白い炎をあげて燃え尽きた。


「陛下、バロールはウィッチエント村にいるようですわ」


「そうか……紅白の竜の伝説が残るあの村にな……ところで手紙を持っていた手は大丈夫なのかクレメンス?」


「ホホホ、何ともありませんわ陛下」


「それなら良かった。しかしいきなり燃えて消え失せるとは、よほど不必要な手がかりを残したくなかったと見えるバロールめ」


 口を引き結び、苦々しい表情で毒づくリチャード。


「何はともあれバロールの居場所は知れた。次にやるべきことは対策を練ることだ。ご苦労だったクレメンスにクレイ。少し冷静になるまで部屋で休んでおくがいい」


 その背後でルーは眉間にしわを寄せ、愛娘であるクレメンスの顔を見ると何かを我慢するように嘆息し、その場に集まった者たちにそう告げたのだった。



 その日の夕方。



「手紙をいきなり燃やしてしまう奴があるか、この馬鹿者め。陛下が精霊魔術にうといから良かったようなものの、もしもあの場に他の者がいれば、お前の無作法をテイレシアの凋落ぶりを示すものとして喧伝したかもしれんのだぞ。一時の感情に負け、力を暴発させるような粗忽な娘に育つとは……情けない」


 クレメンスは父である太陽神ルーの冷ややかな視線を受けていた。


「いやですわお父様。あんな内容を見たら如何に陛下と言えども動揺するのは必定。そんな姿を他国の者に見られたら私なら恥ずかしくて死んでしまいます」


「自死したいのならディアン=ケヒトに良い毒を用意させておくぞ」


「この美を永遠のものとするには、もう少し母としての慈愛をジョゼに注いでからにする必要があるようですわね」


「分かっているなら良い。クレメンス、陛下と話し合った結果を今から伝える」


 ヘプルクロシア王国に住まう大勢の旧神たち。


 トゥアハ・デ・ダナーンと呼ばれるそれらの神族を統べる長を退いた今でも、未だに隠然たる影響力を持つ太陽神ルーは、不機嫌そうな顔でクレイたちに会議の結果を伝えたのだった。

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