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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第37話 紅と蒼の邂逅!

 早まる動悸、ざわつく感情。


 クレイはその二つを何とか押さえつけ、ルー・ガルーの子供へ話しかける。


「お前たち、食事は?」


「このごろ、あまりでないの。だからあたし、ままにもらってた。まま、ぜんぜんおなかがすいてないからって」


 クレイは腹部をおさえつけているルー・ガルーの腕を見た後、すぐに聖霊に祈りを捧げ始め、解析をする。


(……良かった、まだ生きてる。だけど脱水症状で意識を失ってて動かせそうにないな)


 クレイは子供の方も解析し、法術で若干の体力を取り戻させると剣を一閃し、鉄格子を切りすてて檻の外へ出るように告げた。


「ままは?」


「ママは今少しだけお腹が減ってて動けないみたいだ。後で連れて行ってあげるからテントの外で待ってな」


「うん! あたしまってる! いいこにしてたら、ぱぱがおむかえにきてくれるってままがずっといってたもの!」


「そっか」


 よろよろとテントの外に向かっていくルー・ガルーの子供。


 ケロリーナが子供に手出ししないように睨みを利かせていたクレイは、テントの外に子供が出るのを確認した後にケロリーナを見る。


「おいカエル」


「ボウヤ……誰に向かってカエル呼ばわりしてるか分かってるのかい?」


「お前が誰だろうがどうでもいいんだよ。お前、この親子に何をした」


「何もしてないさ。そう、なぁ~んにも……」


 そしていくつかの言葉を交わした後、クレイはケロリーナへ浴びせるいくつかの太刀筋を思い浮かべる。


「おおこわ、それは女性に向ける目じゃないよ? ボウヤ」


「これは罪人に向ける目なんだから構わないさ。フィーナ、あの檻の中にいるルー・ガルーの母親に水を持って来てゆっくりと飲ませてやってくれ」


 そしてクレイはゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせると、ようやく準備が整ったと思われるグレンデルを見た。


「お、俺はどうなっても知らねえからなMrsケロリーナ!」


「はっ! こいつが負けるとでも思ってんのかいグレンデル! バロール様の魔眼を基に、堕天使の長であるアスタロトが調整し、作り出したこのデド=ホルダーに!」


 次の瞬間、中にいる何者かによって太い鉄格子が一瞬にして切り裂かれ、その破片がグレンデルの頭部を直撃して気絶させる。


 そこから現れたのは、全身を黒い髪の毛で覆われた巨大な目玉。


 まだ開かれていない瞼は、長年髪の毛で覆われでもしていたのか苔が生えてしまっていた。


「ヒャハハァ! こいつの髪の毛はフルプレートアーマーですら簡単に切り裂いちまうよ! 逃げるんなら今のうち……」


「うるさいよ」


 クレイは面倒そうな声を出すと、巨大な目玉の方へ顔を向ける。


 すでにそこには黒い鞭のような、何十本もの髪の毛が四方八方から彼に迫っていたが、クレイは避けようとする意志すら見せずにゆっくり左手を上げ。


「出でよアイギス」


 力を固定させる一つの言葉を発し、無数の髪の毛を無視すると剣を持つ右手に力を籠める。



「て、ててっ鉄格子も紙のように切り裂くデド=ホルダーの髪の毛が通用しないだってえ!?」



 直後にケロリーナが驚きの悲鳴を上げる。


 口をあんぐりと開け、腰を抜かして全身をふるわせているケロリーナの視線の先には、ぼんやりとした光で全身を包むクレイがいた。



「な、なんなんだいそりゃあ!?」


 神盾アイギス。


 旧神ゼウスはおろか、クレイの義父であるアルバトールが発動させたものにすら遠く及ばないものの、その光るモヤはデド=ホルダーが放った髪の毛から、クレイに傷一つつけることなく守り通していた。


 しかし。


[キュゥルルルルゥゥ……]


 次の脅威は、すでにクレイの身をむしばんでいた。


 デド=ホルダーの発する呪縛が。


「調子に乗るんじゃないよボウヤ! デド=ホルダーの目から発される怪光線は、上級魔神ですら麻痺させ動けなくさせる! 基になったバロール様の魔眼には到底及ばないが、それでも子供の相手をさせるにはもったいないシロモノさね!」


 デド=ホルダーの眼が光った直後、勝利を確信したケロリーナの声が発せられる。


 しかし。



「邪魔だよ」



 右手を振り上げ、振り下ろす。


「な、なんで動けるんだい!? ……あ……ま、まさか……その赤い……目は……」


 それだけで上級魔神すら動けなくなる怪光線を発する恐ろしい魔物、デド=ホルダーは真っ二つになり、動きを止めていた。


 通常の赤茶色の瞳から、いつの間にか再び燃え盛る紅蓮と化した目をクレイはケロリーナに向け、ミスリル剣の切っ先を突き付ける。



「さっきの続きだ。あの親子に何もしなかったと言うことは、食事も何も出さなかったと言うことか?」


「ひっ……し、仕方がないじゃないか! あの親子は病気にかかって商品価値が下がっちまってるんだ! 売れない商品を処分して何が悪いのさ!」


「何だと……」


「ひっ! ひいい! お、お助け……」


 クレイの顔が怒りに歪む。


 その恐ろしい有様を目にしたケロリーナは頭を抱え、迫りくる恐怖に我慢できないというように体を丸めてしまう。


「何も食べるものが無くなった時のつらさを知っているのか! それでも何とかしようとして! それでも何ともならずに、とうとうやってはいけないことに手を出してしまった者の悔やみが! もしもあの子が空腹に耐えられず、母親の死体に口をつけてしまったらどうするつもりだったんだ!」


 クレイの剣幕に恐れをなし、平伏して命乞いをするケロリーナ。


「ね、ねえ……その辺にしてあげたほうが……ほら、お母さんの方もまだ生きてるんだしさ……」


 さすがに哀れに思ったのか、ルー・ガルーの母親に水を飲ませたフィーナが取りなしの言葉をかけた直後。


「きゃああ!? ちょ、ちょっと何すんのよこの変態!」


 毛むくじゃらの大男が素早い動きを見せていた。


「おっと動くんじゃねえよ! そこのボウヤ! この女の命が惜しかったら……」


 フィーナの背後に回り、その右手を捻じり上げるグレンデル。


「無駄なことを」


 しかし今のクレイに、非情なる裁きの天使メタトロンが表に出てきたクレイに、そのような卑劣な脅しは通用しなかった。



「殺さないように手加減できる自信はないと言ったはずだが」



 剣を振りかざすまでもないのか。


 左手の人差し指をグレンデルの額に向ける、それだけで毛むくじゃらの大男は泡を吹き、床に倒れ込んでいた。


「情報を引き出す者は一人いればいい」


「ま、待っておくれ! あいつはただの下っ端だよ! このあたしを生かしておいた方が色々と……」


「そして残念なことに、下衆を見逃すような慈悲深さを我は持ち合わせていない」


 命乞いをするも通用せず、逃げようとして地面を這いずり回るケロリーナ。


 感情もなく、ただ目の前の生命を奪うことのみに徹したクレイが剣を振り上げた時。



[ああ? 何だこりゃ。ただならねえ気を感じて飛んできて見りゃ、受け取るはずの商品が真っ二つになって転がってんじゃねえか。ケロリーナとか言う責任者はどいつだ]



 先ほどルー・ガルーの子供が出ていった天幕の出入り口から、世の中の不幸すべてを笑い飛ばすような、不敵な声が発せられたのだった。

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