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21.さすがゲリさん。ナイスアシストです!

「早く、早くベルティア様。ゲリさんの匂いを、ゲリスメルを!」

「は、はい」


 その短縮はよしましょう……


 ベルティアはそう思いながら力の行使を準備する。

 今回の力の行使は空気の移動、つまり風だ。

 ゲリのいる廃都市オルトランデルからミリーナのいる森の中までご飯の香りを飛ばさなければならない。


 しかし香りを飛ばすには三キロは遠く、ベルティアが扱うには恐ろしく小さい。

 前回ゲロゲリ対処に半径五十キロが対象となったように、今回の力の行使もその位の範囲が影響を受ける事になる。


 その中心は強烈な暴風が吹き荒れる事になるでしょう……


 ベルティアは中心に出来る場所を探しはじめた。

 条件はゲリからミリーナに風が流れるような場所。

 そして人やエルフのような格の高い生物が少ない場所である。

 格の高い生物に対する賠償は微生物や細菌よりも高いのだ。


「ないなぁ……」


 しかしそんな空き地などありはしない。

 平地には人間が、森にはエルフが点々と活動しているのだ。

 どこで行使しようがエルフか人間を巻きこんでしまう。


 どうしましょう……


 ベルティアが迷っているとマリーナが叫ぶ。


「ベルティア様! エルトラネです。エルトラネの近くで行使しましょう」

「いいんですか?」

「良からぬ事を考えている人間がいますからついでにぶっ潰しましょう。天罰、天罰です!」


 うちは天罰やってませんから……


 ベルティアはそう思いながらもマリーナの画面を覗きこむ。

 画面にはエルフ数人が一心不乱にご飯を食べている姿が映っていた。


 その近くには四人の人間が料理を手に笑っている。

 鎧に帯剣。おそらく冒険者だろう。

 ベルティアがレベルを使い一人のステータスを見たところ白金級冒険者のディック・ランクというらしい。


 しかしこの地は不穏である。

 世界の境界が薄まって異界がにじみはじめている。

 こんな場所で力を行使したら世界が破れてしまうかもしれない。

 

 確かにこのディックさん、ロクでもないですが……


 とベルティアが悩む横で、またマリーナが叫ぶ。


「エルトラネにあったかご飯は千年早いわちくしょーめ! ベルティア様ズバッと、ズバッとやっちゃって下さい!」

「いやそれただの妬みですよね?」

「ノープロブレム! エルトラネはピーだから気にもしません!」

「いやいや駄目でしょまずいでしょ!」


 ひどい嫌われようである。

 そしてご飯の恨みの片棒を担がされてはたまらない。

 ベルティアは別の場所を探し、やがて一つの場所を見つけ出す。


 画面に映るのは雪を冠した山。

 竜峰ヴィラージュ。

 ルドワゥとビルヌュが子供作れと罵倒する大竜バルナゥの棲み家だ。 


「竜ならば、力の行使に耐えられるでしょう」

「エルネの里がふもとにありますが、大丈夫ですかベルティア様?」

「細心の注意を払います」


 賠償の問題から格の高い生物を避けていたが竜なら絶対大丈夫。

 なにせ異界から世界を守る盾である。

 めっさ頑丈、超頑丈。


 そしてこの地はベルティア世界から異界に突き抜けている世界の力が強い地だ。ベルティアがちょいと風を起こしたところで世界が破れる事も無い。

 バルナゥは在宅らしいが留守を待ってる余裕も無い。ベルティアはさっそく力を行使した。


「アーテルベとか人の名前もじってイチャコラしたお仕置きです!」

「いやそれただの恨みですよね?」


 マリーナが呆れて叫ぶ。


 渦巻く雲に輝く雷光。

 画面の中では竜が暴れていたがベルティアにとっては吹けば弾けるもやしっ子である。カトンボごときに邪魔が出来るはずもないのだ。


 ベルティアの力の行使でヴィラージュ上空にぐおんぐおんと渦巻く暴風は周囲にその余波をもたらし、風がゲリからミリーナへと香りを運んだ。


「どうですか?」

「……! 来た、来ましたベルティア様。ミリーナまっしぐらです!」


 ミリーナまっしぐら。

 表現が何とも切ないが成功である。


 ミリーナは矢のように森を駆けてオルトランデルにたどり着くと鼻をヒクヒクと動かし、ゲリの潜む建物の壁をよじ登る。


 エルフの生物探知範囲はおよそ三百メートル。

 この範囲内の人間が逃れる事は難しい。ミリーナはゲリの位置を的確に把握し小窓に顔をぶちこんだ。


 壁を挟んでゲリとミリーナが対峙する。

 固まるゲリ。

 そして鼻息荒くあったかご飯を凝視するミリーナ。


 二人のファーストコンタクトをベルティアとマリーナは固唾を呑んで見つめていた。

 幸いな事にゲリはまだご飯を食べていない。

 二人はゲリに願う。


 差し出すのです。

 その左手の椀をミリーナに差し出すのですゲリさん!


 画面を睨んで呪詛を送るベルティアとマリーナの視線の先、ゲリがミリーナにそっと椀を出し、何かをボソリと呟く。


 ブブンブンブンブルンッ。

 ミリーナ超絶大反応。


 ミリーナは小窓から部屋に入ろうと足掻き、出来ないとわかると壁をぶち破ろうと風魔法を詠唱し、ゲリが椀を手に何かを叫ぶと涙目で何かを訴えながら地面へと落下。

 ゲリの仕掛けた罠を蹴散らし建物内を疾走し、部屋にてゲリと対峙する。


「よし! そこですミリーナ! 焦らないで、そこは土下座、土下座カモーン!」


 マリーナが叫ぶ画面の先でゲリは土下座するミリーナの頭に椀を当て、ミリーナが匙を口にして涙を流す。


「うっひょーっ! ベルティア様成功です!」

「やった!」


 ベルティアとマリーナがハイタッチで歓喜した。

 二人が見つめる画面の先でミリーナは一心不乱にあったかご飯を食べ、おかわりを要求し、鍋に頭突きして飯をこそぎ取り、そしてゲリに笑顔で土下座した。


 ゲリに呪いは移さない。

 きっとこれで大丈夫だろう。


 明日も終わらぬ呪いより今日のあったかご飯である。

 ミリーナはあったかご飯に屈したのだ。


「ゲリさん、なかなかやりますね」


 ベルティアは絶対的強者を迎えながら上手にやりすごしたゲリに感心していた。

 普通の人にしてはなかなかの胆力である。


 あの時は刺身のツマかと思ってましたが、ゲリさんあってのゲロさんだったのですね。


 とベルティアは感動に胸を打ち震わせ、これから大変でしょうが頑張って下さいと頭を下げる。


「これで大丈夫。ゲリさんある限りミリーナは大丈夫です」

「ベルティア様ありがとうございます。ミリーナに素晴らしい人柱をありがとうございます!」


 そう。ゲリは今後が大変だ。

 食への執着半端無いエルフがゲリを手放す訳が無い。


 ミリーナは出て行った振りをしてこっそりゲリを追跡し、ゲリが戻ったランデルの町から冒険に出るその時を狙って待ち続けるのであった。

バルナゥ『あの陰湿者め……!』

つかこれ、エルネは大丈夫なのかしら。


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