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第4話 迷宮に行こう!

 討伐隊に入れるかどうかはさておき。


「ああ、話は聞いてるよ。ほら、先々週だっけか? 何年か前に教会から国に寄進された郊外のでっかい小麦畑を、民の暮らしを知る一環として孤児院が国から譲り受けただろ? その近くに出来ていた迷宮が、昨日になって偶然発見されたらしい」


「えー? なんでそんな近い場所に知らない迷宮があるのさリュファス兄」


 とりあえずクレイはラファエラに言われた通り迷宮の調査をするべく、討伐隊の現在の設営地に戻って団長用のテントの中でリュファスとロザリーへ報告をしていた。


「俺に聞くなよ……って言うかお前ラファエラ司祭に何も説明を受けてないのか? 新しい迷宮を調査しろって言われたんだろ?」


「そうだった」


「しっかりしてくれよな。新しい迷宮の探索なんて俺も初めて聞くんだから」


 敷物の上に座り込んで話をしていたリュファスは、隣でバツの悪そうな顔で謝罪をするクレイの顔を見ると、後ろへ手を伸ばして上体を逸らす。


「迷宮に入るのはしばらくぶりだな。アレから地上に強力な魔物が増えちまったから、わざわざ迷宮に行かなくても、地上でうろついてる魔物の素材だけで十分に稼げるようになったからな……」


 テントの天井ではない、どこか遠くを見る目をしながらリュファスが感想を述べると、それを見たロザリーは一瞬だけ悲し気な顔をした後に首を傾げた。


「それにしても新しく作られた迷宮って……迷宮ってそんなにキノコみたいにポコポコできるものなのです? 深さ一メートルの穴を地面に掘るだけでも重労働なのに、迷宮は判明している通路の長さだけで数キロメートルあるなんて普通なのです」


「まぁそうだな……でも魔術を使えばできるんじゃないか?」


「何のために? 宝の保管って言うなら通常の建築方法で保管庫を地上に作った方が、土で出来た天井や壁を持つ穴ぐらよりよっぽど頑丈な物ができあがるですよ」


「だから天井や壁も魔術で……普通に木材や石材、漆喰で地上に作った方がいいのか」


 首を捻るリュファスに、ロザリーは新たに浮かんだ疑問を投げかける。


「それに魔術を使って迷宮を作るって言っても、魔術における安定の象徴とも言える大地に、あんなに大きい穴を掘るような強力な魔術を使った後は、魔力の残滓がかなりの長い期間残るはずですのに、迷宮で残滓を感じたことなんて一度も無いですよ」


「そうなの? ロザリー姉」


「なのですよ」


 ロザリーが健康的な小麦色の顔をクレイに向けて返事をすると、長く黒く艶やかな髪がそれに遅れてついてくる。


 その間から覗き見えている、ぴくぴくと良く動く耳を触りたくなる衝動に耐え(小さい頃に興味本位で触ったら、途端にロザリーが背中をのけぞらせて、その後に顔を真っ赤にした彼女に怒られたのだ)クレイはロザリーの話を聞いた。


「おまけに魔術で補強してる訳でも無い土の天井や壁も崩れて来ないですし、迷宮って言うのは謎だらけなのですよ」


「だから危険がないか調査するんじゃないの? よく分かんないけど」


「まぁそうなのですけど……何か引っかかるのですよね」


 そこでリュファスが立ち上がり、不安がるロザリーを安心させるようにその背中を軽く叩いて笑顔を浮かべる。


「ま、新しい迷宮ならお宝もいっぱいあるだろ。とりあえず行ってみて勝てそうにない魔物がいれば、さっさと戻ってラファエラ司祭に報告すればいいだけさ。行こうぜロザリー。ところでクレイ、お前その頭のサークレットどうしたんだ?」


「なんかラファエラ司祭がつけてくれたんだよ。お守りだってさ」


「ふーん。天使になると色々とあるんだな」


「どうせなら領主様みたいに武具一式をくれればいいのにさ」


 そう言ってクレイが口を尖らせた時、その頭を見たロザリーが唸り声を上げる。


「むむむ、得体の知れない魔力を感じるです。でもラファエラ司祭が渡してくれたのなら、多分問題は無いはずですよ……先代の司祭様と違って」


「先代の司祭様って一体……あ、何となくわかったから説明はいいや」


 さっと顔を青ざめさせた二人に何かを察したのか、クレイは慌てて手を振る。


 そしてこのサークレットをラファエラに着けて貰った時、合わせて告げられた言葉を思い出すのだった。




「電撃サークレット? なにそれどこかの芸人一座の名前?」


 冗談めかした声で何かを誤魔化そうとするクレイ。


 しかしその彼を無視するように、ラファエラの説明は続けられた。


「あるキーワード、またはある情報に関することを喋ろうとすると、装備している者に容赦なく電撃を喰らわせるありがたいサークレットです。今まで何人もの犠牲者……いえうっかりさんを矯正……治療してくれた、性能に関してはお墨付きの物ですよ」


「え、いやそんなさっきラファエラ司祭が話した迷宮についての情報なんて喋らないよ俺。ひ、ひ……ナイショの話はあのねのねなんでしょ?」


「教会の秘匿事項。まぁ平たく言えば秘密とか内緒の話ですね」


 ラファエラは手に持ったサークレットを愛しそうに撫で、理知的な――あるいは酷薄な――笑みを顔に浮かべる。


「先ほど貴方に述べたように、迷宮は私たちが人間の成長を促すために宝物を各所に点在させているのです。それを人が知ってしまえば、宝を迷宮に取りに行かずに我々の所へ盗みに入ろうと考える輩が現れるでしょうからね」


「そんな命知らずいるのかな」


「やらなければ命にかかわる。あるいはそう思い込んだ人ならやるでしょうね。野盗になる人間が後を絶たないのと一緒です」


 涼し気に微笑むラファエラの顔に、クレイは不思議な恐ろしさを感じつつも先ほど彼女から話を聞いた時に思いついた疑問を口にする。


「それにしても、迷宮がドワーフたちが鉱脈を掘り尽くした廃坑の後に作られるものとは知らなかったよ俺。じゃあそこで働いていたドワーフたちはどこに行ったの? 教会に対する借金を返すために働いてるなら、連絡先が判明してないといけないよね?」


「それは分かりません。色々と特別な鉱石がとれるようになる鉱脈の生成に必要な、龍脈の硬化がどこに現れるかは私にも予想がつきませんからね。落ち着いたらドワーフたちから連絡してくるでしょう」


「ふーん。でも何だか可哀想だね。借金を返すためだけの生活だなんて」


 あまり同情を感じさせない口ぶりでクレイが言うと、ラファエラが困ったような顔でそれに答えた。


「それは私たちが判断することではなく、その原因となった当人たちが……当人たち……ええと、まぁ可哀想とは思いますが、借りたものはやはり返さなければいけないものなのですよ」


「なんで今答える途中で考え込んだの」


「知りません」




 そのようなやりとりがあった後、めでたく電撃サークレットの新しい所持者はクレイとなったのである。


「それでクレイ、新しい迷宮の入り口ってのはどこにあるんだ? 大体の場所は聞いてるが、詳しい座標は聞いていないぞ」


「あ、うん。えっとね、小麦畑の近くにある雑木林の中だってさリュファス兄」


「そうか、それじゃ色々と準備しておかないとな。出発はいつにするんだ?」


「ラファエラ司祭が明後日なら大丈夫だって言ってた」


 そのクレイの言葉を聞いて、ロザリーが不思議そうに答える。


「え? ラファエラ司祭も来るですか? 先代のエルザ司祭様と違って真面目に仕事してるですのに」


「いや、真面目に仕事してるから来れるんじゃないか?」


「俺は全然覚えてないけど、先代の司祭様って本当にロクでもない人だったんだね……」


 沈痛な面持ちでうなづく二人に、慰めの言葉をかけてテントを出たクレイは初めての迷宮探索に心を躍らせつつ、天使になるまで一緒に住んでいた討伐隊の隊員のテントへと足を向けるのだった。

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