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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第43話 金は天下に回す物!

「あー、気にしなくていいよクレイ君。ちょっとばかり事情はあるけど、それはこっちで片付けるべき問題だからさ」


 ブルックリンの寂し気な後姿を見送ったクレイに、さばさばした口調で説明を始めた女性の名はヴァハ、もとい天使イオフィエル。


 前回の天魔大戦で天使に鞍替えすることになった元旧神で、クレイも小さい頃によく面倒を見てもらった姉御肌の戦女神である。


 長いブラウンの巻き毛を、うなじのあたりに着けた髪飾りでまとめた彼女はそう言って手をパタパタ振ると、太めの眉毛の下にある青い瞳でクレイを見つめた。


「事情って?」


「んー、一言で言うと反抗期ってやつかな。あの子とあたしが小さい頃に魔族に誘拐されたって話は知ってる?」


「うん。さっき本人から話を聞いたし、誘拐したうちの一人と戦ったよ」


 クレイがそう答えると、いきなりヴァハの目つきが鋭くなってテーブルに爪を立て、ギギギとひっかき始める。


「あ、ごめんごめん。ちょっとその時にアイツらヘプルクロシア王国も色々と引っ掻き回してくれちゃったからさ、その時にたまった怨みが……ねぇ?」


「あー、はい。ワカリマス」(同意を求めないでほしいなぁ……)


 その迫力に負けたクレイが同意すると、途端にヴァハは機嫌を直してフィーナの反抗期について話し始めた。


「要はその時にハニーとあたしが、事態の解決にあんまり寄与しなかったことがマズかったんだよねー。あの子も基本的にはお人よしだから外に出た時はあたしたちの顔を立ててくれるんだけどさ、家の中では顔を見てもくれないのよ」


「そうなんですか」


「ハニーは時間が解決してくれるって言うんだけど、今日の出動とか護衛のディルドレッドに眠り薬を飲ませてまで勝手に外出しちゃってさ、さすがにこれは無いわー見逃せないわー、ってことでさっき本気で怒ったら泣き出して部屋に閉じこもっちゃうし、ああ言うところがまだ子供で可愛いっていうかなんというかもうたまんないよね」


「……そうなんですか」


 不気味な笑い声をあげるヴァハにフィーナの面影を見たクレイは、微妙な同意を返してから姿勢を正す。


「そういった子供扱いされることを嫌がってるんじゃないの? 自分はもう一人でもやっていけるのに、いつまで経っても認めてくれないってイライラしてるんじゃ?」


 そして発した指摘に対し、ヴァハは困ったように首を傾げて答えた。


「んー、でもあたしにとってはお腹を痛めて産んだ大切な娘だし、どれほど歳月が経とうとあたしより年上になるわけじゃないし、やっぱりいつまで経っても可愛い子供なんだよね……だからさ、可愛い子には旅をさせよって言うし、思い切ってどこかの家に預けて鍛えようって思ってんのよ」


「お断りします」


「クレイ君ちょっと察するのが早すぎない?」


「お断りします」


 こっちで片付けるべき問題と言いつつ、即座に親子問題を丸投げしようとするヴァハへ、クレイは断固とした態度をとる。


 そして大事なことなので二度同じ返答を繰り返したクレイを見たヴァハは、大人の余裕を見せつけるかのような妖艶な笑みを浮かべ、腕を組んだ。


「じゃあアルバ君に直接頼もうかな。フィーナも前にフォルセールでアルバ君を見た時に一目惚れしたって言ってたし、素直に行ってくれそう。でもクレイ君、こっちでリチャード陛下に会うとか色々と用事があるみたいだね? もしかしてもしかすると、君がフォルセールに帰る頃にはトール家は手遅れになっちゃってるかも」


「汚ねえええ! それが神様のやることかよおおおお!」


 テーブルに手を叩きつけ、カウチから急に立ち上がったクレイへ、ヴァハはカラカラと笑い声を上げる。


「残念だけど、神様って言っても結構俗なモノなのよクレイ君。諦めてフィーナをビシバシ鍛え上げちゃって。天魔大戦……また始まっちゃうみたいだからさ」


「……はい」


 そしてその途中で急に声のトーンを落としたヴァハを見たクレイは、表情を引き締めて頷いた。


 前回の天魔大戦は、厳密に言えば痛み分けと言った感じであって敗北ではない。


 だが関係者すべての胸の内に拡がる思いは……苦いものだった。


「それじゃひとっ風呂あびて旅の疲れを流しちゃってよ。それとフィーナを預ける授業料の前金を、先に君に支払うから路銀の足しにして。フォルセールの財政は、いつまで経っても火の車みたいだしね。アッハハハハ」


「ありがとうございます!」


 クレイはヴァハが告げてきた内容に、素直にお礼を言う。


 フィーナの同行に渋っている自分を納得させるための理由作りとは分かっていても、ヴァハの心づかいはありがたかった。


「そう言えばフィーナは部屋に閉じこもったままなんですか? 大丈夫なの?」


「うん。さっきガビーちゃんとベルトラム君が慰めに行ってくれたし、部屋から泣き声……じゃなくてエヘエヘ笑う声が聞こえてくるし、外に出てはいないだろうね」


「分かりました。ではお風呂いただきます」


「ごゆっくりー」



 五分後。



「誰ですか貴方は!」


「ブルックリン殿の客人のクレイだけど、何でここに女の人がいってえええ!?」


 クレイはフィーナの護衛ディルドレッドと、最悪のファーストコンタクトを遂げた。



「あれ、どうしたのクレイ君? 目の周りがあざになってるよ?」


「ディルドレッドさんにやられた。女性なら女性って先に言ってよヴァハさん」


「あ、もう目が覚めたのね。さすがフィーナ騎士団最強なだけあるわー」


「適当だなぁ……おかげで俺はこの有様だよ」


 あざに縁取られた眼でじっとり見つめてくるクレイを見たヴァハは、さすがに悪いと思ったのか謝罪を始める。


「アハハごめんごめん、後でフィーナを部屋から引きずり出す時に引き合わせるつもりだったんだよ。悪気は無いからね」


 残念なことに、それはあまり反省の様子が見られないものだったが。


「ふー、ティナがいなくて良かったよ。ってあれ? ティナは?」


「あ、なんかハニーがさっき連れて行ったわよ。前にマナナン・マクリルにティナちゃんの調査をお願いしたんでしょ? その報告じゃないかな」


「そうなんだ。ティナの正体って何なんだろう」


 クレイは呟くと、法術で目のあざを消そうとする。


「あれ? 消えない」


「……そのあざは私の呪術によるもの。貴方が先ほどの非礼を私にきちんと謝罪し、そして私の機嫌が治らない限り永遠に消えることはありません」


「最初にブルックリンさんの客人って言っただろ! 客人に呪術って何考えてんだよ!」


 しかし目の周りのあざは消えず、直後にクレイの背後から発せられた不機嫌そうな女性の声を聞くと同時に、クレイは口を尖らせて後ろを振り向く。


 そこには瞳ばかりか、軽くウェーブのかかった髪の毛までヴァイオレット色の女性が立っていた。


「あらディルドレッド、もう眠り薬の効果は切れたの?」


「はいヴァハ様。フィーナ様の御手水のおかげで何とか」


 手を胸の前にあて、ゆっくりと頭を下げてうやうやしく礼をするディルドレッド。


 途端に肩のあたりまで伸ばした薄い紫色の髪がさらりと落ち、その姿は野山につつましく咲くスミレをクレイに連想させていた。


(……ん? つつましく?)


 自分に対する態度とヴァハに対する態度の違い。


 そしてフィーナがディルムッドを眠り薬による昏睡から回復させたということ。


 しかしその眠り薬を一服盛ったのがそもそもフィーナであるという、諸々の事実にクレイは理解が追いつかず黙り込む。


 その彼の目の先では、二人の女性が華やかな笑い声を上げていた。


「気高く、美しく、それでいて配下に対してのあの細やかな気配り、ご厚情……このディルドレッド、フィーナ様に一生ついていく所存ですヴァハ様!」


「あらもー上手いわねディルドレッドったらウフフ」


(……なんだこれ)



 熱に浮かされている。



 そんな感想しか出てこないディルドレッドの態度に、クレイは思わずため息をつきつつ、ヴァハと話し込んでいるその横顔を見つめた。


 服装はヴァハと同じような、肩の部分が膨らんでいる白のワンピース。


 そして赤、青、白のチェック柄の袖が無い上着をその上に着ており、その姿を見る限りでは到底護衛を務めるほどの騎士には見えない。


 だが体型が分かりにくい、そのふわりとした服の下にある体を、先ほど風呂で凝視してしまったクレイは別の感想を思い浮かべていた。


(服のせいで分かりにくいけど、すごい肩幅だ……おそらく幼少のころから鍛え上げてきたんだろうな……胸の栄養はそっちに取られちゃったのかな?)


 そしてクレイが年相応の興味津々な目で、年に似合わぬ失礼な感想をディルドレッドに向けていると、その対象であるところの女性は目を吊り上げて怒り出していた。


「何か言いたいことがあるなら言いなさい! 無礼ですよ!」


「相手の身分も確認しないまま攻撃してきた無礼者に言われたくない」


「な……女性の裸を無理やり見ておいて何と失礼な!」


「戦場でも男だからとか女だからとか言うの? 騎士やめた方がいいよ」


「あー、ちょっとちょっと二人とも落ち着いて。どうしたのクレイ君、女の人に怒るなんて君らしくないよ?」


 女性に対し、珍しく怒ったままのクレイを見たヴァハが仲裁に入る。


「俺が怒るような女性に引き合わせてもらってないだけじゃないかな……えっと、確かディルドレッドさんはフィーナの護衛なんでしょ? ってことはフィーナが俺の仲間になったら、当然ディルドレッドさんも着いてくるってことだよね?」


「ん? いや、ディルドレッドはフィーナを一人にしないための護衛だから、当然クレイ君たちに着いていくことになったら契約は……」



「ええええエエエええエエえええエエエ!?」



 ヴァハの説明は、突如としてあがったディルドレッドの悲鳴で遮られる。


「冗談ですよね奥様! わ、私これでもう一生安定した職業についたと思って色々とその買いこんだりちょっと豪華な部屋を借りちゃったり実家のお父様にドンドン人を雇って農地を拡大させてとか言っちゃったりして、後に引けない立場なんですけど!」


「あ、えー……それはまた……お気の毒さま」


「そんな! 考え直してください! 私なんでもしますから!」


 騎士の威厳をかなぐり捨て、明らかに嫌そうな顔をしているヴァハにすがり付くディルドレッド。


「あー、うん。と言うことらしいよクレイ君」


「なんでそこでこっちに振るの」


「いやだって……この顔を見たら……ねぇ?」



 ディルドレッドの綺麗めの顔は、涙と鼻水とヨダレでぐちょぐちょになっていた。



「あー、はい……でもそこで同意を求めないでほしいです」


「でもディルドレッドちゃん今何でもしますって言ったし連れてってあげてくんない? ヴァハ一生のお願い」


 顔の前で両手を組み、ウィンクをしてくるヴァハを見て溜息をつくクレイ。


「まぁ確かに何でもしますって……うん、わかったから。一緒に連れて行くから。しがみ付かないでディルドレッドさん」


「ありがどうござびばずうううクレイざまあぁぁぁぁ」



 金は人を変える。



 典型的なモデルケースを目の当たりにしたクレイは、フォルセールのドワーフたちもこんな感じで働いていたのかな、との思いを胸に、新しい仲間ディルドレッドの頭をヨシヨシと撫で、慰めてあげたのだった。

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