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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第49話 大事な用事!

「なんで輪切りにされた自分の体の断面を、異常が無いか自分で確認しなくちゃならないんだよ……医者でもない俺がそんなの見てわかるわけないじゃんか」


 ディアン=ケヒトに連れ去られたクレイが解放されたのは、それから一時間ほど経った後だった。


 王宮に仕えるメイドに先導され、客室に続く廊下を歩いていたクレイは、何者かの気配がないか周囲の警戒を始める。


 そして常に剣の鯉口を切る癖のある危険極まりない神、ディアン=ケヒトの気配が無いことを確認すると、それでもその白い影を恐れるように小声で愚痴をこぼし始める。


(君が文句を言いたいのはわかるがモノは考えようだぞ)


(何がだよ……俺まだ寒気がしてるんだぞ?)


 すると彼の中に眠る天使の王メタトロンがふわりと目覚め、先ほどのリチャードをなお圧倒するほどの意志を以って忠告を口にし始めていた。


(戦場では人であったことがかろうじて分かる程度に激しく損傷した死体が、山のように積み上がるのが常。もしも君が戦場に出て死体を見た時、先ほどのように茫然としていてはすぐに死んでしまうだろう。そんな結末を迎えるより余程ましだと思うが)


(アーアー聞きたくなーい!)


(うむ、分かってもらえて嬉しいぞ少年)


(うるさいなぁもう……)


 どうやら精神世界における優位はメタトロンにあるようだった。


 メタトロンの忠告に理があることを内心で認めてしまうも、それでも反抗的な態度で強がったクレイは、それをも見透かされたことに不満を覚えてスネてしまう。


(やれやれ、とりあえず早く部屋に戻りたまえクレイ。我もそれほど暇ではないのだ)


(もしかしてベッドでゆっくり休みたいのか? 天使の王様は贅沢だな)


(休みたいのは確かに否定しない。だが先ほど我が言っただろう、済ませなければならない用事があると)


 確かに言っていた。


 ディアン=ケヒトのあまりにショッキングな健康診断の内容に、クレイの記憶は混乱しており、つい先ほどのことも忘れてしまうほど掻き乱されていたのだ。


「なんであんなに患者に無駄な恐怖を植え付けるのかなぁ……あ、案内ありがとう、もうここでいいよ」


 やがてクレイは王宮から少し離れた場所に建てられた、控えめな印象を受ける白い建物の玄関へたどり着く。


 扉を開けようとするメイドをクレイは手を上げて制止し、おニューの大海の戒めに抗いながらドアノブへ手を伸ばそうとする。


「お疲れのようでございますね、クレイ様」


「ホントに疲れちゃったよ……ベル兄のほうはどうだったの?」


 すると彼の手がドアノブに届こうとする直前にドアは外へ開かれ、中からはうやうやしく頭を下げたベルトラムとサリムが姿を現していた。


「王妃様と王女様を案内した後、少々体調がおもわしくなかったのでディアン=ケヒトに診てもらっておりました。異常は無いそうです」


「ふーん……ベル兄なんだか最近あまり体調が良くないことが多くない? ちょっと休暇を取った方がいいんじゃ」


「なかなか後進が育ちませぬゆえに、そうもいきません」


「だってさサリム」


 軽口をたたくクレイ。


「……申し訳ありません、私が至らぬゆえに」


「冗談! 冗談だってば!」


 だがその軽口は思ったより重い反応で返されてしまい、クレイは慌てて否定をすることになっていた。


「こちらも冗談でございますよ、クレイ様」


「それならいいけどさ。でもサリムもちょっと元気が無いみたいだよ?」


 直後に笑顔となったサリムに否定されたクレイは、内心でホッとしつつも他国の王宮にまで着いてきてくれた友人を気遣う。


「謁見で日頃あまり使わない頭を使ったからでしょう。少し体を動かせば大丈夫です……本当に冗談ですから!」


 しかし、やはり慣れない異国で不安になったのだろうか。


 常人より遥かに上の力を持つであろう二人は、年少者らしき落ち着きの無さを露わにし、ベルトラムに苦笑されてしまっていた。


「せっかく客室を充てられてもらったのですから、玄関で立ち話も無いでしょう」


 そう言うとベルトラムは外で立っているメイドへ二言三言ほど言葉を交わして帰すと、建物の中へクレイを案内していく。



 その中で待っていたのは意外な人物だった。



「待っていましたよクレイ」


「あれ? ラファエラ司祭? 仕事はどうしたの?」


 ここにいるはずのない女性、と言うか羽目を外せなくなるためにいてほしくない女性の顔を認めたクレイは、すかさずラファエラが今一番聞かれたくないであろう情報を聞き出そうとする。


「なぜ私がここにいるか分からないと言った顔ですね。無理もありません実は……」


「仕事は?」


「あーなんかダリウスに押し付けて逃亡してきたみたいよ。まったく人のことはうるさく言うくせに自分はどうなのって感じよグエエエエェェェ」


「なるほどね」


 そしてのどから出るほどクレイが欲しがっていた情報を口にした直後、突然のどを押さえてぶっ倒れるガビー。


 急変した紫の顔色は周囲へ酸欠の症状を訴えるものであり、緊急の処置を必要とさせるものだったが、その原因が明らかである以上ガビーを助けようとするものはいない。


 ガビーと意気投合しているフィーナは別であっただろうが、彼女は今のところアーカイブ術のプレートと格闘している最中だった。


「う~ん、あごクイの構図が……やっぱりリチャード陛下よりルー様をクイクイした方が強者を屈服させる醍醐味が倍増……」


「なんでアイツ天罰が当たらないんだろ」


 悩むフィーナを、クレイは少し離れたところからゴミを見る目で見つめる。


「クレイ様、クレイ様」


「どしたのティナ」


 そこに遠慮がちなか細い声が耳に入り、クレイはその声の持ち主である翅妖精の名前を呼んだ。


「さすがにこのまま放置しておくとガビー様が死んでしまうかも」


「むしろそれがラファエラ司祭の望みなんじゃないかな」


「そんな!?」


 諦めたように言うクレイを見たティナは、助けを求めて慌てて周囲を見る。


「……仕方ありません、魔術に対してどれだけの効果があるか分かりませんが、とりあえず気道を確保しましょう」


 すると先ほどの盗賊に間違われた件でやや気弱になったのか、ディルドレッドが名乗りを上げてガビーの蘇生を試みようとしていた。


「ええと、まずアゴに指を当てて持ち上げ……」


「そのままよディルドレッド!」


「ははははいフィーナ様!?」


 しかしそこにいきなり鋭い声がかけられ、ディルドレッドは硬直することとなる。


「うふん……こんな構図もいいわ……やっぱり道ならぬ恋が発する背徳感には、抗いきれない吸引力があるわねもうたまんない!」


「う……ん……あれ? どうしたのフィーナそんな怖い顔して」


 程なく気道が確保されたことによるものか、それともあらかじめ自動蘇生の法術でもかけていたのか、ガビーの自発呼吸が再開する。


 しかし意識が戻ったのも束の間、ガビーは再び動きを止めることとなってしまう。


「動かないでガビー!」


「え、あ、なんかわかんないけどうん。後で美味しいものくれるならいいわよ」


「美味なものね! 母様によると他人の不幸って奴が凄く美味しいらしいから用意してくれるように伝えておくわ!」


「え……」


 唖然として動きを止めるガビーの見た目を即座にアーカイブ術で保存するフィーナ。


 その異才を見たラファエラは、理解できないものを眼に入れた代償として目を丸くし、やはり動きを止めていた。


「……クレイ、あの金髪の少女は一体何者なのです?」


「それを聞くの? ラファエラ司祭……えーとそうだね、ガビーみたいに目を逸らして世の中から存在を抹消した方がいいって奴かな」


「なるほど、それでは始めましょうか」


「何を?」


「貴方の天使の位を上げるのですよ」


「へ?」


 クレイは戸惑いを隠せずに首を傾げる。


 確かに義父アルバトールも最初は下位天使の座から始めたとは聞いていたが、まさか自分がそんなに早く位を上げることになるとは思っていなかったのだ。


(ふむ、ようやく来てくれたか天使ラファエル。ダリウスに話を通しておいた甲斐があったと言うものだ)


(あれ? そうなの?)


 その時寝ぼけているのか、それとも先ほどのガビーの告げ口を聞いていなかったのか、何やらズレたことを言いだすメタトロン。


(うむ、何しろ前回のヘプルクロシア訪問の時は、エルザもダリウスも不在だったから我の独断でアルバトールを昇格させてしまい、それが後々問題になってな)


(……)


(なぜ黙っているのだ少年……ん? 何だこれは……ラファエラがダリウスに黙ってこちらに来ただと?)


 そして程なくクレイと少々の意志を交わしたメタトロンは、やや不機嫌そうな顔でクレイから体の支配権を借り受け、ラファエラに苦い顔を向けた。


「……ラファエラ、後で話がある」


「何でしょう? よろしければ今からでもお伺いしますが」


「後にしたまえ」


「はぁ」



 そして。



「昇格する時は気を失ってしまうって何で先に言わないのさラファエラ司祭! 俺にちょっぴり贅沢な食事をさせたくない理由でもあるの!?」


 天使の昇格に伴う意思の消失により、クレイは晩餐会を欠席することとなり。


「帰りたくない帰りたくない帰りたくない帰りたくない帰りたくない……」


「ちょ、ちょっとラファエラ……? あんた大丈夫なの?」

 

 ラファエラは青ざめた顔で、部屋の隅っこでぶつぶつと呟くこととなっていた。



「困りましたね。これではジョゼフィーヌ様を助けに行くことなど到底望めません」


「へ? 何それ昨日の晩餐会で何かあったのベル兄!?」



 しかしそこに一つの爆弾発言がベルトラムより成され、気まずい雰囲気は一瞬にしてどこかに吹き飛ばされることとなる。

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