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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第28話 雷霆の予感!

「ね、ねえエレーヌ姉、せっかくだから皆で食事しない?」


「む? お前がそう言うなら私は構わんが……ヘルメースと一緒でもいいのか?」


「うん。ついでだからこの機会にティナを紹介したいからね」


「そうか」


 エレーヌが手を上げ、ヘルメースを呼び寄せるのを見たクレイは、ようやく拘束から解放されたと言うように背筋を伸ばし、そのついでにバレないようにあちこちを見回し始めていた。



 あの後、邪魔者アルテミスを排除したエレーヌは、クレイとの距離を更に密なものとしていた。


 このままでは身動きができないのをいいことに、エレーヌに何をされるか分かったものではない。


 と言うか先ほどからトイレに行きたいクレイは、さすがにあり得ないこととは思うが、自分の世話をするとの口実でトイレの中にまで着いてきかねないエレーヌを、誰かに押し付けたかったのである。



(この前までお店で働いていたウェイトレスのお姉さんがいない。そして珍しく不機嫌なヘスティアーさんと、壁にかけられたエプロン……つまりまたヘルメースがお姉さんを口説こうとして、さすがに怒ったお姉さんがまた辞めたんだろう)


 クレイは目まぐるしく店の中を観察し、今の彼が入手できる情報を掻き集めていく。


「ほう、翅妖精か。アルフォリアン島にはまだ多いと聞くが、このアルメトラ大陸では確かに珍しいな」


「ティナと申します。いつもクレイ様がお世話になっております」


(つまり状況を動かすためのカギはそのお姉さんが握っている……あ、別にヘルメースには世話になってないからねティナ)


「ところで君の知り合いに美しい女性はいるか? 既婚者でも僕は一向に構わないぞ。何なら今から翅妖精に変化して君とお付き合いをしても良い」


「え、えっと……」


(目の前にエレーヌ姉がいるのに懲りないなヘルメース! 少しは学習しろよ!)


 そしてヘルメースとティナがたわいもな世間話に興じ始めた頃、クレイは決断する。


 そして困ったような顔をすると、ヘスティアーに質問をするのだった。


「ヘスティアーさん、ここに越すまでにいたお姉さんはどこにいったの?」


「ついさっき出ていったの……お昼はまだいいのだけど、夜はお酒を飲む人もたくさん来るから忙しくて仕方がないのに、ヘルメースのしつこさに怒って辞めてしまったの」


「えーそうなの? あのお姉さんよく働いててお客さんの評判も良かったよね?」


「全部ヘルメースが悪いの! もうフォルセールに新しく来た人たちにも悪評が広がって、お店で働いてくれる人がいなくなってるの!」


 目を尖らせ、ヘルメースを睨み付けるヘスティアー。


 そんな仕草すら可愛いと思えてしまう彼女も、れっきとしたオリュンポス十二神の一人であり、巨神族との戦争であるティーターノマキアーでも戦って勝利を収めている。


(よし! この流れでエレーヌ姉と一緒にヘルメースを問い詰める展開に……)


「まぁまぁ、その分は私が働きますから。ヘルメース様には日頃からお世話になっておりますし、こんな一等地にこの店を開けたのも、ヘルメース様がフォルセール候にお取り成ししてくれたからではありませんか」


(あれれええええ!? おっかしいぞおおお!?)


 クレイの思惑を裏切るがごとく、すぐにヘスティアーを諌め始める男は、この店の店主であるイリアス。


 彼はひょんなことから人から神となった、比較的新しい神である。


 細身に見えるものの、服から覗き見える腕は鋼のように鍛え上げられており、先ほど厨房に吊るされた鹿の太ももを調理する時も、どうやったのかは分からないが刃渡りが肉の半分にも満たない普通の包丁にも関わらず、一瞬であっさりと両断していた。


「でもどうにかしてお姉さんに戻ってもらわないと困るんじゃない? 良かったら俺が今から追いかけて説得してみようか?」


 クレイはちょっと早口になりつつも、何とかイリアスの店を気遣う様子を見せながらイリアスの説得に取り掛かる。


「いえ、気乗りしない人に無理に働いてもらって、お店の中にその雰囲気が広がっても困りますから。やはり食事は楽しくとってもらわないと」


「そうだよね……」(えええ!? 諦めるの早いよイリアスさん!)


 しかしクレイが口にした申し出を聞いたイリアスは、即座に豹変したエレーヌの顔を見た後にやんわりと断りを入れて溜息をついた。


「ヘルメース様にも困ったものですね。まぁ後で私からもお願いしてみましょう」


 イリアスはそう言うと、納得していなさそうなふくれっ面のヘスティアーの肩をぽんぽんと軽く叩くと、新しい料理を楽しそうな顔で皿に盛り付けていく。


「ヘルメース様、先ほどご注文されたウサギのソテー、ブルーチーズソース和えです。それではご注文いただいた料理も出し終わりましたし、今日は昼食にいらっしゃったお客様が少々多かったので、夜の分の食材を補充に行ってまいります」


 そしてテーブルに皿を運んだ後、中座する旨を座っている全員の顔を見渡してから告げると、先ほどのエプロンを持って勝手口へ歩いていき、姿を消した。



「ふむ、イリアスが居なくなっては新しい料理も望めないか」


 ヘルメースはそう言うと、所在なさげにイリアスが出ていった勝手口を見つめ、注がれたワインを優雅に飲み干す――


「ぶほっ」


「お前は今日自警団の見回りのはずだろう! 昼食を摂るだけならまだしも、ワインまで口にするとは何事だ!」


 ――と見えた矢先にヘルメースは後頭部をエレーヌに殴られ、テーブルクロスをワインで濡らすこととなっていた。


 その姿を見たクレイはまったく同情する様子もなく、それどころかヘルメースに冷たい視線を送ってなじりはじめる。


「何してんのさヘルメース。あまり周囲に迷惑ばかりかけてると、また自警団に苦情が言って団長のエステルさんに怒られちゃうぞ」


「いいお灸だ。このヘルメースを働かせるという大それたことを企んだ罪を受けるといいのだ」


「それもう十年くらい聞いてるし自警団に紹介したのはアルバ候だよね。あーあ、何でアルバ候もこんなろくでなしをいつまでも城においてるんだろう」


「目に見えるものだけを見ているからだな。見えるものから見えないものを推し量り、見たくないものも目にして見えるものの補完をする。そうでなければ……待てエレーヌ姉、まずその握った右拳の用途の説明をだな」



 ゴツッ



「見えるものから見えないものを推し量るんじゃなかったの? ヘルメース」


「世の中には話が通じる相手と通じない相手がいることを覚えておくといい」


「そんな奴は放っておいて食事にするぞクレイ。育ち盛りなのだから遠慮をするな」


 エレーヌの拳によって、テーブルに埋め込まれたヘルメースの顔面。


 テーブル上に置かれた緑の後頭部を見たクレイはさすがに同情をするが、その結果をもたらした脅威は未だ彼の横にいる。


 ここで気を抜けば、彼はヘルメースとは違う意味でエレーヌにパクリといかれてしまう可能性が十分にあった。


(こうなったら自分の力だけで食事がとれるところをエレーヌ姉に見せるしかない! 燃えあがれ俺の魂! 俺の右手にフォークを持ち上げる力を!)


 クレイは覚悟を決め、大海の戒めがもたらす息苦しさ、体の重さに対抗するべく。



(おいメタトロン起きろよ! お前の宿り主、超ピンチだから!)


 メタトロンに呼び掛けるが返事は無かった。


 どうやら熟睡中のようである。



 そして。



「ほらクレイ、あーんだあーん」


「うあーん……」


 観念したクレイが、子供の頃のようにエレーヌに食事を口まで運んでもらう。


「まったく図体ばかりでかくなって。私が居なければ食事もできないところは昔と変わらんな」


「そうだねもぐもぐ」(早く強くなってヘルメースを灰にしよう)


 その裏でクレイがヘルメース殺害計画の立案に励み始めた頃。 


「お待たせして申し訳ありません、ウェイトレスの成り手に少々心当たりがありましたので食材の買い出しのついでにお願いしたら、快く引き受けていただけましたよ」


 外出していたイリアスが戻ってきたのだった。



「とは言っても、あまり頻繁に人が入れ替わるのも好ましくありませんがね」


 戻ってきたイリアスは、追加の注文をエレーヌから受け取るとすぐに調理に取り掛かり、仕込んであったと思われる鶏のむね肉を骨ごと手早くあぶる。


「ほう、鶏肉とは久しぶりだな」


「こちらではあまり流通してないようなので、これは特別にヘルメース様のために仕入れてきたものです」


 そしてリュファスとロザリーに一礼をすると、皿をクレイとヘルメースの前に置き、相談があると言って口を開いた。


「ヘルメース様、実はこの前エステル様とそのご家族にご来店いただいたのですが、その時にいたく私の料理を気に入ってくださいまして」


「君の料理は絶品だからな。領主の館のベルトラムが作るものもなかなかだが」


 変わらぬままの表情で鶏肉にかぶりつくヘルメースに、イリアスがある宣言をした。


「その後、ここで働いて味を盗みたいと仰られたのですよ」


「ほう、さすがエステル姉は家庭を持っているだけあってエレーヌ姉とは違う……ん? ここで? 働く?」


 予想外の展開に、ヘルメースは珍しく戸惑いを見せる。


「いくらハーフエルフの中に転生されたと言っても、いくら半身と仰られても、私にとっては雲の上の存在であるオリュンポス十二神のお一人アテーナー様です。と言うわけでどうやってお断りしようかと考えていたのですが」


「それはそうだろうな。いくら」


「はい。断ろうと思っていた矢先、せっかく来てくれた新しいウェイトレスが先ほど辞めてしまいまして。どうしようか途方に暮れて相談したところ、快い返事をいただけまして。これから来ていただけるそうです」


「しかしエステル姉は自警団の仕事もあるだろう」


「後進が育っているそうで。いつまでも古株が残っていては、新しい芽が育たないと仰られていました」


「……だがセファールの店の手伝いはどうするのだ」


「あちらも店の経営は軌道に乗っておりますし、元々機織りの神として手本を見せていただけだと」


「ふむ」


 ヘルメースは短く答え、しばし黙考し。


「そろそろ休憩も終わりの時間だな。勘定を頼むイリアス」


 代金を払うと、周囲の安全を確認した後に店を足早に出ていく。


「姉上がこの店で働くか。なるほどな」


「そう言えば先週、エレーヌ様がお店でワインを飲んだ後に裸で踊り出した件についてエステル様が非常に気にかけておりまして」


「そろそろ引継ぎの時間だな。勘定はここに置いておくぞイリアス」


 エレーヌと言えば、考えたと思わせるふしも見せずに店を出ていき。


「またの起こしをお待ちしております」


 そしてイリアスは料理を配る時の笑顔のまま二人を見送ると、クレイたちが待つテーブルへ、デザートであるマカロンを乗せた皿を持って行くのだった。

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