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23.今度は焼き菓子様ですよ。現人神扱いですよ

「今度は栽培チートですか」

「なんですかその栽培チートって?」


 転生者転生斡旋所、ハローワールド。

 今日もまた唖然とする転生者を前に、ベルティアは説明をはじめる。


「そのままの意味ですよ。貴方のレベル払いで豊作だったという事です。植物転生の方々にはバックマージンが行くでしょうから今ごろウハウハでしょうね」

「なにそれ……?」

「神の中には植物の育成に力を入れている方もいるのですよ。神と植物が結託して動物を食い物にしていたのです」

「つまり私は植物を食べていたのに本当は食べられていた、と」

「はい」

「訳が分からないよ……」


 今日のベルティアの相手は栽培チート被害者である。

 この転生者は栽培があまりに上手にできるので調子に乗って栽培しまくったらしい。他のチート詐欺被害者と同じようにベルティアの前で呆然としていた。


 植物の生長というのは本来時間と栄養がかかるもの。

 それがパッと出来てしまうのはやはり異常であり、何かしらが失われているはずなのである。

 たとえば、レベルとかが。


「それでは、エルフ転生しますねー」「お願いします……」


 うちのエルフの植物異常生長も何とかならないかしら……


 もはや日常のエルフ転生を処理しながらベルティアは考える。


 ベルティア世界のエルフは世界の力を食い潰す。

 地産地消ならそれでも良いが交易品として持ち出されると問題だ。

 繰り返すと世界の壁が薄くなって異世界から怪物が染み出してくる。

 それでも繰り返すと世界に穴が開き、異界が顕現して大規模な侵略を始めるのだ。


 イグドラも色々やってくれるものである。

 植物を管理していた彼女が力を吸い上げられる植物勢力を拡大したいのは理解するが、それで世界の力を奪われるとベルティアのレベルが大変だ。


 神なのにチート被害者のようなありさま。

 欲望を満たしていたチート転生被害者よりも、とばっちりでゴリゴリレベルが減っていくベルティアの方が不幸である。

 社員の身勝手でボーナスを返上する経営者のごとき悲哀であった。


 不幸と言うなら大竜バルナゥにも悪い事をしました……


 ただ頑丈というだけでベルティアの力の行使のとばっちりを食いまくったバルナゥは、現在竜峰ヴィラージュに突き抜けた五万六千階層のダンジョンの主として無双の最中である。


 ベルティア的には軽くぺちんな感覚であったが格の差三十桁はものすごい。

 当たり前だがメテオは相当堪えたらしく、ダンジョンの奥深くならベルティアの目も届くまいと避難しているのだ。


 世界の最強動物の現実逃避に、ベルティアは本当に申し訳ありませんとただ頭が下がるばかりである。


 しかし、バルナゥには悪いが丸見えだ。

 こちら側から異世界に突き抜けたダンジョンはいわば世界の出張所。

 ベルティアの力の及ぶ範囲内であるからだ。


 そして突き抜けた世界で暴れても神にレベルを払えば喜んで見せてくれる。

 世界を受け持つ神々は何でもかんでもレベルで解決なのである。


 毎度ありがとうございます。


 と、エルフ転生を終えたベルティアはまたマリーナが騒いでいる事に気が付いた。


「ベルティア様! ミリーナの食いぶちが、食いぶちがああぁぁぁぁ!」

「……今度は何ですか」


 マリーナさんは食べ物からしばらく離れるべきだと思います。


 ベルティアは相変わらずのマリーナに呆れつつも聞いてみる。

 エルフの広告塔であるマリーナをベルティアは無下には出来ないのだ。


「ゲリさんが飯炊き係の分際でボルクのダークエルフを囲いやがったんですよ!」

「いいじゃないですかそのくらい」


 あー、ゲリさん飼い犬増やしたんですね……


 と、思いながらベルティアは答えた。

 ボルクというのはマリーナの出身里であるエルネの里の近くにあるダークエルフの里の名だ。

 ベルティア世界のダークエルフはキノコやカビなど菌が体に生える褐色肌のエルフであり、ほだ木として養分を吸われてヘロヘロになってしまう何とも不憫なエルフであった。


 ベルティア的にはエルフの幸福はウェルカムだがマリーナはそうでもない。

 マリーナはご飯と家族一番エルネ二番。あとはどうでも良いのである。


「良くありません! 見てくださいよあの女の豊満な肉感ボデー! しかも薄着! あんなの見せられたらいくらゲリさんでも襲ってしまいますよ!」

「やらないでしょう。ゲリさんですよ?」

「ですが恥ずかしい前屈みに!」「そのくらいは許してあげて下さいよ」「ああっキノコが、立派なキノコがムクムクと!」「どこ見てるんですか!」


 ダンジョンの奥も丸見えな神の機材は服で隠そうともまる見えに出来る。

 当然その分高価でありレベルはベルティア払いである。

 だからベルティアは慌てて機能をキャンセルした。

 興奮冷めやらぬマリーナが叫ぶ。


「今は大人しくキノコを収穫していますがいつか『俺のキノコを収穫してくれ』とか言いかねませんよ!」

「いやいやゲリさんはエルフに太刀打ち出来ないでしょう」

「エルフだからご飯で釣れば先っちょくらいは! 何が焼き菓子様ですかこんちくしょーっ。エルネがご飯で苦労している間に焼き菓子でウハウハだった奴らにゲリさんを渡してなるものですか!」


 ご飯と家族 > 恥じらい。


 結局食べ物の恨みですか……


 げんなりと呆れるベルティアである。

 どうやらエルネよりもボルクのダークエルフの方が人との付き合い方が上手だったらしい。自らの体に生えるキノコをうまく使い焼き菓子とトレードしていたそうだ。


「そんな事よりも貴方の世界樹の葉が使われた事はどう考えているのですか?」

「あんなくそマズい葉なんてどうでも良いです。マジくっそマズいあれ!」


 なんでこうご飯中心なのでしょうか、この老エルフは。


 ベルティア世界のエルフは食への執着半端無いが、マリーナはその中でも別格だ。

 マリーナは今は実りの季節だから果樹で反撃なさいとミリーナにわめき、ミリーナの見せたジャンピングスライディング土下座を脇が甘いからイガ栗がなかなか降って来ないのですとダメ出しをし、イガ栗を阻止したゲリにここで負い目を負わせれば一生飯炊きだったのにと残念がった。


 ご飯が絡むとあまりにひどいありさまにベルティアの呆れも半端無い。


 もうご飯で口を塞ぐしか……


 と、ヒートアップするマリーナを眺めていたベルティアは画面の端に警告メッセージが点滅している事に気が付いた。


「あ!」


 どうやらエルトラネで異界が突き抜けてきたらしい。

 ベルティアは別の機材を操作してエルトラネに座標を合わせると白金級冒険者のディック・ランクがエルフ女性の腹を掻っさばいていた。


「人が苦労して集めたエルフに何て事を!」


 人間とは違ってエルフのコストはバカ高い。

 せめて寿命くらい全うさせないと割に合わないのだ。


 風を吹かせるついでにディックをヤっておくべきでした……


 と、ベルティアは少し後悔するのであった。


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