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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第30話 魔法ってなんだ!

「ワシが魔族を恐れとるやと? 言うてくれるやないかクレイ」


「うん」


 怒りを露わにしたゼウスが発する言葉を、平然とした表情で受け止めるクレイ。


 しかし少年である彼のその態度に反し、周囲はゼウスの発する圧力に驚き、固まってしまうものが殆どだった。


 それでも騎士団長であるベルナールとオリュンポス十二神であるヘルメースとヘーラー、そして王妃のクレメンスはクレイたちの方を見つめ、その成り行きを面白そうに見守っている。


(当然だろうけど陛下もだな。っていうか、あの顔は明らかにこの状況を利用して何とかゼウスとの同盟に繋げられないかって考えてる顔だよ……ちゃっかりしてるなぁ)


 クレイは内心で溜息をつくとゼウスの目を見つめ、子供だけに許される特権を使ってゼウスの怒りを自分が望む方向へ反らす。


「だって力がある者が力が無い者を助けるのは当たり前のことって、俺ラファエラ司祭に習ったんだ。じゃあゼウスが俺たちに力を貸すのは当然になるんじゃないの?」


 その特権とは無知。


 ゼウスに教えを乞いたい、つまり他者に自分の知識をひけらかすという優越感を与え、知者の自尊心を満足させる、目上への質問をクレイは口にしたのだ。


「もう他人の顔色を読んで話すようになっとるんかい。ヘルメースをこっちに寄越すんじゃなかったわ」


 もちろんそれだけではない、ゼウスのクレイに対する好意すら利用したその暴言を聞いたゼウスは、ヘルメースの方を睨んで口をへの字に曲げる。


「あー……まぁそれは正しいやろな……やけどなクレイ。それを天使になったお前が言うのはちょっとキツイで。本気を出そうにも出せなくなったのが、この世を満たす聖霊のせいなんやからな」


 またオリュンポス十二神を率いる立場上、子供に対して感情をあらわにすることは大人げないと言うこともあるだろうが、クレイが思った通りゼウスは眉間にしわを寄せ、困ったように首を傾げた。


「知ってる。けどそれは魔族の奴らも一緒なんだよね?」


「まぁの……」


 その追い討ちにゼウスは言葉を濁すと、クレイの背後にいるシルヴェールの方へ顔を向ける。


 するとシルヴェールの顔はたちまちにして曇ってしまい、ゼウスに口止めをするように首をゆっくりと振り、それを見たゼウスは短く鼻から息を吐いた。


「やけどなクレイ。聖霊の結界ちゅうのは、力を持つほどその効果も大きくなるモノなんや。つまり……あーそのなんや、要はワシが本気を出そうとすると、聖霊が力を押さえつけようとする。するとその反動が世界のどこかに現れるんや」


「反動?」


「洪水、干ばつ、地震……はお前はまだ知らんか」


「知ってるよ。地面が揺れるんでしょ? 実際に体験したことは無いけどさ」


「まぁそういうこっちゃ。ワシは本気を出したくても出せんのや。天魔大戦にまるで関係のないところに影響が出るだけならまだしも、その土地の旧神から恨みをかうことになるからのう」


 ゼウスの説明を聞いたクレイが納得したような顔をすると、ゼウスはやや大仰な仕草で顔を何度も縦に振り、それを見たヘルメースがシルヴェールへ人差し指と親指で輪っかを作る。


 それを見たシルヴェールはヘルメースへ頷いて一息をつくと、愛する妃であるクレメンスと、愛娘であるジョゼフィーヌの方へ戻って行った。



「いくら世界を安定させつつ導くためっちゅうても、魔法とか言うわけのわからん……」


「魔法?」


 そしてゼウスは先ほどまでの会話の内容をクレイの頭から切り離すため、うっかり口にしたと言う体を装って話題を変えようとする。


「なんや、天使になったのにまだ魔法がどんなもんか教えてもらっとらんのかい」


「実は魔術もまだなんだけどさ」


「仕方ないのう。それなら……」


 そして話題が変わろうとする直前、それを止めるものがいた。


「よろしいのですかゼウス」


「なんやヘーラー。男女の仲以外でなんぞワシに言いたいことでもあるんかいな」


「どうやらここには未だ知への渇望を止められぬ人の子が多いようですが」


 それは優雅な足取りでゼウスに近づいたヘーラー。


 その忠告にクレイとゼウスがくるりと周囲を見渡すと、そこには彼らを囲む群衆の目があった。


 台風一過と言うわけでもあるまいが、どうやらゼウスの怒りが収まったと感じ取ったのだろう。


 宴に列席する者たちすべてが、どんな話をしているかその成り行きを注目していることに気付いたゼウスは腕を組み。


「まぁええがな。聞いたところで何が変わるっちゅうモンでもないやろ」


「分かりました。あなたがそう言うのなら従いましょう」


 ニカリと笑って答えると、ヘーラーは静かに微笑んで自らの席へと戻って行った。


「魔術と魔法の違いを一言で言うと、限定的であるか無限であるかの違いやな」


「限定的?」


 不思議そうな顔で聞いてくるクレイを見て、ゼウスは得意そうな顔になる。


「そうやな……ワシが世界のことごとくを焼き尽くし、無限とも思える力を持った雷霆。これも魔術に属するんやが、これが魔法になったらどうなると思う」


「え? えー……いやそんなの俺に分かるわけ無いじゃん! 魔法のことは今日初めて聞くんだよ!?」


「簡単なこっちゃ。この世の空間すべてが雷で満たされてしまうんや」


「え? ……それどう違うの? ゼウスも世界全部を雷で焼き尽くせたんだよね?」


 ゼウスの意外な言葉に、クレイは首を傾げた。


「ワシの雷霆はこのセテルニウスという星雲……世界を焼き尽くすことはできても、その外に拡がる無限のうちゅ……他の世界までは届かんちゅうこっちゃ」


「星雲? あー、ゼウスたちは世界のことを星雲って言うんだね。それじゃあ魔法は他の世界まで効果があるってこと?」


 一人で納得するクレイにゼウスは頷く。


「そやな。と言うか、それが全世界を支配する法則になるんや。つまり全世界は雷に包まれているのが当たり前と言うことになる」


「うへ」


 クレイは身震いし、困った顔になる。


「そんな世界だと皆死んじゃうね……大地や海も消えちゃって何も残らない……」


「ところがそうでもない」


「なんで!?」


 ゼウスの意外な答えにクレイは叫ぶ。


「さっき言ったやろ? それが世界の法則、当たり前のことになると。つまり世界は聖霊の代わりに、雷に包まれたまま形作られたことになる。つまり大地や海は勿論、生物も雷に包まれたまま成立したことになるんや」


「えええ!? むちゃくちゃだよそれ!」


「そのむちゃくちゃを成立させてしまうのが魔法なんや。まぁそれが天主が全知全能と呼ばれるようになった由来なんやけどな。そんでもワシから見れば穴だらけの欠陥品や」


「そうなの? 話を聞いてると何でも出来ちゃうすごいものって気がするけど」


 きょとんとするクレイ。


「じゃあ聞くが、ワシが世界を雷霆で焼き尽くしたのは何のためや?」


「えーと……敵を倒すためだよね。テューポーンだっけ?」


「そうや。この……大地すら一抱えにできるほどの巨体を持つそのテューポーンを倒すためにワシは雷霆を発動させた。せやけど魔法でそれをしようとしたらどうなる?」


「世界が雷に包まれているのが当たり前だから……通用しない!?」


 ゼウスは重々しく頷き、その右手にケラウノス、雷霆を顕現させた。


「つまり魔法は発動しても、その効果は皆等しく受けてしまい、発動させた術者だけが恩恵を受けることは無い。全知全能どころかなーんもできん、言わば零知零能やな」


「うん」


「反して魔術は一部だけにその効果を発動させ、周囲との差異によって術者の望みを叶えるもの。雷に包まれていない世界に生まれたテューポーンに雷霆をぶつけて倒す、みたいな感じやな」


「ふーん……意外と不便なんだね魔法って。じゃあ魔法が発動したら、それまでの世界はどうなるの?」


「どうもこうも、新しく魔法が発動したら以前からその法則だった世界に塗り変えられるだけや。それまでの世界なんぞ最初から存在しなかったことになってしまう」


「なんかやだなぁ。じゃあ魔法が今発動したら、俺たちは消えちゃうってこと?」


 クレイの問いに、ゼウスはゆっくりと首を振った。


「いや、世界は新しい法則に従ったものに作り替えられる。もしも雷が世界を満たす魔法が発動したら、お前は雷の中で育ったクレイっちゅう人間になるだけや」


「魔法が発動したことすら分からないのか……」


 ゼウスの解答に、底知れぬ恐ろしさを感じたクレイは全身を震わせた。


「まぁ人間もそれほど捨てたもんでもないんやで。特に人間には魔法にも似た効果を持つモノ。持てる英知で作り上げた文明っちゅうもんがあるからの」


「そうなの?」


 クレイはゼウスの意外な一言に戸惑い、黙り込んでしまう。


「考えてもみんかい。文明が産み出した利器は、どんな人間でも平等にその恩恵にあずかれるんやで? それがどれだけ素晴らしいことか……まぁ当事者にはわからんか」


 ゼウスはあごに手を当て、少し考えた後に口を開く。


「魔術に同時行使の上限がある以上、その恩恵を受ける者はどうしても限られた者、限られた範囲になってしまうが、文明の作り上げた利器は誰でもその恩恵を受けることができ、そしてちょっとした訓練を受ければ誰でも使うことができるんや。例えば街の中を走っている馬車に乗れば、誰でも遠くへ素早く移動できるようにの」


「あー……でもそれって当たり前……だから逆に気付かないのか」


「っちゅうこっちゃ。それにお前らはワシらが何でも出来るように思っているかも知れんが、神様と崇められてはいても意外と不自由な生活を強いられているんやで」


 ゼウスは顔をしかめ、仏頂面になって愚痴をこぼしだす。


「神は空を自由に飛ぶことができるが、空を飛ぶことを止めれば人間と同じように大地に足をつけて歩くしかないし、何かを飲んだり食ったりするのが当たり前。要はワシら神ですら魔法には逆らえんっちゅうこっちゃ。ホンマ忌々しいやっちゃで天主は」


「あ、それそれ。もう一つ聞いてもいい?」


「あー考えるだけで腹立つわ……なんやねんクレイ」


 何かを捻り潰すように両手を合わせていたゼウスは、クレイの無邪気な笑顔を見て毒気を抜かれたように返事をする。


「なんでゼウスたちは主のことを天主って呼ぶの? わざわざ長い名前で呼ぶなんてなんか変だなって前々から思ってたんだよね」


「単純なこっちゃ。天から偉そうに地上を見下ろしとるから天主と呼んどるだけや。お前らみたいなカリストア教のみを信じてる奴らは、他の神の存在を認めんから『主』のみで呼んでるみたいやけどな」


「なるほどねー。じゃあゼウスがここに招かれてるってことは、俺たちはゼウスのことを認めてるし、同盟を結んでほしいと要請するってことは、ゼウスを頼りにしてるってことじゃないの?」


「むぐ……ま、まぁそやな……」


 クレイの指摘にひるんでしまうゼウス。


 そこに近づいたのは、やはりオリュンポス十二神の一人であるヘルメースだった。


「沈黙は金、雄弁は銀。この辺りにしておいた方がいいのではないか? ゼウス」


「うるさいわい! 雄弁の神であるお前に言われとうないわヘルメース!」


「これはしたり。この僕としたことが」


 悪びれずに謝罪するヘルメースを見たゼウスは溜息をつくと、クレイに手を振って自分の席に戻って行く。


「あー、そう言えばアルバのボンに頼まれとったことがあったわ。クレイ、明日は時間空いとるか?」


「午前中はベル……トラムの稽古があるから、午後なら空いてるよ」


 しかしその途中で足を止め、振り返ってそう言うと、クレイの頷く姿を見てゼウスは満足そうに笑みを浮かべる。


「そんなら大丈夫やな。ベルトラムにはワシから言うとくから朝飯を食ったらちょっと出かけるで。アテーナーのモンとは違う、本家本元のアイギスを教えたるからな。今晩はしっかり寝て体調を整えておくんやで」


 そしてクレイが喜ぶ姿を見ると、孫を見る祖父のような優しい笑顔となってヘーラーの待つ席へと歩いていった。

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