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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第44話 心配で心配で!

「それじゃあお世話になりました!」


 翌朝、クレイはブルックリンとヴァハの見送りを受けつつ館を出る。


 王妃クレメンスと王女ジョゼフィーヌは、クレイが誘拐されていた間に一足早くヘプルクロシア王国の王都ベイキングダムへ旅立っている。


 ベルトラムとガビーはその護衛につくことになったため、陽が暮れないうちに二人の後を追い、今クレイの隣に居るのは彼の捜索に残ったエンツォ、ティナ、サリム。


「じゃあ行ってきますお父さま! お母さま! 世界を回り、見聞を広め、新しい美の価値観を共有できる仲間をきっと見つけてきますわ!」


「フィーナ様のことはお任せください。このディルドレッド、我が身に変えてもフィーナ様をお守りいたします」


 そしてこのローレ・ライで新しく増えた仲間、フィーナとディルドレッドである。


「それでその奥様……残された支払いのほうは……」


 だがそのうちの一人、ディルドレッドは何かローレ・ライでやり残したことでもあるのか、ウキウキなフィーナの横で不安げな表情をヴァハに向けている。


「ほっほ、それなら気にせんでもよいぞディルドレッドちゃん」


 しかしディルドレッドの不安は、ヴァハの横に立つブルックリン――天使カマエル――によってただちに解決された。


「昨日なにやら評定衆の一人が、違法取引っぽいもので捕まって地位と財産を没収されてのう。持っている財産は評定衆で分配することになったんじゃが、その中にお主の浪費した分があったから儂がぶん捕ってやったわい」


「あああ、ありがとうございます旦那様ぁ!」



(浪費……?)



 だが解消したその先から、新しい不安が今度はクレイに生まれることとなる。


 重要キーワードは浪費。


 その聞き捨てならない一言を耳にしたクレイは、素早くブルックリンの背後に回り込んで袖を小刻みに引っ張る。


「浪費について詳しく」


「ほっ? ああ、ディルドレッドちゃんは小さい頃から厳しい修行で日々を送る禁欲生活を送ってきたせいか、大人になって自由にできるお金ができたら急に金遣いが荒くなっての。将来に向けての貯蓄を怠るようになったと実家のほうから苦情が……」


「ちょっと待ってフォルセールの苦しい台所事情はブルックリンさんも知って」



 振って湧いた由々しき事態。


 聞いてないよ!? とばかりにディルドレッドの同行を断ろうとしたクレイは、ブルックリンにがっしりと両肩を掴まれ、その平坦な表情に思わず口を閉じてしまう。



「と言うわけでフィーナとディルドレッドちゃんのことを頼んだぞクレイ」


「え」


「と言うわけでフィーナとディルドレッドちゃんのことをくれぐれも頼んだぞクレイ」


「エェー……」


「大丈夫よハニー、だってもう前金を渡してあるんだもの」


「げぇ!?」


 クレイは説得され、フィーナたちと共に王都ベイキングダムへ向かった。



 その頃フォルセール教会では。



「何をしているラファエラ! お前までエルザのように仕事を放り出して抜け出そうとは何事かッ!」


「え、えっと、あのっ! そのっ! こ、これは違うんですっ! あ、いえその……ごめんなさいちっとも違いませんダリウス……」


 教会の壁を乗り越えようとしていたラファエラが怒られていた。



「でも私の言うことも聞いてください、天使ラドゥリエル」


「聞いて私が納得しなければどうするつもりかね天使ラファエル」


 教会の薄暗い一室、フォルセール教会を切り盛りする司祭ラファエラが使っている私室で、一組の男女が何やら人目をはばかるようにボソボソと言い争っている。


 一人はラファエラ、そしてもう一人は王都教会の司祭だったダリウスである。


 だった、と言ってもまだ王都教会の司祭職にあることは間違いないのだが、王都が魔族の支配に落ちてからは有名無実の司祭職であった。



 しかし、この二人には人間たちの役職などさほど意味を持つものでは無い。



「きっと納得してもらえます!」


「では聞こうか」


 何を隠そう、見た目と行動が人間と見分けがつかないとは言っても二人の正体は。


「クレイが心配だからです! ダリウスもクレイのことが心配でしょう!?」


「……うむ、思わず頭痛がしてしまうほどだ……もっとも、いま私が心配しているのは君の頭の中身のほうだが」



 ……天の御使いたる天使なのだから。



 しばらく後。


「またダリウス司祭に怒られたですか? ラファエラ司祭」


「クレイは立派に一人立ちしているのに、未だにクレイクレイと子離れできないとは何ごとか! 修練が足りない! と怒られてしまいました……」


「まぁダリウス司祭の言うことも分かるぜ。俺たちから見てもちょっと異常だしな、ラファエラ司祭のクレイに対する心配ぶりは」


 ラファエラは、討伐隊が野営をしているフォルセール郊外でしょんぼりしていた。


「そうなのでしょうか。なにせ私はクレイ以外の子供の面倒をほぼ見る機会が無かったものですから、成長を見守る、というものが良く分からないのです」


 困った顔で告白するラファエラを見て、ロザリーとリュファスは互いに顔を見合わせ慰めの言葉を考える。


「あー……そう言えばそうなのですね……」


「アルバ候をお助けする儀式の途中でエルザ司祭が散華した直後から、司祭職を受け継いでずっとフォルセール領を守ってきたんだもんな。ガビーが主の奇跡で転生して戻ってこなかったら、過労で結構ヤバかったんじゃないか?」


「魔族も主だった者たちが封印されておりましたから、それほどでも無かったと言えばそれほどでも無かったのですが……むしろガビーが戻ってからの方が気苦労が……ウフフフフ、備品は無くすわ壊すわどこかに居なくなったかと思えば法外な旅費を請求してくるわ……思い出すだけで尽きぬ殺意が噴き出してきます……」


 ラファエラから即座に距離を取るロザリーとリュファス。


「あ、ああええと、とりあえず鑑定を始めてもらってもいいかなラファエラ司祭」


「あらそうでした、ごめんなさいちょっと色々と溜めこんでたみたいで。それにしてもクレイが旅立ってからと言うもの、今更のように教会の仕事を放り出していたエルザ司祭様の気持ちがわかるように……あ、でもやっぱりわからないかも……ウフフフフ……フフフフフフフ……」


「鑑定……」


 冷や汗を流しつつそう言ったリュファスへラファエラは小首を傾げ、ニッコリと笑顔となった後で鑑定を始めるのだった。



 討伐隊が迷宮で見つけた財宝やアイテムは、有用なものに封印や呪いがかけられていることがある。


 簡単な物であればロザリーを始めとする術士が解除するのだが、複雑な物や命に関わる物騒な物はこうやって持ち帰り、ラファエラに解除してもらうのだ。



「こちらとこちらは簡易結界の核ですね。この小剣はおそらくデュランダルの簡易版です。アリア様が持っているものより性能は劣るようですが、中級の魔物程度であれば問題なく切り裂けるでしょう」


「おお、やったぜ! クレイが戻ったら早速……あ、すいませんラファエラ司祭」


「いえ、大丈夫ですよリュファスそんなに気を使っていただかなくても私は大丈夫です本当にウフフ大丈夫なのでウフフフフ」


 コロコロと笑うラファエラ。


 だがその鈴を転がすような美しい笑い声に何かを感じ取ったのか、テントの周辺からは徐々に人の気配が消えていく。


(おいどうすんだコレ)


(とりあえずいつものように機嫌をとるですよ)


 その中に取り残されてしまったリュファスとロザリーは、手遅れにならないうちに何とかしようと首を捻り、とりあえずラファエラをなだめようとする。


「ふー、ちっとも大丈夫に聞こえないのですよ。リュファス、貴方ちょっとダリウス司祭にガツンと一言いうですよ」


「言った俺はどうなるんだよ!」


「ダリウス司祭なら大丈夫ですよ。ちょっと自分探しの旅に二~三年ほど旅立ってしまう程度のお説教をされるかもですが」


「討伐隊の団長が蒸発したら色々と面倒なことになるから却下だな。冗談抜きで俺たちがやってることはあまり表沙汰にできないことだらけだし、引継ぎだって……」


 ああでもない、こうでもないとラファエラのため(と見せかけた)議論をリュファスとロザリーは始める。


 その間に当事者であるはずのラファエラは、ニコニコと笑みを浮かべたままどんどん鑑定を済ませていき、最後に残った一つを見て首を傾げた。


「あら? これは……」


「ああ、それか? 一応迷宮の中で見つけたものだから持って帰ったんだが、どうにもこうにも使い道がわからなくてな。服にしてはかさばりすぎだし、鎧にしてはスッカスカ。ロザリーに聞いても例によって得体の知れない魔術としか……いてっ」


「見た目の素材は植物の茎、形状からして人が着るものとは思うですが、着たらチクチクして体がかゆくなってくるですよ」


 リュファスの頭を軽く小突いたロザリーは、その時のことを思い出したのか着ているシャツの襟をつまんで引っ張り、中を覗き込んで肌をかいた痕が残っていないか確認をする。


 程なくラファエラがグギギと歯ぎしりを始め、抱えている闇が一層深くなるも、すぐに視線を先ほどからの話題の元へと戻し、説明を始めた。


「まさかテイレシアにも存在したとは。これは蓑と呼ばれるもので、はるか東の国で雨の日に着られるものです」


「ミノ?」


 同時に、かつ同じような姿勢で首を捻るリュファスとロザリー。


 それを見たラファエラは苦笑し、両手で蓑を広げて捧げ持つ。


「ええ、これを着れば雨の日でもあまり濡れずに済む優れモノです。それに……この掛けられてる術は……」


 ラファエラは口に指をあてて考え込み始め、そしてすぐに決断をする。


「ちょっと着てみてもいいですか?」


「構わないですけど、私みたいに肌が……え!?」


 リュファスとロザリーの目の前で、蓑を羽織ったラファエラの姿が消える。


 二人はポカーンと口を開け、目の前で起きた信じられない出来事について考えこもうとし、だがすぐにその無駄な思考をやめたのだった。

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