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25.どうしてそんなにエルフホイホイなのゲリさん

「ベルティア様。またゲリさんがエルフを囲いましたよ。今度はピーエルフですよ。何なんですかあの人?」

「あー……厄介事が嫌いな人?」

「どこがですか。厄介事に首突っ込みまくってますよ」


 また飼い犬増やしたんですねゲリさん……


 画面の中で踊るピーエルフにベルティアはため息をついた。

 ありがたいがさすがにやりすぎ。

 やりすぎである。


 どれだけゲリさんが好きなんだエルフである。

 エルフホイホイである。


 エルネのエルフ、ボルクのダークエルフに続いて今度はエルトラネのピーエルフ。

 尻に生える草の麻薬成分で年中ラリッたハイなエルフ。

 通称ハイエルフである。


 踊る行動は意味不明、言葉はもっと意味不明。

 レベル払いで本音を覗くとやたら長い言葉のくせに意味が『好き』とか『きらい』とか一言で片付けられるげんなり感あふれるエルフだ。


 それにしてもゲリ、相変わらず厄介事を背負いまくっている。

 弱いという事は切ないもの。

 相手を撃退する実力は無く、逃げる事すら叶わない。

 ご飯という弱点があるから優位という何とも飯炊き係な状況であった。


「あら、ピーにコップを渡しましたよ」

「あぁ、バルナゥがエルネに託したあれですか」


 コップの履歴を調べたベルティアは知っている。

 ゲリに漂うベルティア臭にやばいと感じたバルナゥが、ダンジョンに願って獲得したミスリルコップである。


 無双で貯めに貯めた異界パワーをつぎ込んだそれは回復、解毒、解呪、祝福、美味と諸々の効果の付いた劣化版世界樹の葉であり、エルネの者が鍋の材料を求めに来た際これをゲリに貢げと押しつけた曰くつきの逸品。


 故にゲリが返品しようとするとミリーナやエルネの長老は拒絶反応半端無い。

 腹掻っさばいて詫びるだのエルネの身の証だの土下座謝罪でゲリが手放さないよう必死であった。


 竜が人間に貢物。

 神を知る者にとって神とはそれだけ理不尽な存在なのである。


 何もしなくても神の都合で不幸と災厄がやってくる。

 世界の最強動物であっても神からすれば吹けば弾けるもやしっ子。

 弱いという事は本当に切ないものなのであった。


 回復効果のあるコップはピーエルフのピーにも効果があるらしい。ピーはちびちびコップ水を飲みながらゲリ達と普通に会話していた。


「ピーはまともな事も言えたのですね。死んで初めて知った驚愕の事実です」

「まあ、こんな狂気とは関わりたくないでしょうね」


 千百八十五年生きたマリーナも驚愕。

 関わりたくない気持ちはベルティアもまったく同意。

 理解不能の存在に近付きたい者はいない。

 それは神とて同様であった。


 結局ゲリはピーを無下には出来ず、頭の上に飴の保管袋付きの帽子を与えてピーとエルトラネの無類の信頼を勝ち取った。


 エルネではあったかご飯の人。

 ボルクでは焼き菓子様。

 エルトラネでは無類の信頼。

 さらに竜から貢物。

 人間社会の外で出世半端無いゲリである。


 さらにゲロ達勇者が加わって人間社会での出世も半端無い。

 昔から絶対的信頼を捧げる勇者ゲロ、執念の転生ストーカーである勇者聖女、勇者王女にその他一名。


 エルフに関わるあれやこれやを丁稚行動でやりすごした上不幸な遭遇戦を土下座で無かった事にして、ゲロ以外の勇者とも結局仲良くなってしまった。


 人間も人間外もよくこれだけ集まったものである。

 そしてこれでも老後の薬草人生を捨てないのがゲリのすごい所である。

 食べていないとピーになるエルトラネと不公平だと騒ぐエルネとボルクのために丸一日ドライフルーツ作りに費やしても、納品物の全てをエルフに採取してもらっていてもそこは決して譲らない。


 今の成果は所詮他人の実力であり自分のものではないという認識を、ここまで徹底されると空恐ろしいほどだ。


「もう森に住めばいいのに。ミリーナの飯炊き係として」


 いやそれ飼い主としてですよね?


 と、ベルティアは心の中でツッコミを入れる。

 まあ今となってはミリーナが暴走する心配は全くない。

 忠犬を目指すミリーナはゲリの人生を守る気満々。

 ダークエルフとピーもミリーナの後に続く気マンマンだ。


 まあ本音はもっと踏み込みたいのでしょうが……


 ヤれば移る呪いに何とも切ない飼い犬三匹。

 犬として愛されるしかない様に本当に何やってるのよイグドラであった。


 ゲリとゲロの再会と変わらぬ友情にほっこり嬉しいベルティアなだけに、三人の境遇も何とかしてあげたいと思うのである。


 そして異界を顕現させるという厄介事を引き起こした張本人を、何とかしてやりたいとも思ってしまうベルティアである。


「俺、もう別世界で転生契約したんだけど」

「その前に賠償請求をさせて頂きます。契約先の神とは話が付いておりますので」

「なんだそれ!」


 いえディック・ランクさん、貴方にはさんざん煮え湯を飲まされましたから。


 と、ベルティアは頼れる助っ人を呼ぶ。

 レベルかっぱぎ名人だ。


「マキナ先輩、よろしくお願いいたします」

「はーい。イグドラちゃんを利用して好き放題とか、なんてうらやまけしからん」


 バズン!

 幼女、腹パン一発。

 崩れ落ちたディックのレベルは三である。


 世界に穴を開けたので転生契約に基づきレベル強制徴収云々以下略。

 ベルティアは必要書類を担当部署に送りつけて自らの行為を正当化し、マキナはレベルを手に去っていく。


 次の世界ではウィルス頑張って下さい。


 転生世界でもざまぁ、神の世界でもざまぁ。

 ひどい有様だがベルティアもマキナもそんな事は気にしない。

 神とは基本的に理不尽なのであった。

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