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26.カァモーンッ、バァールナァーゥ! ぺちん

「え? 召喚ってチートなの?」

「いえ、召喚自体はチートではありませんよ?」

「じゃあ何がチートだったのさ」

「召喚時の空間転移です」

「えっ」


 転生者転生斡旋所、ハローワールド。

 今日も唖然と呟く転生者を前にベルティアは淡々と説明を開始した。


「空間というのはがっちり出来ているものでして、ちょちょいと力を込めた位では空間を跨いで移動する事は出来ません。相応の力が必要なのですよ」

「でも召喚術士はかなりの力を使って召喚しているぞ」

「それは注文を神に送る行為に過ぎません。そこから先が神の作り上げた課金システムです。注文に合致した派遣者を確認し、価格を調整し、対価を徴収し、召喚者に向けて転移する。この仕組みが有料なのですよ」

「なにそのネット注文みたいな仕組み……」

「転生時の貴方の力で空間転移をしようと思ったら、十年分くらい力を貯めるか空間が不安定な場所で行うかどちらかでしょうね」

「じゃあどうすれば良かったのよこれ」

「召喚生物の所まで出向いて交渉すれば良かったんですよ」

「交渉……」

「はい。待遇を交渉ですり合わせて契約するのです。そのための言語も習得する必要がありますけれど」

「なにその世知辛い世界」

「まったく世知辛いですよね。ところでエルフはどうですか?」


 神の世界は世知辛い。

 そのとばっちりを受けた転生世界も世知辛い。

 正常な手続きに見えるチートにベルティアは被害届を出しつつエルフ転生処理をする。


 チート被害に唖然としている内に多少の親切を行いあらよっとエルフ転生。

 汚い。さすが神様汚い。

 しかしこの程度の事で傷付いていたらベルティア世界のエルフは全滅し、イグドラに世界が食われる事になる。


 必要悪。これは必要悪だから仕方なし! 対価もちゃんと払ってるからノープロブレム!


 と、ベルティアは自らの行為を正当化して転生を完了した。


 立派なエルフになって下さい。そしてイグドラに美味しく食べられて下さい。

 できれば赤字も何とかしてくれるとありがたいです。エルフ一人では無理ですが。


 世界はわずかに延命したがゴリゴリ減るベルティアのレベル赤字は変わらない。

 世知辛い。世知辛過ぎる。

 赤字世界を持った神の悲哀である。

 エリザ達の格がもっと高ければしっかり支払ってもらうのにと元凶に愚痴らずにはいられない。

 が、ベルティアでもどうにもならない状況をチートしか出来ないエリザ達にどうにかできるわけがない。


 早く育ってエリザ。

 そして私に貢いでください。何億年かかっても!


 ベルティアはそう願わずにはいられない。

 生かさず殺さずにも格が必要。

 貧乏人から金をかっぱぐ事が出来ないように稼げない者からレベルをかっぱぐ事は出来ないのだ。


 ベルティアはいつものように処理を完了させると端末を見て、以前ルドワゥが警告していた事態が発生した事を確認した。


 今日のハローワールドはここまでにしましょう。


 ベルティアはとっとと店じまいをして帰路についた。

 かつてその地の主であったルドワゥが大騒ぎしていたからだ。

 ベルティアはいつもより高めの酒とつまみと肉を多めに買い込んで、これで多少は静かになるかと家に戻る。


「お、酒とつまみが大量に」

「さすがベルティア様、わかってますねうっひょー!」

「いやいやそんなの食ってる場合かよ!」


 ビルヌュとマリーナが喜びルドワゥが空気読めと騒いでいる。

 ルドワゥはかつての当事者、あとの二人は近所ではあるが対岸の火事。

 反応が違うのは仕方が無い。

 ベルティアは買った食糧をビルヌュとマリーナに渡し、ルドワゥと共に仕事部屋に向かった。


「ホルツの長老が討たれ、ベルガという若造が里を率いてビルヒルトに雪崩れ込んだところだ」

「そうですか」

「奴らそこで冥土の土産と芋煮を食っている」

「アホですか!」


 こんな状況で芋煮か。芋煮なのですか!


 ベルティアは憤るがエルフだから仕方ない。食への執着半端無いからだ。

 ルドワゥはそのあたりが解っているのだろう、ベルティアをなだめた。


「まあ仕方ない。長老を討たれて奴らも混乱しているんだ。顕現したダンジョンから湧き出す怪物は一日およそ五千体。竜ほどでは無いがエルフよりは強く、そして数が多い」

「都市にでも繋がっちゃいましたかね?」

「かもな」


 芋煮はとにかくうちの大事なエルフをヤるとは許さん。

 ベルティアは世界の情勢を確認する。


 怪物の強さはエルフ以上。そして数は一日五千。

 ビルヒルトはエルフと怪物のダブルパンチで壊滅状態。

 これは人間の勇者だけでは無理である。


 竜。ここは竜ですね。


 と、ベルティアはバルナゥの姿を探す。

 しかしいつもならすぐ迎撃に向かうバルナゥがなぜか姿を見せていない。


「バルナゥがいませんが」

「お前が色々やったせいでダンジョンに逃げ込んでるんだよ」

「……」


 あのヒッキーめ。


 しかしベルティアは慌てない。

 神を舐めるなと世界から伸びた管へと機材を合わせ、静かに力を行使した。


”バァールナァーウ……”

『ぬうっ!』


 ぺちん。

 声をかけながら異界に突き抜けたダンジョンの横っ腹を外から弾く。


 ブルンブンブンブルン!


 外からの衝撃に五万六千階層のダンジョンが激しく揺れる。

 ベルティア的にはそっとだが中は超絶シェイクだろう。

 まあバルナゥは頑丈だからノープロブレムとベルティアは惨状をまるっと無視して声をかけた。


”ダァーンジョーンが顕現しぃーましぃーたー”

『おおーふっ! おおおーっふっ!』


 声にビリビリ震えるダンジョンにバルナゥの驚愕半端無い。

 ここならベルティアの目も届かないと潜っていたのにこの有様。

 そしてベルティアの声のパワーも半端無い。

 ダンジョンにピシリとヒビが入り、二つの世界が混ざる曖昧な世界が綻ぶ。


 神の発する声は星を砕くほどに強烈だ。

 だから世界に声はかけられないが、ダンジョンなら問題ない。

 しょせん、異常な世界だからだ。


 バルナゥはベルティアが何を言ってるかわからないだろう。

 神の声などただの破壊波動。全てを砕く破滅ウェーブだ。

 しかし、意思は伝わるだろう。

 こんな事が出来るのは神だけなのだから。


”はぁーやぁーくぅー、何とかぁーしぃーてくぅーださぁーい”

『おおおーふっ! ガーネット、ガーネット我を助けてーっ!』


 泣いた。

 泣いたぞこの竜。


 バルナゥはダンジョン主の権限で瞬く間にダンジョンから抜け出すと竜峰ヴィラージュからビルヒルトへと翔けていく。

 あまりの有様にルドワゥが呆れて言った。


「お前ひでえよ」

「何を人聞きの悪い。竜は世界を守る責務があるから力があるのですよ。引きこもってもらっては困ります」


 二人が会話しながら眺める画面の中でバルナゥはビルヒルトに達し、強烈なブレスで怪物達を一掃。

 そのままどこかへ飛んでいく。


「おい、逃げてるぞ」

「困りました。世界をあんな低空飛行されてはメテオも使えません」

「お前ひでえよ」


 狂乱のバルナゥは泣きながら飛んで、飛んで、飛び去っていく。


 しかし困った、これは困った。


 最大戦力のバルナゥのストレス半端無さにとても困ったベルティアである。

 バルナゥが逃亡したとなると近隣の勇者で何とかするしかない。

 ゲロとイグドラ聖剣なら主は討伐できるだろう。

 しかしダンジョンに届かせる事が難しい。怪物の数が半端無いのだ。


 これはバルナゥが復帰するまで長丁場になるかもしれませんね。


 と、バルナゥの復帰を願って数日。


「おい、なんか解決してるんだが」

「あれーっ?」


 バルナゥが戻ってきたのですか?


 と、ベルティアが探すもバルナゥはその場にいない。

 では何者がと思ったら完全ノーマークだったゲリさんがエルフと勇者を率いてダンジョンを討伐していた。


 バルナゥが押しつけたミスリルコップ、超活躍。

 水を飲むだけで回復と休息が可能なそれを使って魔法使いな勇者王女と執念ストーカーな勇者聖女を攻撃と防御に使いまくり、ゲロをダンジョンに送り込んだのだ。


 エルフを従え、勇者を導き、王女と聖女を恥辱に染める。

 ゲリさん、あなた何者ですか?


 へなちょこ冒険者の驚愕成果に神でも唖然のベルティアだ。


「……バルナゥさん。こんな事もあろうかとコップを渡していたのですね」

「いや始めから終わりまで全部お前が悪いから」

「こんな事もあろうかと!」


 いい話にしようとしたベルティアにルドワゥがツッコミを入れる。

 ベルティアは聞こえない振りをした。


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― 新着の感想 ―
[一言] > どうやらバルナゥにミスリルのコップなるものをもらっていたらしい。 ついひとつ前の25話にて >コップの履歴を調べたベルティアは知っている。 と、出て来ていた物が、知らない子扱いに・・・
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