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28.あふれんばかりのラスボス感! 盛り過ぎ、盛り過ぎです。

『本日の転生活動は終了しました』


 ここは転生者転生斡旋所、ハローワールド

 いつもはチート被害者でごった返しているベルティアのカウンターには、紙ぺら一枚が寂しく置かれていた。


 そう。今日ベルティアは休み。

 おかげで他のカウンターの神々はてんやわんやである。


 面倒臭い転生者がいたらベルティアにぶん投げてやれ。


 このように結託していた神々はいつものように転生者をたらい回しにして、一周回った転生者がブチ切れ騒ぐ様がそこら中で発生し転生業務を停滞させていた。


 しかし、誰も対処できない。

 誰も本当の担当窓口の場所を知らないからだ。


 ベルティアにぶん投げれば済む事をわざわざ調べる神はいない。

 神の世界はこんな所もセコいのである。


「まともな転生者が逃げる」「仕事にならねぇ」

「「「やべえ、チート被害者面倒過ぎる……」」」


 理不尽にレベルを失った転生者が騒ぐほど、まともな転生者が遠ざかっていく。

 被害担当者が一人いないだけでこの始末。

 まあ、自業自得だが。


 神々はブチ切れた転生者に苛立ち、遠ざかる転生者に嘆き、ベルティア早く来てくれと涙した。


 だが、しかし……

 今、ベルティアは転生業務どころではなかったのだ。


「ああミリーナおめでとう。ゲリさんには量産型ゲリさんもいるしゲロさんもいるから、これで一生食いっぱぐれ無しねもっしゃもっしゃ」


 ここはベルティア家の仕事部屋。

 ミリーナとゲリの婚姻の儀に画面越しに参加しているマリーナが涙を流しながらホールケーキを食べていた。


 確かにめでたい席である。

 しかし画面に見えるミリーナの表情は陰鬱。

 そして隣に座るゲリの首には枝が巻き付いている。


 二度の異界の顕現、エルフ煽動、ビルヒルトの竜による壊滅……

 罪に問われたく無い者達が結託し、ゲリに責任をなすり付けたのだ。


 その結果がゲリの首に巻き付けられた、イグドラの枝から作られた『贄の首輪』。

 世界樹の葉を貰う為にイグドラに生贄を捧げる丁稚宗教の処刑道具だ。


 ゲリはバルナゥ討伐に際しエルフと竜を分断するために捕らえられ、ゲロ達勇者に竜討伐を促すために首輪を付けられた。


 この婚姻はそれを打ち消すための手続き。

 エルフの呪いを受ける代わりに贄の首輪を無効化するという、イグドラの呪いをより強いイグドラの呪いで打ち消すためのものである。

 だから二人の表情は暗く、背後に控えるダークエルフとピーも何もせずに立ち尽くしている。

 何ともひどい有様であった。


「ひどい事になってるぞベルティア」「何をした?」

「力の行使の弊害がゲリさんとバルナゥに現れたのですよ」

「「なんだそれ?」」


 そしてベルティアはこの状況の原因を知っている。

 神の力の行使だ。


 神の力は絶大である。

 声ひとつで星が砕け、指ひとつで銀河が歪む。

 世界の在り様など簡単に覆せる神の力が行使されるとあまりの力に世界が歪み、その対象に世界が吸い込まれていくのだ。


 それは張った布の一点を指で沈ませて周囲の物を寄せるが如く世界を歪め、あらゆる事象を引き寄せる。

 良い事、悪い事、荒事、厄介事、出会い……

 それはまさに物語のように、平凡とはほど遠い事象が対象に降りかかり解決を求めるのだ。


 それは神々がチートを使う大きな理由の一つでもある。

 転生者がレベルを消費するチートは神が認めた神の力の行使。

 世界はチートに沈み、世界の問題が引き寄せられる事になる。

 そして世界に語り継がれる物語が生まれるのだ。


 神にとってチートは転生者のレベルをかっぱぎ、さらに世界の問題もチートが勝手に解決するという一粒で二度おいしい行為なのである。


「あぁミリーナ、いよいよ初夜ですね素敵な夜をもっしゃもっしゃ」


 マリーナは相変わらずケーキを食べ、テントに入るゲリとミリーナを見送った。

 ゲリは生き永らえる為にエルフの呪いを受け、バルナゥは討伐される。


 四年前の遊び心の顛末がこれだ。

 あの時の影響を最も受けたのはゲロであり、彼は紆余曲折の末に数多の異界を討伐する王国最強の勇者となった。


 そしてミリーナとゲリの出会いの際、ゲリがエルネに囚われた際、ビルヒルトに異界が顕現した際に最も影響を受けたのがバルナゥだ。

 竜は討伐されイグドラに食われる運命にあるが、力を行使しなければ今討伐されるような事にはならなかっただろう。

 力が運命を引き寄せたのだ。


 そしてゲリは常に力の行使の近くにいた。

 本人は地道な薬草人生を願いながらもエルフと出会い、巻きこまれていったのはベルティアの力の行使の結果だ。


 悪い事をしたとは思う。

 しかし狼の腹の中が良かったとは思わない。

 あの力の行使によってゲリとゲロはここまで生きてこられたのだ。


 彼らはこれからも足掻き続け、自らの道を自らで切り拓いていくだろう。


 今、あの天幕の中で行われている行為のように……


 と、ベルティアが思っているとゲリが出てきて外で待つダークエルフとピーを招き入れた。


「四ピー! いきなり四ピーですかゲリさんもっしゃもっしゃ」

「食べるか話すかどちらかにして下さい」

「もっしゃもっしゃ」


 皆が見守る天幕の中でゲリは呪いを受けず、ギリギリまで足掻く事に決めたらしい。

 ゲリ一行はバルナゥに首輪解決の望みを託し、竜峰ヴィラージュを登っていく。

 ベルティアはそれを見守る事しか出来ない。


 ゲリが望みを託すバルナゥはゲリの問題を解決するだろう……

 討伐という結果をもって。


『……これがベルティアが紡いだ、物語か!』


 バルナゥが叫び、イグドラの枝を使った武器がバルナゥを貫かんと飛翔する。

 ゲリに付けられていた首輪も勝手に外れてバルナゥへと飛んでいく。

 ゲリの問題はここに解決されたのだ。


『これがお前の意思か! どれだけ我らを食わせれば気が済むのだ!』

「すみませんすみません。ですが私の筋書きみたいに言わないでください」

「「「ひどいなお前」」」


 謝りながら画面にツッこむベルティアに三人のニートの冷たい言葉が突き刺さる。


 物語ではありません。私の意思でもありません。

 これは力の副作用。力の行使が引き寄せた世界の問題なのです……


 と、ベルティアがいくら言葉を重ねても当事者達には関係無い。

 バルナゥはイグドラに殴られ、削られ、食われていく。


「あらぁ……」

「これは、駄目だな……」

「やっぱあの聖剣は強すぎるわ。俺らの竜転生もこれで夢と消えたか……」


 ルドワゥとビルヌュが諦めのため息をつく。

 しかしニートが諦めてもゲリは諦めない。

 ゲロに頼んで聖剣の柄を風の剣でうまく掴み、力を抑える聖剣の鞘に封じ込めてしまった。


 聖剣もこれまで勇者に討伐を邪魔された事など無かっただろう。その顛末は驚くほどにあっさりだ。

 あまりの手際の良さにルドワゥとビルヌュが驚愕に叫ぶ。


「マジかこいつ!」「信じられん!」

「さすがゲリさんゲロさん!」


 ベルティアも思わずガッツポーズ……

 と思ったら執念のストーカーである勇者聖女の胸を破裂させて飛び出たイグドラの枝がバルナゥに深く突き刺さる。


「イグドラーっ!」


 たまらずベルティアが叫んだ。


 油断を誘っただけですか……勘弁してくださいよイグドラ……


 ベルティアも頭をかかえるえげつなさである。

 イグドラに食われ始めたバルナゥはのたうち回る。

 ああ、今度こそ駄目だと思った皆の前で、今度は死の淵から舞い戻った聖女が杖を手に叫ぶ。


『回復魔法で生命を維持しつつ世界樹の枝を除去します。協力を!』


 さすがはバルナゥと結ばれる為に王国に転生し続ける執念のストーカー。

 聖女と言われるほどに回復を磨いた彼女が持てる全ての技術を使い、バルナゥの回復を試みたのだ。

 勇者はバルナゥを切り刻み、聖女が癒し、量産型ゲリと王女が枝を集め、バルナゥがブレスで滅していく。

 まだ彼らは諦めてはいないのだ。


「がんばって執念のストーカー!」

「……ベルティア様はそろそろ名前で呼んであげるべきだと思います」

「「ひどいなお前」」


 固唾を呑んで見守る画面の先でイグドラと勇者とゲリ達が戦い続ける。

 バルナゥは肉と血を飛び散らせながら苦痛に叫ぶ。

 痛ましい戦いが続く中、バルナゥが妙な事をゲリに語りだした。


『そう、これはベルティアの物語。生きとし生ける動けし者全ての源となる者、ベルティアの夢であり望みなのだ』

「あらまぁ」「な、なんだってーっ!」「そうなのかベルティア!」

「いやそんな事望んでません」


 まったく、これっぽっちも望んでいません。


 ブンブンと首を振るベルティアを他所にバルナゥは語り続ける。


『我らの存在の全てはベルティアが導いたものであり、我らはベルティアの生み出した夢物語のようなもの、意のままに動かせる駒に過ぎない。汝らの出会いも、別れも、愛も全てはベルティアの夢想なのだ』

「「「ひどいなお前」」」

「そんな事してませんよ!」


 ミスなんです。本当にただのうっかりなんです。

 そんな仰々しく語らないで下さいお願いしますーっ。


 画面に拝むベルティアである。

 しかしバルナゥは語り続けた。


『自らは表に出る事なく我らを操る陰湿者、それがベルティア。奴はお前に白羽の矢を立てたのだ。クソ大木を救う使徒として』

「やめてー! ゲリさんに妙な事吹き込まないでーっ!」


 バルナゥのベルティア語りがラスボス感半端無い。


 いや確かにラスボスかもしれませんが企んでいる訳ではありませんから……

 ああっ、ゲリさんが信じてる。信じてる顔してるーっ!


 何が起こっても足掻き続けたゲリが何とも絶望に満ちた顔でバルナゥを見つめている。

 どうにかしなければと焦るベルティアだが弁解する手段は無い。

 見ている事しかできない自分にやきもきしているとゲリを絶望から救い上げる者が叫んだ。


『カイはベルティアの物語に選ばれたえう!』


 ゲリの妻となったミリーナである。


『きっとベルティアもカイに釣られたに違いないえう!』

『俺が、ベルティアを?』

『えう! あったかご飯で釣られたに違いないえう!』

「その通りです! あったかご飯で釣られて利用したんです!」

「「「利用……お前ひどいな」」」


 あのご飯でそれはないわー、と王女が呟く中ミリーナとゲリの会話は続き、ミリーナは見事ゲリを復活させてしまった。


 ありがとう! ミリーナさんありがとう! 夫婦最強えう!


 もはや土下座感謝のベルティアである。

 ニート達がベルティアを冷たく見下ろす中、ゲリ達が空間を渡っていく。

 バルナゥが開いた道を彼らは進み、やがてイグドラのもとへと消えていった。


 ベルティアは顔を上げ、何とかなったと大きく息を吐いた。

 バルナゥは食われ続け、執念のストーカーと勇者と王女は治療と枝の除去を続けている。


 しかし皆、まだ生きている。

 そしてゲリに自らの運命を託し、イグドラのもとへ送り出したのだ。


 首の皮一枚繋がったー……


 自らの力の行使がもたらした絶体絶命の危機を何とか回避した彼らに感謝感激雨あられのベルティアである。

 そんなベルティアをニート達は無言で見下ろす。


「「「……」」」

「な、なんですか……?」


 ニート達はニヤニヤしながらベルティアを見下ろしていたが、やがて妙なポーズを取りながら芝居がかった声で語り始めた。


「そう、これはベルティアの物語ぃ」

「自らは表に出る事なく我らを操る陰湿者ぉ。それがベルティアぁ」

「汝らの出会いもぉ、別れもぉ、愛も全てはベルティアの夢想なのだぁ」

「……」


 うへぇ、恥ずかしい……


 ベルティアは端末を取り出すとしこたま出前を注文するのだった。

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