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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第38話 いきなり何を言い出すんだ!

(ヘッ、決まったな。どうやらあの目ん玉はあっさり死んじまったようだが、まぁいいだろ)


 天幕の外で息を殺しつつ中の成り行きを見守り、登場する機会を図っていたバアル=ゼブルは、中にいる面々の顔を見て得意気に胸を張る。


 彼がここに来た目的であるデド=ホルダーはすでに絶命していたが、バアル=ゼブルはそれを見てもまったく落胆した様子はない。


 なぜなら出来上がった魔物が一体だけでは意味が無いからである。



 戦力になる魔物の量産化、それこそがこの魔物の至上の命題であった。



(一体死んで少しくらい納期が延びたってどうってこたぁねえ。問題は量産化が成功しているか、総額でどのくらいの出費になるかってことだ。ここで恩を売りゃあ後の商談がやりやすくなるし、それには絶体絶命のピンチって奴を演出してやって……)


 王都で封印されている間に倹約術でも身に着けたのか、旧神バアル=ゼブルはバザーで値切りに成功した主婦のような笑みを浮かべる。


(ん~……? こっちに手を振ってるあのガキの顔どっかで見たような気が……ってオイオイオイ!?)


 しかしその笑顔は即座に凍り付き、彼はマイムールを顕現させるなり全力で前方へと走り出していた。


 波止場の時と同じように辺りに散る魔力の火花、金属がこすれ合う耳障りな音。


「ギョゲゲゲエ!?」


 ケロリーナの悲鳴と灰色の髪が何本か舞うすぐ下には、彼女に向けて振り下ろされたミスリル剣と、それを受け止めたマイムールが拮抗していた。


[手を振ってんじゃなくて剣を振りかぶってたのかよ! お前フツーこういう時はこっちに何者だとか言って動きを止めるだろ空気読めよ!]


 反応は無い。


 まるで人形のような無表情の少年を見たバアル=ゼブルは、何かの術で操られているのかと思い、その顔を覗き込む。


[つーかお前どこかで見た気がすると思ったら、俺たちが王都の封印から解放された時に森の……中……ッ!?]


「戦う相手の準備が整うまでわざわざ待つようなお人よしがいると思うかね。それにしても君まで来ているとは。相変わらず人を驚かせるのが好きなようだ、我が旧友は」



 赤い光。



 クレイが剣を引くと同時にバアル=ゼブルは飛び退り、森で目にした時は取るに足りないと判断したはずのクレイの動きに油断なく目を配りつつマイムールを構える。


[チッ……テメエまでヘプルクロシアに来てたのかよ。いつの間に復活しやがった、憤怒の天使にして妥協なき裁きを下す天使の王、メタトロン]


 陽の光が天幕によって遮られ、周囲が薄暗い中でうっすらと光る赤い目。


 その赤い重圧を感じ取ったバアル=ゼブルは、背中に汗が浮き上がるのを感じた。



「仕方あるまい。今の宿り主はなかなかに活発で、我の言うことをあまり聞いてくれないどころか、我の意志を押さえつけるほどだからな。我としてはテイレシアでゆっくりと力を取り戻したかったのだが」


[そりゃお前さんが昔に比べて衰えちまっただけじゃねえのか? アルバトールに宿っていた時もそうだがお前さん力を無駄遣いしすぎだぜ。俺から言うのもなんだがよ]


 バアル=ゼブルの忠告を聞いたクレイは、やや視線をうつむき加減にして苦笑する。


「我が宿り主に選ぶ者たちは、どうも我の力に振り回されて大局を見失う傾向があるようだ。このケロリーナとか言う女にしても、我を起こすに足る憤怒を発する程に許せない所業をしたようではあるが……む? いやこの男は……ああ、わかったわかった。君は本当に子……」


 そして誰かと口論をしているような様子を見せると、赤い目は閉じられ。


「聞きたいことがある。メタトロンやアルバ候とあんたは知り合いなのか?」


 次に開かれた時には、クレイの瞳は赤茶色のものへと戻っていた。



[あー? ンなもんは俺じゃなくて本人たちに聞けばいいだろ]


「それはそうだけど……」


 バアル=ゼブルを見たクレイは、その顔があまりにも彼の知り合いにそっくりなことに軽く驚きつつ不満気に答える。


(森で見た時は遠かったし、あまりの威圧に気圧されて気付かなかったけど、ヘルメースにそっくりだ。髪の色は違うけど)


 その視線に気付いているのか、それとも相手にしていないのか、バアル=ゼブルはクレイの方を見ようともせずに独り言をつぶやく。


[それにしてもメタトロンもヤキが回ったな。アルバトールの時もなんであんな使い物にならねえ甘ちゃんに宿ったんだと呆れたもんだが……なッ!]


(手を上げるのだ少年!)


(な、なんだ!?)


 目の前の空間が急激に圧縮し、高熱を帯びたような感覚に襲われるクレイ。


 それが殺気だったのだとクレイが気づいたのは、バアル=ゼブルが放ったマイムールの一撃を彼が受け止めてからだった。


 さらにその攻撃を受け止めたことすら、幸運以外の何物でもなかったのだ。


(それとも俺がわけもわからず振り上げたミスリル剣に、わざわざ一撃を加えてくれたのかな)


 クレイは未熟な自分に腹を立て、内心で舌打ちをする。


(俺も情けないな。アリア義母様に平手打ちをもらってた頃とまるで変わってない。親が振り上げた手を見た子供が思わず目を閉じ、頭を抱え込むのと一緒だ)


 クレイは強張った全身に気合を入れて何とか動かそうとするが、今の彼には緊張を解きほぐす、あるいは恐怖から逃れるための声すら出すことはできなかった。


 その原因は、目の前の男が放つプレッシャー。


 かつて王領で戦った上級魔神とは、まるで比較にならないほどの重圧。


 死を覚悟するまでもない、まるで自分の死そのものが人の形となり、目の前に立っているようにクレイには見えた。


 この飄々とした態度を取っている、バアル=ゼブルという旧神は。


[まだまだだな。子供はとっとと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな。そうすりゃ長生きもできるってもんだ。おっと、ここで見逃してやった慈悲ぶか~い神様、バアル=ゼブルを信仰するともっと長生きできるから覚えておいた方がいいぞ]


 矛に似た形状を持つ武器マイムールを肩に担ぎ、余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべ、クレイへの忠告なのか勧誘なのか分からない一言を口にするバアル=ゼブル。


「いやだね」


 だがバアル=ゼブルの忠告を、クレイが聞き届けることは無かった。


 しかしそれは予想していた答えだったのか、バアル=ゼブルはそれほど気を悪くした様子もなく呆れたように溜息をつく。


[あ~、これだから子供ってやつは困るんだ。いいか? お前がここで意地を張ったって喜ぶ奴なんて一人もいやしねえ。逆にお前がここで死んじまえば……そう言えばお前、アルバトールとどういった関係なんだ?]


「……だよ」


「あ? もうちょっとでかい声で喋れよ。確かにアルバトールと俺は敵同士ではあるが、まんざら知らねえ仲ってわけでもねえんだから気を使う必要はねえよ。それとも人前じゃ話せねえような関係なのか?」


 バアル=ゼブルの挑発を聞いたクレイは、少しだけ迷った後に先ほど気絶させたグレンデルの方を見る。


 そしてその毛むくじゃらの巨体の下で、フィーナが下敷きとなって気を失っているのを確認してから口を開いた。


「義理の親子だよ! 俺はフォルセールを治めるトール家に、アルバ候に養子にもらわれたクレイ=トール=フォルセールだ!」


 養子になって約十年。


 その間に溜まったしがらみを振り払うかのように、クレイは叫びをあげる。


[あぁん? 養子だぁ? つーことはあのヤロウ……]


 しかし複雑な胸の内から吐き出したクレイの告白を聞いたバアル=ゼブルは、困ったように頭をかいていた。



[やっぱり童貞か]



「……え?」


[あーいや、こっちの話だ。お前も今聞いたことは忘れた方がいいぞうん。さもないと生命の危険にさらされるからな]


「何言ってんの?」


 クレイは困惑し、混乱する。


 本当にいきなり何を言い出すのだこの男は。


(顔が似ているだけかと思ったら言うことまで似てるよ……)


 クレイは肩を落とし、このような相手を敵に回すことになった昔のアルバトールを想って落胆するのであった。

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