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第231話 教会に潜む暗部!

 クレイとフィーナ、サリムは予定を大幅に繰り上げて領主の館へと戻る。


 そしてクレイの自室でテーブルを挟み、サリムが淹れてくれた紅茶を片手に先ほどのディルドレッドの件について議論を重ねていた。


「この期に及んで問題が増えちゃうなんてなー」


「別にクレイ様が背負う問題ではなさそうな。むしろ二人の問題でしょう」


「分かってないわねサリムは! 他人の恋愛事情ほど娯楽として楽しめるものは無いわ! 人と人がコミュニケーションを取るようになった瞬間からその歴史は始まっているの! ううん知らないけどきっとそう!」


「さようですか」


「他人の恋愛事情ってことは、自分が巻き込まれないって条件付きか。人の感情が浮き沈みするのを安全な場所から見て楽しむとは、他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんだ」


 議論の中身は割としょうもないものであり、その分かり切った答えを言葉に表すまでもないと感じたのか、フィーナに答えるクレイとサリムの顔はやる気の無さが心中にとどまらず表情から溢れているものだった。


 しかし市民の生活に密に関わっている騎士団の人間関係は、そのまま治安維持活動のレベルに直結する。


 クレイはあれやこれやと考えた挙句、最終的に自分の立場を加味した結果、問題を放り投げることにしていた。


「ま、サリムの意見を聞き入れるのが妥当なんだろうな。フェリクスさんは正直女性から言い寄られる方だし、女性が群がっているところにディルドレッドさん一人へ肩入れをするのは俺の立場的にマズイ」


「領主の息子じゃねー」


「俺にその気が無くても圧力をかけてると思われちゃうからな。手助けを求められれば助けるけど、自分から余計な世話をやくのは避けよう。二人の温度が上がり切らないうちにくっつけて、温度が下がったら二人の間に修復不可能な亀裂が入ったみたいなことになると目も当てられないよ」


 クレイの言葉にフィーナが敏感に反応し、行儀悪く頬杖をテーブルの上につく。


「言うじゃない、ロクに恋愛もしたことのないお子ちゃまが」


「人間関係も似たようなものだからな。恋愛みたいに燃え上がるってほどじゃないけど、友人関係は……おいなんでアーカイブ術のプレート出してんだ」


「お構いなく」


「いや構えよ居候」


「友人との仲に?」


「そっちは構うな」


 クレイは眉根を寄せ、しばらく考えた後に両手をあげて降参の意を表した。


「分かったよ、恋愛関係の方も知るように努力する」


「よろしい。あ、でも無理はしないでね、私がジョゼちゃんに怒られちゃう」


「そんなことで怒らないだろ。苦情は言うかもしれないけど」


「そうかしら。じゃあ私は自分の部屋に戻るわね」


 フィーナは椅子を立ち、部屋の扉へと向かう。


「フィーナ」


「何?」


 扉のノブに手を伸ばしたフィーナは、後ろからかけられた声に美しい金髪を揺らしながら振り向いた。


「俺も成人するし、ジョゼとのこともそろそろ答えを出すようにと考えてる。だからというわけじゃないけど……助言サンキュな」


「お礼は友人とのツーショットでいいわよ」


「お前も友人と思ってるよ」


「知り合いから友人に昇格したことをお礼と考えればいいのかしら?」


「トゲがある言い方だなあ。仕方ない、休暇が終わったらシエスターニャ帝国に特使で行くから、欲しい土産があったら言ってくれ」


「それ私も行くやつじゃないの、もう」


 少々頬を膨らませたフィーナは、クレイが照れ笑いをする姿を見て部屋を出た。



「私もそろそろ答えを出さないとね」


 廊下に出たフィーナは、しばらく歩いた後にそう呟くと、頭上から心配そうに見つめてくるコンラーズの喉を軽くかいてやる。


 すぐに気持ちがよさそうに目を閉じたコンラーズへ慈愛の目を向けると、フィーナは自室へと戻っていった。



 次の日。


 休暇中にも関わらず、クレイはシルヴェールに呼び出されていた。



「エルザ司祭? エルザ……ってあの赤ん坊ですか陛下?」


「うむ、そうだ。フォルセール教会に行き、我が愛娘エルザと会ってゆっくり話して欲しいのだクレイ」


 愛娘と紹介する割には複雑な感情を顔に浮かべているシルヴェールを見たクレイは、しばし首を捻った後に疑問を口にする。


「と言うか、司祭ってラファエラ司祭が務めているのでは?」


「そのラファエラ司祭……ラファエラ本人が、自分はあくまで代理だったと言い張るのでな。仕方あるまい」


「うーん」


 そしてシルヴェールから持ち掛けられた相談にクレイは首を傾けた後、呆れた顔になって口を開いた。


「それラファエラ司祭が仕事から逃げたいだけなのでは」


「そうかもしれん。だがその真偽を確かめる方法は我らには無いし、例え確認できたとしてもそのメリットは皆無だ」


「それはそうですが……」


「詳しいことは本人の口から聞くのが良かろう。ラファエラよここに」


「はい陛下」


 シルヴェールがラファエラを呼ぶと同時にカーテンの影から低い声が発せられ、すらりとした体型のラファエラがするりと姿を現す。


「ひえぁッ⁉ いるんなら最初から言ってよラファエラ司祭!」


「実はついさっきまでジョゼ様の相談を受けていたのですよ……フフ、勤労は私たち聖職者にとって喜びですからね」



 怖い。


 何がどうと説明できないほどに怖い。



 出てきたラファエラを見ながらクレイがそんなことを考えていると、いつの間にか恐怖の根源は目の前に迫っており、その顔には長年追いかけてきた獲物にとどめを刺す寸前の狩人のような、凄惨な笑みが浮かんでいた。


「顔がこわばっていますよクレイ。何かあったのですか」


「何か起こってからでは遅いというお説教をたった今受けているところです。あ、今余計なことを言うなと怒られました」


「そうですか。後で将来の展望について話があるとメタトロンに言っておいてください」


「謹んで」


 喜びは二倍に、苦しみは半分に。


 間借りしている同居人をフル活用したクレイは、ラファエラからエルザについての詳細を聞いた。



「分かりました。つまり俺に面倒を押し付けたいって訳ですね」


「分かりやすく言うとその通りです。頼みましたよクレイ」


「……ハーイ」


「返事は短く、疑問は簡潔に」


「ハイ」


 さすがは風のラファエラ、自分だけではなく相手にも速さを強いるとは。


「別に仕事をするのは嫌ではありません。労働は自分を高め、他者に対しては相手の苦労を少なくすることに繋がりますから。しかしあの方は自分の快楽のために私に仕事を押し付けようとするのです」


「アレ?」


 そんなことをクレイが考えている間に、ラファエラはぐじぐじと戻ってきたエルザに対しての愚痴をこぼし始めていた。


「……では陛下、早速フォルセール教会に向かいます」


「うむ、ラファエラ司祭よ、そなたもクレイについて教会に行くとよい」


「そうなのです。私が結界の仕事を引き継いだことをいいことに、脱走放浪とんずらのやり放題。残された私は慣れない仕事をやりながら教会の仕事をこなし、それに加えてクレイの育児もこなさなければならないという……」


 しかしシルヴェールの下命の後も、ラファエラの愚痴は終わりそうにない。


 クレイは執務室のドアを開け、廊下に身を乗り出し、それでも付いてきそうにないラファエラを見た後。


「失礼します陛下」


 深く頭を下げ、狼狽するシルヴェールより視線を外した後で一目散に逃亡した。



「赤ん坊と話ねえ……サリム、先代の司祭について何か知ってる?」


「いえ。そもそも私がフォルセールに来たのはクレイ様の後ですよ」


「そうだった。気は進まないけどメタトロンに聞いてみるか」


 クレイは軽く肩をすくめると、メタトロンにエルザについて聞きだそうとする。


(会えば分かる)


(……とりあえず説明するのも面倒な相手と言うことだけは分かった)


 メタトロンの一言を聞いたクレイはそう答えると、げんなりとしながらフォルセール教会へと向かったのだった。



「あれ、ガビーじゃん久しぶり」


 教会で出迎えてくれたのはガビーだった。


「ようこそいらっしゃいましたクレイ様。エルザ様がお待ちですどうぞこちらへ」


「誰だオマエ」


 だがその挨拶は一般的な常識に沿ったものであり、クレイは不審者を見る目でガビーを値踏みする。


 するとガビーの頭上には小さいボタンがクルクルと回転しており、それはとりもなおさず彼女がラファエラの支配下にあることを意味していた。


「可哀想なガビー」


「うおッ⁉ なんでお前がいるんだよフィーナ!」


 背中からいきなり声をかけられたことと、声の主の気配をまるで感じなかったクレイは驚いて叫び声をあげ、後ろを振り返る。


 そこには困った顔のサリム、そしてサリムの口に左手の人差し指を当てたフィーナが悲痛な顔でガビーを見つめており、そこからクレイへとゆっくり視線を変えたフィーナは、ガビーへの未練を断ち切るように顔を振ってクレイに答えた。


「ガビーに招待されたのよ」


「……ガビーにか?」


「ドウゾ コチラヘ ドウゾ コチラヘ」


 うわ言のように同じ言葉を繰り返すガビー。


 その彼女を気持ち悪そうに指さしたクレイに、フィーナは目頭をそっと抑えた。


「可哀想に、王都のクレイを思い出すわ」


「……どういうことだフィーナ?」


「王都でラファエラ司祭が、クレイが私の説法をマジメに聞いてくれないって愚痴をこぼした後、貴方もこんな風に施術してたのよ」


「何してんだよ⁉ 道理で宴の時、バアル=ゼブルの俺を見る目が違ったわけだよ!」


「ドドド ドウゾ コチラヘ ドウゾ ココココ……チラ ヘ」


 機械仕掛けの人形のように同じ言葉しか言わなくなったガビーの案内の元に、クレイたちは司祭の個室へと向かう。


「お久しぶりですわねクレイ」


「お久しぶりと言うほど時間は経ってないけど……まあ一応お久しぶりですって言うか誰だオマエ」


 だが向かった部屋の中には赤ん坊ではなく、なぜかジョゼほどの年齢の美しい少女が居たのだった。

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