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第244話 その耳さわることなかれ!

「盛り上がってきましたわ! 第一回、クレイとの乾杯にかこつけて色んな所をもてあそぶ杯!」


「おいコラちょっと待て」


「あらあら何ですの? せっかくのイベントに水を差すような発言はやめて欲しいですわクレイ兄様」


「兄様やめい! つーか色んな所をもてあそぶって何のことだよ!」


 ここに来て一気に出場者が増えたコンテストに大興奮するエルザ、そして裏で進行する悪の計画の一端を知って怒りに燃えるクレイ。


「そんなこと気にしなくてもいいじゃありませんか。どうせずっともてあそばれる人生だったのでしょう?」


「赤ん坊の時に色々ともてあそばれた可能性を訴えてもいいんだが」


「あらあら、クレイの子育てに関してはラファエラに任せっきりでしたから、金輪際知ったこっちゃありませんわね」


「うーん外道」


 何はともあれ、このコンテストを終了させない限りはクレイの身は解放されず、従って各国の重鎮との面通しもできないのだ。


「……アレ? 俺の身を束縛して各国の重鎮に面通しをさせないってことは、国家の運営を邪魔してるってことじゃないのか?」


「そうですわね、急いで貴方の花婿を決めなくては」


「オイしれっとムコ言うな」


「エントリー№3番! ロザリーさんですわ!」


「おい人の話を……ってロザリー姉! 捕まるぞ!」


 出てきたロザリーはほぼ衣服を身にまとっておらず、その豊かな体を露わにしており、黒く艶やかな肌の際どい部分を極小の白光で隠しているのみであった。


「ふふん、取り締まる側の自警団はすでに手なずけてあるのですよクレイ。心配ご無用ってやつなのです」


「あ、エステルさんこんちわ」


「はわッ⁉ 母様⁉」


「あら~ロザリーったら~いつの間に~そんな方向に成長しちゃったのかしら~」



 ロザリーは連行された。



「セミのように短い命でしたわね」


「おい、危うく各国からの賓客の方々にテイレシアの品性が疑われるところだったぞ。大丈夫なのかこのコンテスト」


「ゼウスたちが参加している時点で地の底まで落ちてますわ」


「お前も主催者の一人みたいだしな」


「さ、次の出場者が待ってますわ早速参りましょう」


 華麗なるスルーを経て次の出場者が楚々とした姿を現した。


「……ラファエラです」


「え? よく聞こえませんでしたわ。次の出場者はお名前を全審査員に聞こえるように、とても大きな声で仰って欲しいですわ」


「フォルセール教会で侍祭を務めておりますラファエラです!」


 とぼけるエルザを怒鳴りつけるラファエラ。


 その姿はいつもの法衣姿とは違って白を基調とした色のドレスで、彼女のスラリとした細身の体型をほんの気持ちていど強調するべく、腕や胴の一部にレースを多用して膨らみを持たせたやや露出の高いドレスだった。


 そんなラファエラに一瞬目を奪われたクレイは、誤魔化すように慌ててコメントを口にする。


「うん、いつもの清楚な感じもいいけど、若さっていうか生命力が感じられる軽快な意匠のドレスを着たラファエラ侍祭も素敵だな」


「……ありがとうございます、クレイ」


 クレイのコメントを聞いたラファエラは顔を赤らめ、照れ隠しに下を向いた。


「でもどうして急に出場する気になったの? 割とロクな展開にならないことは分かってたはずなのに」


 クレイの質問にラファエラは戸惑い、少し考えた後で口を開く。


「ちょっとロザリーを連れてくる途中で色々と話して……」


「うん」


「コンテストは女性の魅力ではなく人間性が重要とか色々と……」


「うんうん」


「あらあら、そんなに誤魔化さなくてもいいではありませんか。要はロザリーの方がおっぱい大きいからそれで言い合いになったのでしょう」


「はい次の出場者どうぞ!」



 クレイは強制的に話を打ち切ってコンテストを進行させた。



「……あれ? 何してるんだジョゼ」


「クレイ兄様がここで油を売っていると聞きましたので。今度の外遊先予定のシエスターニャ帝国の外交官に顔も見せず、何をしてるんですか」


 トコトコと出てきた次の出場者はジョゼだった。


 対外的な儀式で着る赤色のドレスは華美な意匠を凝らしたもので、ジョゼの美しさと内面に溜めた怒りを、いつもの倍ほどに膨らませて見せるものだった。


「それに関しちゃエルザに言ってくれ。俺を連れてきたのはヘルメースだが、こんな悪ふざけを企むのはコイツに決まってるからな」


「エルザが……?」


 クレイから説明を聞いたジョゼは、首をコトンと軽く傾けると虚ろな目でエルザを見る。


「エルザ?」


「何でしょうジョゼ姉様」


「どうしてクレイ兄様のお仕事を邪魔するのです?」


「誤解ですわジョゼ姉様」


 しかし問い詰められるエルザの顔には余裕があり、それはあらかじめ事態がこうなることを予測していたようであった。


「邪魔をしているのではなく、クレイ兄様が困った顔をするのを見るのが好き……でもなく、試練を与えて成長を促しているだけですわ」


「分かりました。ではエルザ、貴女にも私がたっぷりと試練を与えましょう。後で人目がつかないところでゆっくりと話をするのでそのつもりで」


「ハイ」



 だが予測をしていても対策を立てているとは限らないのであった。



「バカだなお前。ジョゼの説教は息ができなくなるほどつらいぞ」


「あらあら、私がエスコートする貴方も当然ついてくるのですよクレイ」


「何でじゃい! つーかコンテストなのにさっきから全然評点してねーぞ!」


「時間が惜しいですわ次の方どうぞ……あら」


 軽く驚くエルザの視線の先にいたのはエレーヌだった。


「エレーヌだにゃー。剣の扱いなどを得意としておりますにゃー」


 ヴィネットゥーリアで購入したワンピースの上に上着を羽織り、帽子の代わりにネコ耳を生やしたその目は虚ろなままであったが。


「どうしたのエレーヌ姉。その服を買った時ですら恥ずかしがってたくらいなのに、皆の面前でそれを着てくるなんて」


 さすがのクレイも語尾についてはツッコミを避ける。


 なにせ彼は慈悲深い天使の一人なのだから、死体の二度蹴りなど恐ろしいことは出来ないのだ。


「あらあら、にゃーだなんて、しばらく見ない間に随分と可愛らしくなったものですわねエレーヌ様」


 だが天軍の長であり、部下の裁定を下す立場のエルザは、時に涙を呑んで非情な決断をすることもあるのだ。


「ちょッ! オイエルザ!」


「にゃー……」


 というわけでエルザは容赦なくツッコミを入れ、それを聞いたクレイは当然次に発せられるであろう怒声を恐れて慌ててエレーヌを見るが、その口から出たのは弱々しいニャーであった。


「本当にどうしたのエレーヌ姉……そんな弱々しい態度、ヴェラーバでイユリに無理やりアクアパッツァを口の中に詰め込まれたって話をした時以来じゃん」


 獣人の国を建国する準備のため、オリュンポス山に向かった三人のルー・ガルーの一人、幼女のイユリの姿をクレイが思い出しながら言うと、エレーヌは周囲を素早く見渡した後にクレイに近づき、小声で話し始める。


「実はさっき姉上に見つかったのにゃー……日頃お世話になっているトール家のため、場を盛り上げニャさいと真顔で言われたのにゃ」


 比類なき魔術の使い手であり、アテーナーの半身を身に宿すエステル。


 リュファスやロザリーの母親でもある彼女は、エレーヌが酒を飲んで前後不覚になる度に呼び出しを喰らっており、その度に穏やかな笑顔でキッツイお仕置きを課すため、エレーヌにとっては尊敬すべき姉であり、畏怖すべき保護者であった。


「と言うわけでこんな目にあっているのにゃ。ひどいのにゃ」


「うんうん、エレーヌ姉はよく頑張ったよえらいえらい」


 エレーヌのふわふわネコ耳を撫でたい衝動に駆られたクレイが、我慢できずにネコ耳をなでなですると、即座にエレーヌは顔を真っ赤にして全身を激しくよじらせ、その手から逃げようとする努力を見せる、が。


「うにゃあ……」


「よしよし」


 なにか感じるものがあったのか、エレーヌはクレイの右手の感触に屈服するとそのままモジモジしつつ甘え始めてしまう。


「あらあら、どうやらネコ耳と一緒に、エレーヌ様の耳まで撫でてしまったようですわね」


「耳を撫でちゃまずかったか?」


「気持ちよさそうですし、よろしいことですわね」


「にゅ~」


 ここで審査員の評点が入り、なんと全員が○の札を掲げる。


「満点! 満点がここで出ましたわ! これは最後の出場者に多大なプレッシャーがかかりますわね!」


「お前も嬉しそうだな……ええと最後の出場者……は……あれ? ティアちゃんがルールを無視して無理やり出ると思ってたのに違うのか」


「あの方が出てくると本当に収拾がつかなくなってしまいますからね。ちょうど都合よくヤム=ナハルが来ていたので犠牲になってもらいました」


「お前……ちょ、エレーヌ姉、近すぎ」


 クレイは身を摺り寄せてくるエレーヌに戸惑い、動きづらそうに参加者のリストを長机の上に置く。


 と、その横にエルザも近づき、頬が触れ合うほどに顔を近づけるとやや意外だという口調で呟いた。


「あらあら、そういえばせっかく女王メイヴが自ら迎えに上がったというのに、まだ出場してませんでしたわね」


「ひどいですよ司祭様。まんざら知らない仲でもないのに」


 と同時に美しい金髪をそよ風になびかせながら、一人の出場者がやや冷たさを感じさせる蒼いドレスに身を包んで登場した。


「ヘプルクロシア王国の自治都市、ローレ・ライ出身のフィーナ=ブルックリンです。よろしくお願いしますね」


 女王メイヴによって人側の宴会場から連れ込まれたフィーナは、やや面白くなさそうな表情でそう言うと、審査員に向けて優雅な仕草で一礼をしたのだった。


 

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