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この世界は救世主を待っている! ~最強を受け継いだ少年が至高に昇りつめるまで~  作者: ストレーナー
第二章 結ばれる縁 ヘプルクロシア編

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第22話 秘匿事項!

 クレイとサリムがフォルセールに戻って10日余りが経ったある日。



「ぶべっ」


「どうしたのですかサリム。敵の前で素直に倒れてしまっては、そのまま殺されてしまうだけです。せめて相手の動きを見れるように顔は上げておきなさい」


「ぜ……ェ……は……い……ベル……トラム様……」


「それと息が苦しくても口は閉じて鼻で呼吸をするようにしなさい。口の中が乾いて余計に苦しくなるだけです」


「んぶ……」


 ここは領主の館にある中庭。


 そこで木剣を持って激しく動いていた二人の男性の一人が、苦しみながらも素直に口を閉じて頷き、その姿を見た銀髪の男性が苦笑する。


「休憩です。顔を洗ってきなさいサリム。水が飲みたければ、うがいをした後に厨房へ行って、そこに用意してある水を飲むように」 


「いえ……もう少し稽古を……」


「もうすぐ昼食の時間です。私もそろそろ仕事に戻らねばなりません。今の貴方がすべきことは……」


 そこまで言うと銀髪の男、執事服を着たベルトラムがサリムの胸を軽く叩く。


「これから出る昼食をすべて平らげて、しっかりとした体を作ること。いいですね」


「わかりましたベルトラム様」


 サリムは顔を上げ、息をなんとか整えると、木剣を杖代わりに痛みでギシギシと軋む体を前へと押し出していく。


「そう言えばクレイ……様は今日はいないんですね」


「クレイ様なら今朝から姿が見えません。今日からここに勤めるようになったばかりの貴方に稽古をつけることができたのは、本来この時間に稽古をつけるはずのクレイ様がいないからですよ」


「もしかして、稽古がきついから逃げた?」


 ベルトラムは溜息をつきながら首を振る。


「あの方はアルバ様と違って、色々と裏で企んでいることが多いですからね。今回も何を考えていることやら」


「はー、少し見ない間に立派になったと思ってたのに、中身はちっとも変ってない。人に努力してる所や、弱みを見せるのを極端に嫌うところとかね」


 ベルトラムの愚痴を聞いたサリムは嬉しそうにそう言うと、きょとんとした顔のベルトラムを後に、井戸の方へずるずると体をひきずっていったのだった。



 その頃、噂の当人であるクレイは。


(精霊魔術だろ? 釣り場を探して、撒き餌をまいて、釣り針に餌をつけて、食いついてきた魚……じゃなかった精霊を釣り上げて、まな板の上で色々と細かく軽量した調味料を振りかけて調理して、皿に盛りつけて料理の名前をつける!)


(全然違う! 誰だ君にそんなデタラメを教えたのは! 正しくは探知、交信、制御、演算、調整、安定、行使! この七つの過程プロセスだ!)


 天使の叙階に必要な準備があると聞いて、教会へと向かっていた。


(分かりやすいんだから別にいいじゃん。形式にとらわれ過ぎるあまりに本質を見失うな。ってゼウスのおっちゃんも言ってたし)


(まず形式を身に着けてから言いたまえ。それは先人たちが数え切れないほどの試行錯誤の末に作り上げたものだ)


(はいはい、考えが堅いなメタトロンは。さっきの質問だけど、ポセイドーンのおっちゃんが俺に教えてくれたんだよ。あー、でもそう言えば、おっちゃん教えてくれた後にエステルさんに怒られてたかも)


(エステル……あのアテーナーを宿すことになったハーフエルフか)


(知ってるの?)


 内なる存在、メタトロンが頷いたのをクレイは感じ取る。



 見えないものの仕草が感じ取れる。


 その奇妙な感触にはなかなか慣れなかったが、クレイはメタトロンが今何をしているのかがはっきりとわかっていた。



(ヌアザ……アガートラーム……今は天使カマエルか。とにかく彼が旧神から人間になった後、あるエルフの族長との間にできた子供がそのエステルだ)


(あ、そうなんだ。誰に聞いても教えてくれなかったから不思議だったんだよね)


(アーカイブ領域の管理者の一人、アルバトールなら知っていよう。彼もまたメタトロンの宿り主だったからな)


 アルバトールの名前を聞いた途端、クレイは黙り込んでしまい、それを感じ取ったメタトロンはやや慌てたような意思を発してクレイへ忠告をした。


(いい加減に一人立ちをしたまえ)


(してるだろ。公私混同せずにアルバ候とお呼びしてるし、なるべくアルバ候を頼らない生き方を……)


(それを一人立ちしていないと言うのだ。君も分かっているだろう。今の自分が逃げているだけだと)



(勝てない間は、逃げるのも戦略のうちさ)



 答えると同時に、クレイはメタトロンが噴き出すのを感じ取る。


(ぷっ……いや、すまない。なるほど、君はそう言う成長を遂げたのだな。なるほど……そうか……なるほど……)


(どうしたんだ?)


 寂し気な口調で一人納得するメタトロン。


 いつも揺るがぬ、太く真っ直ぐな存在として感じられるこの同居人が、すぐ側に行って肩を貸してあげなければとクレイが思ってしまうほど、今のメタトロンはか細いものに感じられた。


(減らず口が趣味のような旧友を思い出しただけだ。君の義父であるアルバトールも随分と影響されたようだがな)


(義父……アルバ候が……)


(さて、それでは君はこれから教会に行くのだったな。我は力を取り戻すために再び眠りにつくが、その前に君に言っておくことがある)


 一人だけの世界にクレイが潜り込もうとする気配。


 それを感じたメタトロンは、一つの助言だけを残して眠りについた。


「気をつけてはいるんだけどなぁ……はぁ」


 一人きりに戻ったクレイはそうボヤくと、脇の露店からスイっと差し出された桃を受け取り、店主である中年女性の顔を記憶するとむしゃりとかじる。



 その時。



「元気そうねクレイ!」


「たった今衰弱して息をするのがやっとになった」


「何よそれ!」


 横の路地から、一人の少女がクレイに声をかけてきていた。


「運命には逆らえないってこと。今そっちに行くところだったんだけど、ガビーは何をしてるのさ」


「あんたが遅いから迎えに来てあげたのよ! このフォルセール教会の侍祭であるガビーに感謝することね!」


「ふーん」


「な、何よ……」


 クレイはジト目になると、目の前でわめきたてる金髪の少女――いや幼女と言った方が正しいかも知れない――を見つめた。


 まだ七歳ほどの年齢のはずだが、既にフォルセール教会のナンバー2、司祭に次ぐ役職である侍祭のガビー。


 ラファエラと同じ白い法衣を着て、髪はすらりとまっすぐに背中まで伸びており、その美しい髪に見合った、いやそれ以上の美しい顔には気弱そうに少し垂れ下がった眉と目、そして泣きボクロがあった。


「だが口と頭の悪さは天下一品の少女と」


「アンタ……アルバよりひどいこと言うわね……」


「俺じゃないよ。メタトロンがそう言ってガビーに気をつけろって言ってたんだよ。それじゃさっさと教会に行こうぜ……って、どこ行くのさガビー」


 少し口を尖らせたガビーが、さらりと長い髪をなびかせつつ教会と反対方向へ歩いていくのを見たクレイは、思わずガビーを呼び止める。


「ついでにラファエラのお使いも頼まれてたから、そっちも済ませてから行くわ。お店に置いてある他の品物も見たいから、あんたは先に教会に行っててちょうだい。町の人からのお裾分け狙いで寄り道するんじゃないわよ」


「お使いねぇ。それにしても、ラファエラ司祭様って呼ばなくていいのか?」


「あたしの方がラファエラより血筋がいいからいいのよ」


「でも地位と立場は明らかにラファエラ司祭よりガビーの方が悪いよね。この前も俺が天使になって帰ってきたら怒られて泣きべそかいてたし。何やったのさ」


「……ナイショ」


 さっと顔を青ざめさせるガビー。


「しょうがないなまったく。ガビーにお使いを頼んだってことはセファールさんの店なんだろ? ガビーだけだとなんか心配だから俺もついていってやるよ。」



 十年ほど前、ふらりとフォルセールに現れた美しい女性セファール。


 どうやら以前は魔族に身を寄せていたようだが、それでも城主であるアルバトールの知り合いだったと言うこともあり、多少のいざこざはあったものの、無事にこのフォルセールの一角に居を構えることとなっていた。


 数年前から衣服を扱う店を始めており、リュファスとロザリーの母であるエステルの協力もあって、今では品ぞろえと質の両方において、フォルセールでも指折りの店と称されるまで成長していた。



 どうやらクレイは、そんな立派な店に目の前の少女を一人で行かせることに不安があるらしく、心の底から心配しているようであった。


「いいいい、いいわよ! あんた叙階に必要な大事な用事が教会にあるんでしょ!?」


「そうだけどまだ時間あるし……お使いってそんなに時間がかかるものなのか?」


 クレイの質問にガビーはすぐに答えず、言葉を選ぶように少し考え込んでからゆっくりと慎重に答える。


「ほら、ラファエラの服ってこの前あた……新しく……しないといけないじゃない。ほらなんか怪しげなスライムが溶かしちゃったらしいし。天使の叙階って大事な儀式があるから、ラファエラが張り切っちゃってさ、奮発したのよ。まったくいくら……えーと、一部分をふっくらとした衣服にしても無駄なのに」


 しどろもどろになって答えるガビー。


「あー例のパッ……しまウギャッ!?」


 対して良く考えていない顔でクレイが答えた途端、額にあるサークレットがパッと輝き、彼は電撃を受けて昏倒してしまう。


「あーあ。えーと、右ヨシ、左ヨシ。品物を入れる用の袋で包んで、と……エイッ」


 そして残されたガビーは、突如として発生したアクシデントにも慌てず騒がず、高度の柔軟性を維持しながら臨機応変に対処していく。


 それはまるで、立て板に水と言った感じであった。

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