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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第26話 大海の戒め!

 領主の館に帰ったクレイは、なぜか今日もメイド姿で出迎えに出ているフォルセール領主アルバトールの妻、アリアの顔を見て首を傾げていた。



「あれ? アリア義母様ベル兄は?」


「……ベル兄様は少しお身体の様子がすぐれないようなので、自室で休んでもらっています。ガビー、申し訳ありませんが少し診ていただけますか?」


「オッケー」


 ベルトラムの体調が悪いと聞いたクレイは心配そうな顔になるが、一緒に着いてきたガビーが気軽にアリアに答える姿を見て安心したのか、それとも元気が無いアリアを元気づけたいのか、明るい顔でアリアの顔を見つめる。


「ベル兄が体調を崩すなんて珍しいね……ですね。後でお見舞いに行こっと。それじゃ俺は一度自分の部屋に戻りますアリア義母様。行こうティナ」


「は……はいクレイ様」


 ベルトラムと最初に会った時のことを思い出したのか、やや不安げに答えるティナをクレイは元気づけ、一緒に自分の部屋に戻ろうとする。


「あ、それとあたし今日からクレイの子守をすることになったからよろしくねアリア」


「先ほどアルバ様とラファエラ司祭様からお聞きしました。クレイをよろしくお願いしますガビー」


「え? ラファエラ司祭も来てるの?」


 しかしそこにラファエラもここに来ていると聞いたクレイは思わず立ち止まり、うっかりいつも通りの口調でアリアに話しかけてしまっていた。


「貴方に渡したいものがあると言っていました。随分と楽し気に見えましたが、何かあったのですか?」


「……多分」


 しかしクレイが予想した叱責は無く、アリアはそのままガビーを連れてベルトラムが使っている部屋へと向かった。



 次の日。



「ベル兄おはよう! 昨日お見舞いに行こうとしたら、ガビーに部屋から追い出されちゃったから心配してたんだけど元気そうだね!」


 部屋のドアをノックする音を聞いたクレイが起きて入室の許可を出すと、入ってきたのはいつもと変わらぬ姿のベルトラムであった。


「お気を使わせてしまって申し訳ありませんクレイ様。すっかり体調も良くなりましたので、今日からまたびしばしと鍛錬を……」


「あ! 今日はリュファス兄と約束があるんだった! ごめんベル兄! 鍛錬は明日から真面目にやるから!」


 そしていつもと変わらぬ態度で接してくるベルトラムを見たクレイは、部屋の外から聞こえてきたサリムの忍び笑いにムッとした顔をするも、すぐに寝間着から普段着に着替え始める。


(でもいつもに比べたら、やっぱりちょっと元気が無いなぁ……今日はイリアスさんのお店に行くみたいだし、お土産でも持って帰ろう)


 そしてクレイは漂ってくるいい匂いの元である広間へ、ベルトラムではなく自分の鼻の先導のもとに歩いていったのだった。



 その三時間後。



「ふぅ……久しぶりの娑婆の空気は最高だぜ」


 黒い肌、黒い髪を持つ一人の大男が、逞しい肉体を揺らしながらフォルセール自警団の詰所から姿を現す。


「もう二度と来るんじゃないぞリュファス」


 そしてその後からは同じように黒い肌、黒い髪を持つ美しい女性が続き、大男の背中に冷ややかな視線を向けながら口を開いていた。


「だから誤解だって言ってるだろエレーヌ姉ちゃん!」


「誤解か。では見受け人である私が、今度は騎士団の詰所で後三日ほどお前を締め上げてその詳細を吐かせるとしよう」


「あ、嘘ですごめんなさい」

 


 どう見ても華奢な女性であるエレーヌに、ペコペコと頭を下げる屈強な肉体の大男リュファス。


 その様子はとても見られたものでは無かったが、門の守衛をしている者たちはそれをまったく不思議なものと思っておらず、それどころか自分たちへとばっちりが来ないように、とひたすら空気になろうとしているように見えた。


 しかしそこに赤茶色の髪を持つ少年が、翅妖精フェアリーを連れて近づいた途端にエレーヌの顔はだらしなく緩んでしまい、ふわっと柔らかくなった周囲の雰囲気に守衛はホッと息をついた。


「お勤めご苦労さんでございますリュファス兄ィ」


「その言い回しはやめろ! なんか犯罪者みたいだろ! つーか……ちょっと会わない間にお前デカくなってないかクレイ?」


「リュファス兄が収監されてる間に色々とあったんだよ」


「なるほどな」


 クレイの投げやりな答えを聞いて、あっさりと納得するリュファス。


 その短い一言の返答は、彼が今までにどれほどの修羅場をくぐってきたのかをうかがい知ることができるものだった。


「今までよっぽどひどい目に遭ったんだろうなぁ……反省した方がいいよエレーヌ姉」


「なぜそこで私に振る!?」


 リュファスが今まで積んできた人生の重みを見たクレイは、うんうんと頷くとジト目でエレーヌを見つめ、見られたエレーヌは周囲の目を気にして慌てて周りを見渡すが、どうやら彼女の視線を真正面から受け止められる豪胆な者はいないようだった。


 その内の一人、背中を向けて青い空を見つめていたリュファスは、その色を見て何か思い出すことがあったのかハタと手を打ち、エレーヌがいる方向とは別の方向から体をくるりと回してクレイに話しかける。


「ああそうだ。ポセイドーンからお前に預かってるものがあったんだった」


「ポセイドーンのおっちゃんから!? って、投獄されてたリュファス兄が預かってるってことは……おっちゃんまた何かしたの?」


「ポセイドーンって……あの大海の覇者、ポセイドーン様ともお知り合いなのですかクレイ様!?」


 ティナの驚きをよそに、なにやら懐をゴソゴソと漁り始めたリュファスにクレイが質問すると、忙しそうなリュファスに変わってエレーヌが苦い顔をして答える。


「荷運びを手伝ってくれているグリフォンの眷属に紛れ込み、広場でラビカンを口説いていたのだ。ポセイドーンは馬の神でもあるから、許嫁であるバヤールも強く出られずに困っていたところを姉上が見つけ出したらしい」


「その後おっちゃんは?」


「当然城壁まで殴り飛ばされた」


「可哀想に……」


 オリュンポス十二神の一人であり、海を支配する偉大なる海神ポセイドーン。


 一見するとそこら辺を歩いている冴えないオッサンと見分けがつかず、またヘルメースと同じく来るたびにロクなことをしないので、騎士団や自警団には評判が悪いオッサンだが、クレイにとっては色々と面白いことを教えてくれる貴重なオッサンである。


 よってクレイはすぐに同情をあらわにし。


「え……畏怖の対象であらせられるポセイドーン様……が……?」


 ティナは一般に知られている虚像と実像の差異に首を傾げるが、エレーヌは特に気にした様子もなく軽い口調で答えた。


「そうでもない。雷霆を私が預かっていたからな。もし姉上が雷霆を振りかざしていたら、さすがに強力な結界に包まれているフォルセール城の中といってもただでは済まなかったはずだ」


「エステルさんとポセイドーンのおっちゃんってホント仲が悪いよね。でもエレーヌ姉がそれほどポセイドーンのおっちゃんに敵意を表さないのは、同じアテーナーを分かち合った存在でもエレーヌ姉がパラースの化身だからなのかな」


「いや、それなりに敬意を払っているというだけだ。序列はもちろんだが、なにせ実際の力もゼウスに次ぐ恐ろしいものだからな。おそらく奴が本気を出せば、パラース・アテーナーの状態に戻った私たちでも勝てるかどうかと言ったところだろう」


「ふーん」


 エステルとエレーヌの二人が融合した状態で発動する、アテーナーの完全復活状態パラース・アテーナー。


 一度もその状態を見たことはないクレイだが、昔ヘプルクロシア王国でダークマターに染まった状態のアガートラームとヴァハ、つまり天使カマエルとイオフィエルの二人を一蹴したとの武勇伝は、義父アルバトールから聞いていた。


 そこまでクレイが思い出した時、リュファスが懐から無造作に手を取り出す。


「お、あったあった。この腕輪をお前にやるってさ」


 リュファスが差し出した一組の腕輪は鈍い赤色に輝き、その所々には磨き上げられた青珊瑚がはめられているものだった。


「……なんか物凄く高そうなんだけど、ホントに俺にくれるって?」


「神と当たり前に会えるお前にとっちゃ分からないかもしれないが、ポセイドーンが所持してた品物ってことは、それだけで神器という付加価値が着くんだぞ。今更そんなこと気にすんな」


「ゼウスのおっちゃんもポセイドーンのおっちゃんもヘルメースも、来るたびに当たり前にそこら辺を歩いてるお姉さんを口説いてるけど?」


「ん? んー……まぁとりあえず腕輪を着けてみたらどうだ?」


 リュファスは迷うことなく話題を逸らす。


「そだね。ここで引き延ばしすぎても、リュファス兄の帰りを待ってるロザリー姉に怒られるだけだし」


「おう、そうだな早くしようぜ」


 ロザリーのむくれた顔を想像したのか、リュファスが全身をぶるっと震わせる。


 それを見ながらクレイが腕輪を両腕にはめた途端。


「うわっ!? なんだこれ!?」


「ク、クレイ様!? 大丈夫ですか!」


 クレイはいきなり息苦しさと動きにくさを感じ、その場にしゃがみこんでしまう。


 まるでいきなり深海の底に放り込まれたように。


「大海の戒めだってさ。お前が十分に強くなったら外れるらしいから頑張れよ」


「先に言ってよ!? これメシの時とかどうするのさ!?」


 両手を自分の顔の高さまで上げることすら難しいことに気付いたクレイが、非難の目でリュファスを睨み付け、ティナはリュファスの頭まで飛んでいくとぽふぽふとその頭を殴りつける。


「……十分に強くなったら外れるらしいから頑張れよ」


「だああああっ!?」


 しかしリュファスは一向に気にした様子もなく、目の前で座り込んでしまった弟分の窮状から視線と気を逸らすのだった。


「これからリュファス兄の出所祝いにイリアスさんの店へ行くのに……ひょっとすると、開拓村の時みたいに俺また何も食えないままとかなっちゃうんじゃないだろうな」


 腕輪にはめられた美しい青珊瑚が、荒波にも見えるその縞模様をクレイの感情を反映させて色彩豊かに変化させていく。


 クレイの苦悶を反映させて、と言えなくも無いだろうが……。


 何にせよ、これからクレイはこの腕輪の枷によって、目に見えぬ急成長を遂げるのである。

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