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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第33話 事件が日常!

 アルフォリアン島の南東に位置する港町ローレ・ライは自治の街である。


 アルメトラ大陸にほど近く、島の玄関口とも言えるこの街は、昔からいくどとなく他国の侵略を受けており、その度に王都に援軍をもとめていては間に合わないと言うことで、防衛を町の住民の手で行う代わりに国の不干渉、免税を許されたのだ。


 それ故にローレ・ライは腕っぷしに自信のある者や、己が力のみを頼りに道を切り開く海の男たちに好まれるようになり、さらには移住する者が後を絶たなくなり、その規模は王都であるベイキングダムを凌ぐほどにまで成長している。



「そう言えば以前アルバ候が言ってたな。陛下がテイレシア各地を治める諸侯の権限を拡大しようとしてるって。もしかすると、このローレ・ライを真似ようとしてるのかなイテッ」



 だがその成り立ちゆえに治安はそれ相応に悪く、前回の天魔大戦の時にはこの町に足を運んだアリアが、エンツォたちが少し目を離した隙に誘拐されそうになったほどである。



「あーもう舌を噛んじゃったよ」


 体が激しく上下に揺れている中、独り言をつぶやいたクレイは舌を軽く噛んでしまい、針で刺されたような鋭い痛みに耐えるように口をへの字に曲げた。


(しかしさすが荒くれものの街ローレ・ライ。油断も隙もあったもんじゃないな……まぁフィッシュアンドチップスを買い食いしてた俺が悪いんだけど)



 よって上陸して早々、クレイが誘拐されてしまったのも無理はないのであった。



(いきなり袋をかぶせられて、そのまま背負われたからたぶん天地方向は逆になってるだろうな)


 しかし誘拐された本人と言えば、至ってのんびりとしたもの。


 先ほど舌を噛んだことにより、さすがに独り言をつぶやくのはやめたものの、わりと冷静に今自分が置かれた状況の分析を始めていた。


(でも袋でまわりは全然見えないし、ずっと上下に揺さぶられてるからどっちが上か下かなんてわからない。これは若い頃のアリア義母様がパニックになって何もできなかったのも無理ないや……あ、今でも十分に義母様はお若いですよホントに)


 袋の中に一人で押し込められているにも関わらず、クレイは見えない誰かに向かって言い訳を始め、その姿はこの危機的状況をあまり深刻に考えていないように見えた。


 ポセイドーンから贈られた大海の戒めにより、力が思うように出せないと言う諦めもあっただろう。


 しかしよくよく考えてみれば、誘拐犯たちが生きたまま連れ去ると言うことは、生きている自分に対して価値を見出していると言うことである。


 自らのうちに眠る天使の王メタトロンも起きないと言うことは、おそらく差し当たっての危険は無い。


 そう判断したクレイは頭を抱えて体を丸め、一定のタイミングで揺れる袋の方向と反対に身体を揺らし、犯人に嫌がらせ……ではなく抵抗を試みるのであった。


 魂の眠りに入ったものは、事前に決めたキーワード、あるいは特定の人物による外的刺激によってしか起きないと言うことを知らないままに。




「あれ? クレイ様はどうしたのですかベルトラム様」


「集まった情報によると、どうやら誘拐されたようですね」


「……なんでそんなに落ち着いてるんですか?」


「このようなトラブルは日常茶飯事です。トール家に仕えるのであれば、今から心しておきなさいサリム」


「はい」


 その頃ベルトラムとサリムは、それぞれの思惑による別々の溜息をついていた。


「それより心配すべきは犯人たちの安全です。一般人に向けてクレイ様がみだりに力を振るうことは考えられませんが、この町を治める評議衆の筆頭ブルックリン殿までそうだとは限りませんからね」


「あ、はい……でも貴族の誘拐、しかもそのさらった相手は他国からの勅使であるクレイ様ですよ? 普通ならそのまま処刑されてもおかしくないような。それなのに犯人の安全を心配するなんて」


「そうですね」


 サリムの疑問に対し、短く答えるベルトラム。


 やや苦し気に聞こえるベルトラムの返答を聞いたサリムは、口を閉じてそれ以上の質問をすることを避け、港に勤める人々の間を忙しく動き回るエンツォの手助けを始めたのだった。



 しばらく後。



(いてっ……もうちょっと優しく扱ってくれよなぁ)


 クレイを包装した袋は、硬い地面の上に無造作に降ろされていた。



「商品を持ってきやしたぜ、おやびん」


「気が抜けるからおやびんはやめろって言ってんだろ。親分だオ・ヤ・ブ・ン」


「へぃおやびん」


「またかよ、仕方ねえなあ」



(なんだ? 誘拐をするような犯罪者にしては妙に幼い声だな……しっかしどこに連れ込まれたんだ? 俺)


 先ほどまでは袋越しにうっすらと陽光が見えていたが、今は真っ暗になってしまった周囲に、クレイは自分がどこかの建物の中に連れ込まれたと予想する。


 また先ほどから聞こえる声も、どこかに吸い込まれていくようなものではなくやや明瞭な物で、近くに声を反射する壁や天井が存在していることは間違いなかった。


「そんじゃ依頼主サマのところに持って行くか。商品の鮮度はどうだった?」


「身綺麗にしてて世間知らずのお坊ちゃまって感じでしたぜおやびん」


「……おい、もしかして王族や貴族のご令息じゃないだろうな。そんなモノを掴まされたら市場ごと潰されちまうぞ」


「明らかに身分の低そうな同年代の子供と口喧嘩してたくらいだし、大丈夫だと思いますぜ」



(しまったサリムと話してる所を見られちゃったか)



 久しぶりにティアマトに会った気苦労を、先ほどサリムに愚痴っていたことを思い出したクレイは、ローレ・ライが安全なフォルセールとは違うと言うことを改めて思い知る。


(あーこれは怒られちゃうな……ごめんなさいアリア義母様、今度から市場を歩いてもなるべくつまみ食いをしないようにするから許して)


 常に自分の行動が見られていることを踏まえた行動をしなさい。


 いつもアリアに怒られていたクレイは思わず頭を抱え、袋の中で体を揺らす。


「なんだ? 思ったより元気そうじゃないか。きちんと袋に痺れ薬を仕込んだんだろうな?」


「テイレシアの盗賊ギルドから流れてきたオッサンのお墨付きですぜ。信用してもらうために何度も面通しをして、今度はそこから安くしてもらうのにどれだけ苦労したか」


「まぁあまり暴れるようなら何度か棒で殴りつけりゃいいか。それじゃブツを買い取ってもらいに行くかね」


(おわっ!? だからもう少し丁寧に扱ってくれよ! しかしお互いの名前も呼ばないなんて用心深いな。もしくは二人きりなのか?)


 再び宙に浮かび、袋の中でもみくちゃにされるクレイ。


「おいグレン、鮮度が落ちるから商品は丁寧に扱えっていつも言ってるだろ」


「ご、ごめんよデニールおやびん」


(……っておい、俺のさっきの用心深いなって感心を返せよ)


 しかし袋で拘束された状態で取り出せるような、短めの刃物を持っていない彼は、大人しく真っ暗闇の中で揺られる自分の身を嘆くしかできないのであった。

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